修学旅行6日目 午後9時57分 トリオ編②
午後9時57分……
軽トラックに乗っている中年男に着いて行った雪菜。そしてその軽トラックを追う綾音と伸二。
軽トラックは町の方へ進んでいく……その車内では中年男が何か喋っているが、そんな事を無視して、雪菜は窓から外を覗く。
電灯の光が窓に反射して鏡のように自分の姿が映し出された。それは自慢の金髪がボサボサになっており、そして汚れている制服、そして元気のない自分の姿が映っていた。
雪菜はここ数日の事思い出した……
仲間は感染者によって噛まれて死んだ。全然知らない奴らと九州を脱出して、そして今誰かも分からない親父の軽トラに乗って何処かへと向かっている……数日前のあたしにいっても信じてはくれないだろうな……
だがあたしは生き残る……自分1人になろうと……誰かを犠牲にしてもあたしは生きる……絶対に……
そして軽トラックは10分程走り、宿毛運動公園を超え、田んぼが広がり北には新城山や本城山が広がる町、宿毛市高砂町へと到着した。
軽トラックは住宅街から少し離れた森に面している小さな1階建の一軒家の前に止まった。
「さぁ着いたぞ‼︎ボロいが十分住めるから安心しろ‼︎」
中年男は笑いながら先にトラックから降り、ドアの鍵を開けて家の中に入って行った。
雪菜も車から降りて、家の周りを見渡す。
「ゴミ屋敷かよ……ここは……」
家の物置と思わしき場所には錆びた自転車や大量のゴミ袋、そして多くの雑誌もある。その中にエロ本も乗せてあった。
「ちっ……エロ本もかよ」
「さぁさぁ早く家に入りな‼︎風呂もカップ麺の湯も沸かしてるからよ‼︎」
「……分かった」
玄関に入ると女物のハイヒールが置いてあった。だが雪菜は見て見ぬ振りをして男がいるリビングへと向かう。
家の中もお世辞にも綺麗とは言えず廊下にもゴミ袋が散乱しており、悪臭が漂いハエが何匹も飛び回っている。
「くっせぇ‼︎ゴミくらい捨てろよ‼︎」
「すまんすまん何せ何年もゴミ捨てしてねぇからな」
イラつく雪菜だったが、せっかくの休める場所についた、九州に比べれば十分マシと自分の心に言い聞かせて我慢した。
そしてリビングもやはりゴミが散乱していて、座る場所が全くない。その中で円状の机周りだけは辛うじて座れる範囲がある。そこに上着を脱いで腹が出てる中年男が湯気が出てるやかんとカップ麺を置いて座っていた。
「寒い身体にはこれだぜ‼︎」
雪菜も座り込み、カップ麺にお湯を注ぐ。そしてカップ麺の上に割り箸を置き、3分近く待つ事になった。ブラウン管テレビは置いてあるが上に本が積まれており、写真立てが置いてある。そこで中年男が話しかけてきた。
「そう言えばあんたの名は?」
「あたしは雪菜……薪雪菜……」
「ワシは大岩玄太‼︎」
「……」
そして3分が経ち、2人はラーメンを頬張った。玄太は勢いよく麺を啜るが、雪菜はそれを超える勢いで麺を啜った。
2日近くもまともな飯を食わずに走り続けた雪菜にとってはカップ麺がご馳走に感じた。そして喉を詰まらせた。
「ゲホッ‼︎ゲホッ‼︎」
「ガッつき過ぎだぜ雪菜ちゃんよ、ほれお茶を飲みな‼︎」
すると冷えた小さなペットボトルのお茶を投げ渡され、これも勢いよく飲んだ。
「はぁ……はぁ……」
「そんなに腹減ってたのか?一体何してたんだ?」
「……それは……」
九州から脱出した事を言うのを躊躇う雪菜。すると玄太は立ち上がり、奥の風呂場を見に行った。
「風呂場を見てくるからちょっと待っててくれ」
「……」
見てきた玄太は戻って来て、雪菜に入るように勧める。
「寒いだろ?入っていいぞ」
「……服が……」
「大丈夫、大丈夫‼︎ワシが何とかするから‼︎」
雪菜はカップ麺を汁まで食い終わり、ゴミを掻き分けて洗面所に行く。洗面所はゴミがあまりなく、まだ比較的マシで服を入れるカゴが置いてあった。
洗面所のドアをしっかりと閉めて、濡れた服を脱ぎ始める。上着・シャツと脱いでいる時に、鏡で自分の顔を見た。
「……」
とても綺麗な顔……だがそれは違う。今は小汚い捨てられた子犬のような、情けない自分の暗い顔が映っていた。
そして大きなブラ・スカートを脱ぎ、最後にパンツを脱ぎ、湯気が立つ風呂場のドアを開けた。
開けた瞬間に暗い顔から驚きの顔を変わった。湿気で風呂内の温度は高く、ここ数日の間で1番暖かい空間になった。
雪菜はすぐさまシャワーに食いつき、シャワーを浴びた。暖かいお湯が体を包み込み、この空間が天国へと変わる。自分が今生きている事を深く実感した……男物のシャンプーがあったが使わなかった。
次にギリギリまで入っている風呂にゆっくりと肩まで入った。入ったと同時にお風呂は溢れ出した。
「ふぅ〜」
口まで浸かりながら、数日前の事を思い出した……
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数日前……修学旅行2日目の夜、ホテルの温泉に入っていた。他の女子生徒達が賑わってる中で、一際目立つ雪菜達。まだ生きていた取り巻きの真矢、沙里奈、遥子の3人も一緒に入っていた……
3人はお湯に肩まで浸かってるが、雪菜は体にタオルを巻き、足を組みながら足だけをお湯につけて座っていた。
「雪菜は肩まで入らないの?」
「あたしはいいさ……別に……」
雪菜は退屈そうに風呂内を見渡す。温泉で談笑する女子、体を洗う女子、そしてタオルを巻き歩いている真沙美とテンションの高い由美の姿もあった。
「次露天風呂行こうよ‼︎真沙美‼︎」
「風邪引いちゃうよ〜‼︎」
「1度浸かれば暖かくなるから〜‼︎」
由美に押されて露天風呂に連れてかれる真沙美。それを見て舌打ちする雪菜。
「チッ……」
「どうしたの雪菜?」
「ああゆう奴ら見てるとイラッと来るんだよ……仲良しごっこをしてるあいつらが……」
不思議そうな顔をする取り巻き3人。
「片方がピンチに陥れば片方が見捨てるんだよ……あぁゆう奴らはな……」
そして雪菜は修学旅行4日目の夜……感染者に襲撃されて、取り巻き達を見殺しにした……
雪菜の心の中では、親友の存在はどこにも無かった……取り巻きも所詮仲間……親友は1人もいなかった……たった1人の旧友を除いて……
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色々と考えていたら、気づくと風呂に30分以上も浸かっていた。
風呂から上がり、置いてあるタオルで身体を拭き、濡れた制服を着ようとするとカゴには綺麗に畳まれているが多少の埃が被っている赤い長袖の服と、膝あたりまであるスカートが置いてあった。洗面所からリビングに、顔を覗き込み玄太に聞く。
「おい……この服……」
「あぁ〜その服着てくれ‼︎サイズが合うか分からないが‼︎」
「……すまない」
そう言って濡れた制服を着るのをやめ、置いてある服に着替えた。多少ブカブカだが濡れた制服よりかはマシと思いながら、リビングに移動した。
「おぉ……‼︎似合ってるな‼︎」
「この服誰のだ……」
「それは俺の嫁の……だな」
「えっ……」
沈んだ顔をする玄太。そして雪菜がブラウン管テレビの上に置いてある写真立てに目が行った。
「あの写真……」
「あぁ見るか嫁の写真、ほれ」
少し色褪せた写真を見ると、そこには笑顔で笑って肩を組んでいる玄太と長髪で雪菜と同じ金髪の笑っている女性が写っていた。
「……これは……」
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その頃30分以上寒風が吹き荒れる中、伸二と綾音は雪菜がトラックでいった方向の高砂町を歩いている。
「どこにいるんだ……雪菜さんは……」
「雪菜ちゃん……⁉︎」
綾音が空を見上げると、上空から地上をライトで照らしながら飛んでいる無数のヘリを見つけた。
「あれ……何……」
一台のヘリがこちらに向かって来た。
「綾音さん、隠れよう‼︎」
家の陰に隠れて、ヘリは通り過ぎた。
「一体何なんだ……あれは……」
すると街のスピーカーやヘリのスピーカーから男の声が流れ始めた。
「現在、隔離地方に指定された九州地方から政府公認の救助船以外で無許可で脱出した感染予備群の中で逃亡者が3名がこの宿毛市に潜伏してる模様‼︎全員高校生で制服を着ています‼︎近隣の住民の方は外出を控えて下さい‼︎もし見つけた場合は、すぐに警察にご連絡を‼︎」
そしてヘリは街を捜索を続けた。
「完全に指名手配されてるようだ……僕達は……本当に家に帰れるのかな……」
「……絶対に帰りましょう……みんなで……」
この時、午後10時54分……