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修学旅行4日目 午後9時11分

 

 午後9時11分……


 ホテル7階 705号室


 先生が部屋のドアを叩くが、誰も返事をしない──というよりも、声が届かないのである。それは雪菜に押入れに閉じ込められた綾音であった。


「開けて‼︎誰か‼︎‼︎」


 必死に押入れの引き戸を叩く綾音。あれから約1時間近く閉じ込められている。そして今、先生が生徒の安全の為に各部屋を確認している。


「おーい‼︎この部屋に誰かいないのか‼︎」

「先生……?ここにいます‼︎開けて下さい‼︎」


 押入れの中から叩きながら必死に叫ぶが、ドアの向こうの先生には全く聞こえなかった。


「この部屋も誰もいない……か。薪雪菜って生徒はもうホテルに戻って来た筈なんだけどな」


 部屋の名簿には名前が書いておりこの部屋の生徒は全部×と書かれた。そして先生はこの部屋には誰もいないと確信して隣の部屋へと移動した。

 そしてドアをノックする音が無くなり、綾音は先生が遠のくのがわかった。綾音は手を下ろして叩くのをやめた。


「さっきの暴動って……何なの?なんで私だけこんな目に……早く家に帰りたい」


頭の整理が追いつかない状況。放送から聞こえてきた暴動というワードが更に脳を困惑させた。

 暗闇の中、綾音はメガネを外し目から流れた涙を服で拭いた。寒く、一人寂しいこの状況……誰一人綾音には気づかない。


 ーーーーーーーーーーーー


 ホテル1階女子トイレ個室の中


 暗く電灯が今にも切れそうなトイレの中、1人の金髪の女子生徒が閉じた便器の上に三角座りして肩を震わせていた。それは雪菜だった。その顔は恐怖に慄いた表情であり、あの時の取り巻き達の顔を今も思い出している。


 ─雪菜……助けて!!─


 ─雪菜ぁぁ!!!待って!!!助けてぇぇぇ!!!─


 仲間達の嘆き、必死に助けを求める声、襲われて死んでいく取り巻き達──そして、あの血まみれの作業服の男達が脳裏に焼き付いていた


「な、何なんだよあれ……何で真矢が沙里奈を噛み付いたんだよ……まるで別人みたいだった」


 雪菜は声が涙声で震えており、仲間達のゾンビのように白く血まみれの顔が頭から離れなくなって、頭を抑えて苦しみ悶えている。


 ーーーーーーーーーーーー


 ホテル8階 806号室


 先生が伸二の部屋にも知らせに来た。


「君の部屋は何人戻って来てない?」

「2人です……」

「分かった。とりあえず連絡があるまで部屋で待機しててくれ」

「分かりました……」


 先生が出て行くと、その巨体でベットの上に寝転び、両手両足を大の字のように開いた。そして天井を見つめて呟く。


「部屋から出るなと言われるわ、里彦と末広も戻って来ないし……何が起きたんだろうな」


 ベットから降り、誰もいないテレビの音だけが響き渡る部屋を見渡す。


「早く帰って来ないかな……里彦達」



 ーーーーーーーーーーーー


 その頃里彦は。雅宗と共にコンビニのトイレの中に籠っている。

 雅宗はトイレの窓からコンビニ内を覗きながら、里彦に質問した。


「里彦だっけ?何か部活とかやってるか」

「サッカー部だけと……」


 それを知った雅宗は更に質問する。


「足には自信はあるか?」

「あぁ……自信はあるほうだが、どうするつもりだ?」

「奴らはまだ人を食っている……その隙にこっそりコンビニから出るぞ……」


 そんな無茶な提案に里彦な驚いた顔をして言う。


「外にもいるんだろ?あのゾンビみたいなの……」

「これだ」


 雅宗が指す場所はトイレ内に置いてある掃除用の長いモップである。雅宗はそのモップを2つを持ち、里彦に投げ渡した。


「モップ……どうするつもりだ?まさか、あいつらと戦うつもりか!?」

「正当防衛ってやつだよ。ここでアイツらに食われるの待つくらいなら、無理をしてでもここを突破する方に俺は賭ける」


 こんな人間とはかけ離れた謎のゾンビ軍団に立ち向かおうとする雅宗に里彦は、頭を抱えて言い放つ。


「助けを待つと言う選択肢はないのか!」

「助けが来たらいいけどな……このコンビニのこのトイレの中にいる俺達に」

「……」


 確かに、こんなトイレでしかも街中あのゾンビらしき軍団がはびこる中、助けなんかに来るわけがない。そんな目の前から迫り来る絶望に落胆する里彦の肩を軽く叩き檄を入れる。


「サッカーと同じ相手を避けながら行けばいい!そして戻るぞ‼︎ホテルに‼︎」

「……あぁ‼︎」


 ホテルへと戻り、生き残る──心の整理をした里彦は下唇を噛み、決心をつけてモップを手に握った。


「でもモップでどうやって……」

「相手の足を払えばいい。少しでも足止め出来れば逃げれる時間は稼げるだろう。だが、奴らは走ってくる。見つかったらとにかく全力で逃げるぞ」

「分かった……」

「じゃあ行くぞ……」


 再度トイレの窓から確認し、音を出さないようにドアノブを慎重に捻ってゆっくりと開けた。2人は小動物のように、小さく屈んで息を殺して、雅宗を先頭にコンビニ脱出を試みる。

 ゾンビは未だにレジ前で死肉を貪っているが、いつ食い終わるか分からない。もし食い終わったらコンビニ内を徘徊するかもしれない。その恐怖が雅宗達の心を揺さぶるをかける。

 そんな2人を前にコンビニへ1匹、ゾンビが入って来た。


「⁉︎」

「お、おちつけ……」


 雅宗達には気づいておらず、そのままレジ前の死肉へと貪りに行った。その隙に雅宗達はコンビニ出口へと進む。そして自動ドアに差し掛かった時……


「あと少しだぞ……」

「おう……ん?」


 足元に何か違和感を感じた。それは後ろからゾンビが這い蹲って里彦の足を1匹が掴んでいた。手を必死に振り払うが強く握っている。里彦の目からは涙が出始めて来た。


「んーーー‼︎‼︎」


  それに気づいた雅宗はすぐさま立ち上がって木刀を強く両手で握り、ゾンビに向かって左に一撃思いっきり打ち込んだ。ゾンビは思いっきり奥の棚に激突し、棚の商品は崩れ落ちた。


「大丈夫か⁉︎」

「何とか……うっ……」


 里彦の足に軽く爪跡が残っていた。血が軽く出ている。

 だが雅宗の加えた一撃や棚の崩れた音で、他のゾンビ達も気づき始めた。慌てた様子で雅宗はビビって足を震え上がっている里彦の手を握る。


「ヤベェぞ‼︎気づかれた……行くぞ‼︎」


 里彦はすぐさま立ち上がり、自動ドアへと走り出したが、死肉を貪っていたゾンビは雅宗達目掛け走って来た。


「開けぇぇ‼︎」


 自動ドアはタイミングよく開き、2人はそのまま自動ドアをくぐり抜けゾンビが多数いる外へと脱出した。その光景に思わず足が止まってしまった。


「これはひどい状態だ……」


街には無数のゾンビ達が蔓延り、別世界に迷い込んだかと思うほどだった。だが、2人は正気を保って高見橋方面へと向かった。


「このままホテルに行くぞ‼︎」

「お、おう‼︎」


  2人はそのまま高見橋に向かい、ホテルへと走って行く。無数のゾンビ達を引き連れて……



 ーーーーーーーーーーーー


 由弘と龍樹は口東中学校前の歩道を全力で走っている。

 後ろから無数のゾンビが追いかけて来てるのである。


「クソっ‼︎めっちゃ居るじゃねぇかよ‼︎」

「ホテルまでどれくらいだ」


 ホテルは目には見えるが後500メートル程ある。だが前方からゾンビが2匹迫ってくる。


  「このまま、大通りに出るぞ!」


 由弘の声と共に2人は大通りに出た。すると逆の歩道かにゾンビ達のように血まみれでもなく、2人の男女が由弘達の方角に走っている。


「あれは?」

「まさか……先生⁉︎」


 それは生徒を探しに出た南先生と西河先生であった。


 ーーーーーーーーーーーー


  再びホテル7階 712号室


 真沙美と由美の部屋で、由美は外のとある事に気付いた。


「そういえば……外から悲鳴が聞こえなくなったわね……」

「みんな避難したんだと思うよ……多分」


 ベランダから外を覗くと先程倒れていた人達は駅前付近からいなくなり、無数の血が飛び散っている。その周りには無数のおぼつかない歩き方の人がうろついている。


「こんなの暴動なわけがないよ……これじゃまるでゾンビみたい……ん?」


 するとテレビに映っていたバラエティ番組から急に変わり、女性ニュースキャスターが映り、慌ただしくニュースの原稿を読み始めた。


「緊急臨時ニュースです。ただ今鹿児島中央駅付近にて暴動が発生しております。暴動が治るまで県は鹿児島中央駅及び九州新幹線の運行を一時停止するという方針に決まりました。そして今現場にいる芦馬さんにつないでみます‼︎芦馬さん‼︎」


 場面は変わり、何十人と整列している機動隊の5・6メートルほど後ろにいる女性リポーター芦馬に繋がれた。


「現場の芦馬です!ただ今鹿児島中央駅から離れた甲南通りに機動隊の後ろににいます。暴動は今も続いており、付近の住民の皆さんはほとんど家や安全な建物に避難したのか街は静かです……ですが、暴動の気配は全く感じません」


 すると機動隊の目の前に、フラフラと歩いている制服を着た女子生徒が見えた。

  機動隊の1人がその女子に走って行く。


「怪我をしている‼︎すぐさま手当を‼︎」


 カメラはその女子生徒を捉えて映像を撮影している。街の電灯が女子生徒を照らしているが遠くにいるため様子が分からない。そんな中慌てた様子でリポーターは状況を伝える。


「ただ今、怪我人を見つけたようです‼︎女子学生のよう……ですね」


 何人かの機動隊員が女子生徒を囲む。


「痛っ‼︎何するんだ!君!」


 すると機動隊員の場所から悲痛な声が上がる。カメラは女子生徒が手足を乱暴に振りかざし暴れている映像を映した。それを機動隊員達が数人がかりで抑える。レポーター達は状況が分からず困惑する。


「えっ⁉︎何が起きたの⁉︎」

「うわっ‼︎芦馬さん‼︎周り‼︎」


 カメラマンが叫び、通りの周りを写すと無数のゾンビが機動隊員達とレポーター達を囲んでいた。

 

「えっ……何これ……ぎゃぁぁぁ!!!」


 カメラマンが襲われ、カメラが激しく揺れた後、地面に倒れる。カメラはそのまま雪降る空を写す。そして機動隊員やレポーターの阿鼻叫喚の声が響き渡る。そして顔が白く血まみれの女子生徒が映った。だが、その瞬間テレビの画面が変わった。


 ーーしばらくお待ちください。ーー


 この映像を見た真沙美は恐怖に凍りつき一言、呟いた……


「今の制服……私達の高校だよね……」



 この時、午後9時35分……

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