修学旅行9日目 午前8時34分
午前8時34分……
ゆっくり階段を歩く無数の足音が多くの囚人の耳に聞こえて来た。2・3階は静まり返り、誰もが解放されると思った。
幸久からは外の様子が分からず、音で聴くしかなかった。
階段のすぐ近くの部屋の鍵を開けた。するとすぐにその部屋から悲鳴が上がって来た。男性が必死に何かを訴えている。
「な、何すんだ‼︎わ、私た……」
1発の銃声と共に男の声は途切れて、何かが地面に落ちた音が響き渡った。幸久達は瞬時に状況を理解した。
「ま、まさか……俺達を殺す気なのか⁉︎」
龍樹は幸久に言う。
「敵は何人位だ」
「さっきの足音的には3人から5人位の筈だ……多分全員銃を所持してるだろう……」
蒼一郎も話に混ざってきた。
「でも入り口はこのドア1つだけだ。上手くすれば……」
「ダメだ、例え入ってきた1人から銃を奪えたとしても俺達は所詮素人だ。扱い慣れている自衛隊員には到底敵う訳がない」
龍樹の言葉に落胆する蒼一郎。そしてまた隣の部屋から銃声が聞こえて来た。自衛隊員達は何も言わずに部屋の中の囚人達を黙々と射殺していく。
「や、やめて下さい‼︎ほ、ほんと……」
そしてまた1人と、混ざり込む悲鳴と鳴き声。一歩一歩近づいてくる足音に幸久も恐怖を感じ、手が震えて始めた。
「……」
銃声が聞こえるにつれて、人の声が段々と消えていく。そして隊員達がヒソヒソと話して、何人かが上の階へと向かっていった。
「まさか由美の部屋にまで……」
「でもこれで人数は分散したはずだ。行けるか?」
「……分からない……ここで死ぬくらいならやるだけやってやるさ」
そう言うと幸久はドアをがむしゃらに思いっきり蹴り始めた。蒼一郎が疑問に思う。
「な、何蹴ってんだよ⁉︎」
「抵抗するだけだ‼︎死ぬくらいならな‼︎」
ドアを蹴る音が聞こえると、隊員の1人が別の隊員に指示を出した。
そしてその隊員が幸久達のドアへと向かってくる。幸久は龍樹と蒼一郎に作戦をコソコソ話した。
「来たか……俺が時間を稼ぐ。その間に2人はドア側の壁から挟み撃ちだ」
「あぁ」
「いいだろう」
「先生達はそのまま壁に固まってて下さい……俺らが、切り開く‼︎」
3人は配置についた。そしてドアが開くのを待ち、ゆっくりとドアが開いた。
「あっ……」
そこに立っていたのは林だった。身体が震えていて銃を撃つと言うレベルじゃないほど震えていた。
「林……さん」
「き、君達……ごめん‼︎」
「……」
そう言うと林は部屋の中に入り、銃をぶっ放した。何十発も幸久達の部屋の中に撃った。そして1分後、部屋の中から帽子を深く被った林が出て来た。どこかぎこちない歩き方で出て来た。
「そちらは終わったか?」
「……」
静かに頷く林、この階には林とその隊員だけだった。それを確認し隊員が林に背中を見せた瞬間、林が突如隊員の首を右腕で圧迫し絞め始めた。
「は、林……な、何を⁉︎」
「……すまんな、俺は林と言う男じゃないんでな」
そう言うと左手で帽子を投げ捨てた。その正体は龍樹だった。
隊員は大声を出そうにも首を絞められていて大声が出ないのだ。
「な、何をしたんだ……貴様ら……」
そう言うと部屋から幸久と蒼一郎が出て来た。
「林さんの協力の元に成功した」
「散々拘束してた割に四国がピンチになった瞬間、放ったらかしか?クソ政府が‼︎」
「な、何故それを……」
そう言われると幸久は自分のスマホを見せつけた。見せられた瞬間、隊員は歯を食いしばり、怒りを露わにした。
「林ぃ……貴様……」
「あんたらみたいな人殺しより、林って奴の方がよっぽど立派だぜ……」
龍樹が言い放つと同時に、隊員は白眼になり体の全ての力が抜けた。その隊員を見て、幸久が龍樹に聞く。
「死んだのか?」
「いや気絶してるだけだろう……多分な」
蒼一郎も幸久に怯えながら言う。
「それより早く上も助けに行かないと……」
それ同時に上から銃声が何発も聞こえて来た。幸久はすぐに龍樹に訪ねた。
「龍樹……一緒に上に行ってくれるか……」
「……女助ける義理はない……がお前が行く気なら俺は行く」
「……ありがとう」
そして幸久は西河先生にも告げた。
「西河先生達は林さんと共に行動して下さい‼︎」
「……分かった……」
幸久は制服のままで、倒れている隊員の拳銃を持った。龍樹も林の小銃と拳銃を持って二階へと向かう。
この廊下から二階へ向かうまでに、先に殺された人達の死体が部屋に散らばっていた。部屋からは無数の血が流れていた。
「この階で生きてるのは俺達だけ……って事か」
「あぁ……早く上の奴らも救うぞ……」
その間部屋で待機してる西河先生達はパンツとシャツ状態の林に寂しそうな声で言う。
「生徒達に引率されるとは……先生として情けない話だな」
林はそんな西河に優しく言う。
「それほど彼らは成長しているんだと思います……こんな危ない状況でも諦めない心……僕には到底……」
「……」
「こんな時に言うのもあれなんですが、僕の父と母は九州に住んでいたんですよ……ですがここ数日連絡が無くて……」
「……親御さんは大丈夫なんですか?」
林は無言で首を横に振った。
「……おととい、九州にいる兄さんから[母と父は感染者になって、俺ももうすぐで感染者になる……お前だけでも生き残れ……]って言う留守電が入っていました……」
「それは……」
「その時は泣く事も出来ませんでした。感情の整理が整えられないと言うか……自分の存在価値など、全く分からなくなって……でも幸久君はこんな絶望的状況なのに、どんなに小ちゃな希望でも掴もうとする精神がある……」
西河先生も林に微笑んで話す。
「ここ以外にも雅宗っていう生徒がいるんですが、彼も幸久くらい無謀な事する子で、九州で感染者何十体にも追われてる中で、女の子1人を助けていたんです……幸久も同じく感染者が蔓延るホテルで事務室まで鍵を取りに行ったんです……もうあの時から彼らは僕らの予想範囲内を超えていたんです」
「……僕はあんなにも諦めない目をしている彼らを絶対に助けたいです……これが今僕が生きる意味なのかもしれません……」
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銃声が聞こえてくる3階にゆっくりと音を出さずに上がる幸久と隊員の格好をしている龍樹。幸久は龍樹にヒソヒソと聞く。
「銃撃った事あるか?」
「あるわけないだろ……練習なしの本番だ……」
「なるべく殺さないようにしろよ……」
「分かってる、弾が当たればの話だがな。俺が兵士のフリをして行くからお前は後方から援護しろ」
「分かった……頼むから間に合ってくれよ」
龍樹が3階に到着すると2部屋分からは夥しい血が流れていた。龍樹が廊下きら部屋をチラ見すると、由美達ではなく別の人たちだった。つまり1番奥の部屋、そこにはもう3人の隊員が向かっていた。
龍樹は咄嗟に3人に近づいた。
「お前は林か?」
「……」
返事をしない龍樹に隊員は小銃で胸部分を強めにど突いた。
「返事をしないか‼︎」
「……顔を上げろ……顔を上げろと言っているんだ‼︎」
その瞬間、龍樹は小銃を上げ1人の隊員に向けて無造作に何十発もぶっ放した。初めてで下手ながらも腹の部分に銃弾は命中し、肉片が飛び散り龍樹が着ている服にも血が付着した
「あいつを撃て‼︎脱走者だ‼︎」
他の隊員が銃を向けた時、龍樹はすぐに隣のもう処刑済みの部屋に飛び込んだ。
そして2人の隊員が龍樹が逃げ込んだ部屋の廊下側の壁に張り付くと、階段の方から銃声が聞こえ、隊員の足元に着弾した。幸久が階段の隅から隠れて拳銃を発砲したのだ。
「やべっ⁉︎外れたか⁉︎」
「お前も脱走犯か‼︎」
銃弾は幸久がいる階段方面に撃たれたが、急いで隠れた幸久は難を逃れた。
「ゆ、幸久⁉︎」
「貴様‼︎」
幸久の声を聞きつけ、由美が部屋から出て来た。それに気づいた隊員は小銃を由美へとむける。
「由美‼︎」
幸久は隠れていた階段から飛び出て来て、隊員に向けて両手で握った拳銃から銃弾を放った。それと共に別の隊員が拳銃から銃弾を放った。一瞬だったが幸久の方が早く、銃弾は由美を狙った隊員の右肩に当たり、肩を抑えながら倒れ込んだ。その隙に南先生が由美を部屋の中に連れて行った。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ‼︎」
隊員が撃った弾は幸久の頰を掠り、頰から軽い血が流れ落ちた。だが、幸久は再び銃を隊員に向けた。
「くっ‼︎」
「クソッ‼︎」
隊員も再び幸久に銃を向けると、真横の部屋から龍樹が隊員に向けてタックルし、壁にぶつかった。そして隊員はぶつかった衝撃で気絶した。この階にいる全隊員が倒された、だが由美達の部屋以外は全滅してしまった。
「……片付けたか……」
「幸久‼︎」
「由美‼︎」
由美が部屋から飛び出て来て、幸久に強く抱きついた。由美の目からは涙が流れて、幸久の胸に顔を埋めた。
この時、午前8時40分……