修学旅行8日目 午後7時42分
午後7時42分……
救出されたアディソンとヘリはすぐに輸送艦へと向かって行く。
輸送艦にいる大杉の元に森と光井の死が伝えられた。
「……そうか……分かった」
冷静を装っている大杉だが、拳を強く握りしめていた。
「よく頑張った……2人共……」
そして大杉が窓から輸送艦の司令塔から外を眺めると、近くのフェリー付近上空には無数のヘリが旋回している。
「深夜0時に作戦を開始する……」
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金蔵寺駅を通過した電車の中にいる雅宗のスマホに幸久から連絡が届いていた。
「幸久から……?」
「どうしたの?」
「友達から連絡が……」
スマホを確認すると、幸久からの伝言が送られてきていた。
それは真沙美に送った内容と同じ、スマホを手に入れてた事、と自分達がいる場所、電話はしづらい状況。そして真沙美は明日にヘリで香川県に行くらしいと……と書いてあった。
「真沙美が香川に⁉︎」
こんな危険な状況の中、真沙美が香川県に来る事に驚く雅宗。すると再び電車内のアナウンスが流れた。
「乗客の皆様に大切なご連絡があります。この電車は次の駅、多度津駅で強制停車を致します。政府の意向により、瀬戸大橋へと繋がる電車は全て停車するように連絡がありました。次の多度津駅のプラットホームには警備員が配置しており、お客様の安全を確保しています」
このアナウンスに電車は再びざわつく。
「やった降りれるぞ‼︎」
「こんな状態でか⁉︎」
喜ぶ者もいれば怒る者もいた。雅宗は冷静に考えた。九州と同じく、四国内の全交通機関の停止……そしてこの状態で多度津駅に降ろされて本当に大丈夫なのかと……
「……」
そして走る事数分……電車は少し大きめの駅、多度津駅にて止まった。多度津は建物が密集しており、そこら中に家がある。善通寺駅の時とは違いからりの住宅街だった、
プラットホームには多くの警備員が配置されており、他には人が全くいなかった。
警備員は各車両を確認し、感染者がいない車両だけドアを開けた。雅宗達の車両も開けてもらい、雅宗は外へと出た。
「生きた心地がしないぜ……」
外へ出ると最後尾の車両からも10人程が出てきた。
「あまり生存者はいないようだな……」
「あぁ……私達が生き残ったのが奇跡みたいだ」
多くの乗客は感染者が溜まっている車両を見て唖然とする。窓には血で赤く染まり、その中にいる感染者。そして窓越しに聞こえてくるうなり声と窓を叩く音。まさに地獄絵図。
「さぁ皆さん早く外に用意されているバスに」
警備員に誘導され駅構内を歩くと、血の跡や人が引きづられた血の跡が残っており、荒らされた椅子などが散らばっていた。明らかに感染者がいた跡があるが、ここには人の死体や感染者などは1人もいなかった。
殆どの乗客は血を目から背けながら駅から出て行った。
「ここでも感染者がいた……って事か……」
「早くこんな所から出よう……」
儚井も目を背けながら言う。
「あぁ……他に逃げる場所があるならな……」
「何故こんな事になったんだろうね……人が人を襲い……」
「俺にも分からないさ……でも、こんな状況になると人間ってのは残酷な選択肢を強いられる……でもおっさんは血まみれの俺を見てみんなが引いている中、俺に優しく話しかけてくれた……あんたは信じる……いい人だって……」
「そ、そうかい……」
嬉しそうに笑う儚井。すると
「きゃぁぁぁぁぁ‼︎」
「何だ⁉︎」
雅宗が駅構内から出て、駅に隣接してる駐車場を見ると止まっているバスの前に立っている警備員数名がすでに感染カラスに噛まれていた。バスの運転手も感染カラスに襲撃されていた。
「やばい……‼︎バスはもうダメだ……駅構内に逃げろっ‼︎」
乗客達は慌てて駅構内へと戻る。すると止まっている電車の感染者が溜まっている車両の窓が1つヒビが入り、そこから感染者が1人飛び出て来た。そしてまた1人と何人もの感染者が飛び出てきた。
「何だ今の音は……」
「音……?行くな‼︎おっさん‼︎」
儚井が恐る恐るプラットホームへと見に行く。雅宗が必死に静止したが、遅かった。
「えっ?」
その瞬間プラットホームから出て来たサラリーマンの感染者が儚井の首に噛み付いてきた。
「お、おっさん⁉︎おっさん‼︎」
「あ……あぁ……」
体が弱々しくなっていく中、雅宗に震えた手を伸ばし、徐々に服が血に染まっていく……
「早く……逃げ……」
更に駅のプラットホームから大量の感染者が駅構内へと侵入して来た。雅宗は歯を食いしばり、叫んだ。
「はぁ……はぁ……ぐっ‼︎クッソォォォ‼︎」
雅宗は駅を脱出し、感染者が四方八方から追ってくる中、駐車場を走る。そして駐車場から脱出すると、車は事故って柱や店に突っ込み、大量の人が倒れて、悲鳴をあげ、叫んでいた。もちろん感染者も大量に動いている。
「ちきしょう……ちきしょう……」
駅の大量の感染者が迫って来て、雅宗は道路へと飛び出た。
すると道路から荒く運転する軽トラックが飛び出て来た雅宗の前に急ブレーキをかけた。すると軽トラックの中から太った中年男が窓を開けて怒鳴って来た。
「危ねぇじゃねぇか‼︎この野郎‼︎」
「……す、すみま……あっ‼︎」
「えっ?」
雅宗は呆然と口を開け、軽トラックの助手席に指を指した。
「お前は……まさか……⁉︎」
「え?あの人と知り合い?……雪菜ちゃん?」
「あぁ?」
助手席に乗ってたのは、 軽トラックの運転手元太から貸して貰っている女性物の服を着ている雪菜だった。雪菜も雅宗を見て驚いた表情をする。
「お、お前……病院に連れてかれた筈じゃぁ……」
「知り合いなの?」
雪菜も雅宗に指を指し、唖然として驚く。すると後ろの荷台に布で隠れている伸二と綾音もトラックが止まっている事に疑問を持ち前を覗いた。
「ん?どうしたんですか?……あっ‼︎」
「お前は里彦と一緒にいた……伸二だ‼︎それと綾音⁉︎」
「雅宗……君⁉︎」
何やら慌てている3人に元太も困惑するが、バックミラーから感染者達が迫って来てる事に気付いた。
「お前らの知り合い……なんだな……とにかく荷台に乗りな‼︎急げ‼︎前からも後ろからも来てるぞ‼︎」
「す、すまない‼︎」
雅宗はすぐに荷台に飛び乗り、軽トラックはすぐに発進した。伸二に雅宗にあることを聞く。
「里彦は……どうなったの……」
「それが……俺にもよく分からない……一応怪我は治ってるんだが……まだ病院にいる……」
「そう……ありがとう……」
感染者が蔓延る街から再び脱出を始めた。
この時、午後7時50分……