修学旅行6日目 午前9時57分
午前9時57分……
雅宗達は新軍谷トンネル内を進むが、無人車が放置されており、このトンネルを通らないとかなりの遠回りになる。ガソリンを節約したい雅宗達は男子全員で無人車を動かす事となった。
バスのライトで放置車を照らしながら作業をする事になった。一番最初にバスから降りた幸久と雅宗は頭を抱えていた。
「う〜ん……これは多いな……」
「最低でも5・6台は移動させる必要があるな……」
二車線の道路に約10台の車が無造作に止められており、片方の道を開けてばバスは通れる。だがその内の5・6台を動かさないとバスを動かす事が出来ない。軽自動車やワゴン車、パトカーなど様々な車が置かれている。
「1台1台退かすしかないようだな」
腕を捲った由弘が前に出て、目の前にある軽自動車の前に行く。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
両手で車の先端を持ち、歯を食いしばり身体中の力を全て手に集中して上にあげた。前の車輪が上がる、その光景に里彦や蒼一郎は唖然としている。
「す、すごい……」
由弘は車を一旦おろし、全員に呼びかける。
「よし……みんなで動かすぞ!」
「私もやるわよ」
「南先生も⁉︎」
男子の中に南先生も混ざった。
「私も教師よ。貴方達に負けない力はあるわよ」
「ちょっと待ってくれないか」
西河先生が全部の車のドアが開いてないか確かめている。雅宗は不思議そうに聞いた。
「何してるんですか?」
「ドアが開いてないかと思ってな」
「何かあるんですか?」
「確かテレビで聞いた事がある。地震の時は車の鍵をつけたまま、逃げた方が良いって」
「何で?」
「緊急車両などや地震後の通行の妨げになるからだ。その為運転手本人がいない時は別の人が動かす事が出来るんだ。それを期待したんだが全然ダメだ。一応お前達も覚えておいた方がいい」
結局車の鍵などはなく、車前方に由弘、雅宗、幸久。後方に龍樹、里彦、蒼一郎。右に伸二、哲夫、南先生。左に教頭、西河先生が車の下を掴む。全員が掴んだのを確認した西河先生は言った。
「せぇ〜の!!」
掛け声と共に全員は力一杯軽自動車を持ち上げた。全員険しい顔をして、ゆっくりと車を動かす。辛そうな顔をしながら幸久が言う。
「もう少しだ!!頑張れぇぇ!!」
そして別車線に慎重に下ろした。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「みんな……次行くぞ……」
そして2台目を持ち上げに行った。その車を見て伸二が不安そうに言う。
「これ……持ち上げられるの……」
それはワゴン車だった。だが由弘は意気揚々に言う。
「大丈夫だ!みんなで頑張れば!!」
「……」
ーーーーーーーーーーーー
女子達はトンネルの外でゾンビ達が来ないかを確認している。真沙美は真剣な表情で由美に話しかける。
「由美」
「何?真沙美?」
「こんな時に言うのも何だけど……最近幸久君と上手くやってるの?」
いきなりの質問に由美は顔が真っ赤になった。
「い、いきなり何言うのよ!!」
そこに優佳が話に混ざる。
「何々?恋愛話?」
慌てた様子の由美を見て、ちょっと笑顔になる真沙美。そして質問に答える由美。
「ちゃ、ちゃんと仲良くやってるわよ」
「由美ちゃん、幸久君と付き合ってるの?」
優佳が言うと由美は照れ臭そうに言う。
「うん……」
「確かに幸久君カッコいいもんね〜」
「そ、そうかな〜」
照れる由美の隣で雪菜が不機嫌そうに文句を垂れる。
「こんな時に彼氏の話かよ……」
その声がはっきりと聞こえた由美は、ムスッとした顔で雪菜に指を指して言う。
「そうゆうあんたは彼氏いるの!」
「あたし?あたしは……」
そう言うと雪菜は、もじもじしながら黙り込んだ。そこにニヤニヤした由美が言う。
「まさか……付き合った事ないの?」
「うっせぇ!!付き合あった事ないぐらいで何が悪い!!」
すると優佳が本音を言ってしまった。
「貴方みたいな子は男子を手玉に取りそうだと思ってたからびっくり」
優佳がうっかり本音を言って、雪菜の怒りを買う。
「悪かったな、手玉に取りそうな奴で!!」
「ふふ……」
優佳の言葉に怒っている雪菜を見て、軽く笑む綾音。そして雪菜に睨まれる。
「何笑ってんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
すると優佳が雪菜と綾音の中に割り込み、雪菜の前で両手を広げる。
「ダメだよ!今は仲良くしなくちゃ!」
「あぁ?」
時忠高校でヤンキーだと知れ渡っているのを知ってる真沙美はオロオロとしながら優佳を見守る。
「優佳ちゃん……」
だが雪菜は綾音を指して言う。
「あたしはあいつみたいなヘコヘコしてる奴が嫌いなんだよ!」
すると優佳も頭にきて怒り始める。
「あんたね!人の性格にとやかく言うんじゃないわよ!自分は自分、あんたはあんた!人それぞれなのよ!それなのにあんたは!!」
「ならお前はヘコヘコしてる奴は好きなのか嫌いなのか、どっちなんだよ!」
「好きよ!大好きよ!!」
「どうゆう所がだ⁉︎言ってみろ!」
「そ、それは……」
「ほらな!口ならなんでも言えるんだよ!」
言葉に詰まった瞬間、由美が2人の中に入り込んだ。
「仲良くって言ったそばから何喧嘩してのよ。優佳ちゃんも雪菜ちゃんもそれに綾音ちゃんもみんな仲良くしないと!」
由美は、優佳と雪菜の手を無理やり引っ張っり重ね合わせ、綾音の手も引っ張って全員で重ね合わした。3人共気まずそうな顔で手を重ねる。
「これで仲直りよ!みんな!」
「……」
「ちっ……!」
雪菜は1人先に手を戻し別の方向を見る。由美は優佳に一言優しく言う。
「優佳ちゃん……怒る勇気もいいけど、我慢の勇気も必要だよ」
「ご、ごめん……私、カッとなって」
「優佳ちゃんはいい事をしたんだから、自分を責めなくていいのよ」
「ありがとう……」
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雅宗達は最後のパトカーをどかし、道を開けることを成功した。全員疲れ果てた様子で地面に腰を落としている。
「やっと終わった……」
「教頭、本当にギックリ腰になるなんて……」
そして幸久が女子生徒達の方へ大声で言う。
「もう終わったからみんな戻って来ていいぞぉ!!!」
その声は女子生徒全員に聞こえた。そこに優佳が言う。
「もう終わったって事?」
真沙美も言う。
「じゃあ……戻ろっか」
真沙美達がバスに戻り始め、雪菜も戻り始める。その後ろに綾音が歩いている。そして雪菜が後ろを振り向いた時、突如綾音に向けて殴りに掛かった。
「ひっ!」
綾音は恐怖で目を瞑り、綾音の声に真沙美達が振り向くと、雪菜の拳は綾音の肩を通り越した先にいたゾンビを殴り飛ばしていたのだ。そこに雅宗や真沙美達が綾音の元に駆けつけた。
「大丈夫か⁉︎」
「みんな離れろ!!」
「何があった⁉︎」
殴った方の手を軽く振りながら答える。
「感染者が来てたんだよ……それであたしが殴っただけだ」
そう言うと一人でバスの方へ戻って行く。そこに綾音が雪菜に勇気を出して言う。
「あ、ありがとう……助けてくれて……」
雪菜は足を止めて顔を振り向かずに言う。
「あたしは二次災害を防いだだけだ……」
雪菜は再びバスへと戻って行った。蒼一郎がボソッと言う。
「相変わらず変な奴だぜ……」
そして全員バスに乗り、再びバスが動き始めた……
この時、午前10時37分……




