修学旅行6日目 午後11時21分 収容所編④
午後11時21分……
真沙美に興味を持つ収容所所長の皇。その部下の神咲は就寝時間に寝ている真沙美をこっそり所長室へと連れて来た。そこで様々な事を聞かされ、そして皇の女になれと言い迫られる。
皇の発言に真沙美は怒りを表し、机を両手で思いっきり叩く。
「ふ、ふざけないでよ‼︎何よそれ‼︎貴方の女になれって⁉︎」
「私の側にいてくれればいい訳だ。良い話だとは思わないかね?感染者からは絶対に安心、美味しいご飯や温かい布団、シャワーは浴び放題、幸せだとは思わないか?」
ニヤリと言う皇に対して真沙美は、皇の顔を睨みつけて言う。
「私はそんな幸せよりも汚い場所でも友達といる方がよっぽど幸せだわ‼︎危険に見舞われてもみんなで支え合って行けば乗り越えられる‼︎私は安全な生活で貴方といるより、危険な生活で友達といる方が圧倒的にマシよ‼︎」
「まぁまぁ落ち着きない。言ったでしょ、君の仲間をみんな解放するって……」
「……」
怒る真沙美だが、その言葉を聞いた瞬間、急に沈んだ様に暗い顔になる。
「まっ……手続きに少し時間が掛かるから少し待ってね」
「……」
「君1人のお陰でみんなが救われるんだ。さぁ……君の答えを聞かせてもらおうか……私の女になり仲間を解放し、安全な生活を送るか……それとも、いつ出られるか分からない汚い此処にいるか……」
皇はもうすぐ九州の鎮圧が終わる事を分かっていながらこの条件を持ち込んでいる。
真沙美は、あの九州の惨劇を見て来たのでここを出られるのはかなり先だと思っている。そして何よりみんなの事が心配だった。自分1人の犠牲でみんなが助かる……雅宗達も、ここのみんなも助かる……そう思った真沙美は……答えを出した。
「……分かった……貴方の条件を飲むわ……そのかわり、別の場所にいる友達も助けてあげて……」
「まぁ良いだろう。全員高校生か」
「うん……全員高校生よ」
「分かった……神咲明日にでも連絡を入れてくれ……」
「はい……分かりました」
真沙美は自分の拳を強く握りしめた……
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その頃、志布志港から出たフェリーと自衛隊の輸送船は土佐湾付近を巡回していた。
多くの国民が乗っており、まだ感染の検査が終わっていないのだ。全員の安否が確認され、感染の疑いがないとみなされるまで船から降りる事は許されない。
輸送船の操縦席では、ある異変を感知した。1人の操縦士が気づいた。
「大杉艦長……10分程前から、フェリーの方から連絡が取れません……」
この船の若き30代艦長大杉は心配そうな顔をして指示を出す。
「もう少し連絡を取ってみろ」
「はっ‼︎」
「私はちょっと船の巡回をする……」
そう言って大杉は部屋を出て行き、艦外へと出て外を眺める。
「フェリーから連絡が途絶……」
フェリーは輸送船の近くを航海している。首に掛けていた双眼鏡でフェリーを覗くが、暗くライトも灯されていないフェリー。フェリーの外から歩いている人影がチラホラ見える。
「フェリーの人がいる……なら何故応答しないんだ……」
「大杉艦長お疲れ様です‼︎」
大杉は双眼鏡を外すと、そこには若く熱い目をしている海上自衛隊員が背筋をピンとして敬礼していた。
「君は……森君だっけ?」
「森悟です‼︎覚えていただけて光栄でございます‼︎」
「君も休憩していなさい……」
「ここ数日全く眠れないのであります‼︎」
確かに森の目の下にはクマが出来ていた。大杉は軽く微笑んだ。
「まっ……こんな状況だ、眠れないよな。楽にしていいよ」
「ありがとうございます‼︎」
すると大杉は海を見ながら喋り始めた。
「九州は今は大変な状況にある……多く国民も残っている……」
「はい……他にも感染した動物もいると聞きました」
「あぁ……福岡や宮崎などから報告を受けている。ネズミのような小型動物から犬や猫などの動物まで……多くは感染者の体液や血液などが入った水や食べ物を口にして感染した。昼頃にカラスが死体を貪っている報告もあった……」
「でもここは船の上です‼︎動物や感染者でもここには来れない安全な場所です‼︎」
「確かにここは海上で安全だ。自衛隊もいて、食料もある……だが燃料も食料もいずれ尽きる……我々は地を踏まないと生きていけない生物だ……」
この輸送船は今日1日で何千人の国民の感染検査を行い、感染反応なしと判断された。
この調子で行けば数日で国民を地に下ろす事が出来る……そう大杉は期待している……だがフェリーの方からの連絡がこない……何が起きたんだ……頭に不安がよぎる。
「それに九州にはまだ多くの国民が我々の助けを求めている……だがここの国民も安全に戻すのも私の仕事……」
「大杉さん……」
船の中では多くの国民が、狭い中で生活している……少しでも早く降ろしてあげ……普通の生活に戻してあげたい。
だがもう九州での生活は戻ってこない……多くの国民の死は戻って来ない、九州はもう……
すると無線から連絡が入った。
「大杉艦長‼︎フェリーから連絡が……‼︎」
「繋がったか⁉︎今すぐ戻る」
慌てて森と共に操縦席へと戻り、隊員に聞く。
「そちらに何か起きたのか⁉︎」
フェリーからの無線から、ノイズ音と共に聴こえてきたのは、息が荒く喋っているフェリーの艦長の声だった。
「わ、我々の船は……感染者によって……乗客のほとんどが感染し……ました……」
「どうゆう事だ⁉︎生存者はいるのか⁉︎」
「う……」
通信は切れた。大杉は歯を食いしばり、拳に握りしめた。
「……感染しただと……今すぐ本部に知らせろ‼︎それと今すぐフェリーに向かうぞ‼︎ボートの用意をしろ‼︎急げ‼︎」
「わ、分かりました‼︎」
先程の優しい表情の大杉とは違い、鬼気迫る顔だった。気迫に潰されそうになりながら、森はすぐさま走っていった。
「何故感染が起きた……フェリーに乗った国民は全員検査を受けていた筈だ……何故……」
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その頃フェリーは……
客室も操縦席もロビーもレストランも全て感染者によって血の海と化していた。海上にもいくつもの飛び降り自殺をした死体が浮かんでいた……
「た……助け……うわぁぁぁぁぁ‼︎」
生き残った人達の叫び声と肉を貪り食う音が、フェリーの中から響き渡る……
そして倉庫の荷物置き場の陰から出て来たのは……
目が赤く血が溜まったような不気味なネズミだった……
武装した大杉達は5隻のボートに20人を乗せて、フェリーへと向かう……
この時、午後11時59分……