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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第1章 九州脱出編
32/124

修学旅行6日目 午前10時37分

 

 午前10時37分……


 雅宗達は、新軍谷(しんいくさだに)トンネルの放置車を退かした。そして再び大分県佐伯市へと北上を再開した。トンネルを抜けると須木下田(すきしもだ)町に到達した。須木下田町は近くに小野湖があり、川が流れている町である。人の気配はなく、雅宗は嘆く。


「やはりここも人がいないのか……」


 優佳は川を見て喜ぶ。


「川かぁ〜いいなぁ〜」


 真沙美が聞く。


「何で?」

「顔を洗いたくてー」


 すると南先生が立ち上がり、後ろの生徒に大声で言う。


「優佳ちゃんの言葉にも一理あるわね。ここで少し休みましょう。感染者がいる気配がなさそうだし」

「やったぁー!!」


 そしてバスは橋の前で止まり、一同はタオル片手に川に行く。優佳は一足先に川の水を手ですくい上げ顔を洗う。南先生が忠告する。


「ふぅ〜きっもちぃぃ!!」

「顔とか洗うのはいいけど、飲んじゃダメよ!雑菌とか入ってるからね」

「はーい!!」


 真沙美や由美達女子も川の水で顔を洗う。雅宗と幸久も久しぶりに顔を洗いテンションが上がる。


「久しぶりだな!こんなに気持ちいいのは」

「あぁそうだな。ここ最近、動きっぱなしで汗かいたからな」


 だが由弘は川に行かず、由弘はずっと周りを確認し続けている。幸久は由弘をに呼びかける。


「由弘!お前もこっちにこいよ!気持ちいいぞ!!」

「俺は後にしておく。ゾンビ共が来ないかここで見張ってるさ」


 すると顔を洗い終えた西河先生が由弘の肩を軽く叩き言った。


「なら先生が代わりに見張っておくから、お前は楽しんでこい」

「で、でも……!」

「休息を取れ。少しの休息だけじゃ何の意味もない。偶には何も考えずにリラックスするのも良いだぞ」

「……ありがとうございます!先生」


 1度深く礼をすると、雅宗達がいる川へと嬉しそうに走って行った。

 龍樹は軽く顔を洗った後、川辺で空を見ながら寝そべっている所を由弘が見かけ、親しげに話し掛ける。


「お前ももっと楽しめよ」

「楽しめるもんかよ、こんな状況下で」

「そんな事考えずに、ゆったりしろよ」


 そう言うと由弘は雅宗の所へと走って行く。そして龍樹は空を眺めて言う。


「ゆったりしろ……か……」


 その頃伸二は、携帯充電器でスマホを充電しながらニュースを確認する。それをタオルで顔を拭いている里彦が覗く。


「何見てるんだ?」

「ニュースだよ。大分県に何も起きてないとか、ゾンビ達の目撃情報を見てるんだ」

「何か情報はあったのか?」

「大分県は比較的安心……だって……でも目撃情報は多々あるみたい」

「やはり大分県にもいるのか……」


 するとタオルを肩に掛けた蒼一郎が割り込んで来た。


「そりゃあそうだろ。何処にでもいると覚悟した方がいいさ。もちろん此処にもな」

「あぁ……そうかもな」


 そして南先生はバスから空のペットボトルを何本か持ち出し、それに川の水を入れ始めた。真沙美が問う。


「先生何やってるんですか?」

「飲み水としてはダメだけど、今みたいに顔を洗う事は出来る。ならその水だけ確保しておくのよ」

「へぇ〜」


 休憩を終え、バスに戻ると西河先生が双眼鏡で山を見ていた。南先生が問う。


「何処見てるんですか?」

「これであそこを見てください」


 双眼鏡を渡され、言われた山方面を見る。すると山の草むらの中から何匹か小型の動物がこちらを睨んでいたのだ。


「あれは……野生動物⁉︎」

「多分……アライグマだと思います」

「アライグマ⁉︎」


 アライグマは昔とあるアニメに登場し、人気が出てペットとして多く輸入された。だが気性の荒い性格などで、勝手に逃がす人が多発し、野生化した。

 南先生は嬉しそうに見ている。


「可愛いじゃないですか」

「……僕にはそうは見えませんね……僕には我々を敵視してるようにも見えますけどね」


 後ろから来た幸久も一言言う。


「早く出た方がいいかもしれませんね……」


 そして全員バスに乗り込もうとすると哲夫が土手に座り込み、スケッチブックで何やら書いていた。そこを伸二が覗く。


「一体何を書いてるんですか」

「せっかくだからここの風景でも描こうかなって……」


 それは黒い鉛筆で描かれた綺麗で繊細な風景画だった。橋や川の線や影が綺麗に描かれており、とても鉛筆で描いたようには見えない絵だった。


「すごい……綺麗」

「ここは僕の家から近いけど、あまり記憶にない。けどこうやって描くことによって、記憶するんだ。ここに来た時の事を……」

「……」

「そして忘れちゃいけないんだ。今の出来事を。この絵を見る度に、この出来事を思い出さなくてはいけないんだ……忘れられない記憶ほど、辛いものもあるんだ……さっ、行こうか」

「はい!」

 

 そう言うとスケッチブックを閉じ、伸二と共にバスに戻った。そしてバスは再び大分県に北上を始めた。バスが動いたと同時にアライグマは森へと戻って行った……


 そして1時間以上何もなく、何も聞こえない山の中を北上し続ける。西米良村(にしめらそん)椎葉(しいば)村、五ケ瀬町(ごかせちょう)を通り越し、午後1時27分、高千穂(たかちほ)町に到着した。幸久達はここで昼食をとることにした。やはりここも人影は全くない。高千穂中央高校でバス止め、幸久が1人降りて確認した。


「ここも人はいなさそうだな……みんな大丈夫そうだ!」


 全員バスから降り、辺りを確認する。すると、由美がモジモジし始めた。


「ちょ……ちょっとトイレに行きたい……」


 幸久が高校の玄関ドアを確認する。


「ドアは開いてるみたいだ!ここから行けるぞ!今の内にトイレに行け」

「トイレに行っトイレってね〜」

「しょうもない事言うな」


 雅宗のしょうもないギャグを聞き幸久は学校を見わたす。そして他にも雅宗と里彦と蒼一郎、由美や綾音がトイレへ向かうべく、学校に入った。そして廊下に貼られている地図を見て、トイレの場所を確認する。


「トイレは……この先か……」


 雅宗を先頭に奥へと進んで行く。


「え〜っとこの先を、右に曲がれば……⁉︎」


 廊下の角を曲がろうとした瞬間、廊下に強烈な異臭が漂った。1度嗅いだことがある匂い……それは血の匂いだった……


「みんな……待て」


 由美が雅宗に聞く。


「ど、どうしたの……それにこの匂いは……」

「俺が見てくる……みんなは待ってろ……」


 廊下の角をゆっくりと確認すると……


「⁉︎」


 それは死んだ人間の肉を貪り食っているアライグマ2匹だった。目が白く濁っており、普通のアライグマとは思えない状態だった。現場は凄惨で、アライグマの身体は血に塗れていた。雅宗は声を殺して我慢した。


「な、何だ……これは……」


 そして一匹のアライグマの動きが止まり、雅宗の方角へと向いた……

その事を学校の外にいる幸久達は何も知らない……


 この時、午後1時35分……





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