修学旅行6日目 午後11時59分
午後11時59分……
真沙美は苦難の末、皇との交渉に応じた……別の場所では、輸送船に乗る艦長大杉は近くを航海しているフェリーからの連絡が来ない事に不安を覚えていた。そしてフェリーからの連絡が来ると、感染者達によって全滅したとの連絡が入った……そこで若い海上自衛隊の森を含めた20人でフェリーへと向かう……
その頃、収容所で真沙美と皇がいる所長室に輸送船から連絡が入った。
「なにぃ〜⁉︎フェリーが感染者によって堕ちた⁉︎」
「⁉︎」
「あぁ〜分かった分かった……少し隊員とヘリを送るから分かったな」
そう言うと一方的に電話を切った。そして皇は神咲に指示する。
「神咲‼︎すぐにヘリ2機と隊員をフェリー方面へと送れ‼︎」
「はいはい」
神咲はやれやれと言いながら部屋を出て行った。
真沙美は昨日の夕方にフェリーを見ていた。そのフェリーが感染したと即座に理解した。そしてそこには時忠高校生達や優佳の両親が乗っている事も思い出した。
「あの船には私の学校の生徒達や友達の両親が‼︎」
「あぁ?友達の両親?ほぼ全滅だから無理だろうな」
「そ、そんな……」
適当な言い回しに絶望する真沙美。そんな事を知らずにぐっすりと寝る優佳……
そして10分後、収容所裏に配置されているヘリがフェリーの方面へと飛び立っていく。
「めんどくさいことになったなぁ〜だが……それでいいんだ」
「……」
ニヤリと笑う皇、奇妙な事を言う皇に恐怖を覚え、震え上がる真沙美。
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大型ライトが取り付けられているゴムボートでフェリーに向かう大杉達の道中、同じボートに乗る森が大杉に聞く
「大杉さん……フェリーで何故、感染が確認されたんでしょうか……」
「私にも検討がつかない……だが内部での問題があったのは間違いない……今の我々のやるべき事は船の周辺を調べ、生存者がいるかを確認する。内部は皇所長が手配したヘリが上空から確認ようだ」
「分かりました……」
そしてゴムボート5隻はフェリー前に到着した。大杉は全員に指示する。
「我々は船周辺を調べる‼︎各グループもし生存者を見つけた場合はすぐに連絡しろ‼︎」
「分かりました‼︎」
4隻はボートを船周辺を調べるために進めた。大杉達も4人で捜索を始める。
「我々も探すぞ」
「はい‼︎」
「ライトを海中に当てろ‼︎」
ボートは大型ライトで海を照らしながら、周りを探す。
暗い中、ライトを当ててもその場しか照らされないため、探すのが困難を極めている。
「フェリーには隊員が多く乗っていたはず……なのに何故……」
「大杉さん‼︎あれを‼︎」
「どうした!?三越⁉︎」
もう1人の青年隊員三越が叫んだ方向にライトを照らすと、海中に何か黒い物体を発見した。
「黒い物体を引きあげろ‼︎」
「は、はい‼︎」
森は黒い物体を引き上げた……すると……
「ひぃ……⁉︎」
「これは……学生⁉︎」
それは制服を着た学生の水死体だった。手に持っているライトで死体を照らすと、肌が青白くなっており、そして体をひっくり返すと
「何だ……これ……」
絶句する三越と森、それは首の筋の肉が食いちぎられていたのだ。
「この学生は……感染者に襲われたと言うのか……」
「時……忠高校?」
三越が発見したのは、学生の制服に付いている時忠高校のバッチだった。
「……高校生までが犠牲に……」
「この死体どうします?」
「下手に輸送船に持ち帰ると感染など起きる可能性があるかもしれない……感染者の事はまだ10%も分からない……未知の存在だ……」
すると、森の横に置いた青白くなった学生の手がピクリと動いた。
「今、この死体動いたか?」
「さぁな」
森の質問に適当に答える三越、するとピクリと動いた死体が突如もう1人の隊員に襲いかかり、覆いかぶさって来た。
「うわぁぁぁ‼︎」
「どうした加藤⁉︎」
青年の隊員加藤と感染した学生が揉み合いになり、そのまま加藤ごと暗い海に落ちていった。必死に水を掻く音が暗い海から聞こえてくる。
「た、助けて下さい‼︎大杉さん‼︎」
「待ってろ‼︎」
大杉が加藤を助けようと拳銃を取り出そうとした時、森と三越は身体震わせ、青ざめた顔で加藤を呆然と見ていた。
「森‼︎三越‼︎何やっているんだ‼︎仲間が襲われているんだ‼︎助けるんだ‼︎ライトを照らせ‼︎」
「あ……あぁ……」
「こんなの……人間じゃ……ねぇ……」
「クソっ‼︎」
恐怖で動かなくなった三越達、大杉は自分でライトを加藤が落ちた方へと向けた。するとそこにはもう……加藤の姿はなく、静かな海の音しか聞こえなかった……
「か、加藤……⁉︎」
「嘘だ……嘘だ……加藤が……」
「……何故……助けなかった‼︎」
拳を振り上げ、大杉が力任せに森と三越の顔を殴り倒した。そこには怒りの意味と悲しみの意味の2つの感情が混ざり合った拳だった。
「お前らが動かないから……加藤が……」
「だって……む、無理ですよ……あんなの急に……」
「早く戻りましょう……輸送船に‼︎」
「感染者の場所の特定だ‼︎」
弱音を吐く2人に対し、加藤を襲った感染者の場所を大杉はライトをボート周辺に一周確認する。
「な……そんな馬鹿な……」
一周ライトを照らした大杉が見たものは、そこら中に浮く死体の山だった。
焦る大杉はおもむろに無線を取り、全ボートに通達した。
「総員撤退だ‼ただちに︎輸送船に退却しろ‼︎ここは危険だ‼︎」
すると船の上部から何か物体が海の上にチャポンっと落ちて来た。
落ち着きを取り戻した森が、落ちて来た物体に気づいた。
「何かが落ちて来ました……あ、あれは……」
大杉がライトを照らすと、そこには船より落下して来た感染者だった。新鮮な魚のようにジタバタと暴れている。
更に大杉が船の上部にライトを照らすと、何十体もの感染者達が大杉達がいる海の場所に一気に飛び降りて来た。
そして海上は夥しい数の感染者達によって汚された。
「急いでエンジンを掛けろ‼︎逃げるんだ‼︎」
「は、はい‼︎」
三越がエンジンを掛け、急いでその場所を後にした……そこに大杉に無線が入った。それは他の場所にいた隊員達からだった。
「大杉さん‼︎我々2班は壊滅です‼︎2班は……うわっ‼︎」
騒がしく何かも揉めているような音と、大声で叫んでいる隊員の声と共に無線は切れた。
「2班どうした‼︎2班‼︎……くっ……‼︎」
そして大杉達は、輸送船へと戻っていった……
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輸送船に戻って来たのは10人程だった……2班以外にも海に落ちて来た多くの感染者達に襲撃されたようだ。
殆どの隊員の顔が青ざめて恐怖に慄いている。大杉は戻って来た全員の前で、頭を地面にぶつけて土下座をした。
「すまない……私のせいでこんな事に……」
すると1人の隊員が前に出てきた。
「大杉さんのせいじゃ無いっすよ‼︎顔を上げてください‼︎」
「光井……」
顔を上げると、それは5班の青年隊員光井が手を差し伸ばして来た。
「俺達は覚悟してこの任務に当たっているんです‼︎」
「……」
「誰も貴方を恨んでいません‼︎恨むならこんな事にした感染の病原体を恨みましょう‼︎そして絶対にこの感染を止めましょう‼︎」
大声で手を差し伸す光井の目は輝いて見えた。絶望してない顔に、三越や森みたいな恐怖の目じゃなく、戦う目だった。
「大杉さん……やりましょう‼︎」
「……まさか若手にこんな元気な奴がいるなんて……ありがたい事だ……」
大杉に笑顔が戻り、立ち上がって全員に指示する。
「もうすぐで皇の方からヘリが来る……今度は降りて船の中に入る……それ相応の覚悟がが必要だ……無理にとは言わないが、行く奴は挙手してくれ……私は行く。これ以上の感染を防ぐために」
すると、誰よりも先に出て来たのは光井だった。手をピンと挙げ前に出て来た。
「私は行きます‼︎」
そして他の隊員達は前に出て来ず、大杉は確認した。
「他にはいないか‼︎他にいないなら別の隊から呼んで来る‼︎」
「お、俺は行きます……」
「俺もだ……」
それは小さく手を震わせながら挙げている三越と森だった。先ほどの船ではあんなに怯えてた2人が手を挙げている事に心配する大杉。
「お前達……無理はしなくても良いと言ったはずだ」
「で、でも俺達……行きます……」
「行かせてください……」
「……」
少し考えた末、大杉は2人に語りかけた。
「お前達が何故行くか、あえて理由は聞かない……直にヘリが来る、準備しろ……他のみんなも良く頑張った、休んで心を癒せ」
「分かりました」
ボートに乗った森、光井、三越以外の部隊は全員戻っていった。
そして大杉は3人を並ばせて指示した。
「お前らも少し休め……次は死ぬと思え……それくらいの覚悟が必要だ……」
この時、午前1時12分……