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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第2章 四国上陸編
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修学旅行7日目 午前5時48分

 

 午前5時48分……


 フェリーで生存者が発見された裏で雅宗が病院で起きた……


 暗く雅宗が寝ている場所だけが明るい中、雅宗が周りを見渡そうとすると、手足に何か違和感を感じた。腕と脚が紐で固定されていたのだ。


「な、何だこれ⁉︎て、手足が動かねぇ‼︎くっ……里彦⁉︎」


 横を向くと、里彦が布を身体全体に掛けられて目を閉じていた。


「里彦‼︎おい‼︎返事しろ‼︎」


 雅宗の必死な叫びに里彦は一切返事もせず、動きもしなかった。


「クソっ‼︎何なんだよ‼︎誰だ‼︎こんな事したのは‼︎」


 数分後、雅宗の声に聞きつけたのか、何名かの白衣を着た老人男性が静かに雅宗の部屋に入ってきた。


「誰だ‼︎俺に何をした‼︎ここはどこだ‼︎」

「ここは高知県、そして臨時的な病院でもある」

「高知……四国にいるのか俺⁉︎」

「あぁそうだ。それに君は胸部分に怪我を負ってずっと意識を失っていたんだ」

「意識を……失っていた……?」


 冷静になった雅宗を見て老人男性は、部屋にある椅子に座って静かに話す。白衣の名札には船木と書かれていた。


「君の胸部分に深い傷が出来ていた。何かに刺されたのだろう。幸い心臓には傷は無かったから安心しなさい」

「……そうか……俺は……」


 九州で国貞が真沙美を刺そうとして、雅宗が庇って胸にナイフが刺さり、意識を失った事を思い出した。


「み、みんなは⁉︎」

「ここには君とこの少年と、もう1人ガタイのいい少年がいるさ」


 ガタイのいい少年……雅宗はすぐにそれが誰だか分かった。


「由弘もここにいるのか……他のみんなは?」

「ワシにも詳しくは知らないが、感染予備群として君と同じ制服を着た男女と先生らしき人達が収容所に送られたって話は聞いたぞ」

「収容所⁉︎感染予備群⁉︎」

「あぁ……政府は、九州から感染検査を受けずに来た者を犯罪者扱いとして一時的に収容所に送るという処置を取った」

「くっ……訳ワカンねぇ事しやがって‼︎とにかくこの紐を外してくれ‼︎俺は……」


 雅宗が言おうとした途中に、船木は雅宗の腕に注射を打った。すると雅宗は死んだようにグッタリと意識を失ってしまった。


「君はまだ……動いたらダメだ……」



 ーーーーーーーーーーーー


 それから数十分後……愛媛県と高知県の県境にある篠山。


 森の中に一台のトラックがエンジンを止めていた。


「来なくなったか……」

「やっとヘリの追跡から逃げれたか……後ろの2人も大丈夫か⁉︎」


 トラックから降りたのは、政府のヘリから逃げていた元太と指名手配されている元太から貸してもらった服を着ている金髪でヤンキーの雪菜だった。

 そして荷台にいるのは逃げてる途中で元太から渡された汚い毛布で身体の寒さを凌いでいたぽっちゃりの伸二と小柄なメガネ女子の綾音だった。2人ともかなり凍えているようだ。


「ぼ、僕らはだ、だ、大丈夫です……」

「な、なんとか……」

「そう言えば自己紹介まだだったな……俺は元太、大岩元太だよろしく」

「伸二です……よ、よろしくおねがいします……」

「望月綾音……です」

「さぁ2人とも早く車の中で暖まるんだ」


 元太は凍えている2人をエンジンは切ったが暖房の暖かさが残った運転席へと入れた。

 雪菜な軽トラの助手席側に背中をつけ、元太は運転席側に背中をつけて話し始めた。


「少しここで休もう……下手に動くと見つかる可能性がある。ガソリンもあまりないからな」

「タバコ持ってるか?」

「タバコはとうの昔に辞めてる。高校生の頃は吸っていたけど、成人になる前に辞めたさ」

「ちっ……」

「その年でタバコはやめた方がいいぜ」

「説教する気か」

「いや……俺もタバコは中学の頃から吸ってたさ。周りに飲み込まれたというか、親や先輩が吸っているところをみて憧れたというか……雪菜ちゃんは何故吸い始めたんだ?」

「聞いてどうすんだよ」

「タバコを吸うには何かの理由がある……俺も憧れもあったがストレスもあってな……」


 元太は空を見ながら話し始めた。


「俺が学生の頃の話だが、先公って奴らは俺みたいに馬鹿な奴を嫌い、頭のいい奴、運動できる奴を好む……事あるごとに馬鹿だの、アホだの、コケにして……それから俺達はタバコを吸って喧嘩に明け暮れる毎日になった……確かに馬鹿な俺も悪いが、言う方も言う方だ……言葉1つで生き方が変わってしまうんだ」


 静かに耳を傾ける雪菜に対して、更に元太は話を続ける。


「親にも心配を掛けまくったさ……毎日夜中に帰り、その度に服はボロボロになるわ、怪我はしてるわで親父には怒られ、母さんは泣くわ。その時はただのうるさいお節介だと思ったけど、親が死んで始めて気づいた」

「あんたの親……死ん……いや、亡くなったのか」

「あぁ……高校3年の頃に交通事故でな……あの時は、心にぽっかりと穴が空いちまった。あんなに怒鳴っていた親父も、俺を心配してくれた母さんも居なくなった後に気づいた。あの時も俺の事を思って怒って泣いたんだってな……それで俺はタバコをやめ、正しく生きて行こうと決めた……親孝行出来なかった俺のケジメだ……」

「……」


 そして元太は軽く笑いながら言う。


「そんな事言いながら、女の子拾って、ヘリから逃げる……何が起きるか分からんな〜この世の中」


 雪菜は下に俯いていて、静かに言い始めた。


「……親って本当に子どもの事が心配なのか……」

「心配しない親もいるかもしれない。だがそれは自分が親になった気でいるだけだ。本当の親なら子どもは心配するだろうさ……」

「……」

「ふふ……」


 すると元太は微笑み、雪菜は顔を赤らめて怒った。


「な、何だよ‼︎」

「いや……少しだけ心を開いてくれたのかなって思って……」

「……」


 そして腕を組む雪菜の頭にひんやりと感じた。目に映ったのは白い結晶、雪だった。右手を出すと雪が2粒・3粒と手のひら落ちてきて、ゆっくりと溶けていった。


「雪……」

「雪か……雪菜ちゃんあんたも車の中に入りな」

「でも……お前は」

「俺は平気だ、空を眺めてヘリとかが来ないか見張るさ。いつ見つかるか分かんないし」

「あたしはここで良い……あいつと一緒の場所いるなんて……⁉︎」


 強情な雪菜に元太は自分が着ていた黒いジャンパーを雪菜に羽織った。


「本当に変わった子だぜ……まっ本当に辛そうになったら無理矢理にでも車に入れるからな」

「ふん……」


 そしてジャンパーをギュッと握りしめて雪菜は元太に聞こえない位の小声で言った。


「ありがとよ……」

「何か言ったか?」

「いや……何でもない……」


 少しずつ何かが変わっていく雪菜……2人は徐々に明るくなる空を眺めて、時間を過ごした。



 この時、午前6時23分……



 時は流れ、午前7時01分……

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