3月2日 修学旅行9日目 午前0時7分
午前0時7分……
土佐湾で、船が魚雷によって破壊された。その爆音は寝ている幸久達がいる収容所にまで微かに届いていた。
「ん?何の音?今のは……」
この音に起きたのは元太の元カノ、梨沙だった。
目をこすりながら起きると、みんな寝てる時間だが、部屋の隅である声が小さく聞こえてきた。
「貴方は1人じゃない……私達がいる……1人じゃない……」
「……何?」
梨沙は目を凝らして、静かに声の方へと凝視した。
「……⁉︎うそ……」
梨沙の目に移ったもの、それは驚愕な光景だった。声の主は謎の宗教団体の長である景仔の姿ともう一人いた。
それは由美だった。目が虚で生気を一切感じなかった。その時、梨沙は思わず由美に話しかけてしまった。
「由美ちゃん……何やっているの……」
すると景仔が梨沙に向けて冷静に言葉を発した。
「この子の心には闇が眠っている……」
「何よそれ……変な事を言わないでその子をこちらに戻しなさいよ」
景仔は素直に応じ、由美の耳元に囁く。
「……さぁお戻りなさい……もしまた心の闇が聞こえたら私のところに……」
「……」
由美は静かに梨沙のところに戻って来た。だが、景仔は梨沙に忠告した。
「この子は、私を必要とする……必ず……」
「……」
由美は梨沙の所へ戻ると、目の色を変えず、何も言わずに横たわって寝た。
「貴方……由美ちゃんに何を……」
「私はただ彼女の相談に乗ったまでの事よ……」
そう言うと景仔も就寝した。
「……」
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病院……
「休憩室の奴らはまだ寝てるようだ……」
学生2人が休憩室を確認し、安全を確かめた。
「俺はちょっと探している場所が……」
由弘がそう言うと、迷いもなく一階の奥へと進み出した。
「おい、どこに⁉︎」
昇太も学生2人を置いて、由弘について行く。1分くらい歩き、由弘は動きを止めた。壁には患者置き場と書かれた紙が貼ってあった。窓からは部屋は暗く、少し開けると見張りなどの兵士はいないようだ。
その部屋には布団が何個も敷かれており、由弘は一つ一つ調べる事にした。
「この中に雅宗と里彦が……」
だが、全部の布団を調べても雅宗も里彦もいなかった。
「もうここには患者はいないよ……」
部屋の隅から年老いた声が聞こえてきた。
「誰だ⁉︎」
「ここの担当医師の船木じゃ」
すると部屋の入り口から銃を構えた状態の昇太が神妙な面持ちで入って来た。
「じいさん下手なマネはすんなよ……俺達は生き残るためにここから出る……邪魔をするなよ」
「ワシは邪魔はしないし、君の友達の雅宗君と里彦君はもうここにはいないぞ……」
「何⁉︎」
「ほれっ」
「これは……」
船木はポケットから車の鍵を由弘に投げ渡した。
「誰かさんが置いて行った車じゃ……裏にある。逃げるなら逃げれば良い。そっちの方が私的には面白い……」
「変わったじいさんだぜ……感謝する」
昇太は銃を下ろし、そのまま由弘と共に部屋を出る。
そして2階へと戻り、昇太が全員に話をつける。
「今からここから脱出する。俺達が囮として車に乗って正面の自衛隊員を引きつける。その間に他のみんなは自衛隊の輸送用トラックに乗って正面突破しろ」
1人のひ弱そうな男性が手をあげる。
「う、撃たれる可能性は……」
「十分にあるな」
「えっ⁉︎」
真顔で堂々と言う昇太に驚く男性。
「俺達も撃たれる可能性がある。ましてや死ぬかもしれない。だけどこんな所で野垂れ死ぬのはゴメンだ」
「これは皆さんの……」
由弘は大きなゴミ袋を地面に置く。それはここにいる人たちの手荷物だった。
「さぁ‼︎生きたいならついてこい‼︎一生こんな所にいたいならここにいろ‼︎」
「い、行きまぁーす‼︎」
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由弘と昇太は裏口から出て、船木が渡した鍵の車を探す。裏には大きな駐車場があり、多くの自衛隊用の車などが綺麗に配置されている。
「どれだ?」
「……多分あれだと思います」
由弘が指を指したのは、黒くてデカイSUVだった。
「誰だよ、こんなに良い車置いて行った奴は……って左運転⁉︎外車なのかよ……」
ハンドルは左の席についていた。外国産の車のようだ。由弘は不安そうに聞く。
「運転出来ますか……」
「あ、あぁ……左は初挑戦だから……期待するなよ」
ぎこちない感じに車に乗り込み、操作を練習する。そしてある程度練習したら、息を吸い自分の顔を叩いた。
「よし‼︎行くぞ‼︎」
「はい‼︎」
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正面門前……隊員達があくびを漏らして、ボケ〜っと銃を持ち立っている。
すると後ろの方から大きなエンジン音が聞こえてきた。
「ん?こんな時間に車?」
「どうせ船木さんだろ」
エンジン音にあまり気にせず、再び見張りに戻る。
すると病院の敷地内から荒々しい運転のSUVが猛スピードで正面門を突破した。
「あ、あれは⁉︎船木さんじゃない‼︎脱走者だ‼︎撃て‼︎」
隊員達は一斉に撃ち、病院内に一斉にサイレンが鳴り響いた。
「い、今のうちにみんな……乗れぇぇ‼︎」
外の隊員達は由弘達の対応、病院内の寝てる隊員達も起き始め、病院内の人たちは一斉に輸送用トラックに乗り込む。運転手はさっきのひ弱そうな男性だった。
「み、みんな乗ったかい⁉︎」
「おう‼︎全員乗ったぜ‼︎」
「早く行け‼︎」
学生2人に急かされ、ひ弱な男性は思いっきりアクセルを踏み、エンジンを鳴らす。
「今度はなんだ⁉︎うわっ⁉︎」
全速力で正面門へと向かう。
「ひっ‼︎ひっ‼︎ひぃ〜‼︎」
「な、なんだ⁉︎また脱走者か⁉︎」
男性は涙目になるが、減速はせず正面門を突破した。
「や、やったぁぁぁ‼︎」
寝てる隊員達は慌てて起き、着替え始めて、追う準備を始める。だがサイレンの音が命取りだった。
「早く準備し……あ……何だぁ⁉︎」
付近の上空を旋回している、大量の感染カラス達が一斉にこの病院目掛けて飛んできて、大量の隊員に襲撃した。
「ウワァァァ‼︎」
更に、山の中には大量の感染者がうろついており、危険地帯へ化した。
ここの殆どの隊員は死に、少数は感染者と化した……
「この場所にまで……感染者が……どうなってるんだ……四国は……」
そして由弘達は行く宛もない旅に出る事となった。
この時、午前0時49分……そして時は流れて午前6時38分……