3月1日 修学旅行8日目 午前7時0分
午前7時0分……
幸久達は2日も収容所に入れられ、蒼一郎のストレスが溜まるばかり、由美達も真沙美の安否が不明で、心配になるばかりだ……
朝になると、また昨日の夜と同じ怒鳴り声が廊下から聞こえて来た。
「早くしろ‼︎眠いんだよ俺は‼︎」
「す、すみません〜‼︎」
それは昨日食事を運んで来た。へこへこと頭を下げる林と、怒鳴り散らす木田だった。
幸久はこの声を聞いてある事を思いついた。
「一か八か……賭けてみるか……」
幸久達の部屋に食事を運んで来た林と木田に向かって幸久は話しかけた。
「トイレ行きたいんですけど〜‼︎」
すると木田が受け答えた。
「トイレ⁉︎林〜‼︎他の部屋に食事を届けた後に、このガキをトイレに連れてけ‼︎俺は休憩するから食事終わりまで、見張りは任せたぞ‼︎」
「はい〜‼︎」
そして10分後……食事を届け終え、銃を肩に下げた林が部屋にやって来た。
「つ……ついてこい‼︎」
怖く演出しようと頑張って威張っているが、声も身体も震えていて全然怖くない。
幸久は後ろにいる林に銃を向けられた状態で、トイレへと向かう。木田は休憩するから見張りは任せたと言っていたので、多分ここには来ないだろうと幸久は予測した。
幸久は林の手が震えているの見て、コイツは銃を撃つことは多分ないだろう。
そしてトイレへと案内され、トイレに監視カメラが無いことをさらっと確認し、小便のするフリをする。林はため息を吐きながら、トイレをする幸久の後ろに立つ。
すると
「はっ‼︎」
「うわわわ⁉︎」
幸久が突然後ろに振り向き、銃口の部分に持ち上げ、そのまま林と共に個室トイレへと入り込んだ。
「ちょっ‼︎」
「黙れ‼︎騒いだらこの箸で目潰すぞ‼︎」
「は、はい……」
林は銃を下ろし、トイレの隅に置いた。そして震えた声で林は言う。
「ぼ、僕をどうするつもりですか……」
「痛ぶる訳じゃないさ……ただ、木田って奴にキツく当たられているお前が可哀想でな」
「僕が……こんなにも臆病なだけですから……上司からも反抗する奴は撃てばいいなんて言われてるけど、撃つこと出来ませんよ……同じ人間なんだから……」
「なら辞めればいいんじゃないのか……こんな所……」
「昔から根性なしな僕を見て両親は自衛隊に入って一人前になってから戻って来いって言われて……そしてこのざまだよ……」
「でも……立派な自衛隊員になってるじゃないか」
林は深いため息を吐いた。
「はぁ……いくら自衛隊員になれたからって自分が変わる事はなかったよ……先輩にこき使われる毎日だし……それに感染者とか大変な事になるし……」
「頑張れ……辛い事を乗り切れば、きっといつかはその分、何かいい事がやってくるさ……」
「ありがとう……」
幸久は話題を変えて、林に一言頼み事をした……
「……あんたに1つ聞きたいことがある……」
「な、何?」
「俺らの荷物は何処にある……」
「1階の倉庫に……」
「ならあんたに頼みごとがある……俺のスマホを取って来て欲しい……」
「え……えぇ⁉︎」
林は驚いて大声を出そうとするが幸久が口を手で押さえる。
「ん〜‼︎」
「静かにしろ‼︎」
幸久は手を離した。そして林は幸久に聞く。
「でもな、何でそんな事を?」
「俺の友達が四国の各地に散らばっているんだ……そいつらと連絡を取るためだ……」
「……」
「あんたみたいな人にしか頼めないんだ……頼む……」
そして林の答えは……
「……うん……いいよ……」
「すまない……」
「取りに行けるかどうかは分からないけど……」
「次あんたが食事を運ぶ番はいつだ?」
「明日の朝……」
「なら朝にまたトイレに行くと言うから頼む……俺の名前は幸久だ……」
「うん……分かったよ幸久君……」
そして幸久は再び銃を向けられながら部屋に戻った。
戻ってきた幸久に蒼一郎が話しかける。
「トイレ長かったな?大きい方か?」
「いや……」
幸久は頭に手を抑えて、ため息を吐く。
「はぁ……良心が傷つくよ……人を利用してこんな事を……」
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その頃、雅宗は宿毛駅付近のコンビニから動かず、真沙美からの連絡が入るのを待っているが一向に来る気配がない。電話を入れても全然出てくれない。
「く……連絡が来ないと動こうにも動けない……はぁ……どうしたもんかな……おっさんは電車で移動しろと言っているが、1人で逃げるわけには……」
だが、おっさんこと船木の追われると言う言葉に不安を覚える雅宗。
「電車に乗っても行くあてないしな……」
スマホで再び情報を集めていると、とある記事を見つけた。
「ん?」
逃走中の高校生の写真公開
そこには上空のヘリから撮られた写真で、ライトで照らされている伸二と綾音が写った写真と雪菜と元太が軽トラックに乗ろうとする写真が公開されていた。
「逃走中の高校生はコイツらだったのか……」
記事には宿毛市より北上した模様と書いてある。雅宗が駅付近の近くの看板を見ると宿毛市と書かれている。
「ここが宿毛市か……ここから北に行くには……」
雅宗がスマホで宿毛駅の時刻表をみようとすると
「ちょっとそこの少年‼︎」
「⁉︎」
若い女性の声に驚く雅宗。確認すると、大型の黒いSUVの左席から顔を覗かせていたのは、眼鏡を掛けた長髪の綺麗な金髪女性だった。左側にハンドルが付いているところを見ると、外車のようだ。
雅宗は身構えて顔を低くする。
「な、なんですか」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、ちょっとおいで〜」
軽い感じに話す女性に雅宗は自衛隊員とは違うと思いとりあえず近づく。
「この漢字読める?読み方分かんなくてカーナビで打てなくてね〜」
「これですか……」
不慣れな文字で書かれたのは篠山の文字だった。この人は外国から来た人だと分かった。
「これは……ささやまって言うんですよ」
「ささやま……」
女性は文字を打つとカーナビが場所を教えてくれた。とても嬉しそうに喜ぶ。
「お〜‼︎すごいよ‼︎少年‼︎君、名前は?」
「須藤雅宗……です」
「須藤雅宗……OK‼︎私はアディソン‼︎よろし雅宗君‼︎」
そしてアディソンは雅宗に1枚の紙切れを渡した。
「これ、私の連絡先‼︎気軽に電話してね〜じゃあね〜‼︎」
どデカイエンジン音を鳴らしながら、アディソンの車は篠山方面へと向かって行った。
「な、なんなんだ今の……」
そして雅宗は気を取り直して、歩き始めた。
「とにかく北に向かってみるか……」
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高知県のとある砂浜では、フェリーが感染者によって壊滅させられた事に気になって双眼鏡を持って海を見ている男女のカップルがいた。
男の方はウキウキしながら双眼鏡で遠くを見ている。女の方は身体を震わせ、早く帰ろうと男の裾を引っ張る。
「ねぇ早く帰ろうよぉ〜‼︎」
「待て待て‼︎ここからフェリーが見えるんだよ‼︎」
男は彼女の言葉に耳を貸さず、双眼鏡を覗く。
「ねぇってば‼︎」
「痛っ‼︎……おっ‼︎」
彼女に頭を叩かれ、双眼鏡と共に頭が下がる、すると双眼鏡から見えたのは、海から黒い何かが無数に流れて来た。
「あれは……まさか⁉︎」
近づく男、そしてゆっくりと砂浜に流れ着いた。それを見た瞬間、男と彼女は顔が急に青ざめた。
「うわっ‼︎まさかこれって……」
「きゃあぁぉぁ‼︎」
それは肌が青白くなっている感染者となった時忠高校生の死体だった。その他にも別の感染者の死体も無数に流れ着いていた。
「は、早く逃げようよ‼︎」
「……こ、コイツらは死んでいるんだぜ……だ、大丈夫さ。見てろよ〜」
男は彼女にいいところを見せようと落ちていた枝で流れ着いた感染者を突っつく。何も反応がないので、彼女に自信満々に言う。
「ほらな‼︎何も起きないだろ‼︎大丈夫だって‼︎それより写真撮ってSNSに貼ろうぜ‼︎感染者見つけたって‼︎」
男が感染者をバックに写真を撮ろうと彼女がスマホのカメラを構えたその時
「きゃ〜‼︎‼︎」
「えっ」
彼女の叫び声に男が後ろを振り向くと、感染者が立ち上がっており、男の首筋を噛み付いて来た。
「う、うわっ‼︎何するんだ‼︎」
「い、いやぁぁぁ‼︎」
彼女は悲鳴をあげながら逃げて行った。
「ちょっ……待てよ‼︎痛てっ‼︎逃げるなよ‼︎クソ‼︎」
そして他の感染者達も男の手足と身体全体を噛み付いて行く。そして男の声も徐々に弱々しくなり、感染者に覆い被される。
「お……おぉ……た、た助け……てぇ……」
身体全体を噛まれた果てに絶命した男。そしてどんどん流れ着く感染者達……
感染者の魔の手は四国にまで及び始めて来た。
そんな事を知らない雅宗達……
この時、午前7時26分……
時が流れて、午後1時21分……