修学旅行8日目 午後7時50分
午後7時50分……
雅宗は布の中で、この状況を伸二に聞く。
「何が起きてるんだ?この状況?街の方もだが、お前達も」
「あぁ……それが……」
伸二は雅宗に昨日と今日の行動を簡潔に話した。
「あいつがあのおっさんの元カノに似てたから?変な話だ」
「本当だよ……」
「それに自衛隊が追ってこなくなった……」
「フェリーの事件は知ってる?」
「いや……そこまでは」
伸二はちょっと躊躇ったが、雅宗に話した。
「僕達が九州で乗るはずだったフェリーが感染者によって……」
「嘘だろ⁉︎」
「本当だよ……そこには僕達のクラスメイト達が……」
「……そうか……」
「君の方はどうだった?」
雅宗も病院で起きた事や、いままでの事を話した。
「里彦は……まだ病院に……」
「船木っておっさんは、そう言ってた……それに他のみんなは収容所にいるらしい……だけど、真沙美と幸久から連絡が来て、真沙美は明日にここ香川県に来るらしい……」
「こんな状況で⁉︎」
「あぁ……ヘリで来る。多分ヘリが止めてる場所があるはず……うわっ⁉︎」
「ひぃ‼︎」
車が激しく揺れた。綾音が外を覗くと人が逃げまくり、道路も走るのが困難になっている。綾音は弱音を吐いた。
「日本全体が感染者によって……」
「そんな事言うな‼︎今はみんなと何としても合流して、北海道に帰るぞ‼︎」
「う、うん……」
そして伸二は雅宗にスマホを見せて来た。
「10分前のニュース……」
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女性アナウンサーがとある橋の上でレポートをしていた。
「ここは岡山県の現在の瀬戸大橋です‼︎香川県に感染者が発生した事で政府は本州へとつなぐ橋、瀬戸大橋、大鳴門橋、来島海峡大橋の封鎖を余儀なくされました‼︎」
大きなフェンスが設置され、人が通れないように施されている。
そして今度はヘリからの映像が流れた。大渋滞を起こし、多くの車が動きを止めて人が降り、瀬戸大橋を渡ろうといている。
「これは香川県瀬戸大橋の現在の映像です。多く国民が瀬戸大橋を渡ろうとしています。機動隊が出動し、暴動を収める模様です。九州の感染者鎮圧の遅れもあり、四国全体の国民の不安が高まっているようです」
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このニュースに雅宗は思いっきり軽トラックの荷台を殴った。
「またかよ……頑張って九州脱出したのに今度は四国かよ‼︎くそ……」
「……今はとにかく安全に避難するが最優先だよ……考えるのはそれからに……」
「それしかないのかよ……くそぉぉ……」
トラックは再び山の中へと隠れていった。
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それから時間は流れ、午前0時……由弘がいる病院。2階の病人部屋から怒鳴り声が聞こえてくる。
「ふざけるな‼︎」
「何だとぉぉ‼︎この野郎‼︎」
「お前のせいで‼︎」
「死ねぇぇ‼︎」
それは由弘と昇太の2人の部屋からで、静かな廊下や外にも響き渡るほど大声だった。
1階の休憩所でトランプをしながら、テレビを見ている隊員達も気になり始めた。
「おい……今日も誰か騒いでるぜ……お前行ってこい‼︎」
「はぁ〜い……めんどくせぇな」
一人の隊員が重い腰を上げ、鍵と拳銃を持ち2階へと向かっていった。そして由弘の部屋のドアを思いっきり蹴り静かにされようとする。
「おいおい‼︎静かしろ‼︎」
「馬鹿野郎‼︎」
「痛っ‼︎殴りやがったな‼︎」
だが由弘達は争いをやめなかった。業を煮やした隊員は鍵を開けて、ドアを開けた。
「お前ら‼︎いい加減に……⁉︎」
「うぉぉぉりゃぁぁぁ‼︎」
ドアを開けた瞬間、由弘のパンチが隊員の顔面に直撃し、地面に倒れる直前に昇太が隊員を掴み、そのまま部屋の中へと連れ込んだ。
「気づかれてないか?」
「大丈夫のようです……」
そして昇太は気絶した隊員のポケットから鍵を取り出し、拳銃も奪い取った。
「へへへ、由弘、中々の演技だったぜ」
「昇太さんこそ、よくこの作戦を成功しましたね」
「ここの隊員は夜中に誰か騒ぐと1人だけしか来ないことは調査済みでね……」
「流石ですね……」
由弘は下の階の隊員にバレてないか、階段の何度も確認し、他の部屋を開ける事にした。すると他の部屋の人達も小声で由弘に話しかけた。
「俺達も助けてくれ……」
「分かってる……静かにして待ってろ……」
由弘は2階全部の部屋のドアを開け、計13名が廊下に出た。小さな小学生もいれば、歳をとったおじいさんもいた。
「こんなにも人がいたなんて……」
そして昇太が静かに話しかける。
「俺と由弘と一緒に下の階を制圧する。他に力自慢のある奴はいるか?」
「俺も行こう」
「俺も」
ガタイの良い男子学生2人が手を挙げた。
「俺達も行くぜ」
「死ぬかもしれないぜ」
昇太の言葉に2人はニコリと笑う。
「ここにずっといるくらいなら死ぬ方がマシだ」
その言葉を聞いて昇太は安心した。そして残った人達に忠告する。
「他の人達はとりあえず部屋に戻っていてくれ。俺達が制圧してから呼ぶから……もしこなかったら……諦めてくれ」
全員は覚悟した顔で静かに頷いた。
「じゃあ行くぞ……」
下の階では2階の異変には気付かず、未だトランプをしていた。建物の中の見張りの多くは就寝しており、外の見張りも少なく、絶好のチャンスだ。
「それにしてもアイツ遅いな?」
「トイレでも行ってるんじゃないか?」
「でっけえのかもな‼︎はっはっは‼︎」
休憩室で呑気に過ごしている隊員達。すると休憩室のドアがすっと開いた。
「おっ?来た遅いぞ……⁉︎」
部屋に入って来たのは拳銃を構えた昇太と由弘だった。
「貴様ら‼︎」
「ふん‼︎」
小銃を取ろうとした隊員。そこに由弘が瞬時に反応し、その隊員の手に蹴り飛ばした。
「ぐっ‼︎」
隊員の手から銃は離れ、地面に落ちた。
「動くなと言ったはずだ」
「警備がザルで良かったですね……」
「所詮は臨時の病院って訳だ……」
この部屋にいた隊員4人は昇太の指示で手を挙げ、壁に顔を向けた。
「外には気付かれていないようです」
学生2人が昇太に言うと、その間に昇太は銃を奪い取った。
「あんたらもこれを」
「ありがとうございます」
学生2人にも拳銃を渡し、由弘にも渡した。そして病院の廊下窓から外を確認し、車の場所を確認した。
「入口から出て左……か……」
「でもどうします……10人以上いるんですよ……」
「あぁ……これは結構な難易度だな……」
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その頃大杉の輸送船では……
「大杉さん‼︎ヘリ部隊が指定空域にて待機しています」
「分かった」
5台ものヘリが感染者を生み出したフェリーのはるか上空を旋回している。未だに多くの感染者が船内部に取り残されている。
輸送艦もフェリーからかなり離れた場所に、待機している。大杉は無線でとある場所に連絡を入れた。
「輸送艦おおすみ安全圏内に入った。作戦開始を命令する」
「あいわかった」
命令と同時に近くに待機していた、護衛艦ひゅうがから、とある物が発射された。
それは……魚雷だった。
魚雷は水面下を真っ直ぐに進み、フェリー目掛けて直進する。
そして魚雷はフェリーの下降部に直撃した。爆音と共に水上から大きな水しぶきぎ飛び、フェリー後方からは炎が燃え上がって行く。
更に何発も発射され、船内部は火の海と化した。そして船は後方より徐々に沈み始めた。
「……」
大杉も色んな想いと共に沈んでいくフェリーを、見つめていた。
多くの犠牲を出したフェリーはこの時間に沈んで行った……
この時、午前0時7分……