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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
序章

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修学旅行4日目 午後8時36分

  午後8時36分……


 黒い煙が漂よう鹿児島中央駅──

 街中の人々は煙が上がる方向へと目を向けた──ホテルの屋上も何が起きたんだ? と、状況を理解出来ていない。


「事故?」

「撮っておこうぜ‼︎」


 多くの生徒が柵に寄って、呑気に駅前へとスマホを向けて写真や動画を撮り始めた。

 SNSにでも軽く投稿する気なのだろうか、誰も危機感を持っていない。

 だが、幸久はスマホこそ向けてはいないが、興味を持って駅方面へと目を凝らした。

 そこに真沙美と由美も騒ぎを聞きつけて、幸久と合流した。


「みんな騒いでいるけど、何かあったの?」

「駅前から煙が上がっているようだ。多分事故だと思う」


 真沙美らも遠くを見つめるが、やはり詳しい状況は理解できない。


「……何なんだろうね」


 ただの事故だろう。幸久はそう思っているが、何処か嫌な予感を感じていた──

 雅宗もそこにいるのでは無いか、野次馬が好きな奴だから、近づいていないか。

 そう思ってスマホを取り出すと、先に真沙美が電話をかけていた。


「雅宗……」

「出たか?」

「ダメ、出ない……」


 電話に出てこない雅宗。

 幸久は由弘にも電話を掛けたが出る事は無かった。

 手汗が滲み出る──心配の一言だ。


「大丈夫なのかよ、アイツら──」


 アイツ等なら何かあっても大丈夫だろうとは思っている。

この煙は外に出ている生徒達の多くは気づいていた。

 もちろん雅宗達も──


 ーーーーーーーーーーーー


 雅宗達──中央駅北東の高見橋を渡ってる途中であった。

 二人も煙の存在に気づき、足を止めていた。


「何だあの煙は?」

「事故かもしれんぞ!」


 雅宗のウキウキとした声からは、胸躍っているのが伝わって来る。

 そんな雅宗に由弘は注意をした。


「怪我人がいるかもしれんのだぞ!」

「そん時は助けるさ。とにかく行ってみよう」


 急ごうとする雅宗に呆れていると、頬にひんやりと冷たさを感じた。


「雪──?」


 上を見上げると小粒の綺麗な白い雪がゆっくりと落ちて来た。

 サラサラと小粒だが、地面は少しずつ雪に染まっていく。

 北海道で飽きる程見た雪とは言え、やはり降るとテンションが上がって来る。

 一人見惚れていると雅宗が一足先に走っていく。


「由弘! 置いてくぞ!」

「待てよ!」

「雪に負けないよう、走って身体あっためるぞ!」


 由弘は雅宗を追って走った。

 雅宗達は橋を渡り、煙の出た駅前の広場へと向かった。

 雅宗の頭の中には車同士が軽くぶつかって、運転手同士が喧嘩でもしてねぇかなと呑気に考えていた。

 駅が見えてくると、野次馬の数が一気に増えてきた


「あそこか?」


 駅前の交差点──信号は青なのに一台も動いておらず、車が立ち往生していた。

 運転手達も車を降りて何が起きているか確認し、駅方面は人々の声で溢れかえっていた。


「交差点で事故ったようだな。それも盛大に」

「パトカーとかもまだ来てなさそうだな」


 多分、交差点中央で事故ったなと、雅宗達も近づくが──


「人が多すぎて分かんねぇな」

 

 何百人を超える人混みに遮られ、先が見えない。

 向こうから煙が立ち込めているのは分かる──でも、車や事故の状況は全く分からない。

 時忠高校の生徒も野次馬の中に混じっていた。雅宗はその一人に聞いた。


「おい、何があったか分かるか?」

「俺らも分かんねぇが、車同士がぶつかったのは聞こえたんだが……」

「とにかく、行くしかねぇか!」


 何が起きたか気になって来た雅宗。

 雅宗と由弘は狭い人ごみの中を進んでいき、前に出てきた。


「これは──」


 軽自動車が電灯にぶつかって、電灯は道路の真ん中に倒れて別の車に直撃していた。これで車の行き来が妨害されていた。

 エンジン部分からは炎が燃え盛り、黒く焦げた煙は空から降ってくる白い雪とは真逆に空へと舞い上がって行く。


「ド派手にやったようだな……」


 窓ガラスはヒビ割れ、道路にブレーキ痕が無いところを見ると、アクセル全開でぶつかったのが分かる。

 警察などもまだ来ておらず、周りはスマホのカメラを構えた野次馬だらけであった。

 喧嘩なんて甘っちょろいもんじゃない。大事故じゃんか──

 雅宗は声も出せなかった。


 これだけでも十分に衝撃的だが、雅宗達は目の前の光景に衝撃をうけた

車が故障している横で、スーツを着た男と駅員さんの2人が、手と足を無造作に動かして暴れている水色の作業服の男を抑えている。

 まるで酔っ払いのような暴れっぷりに由弘が腕を鳴らしながら前へ出ようとした。


「酔っ払いか?俺が止めに入るぞ」

「──やめとけよ、あの人殺す気か?」


 由弘は柔道県大会で2位の実力がある。

 そんな奴に酔っ払いが投げられたら、死んでしまう。そう思った雅宗は由弘を止めてただ見てるだけだった。

 すると、作業服の男が駅員の裾を強く引っ張り何かを訴えてる。


「……けて……た……てくれ……」


 途切れ途切れに聞こえる息が切れそうな声──腐ったような灰色に濁った肌。

 明らかに普通じゃない──まるでゾンビだ。

 その言葉を最後に作業服の男の動きが魂が抜けたように止まった。

 裾を引っ張ってた手も離れ体は地面に倒れた。その瞬間、撮影していた野次馬達は我に返り、その場は静まり返った。殆どの人がスマホを離し、作業服の男を見た。

 駅員が心臓に耳を当てて、動いていないのを確認した。


「死ん……だのか」

「……嘘だろ?」


 人が目の前で死んだ。

 こんな初めての光景に雅宗の心臓はドキドキと鼓動し、手がブルブルと震えていた。

 周りの人々もこの状況に、誰一人動けなかった──

すると、作業服の男の手がピクッと動き始めた。

 気のせいか? 駅員は見間違いかと気にせずに男を運ぼうと手を伸ばした──その時、作業服の男はいきなり駅員の足を両手で掴んだ。


「えっ?」 


 何が起きたか分からず、駅員は動けなかった。

 すると作業服の男は口を大きく開けて、足に噛みついた。


「うっ……ギャァァァ!!」


駅員は悲痛な叫びをあげた。そして足の付け根を肉ごと噛みちぎって、雅宗たちの前に吐き捨てた。

 その場に血が雪や地面に飛び散り、赤く染った。


「え?」


雅宗から薄いリアクション──これは映画なのか、夢なのか?

 目の前で起きている事が、理解できなかった。

 男が身体を離すと駅員は、人形のように無機質に倒れた。

 死んだ?──野次馬達は血まみれの駅員を見て、一斉に悲鳴を上げ、人々は我先にとその場から逃げ惑った。


「おい! 雅宗!」


呆然と立っていた雅宗の肩を思いっきり揺らして由弘は雅宗を起こした。


「雅宗!!」

「……はっ!?何だ、今のは⁉︎」

「あの男、噛みついたぞ!逃げるぞ!!」


 気を取り戻した雅宗達も逃げようとした時、作業服の男が立ち上がった。男は白い目をして、口を大きく開けて、おびただしい量の血が垂れている。そして雅宗の方へ目があった瞬間、雅宗目掛けて言葉にならないうめき声をあげながらフラフラとした歩きを数歩した後、いきなり走り始めた。


「こ、こっちに来た……」

「逃げろ!!」


 動揺して体が動かなくなる雅宗だが、由弘の声で再び我に戻り全速力で逃げた。後ろも見ず、男が何処まで迫ってきてるかも分からずただ真っ直ぐに逃げた。

そして街の入り組んだ路地裏まで逃げた雅宗は息切れ寸前で、由弘は案外平気そうだ。体力に自信あるだけに雅宗より体力がある。雅宗は息が切れそうになりながら路地裏の外を確認している由弘に尋ねる。


「何なんだ……今の……」

「俺に聞かれても分かんねぇよ!」

「あ……あの顔……人間じゃ……なかった……」


街から鳴り響く悲鳴の数々。これは現実なのか、夢なら覚めてくれと願う雅宗であった。


 ーーーーーーーーーーーー


 その頃、噛まれて倒れていた駅員の顔色が、変わり始めていた。駅から出て来た野次馬が更に増え、駅の警備員が事故った車の付近と倒れた駅員を確認している。そして警備員2人係で起こそうとしていた。


「だ、大丈夫か?」


 警備員が生きているか確認しようしたその瞬間、倒れていた駅員が起こそうとした警備員の右腕を掴み、思いっきり噛みついた。


「い、痛!何するんだ!」


 すぐさま駅員を離し、手を確認したら、右腕には歯型が何個もめり込んでいて腕から血が流れていた。そして駅員は立ち上がり、そのまま別の警備員へと飛びかかって首元に噛み付いた。警備員の叫び声と共に瞬く間に駅前はパニックになった。


 ーーーーーーーーーーーー


 駅から離れた港近くの天文館公園。暗く、切れかけの電柱の下で雪菜と3人の取り巻きがタバコを吸っていた。


「駅前とか行かなくていいの?雪菜?」

「あたしはうるさい所は苦手でね。静かな所が好きなのさ」


 吸い終わったタバコを小さな雪山に捨て、立ち去ろうとすると公園の入り口に人影が見えた。電灯が無いせいか姿ははっきりとは見えない。雪菜は目を細めて言う。


「誰かこっちをみてるぜ」

「あたしが見てくる」


 取り巻きの1人遥子が言うと、その人影の元へと恐れもなく近づいて行った。


「何だよオメェ!あたし達に何か用でもあんのか?」


 人を見下したように、その人物に突っかかる遥子。その人物は駅前のとは違う作業服の男だった。その男もまた口から血を垂れ流し、虚ろな目をしている。その姿に遥子は驚き、数歩後退した。


「うわっ!なんだこいつ!!気持ち悪りぃ!!」


 すると男はいきなり遥子の親指へ噛みつき、そのまま簡単に噛みちぎって、吐き飛ばした。一瞬の出来事で、遥子は噛みちぎられた事がわからなかった。


「えっ……」


 すかさず男は、遥子の首元に噛みついた。雪菜達もその異変に気づき始めた。果物を食べるように噛みつき、そして噴水のように首から吹き出す血。地面の白い雪に血がべっとりと、塗り替えて赤色の雪へと変貌した。


「ふざけんなよ!」


 もう1人の取り巻き真矢が、首元に噛みついている男の元へと行き、頬を思いっきり殴った。パンチはもろにあたり、拳は頬にめり込んだが、男は一切噛むのをやめない。その間も噛まれている遥子の力はだんだんと弱まっている。


「あぁ……」


 力が無くなるかのように地面に倒れた。血は溢れる水のように地面を赤く染めた。


「きゃぁぁぁ!!」


真矢は甲高く悲鳴をあげた。暗く何が起きてるかははっきりとは見えないが、雪菜は仲間が倒れているのは分かり、少しばかり不安になってきた。


「お、おい……どうなったんだよ?沙里奈も行って来いよ」

「わ、私が?」

「そうだよ!行け!」


 2人が口論してる間に、男はそのまま真矢の右腕へ噛みつき始めた。手を振り解こうとするが強く噛まれ、離すことができない。


「は、離せ!!この!」


 足で蹴ったり、左手で殴ったりと激しく抵抗するが、痛覚が感じないのか男は無性に噛みつく。


「うっ……」


  雪菜は沙里奈の腹を殴り、行くように命じる。


「行け……さもないともう一発ぶち込む!!早く行け!!」

「わ、分かった……」


 沙里奈が男の方へと恐る恐る近づくと、倒れていた遥子に足を掴まれる。一旦しゃがみ遥子の顔を心配そう覗き込む。


「遥子!大丈夫⁉︎」


 顔を上げた遥子は、口から血が流れ、歯は全て抜け落ちていた。白い目となり、唸り声をあげていた。


「きゃゃぁぁぁ!!!」


 離そうと足を振り払うとするが一切離れず、蹴っても何も反応しない。


「離せ!!離せ!!」


 すると遥子は沙里奈の足に噛みついた。沙里奈の体に激痛が走り、地面へと尻餅をついた。そして涙目で手を伸ばし、雪菜へと助けを求める。


「雪菜……助けて……」


 真矢も横腹を噛まれて、血が滝のよう流れ、その場に血の池が出来上がった。もう意識は無くなっていた。ただの屍のように。その姿を見て衝撃のあまり、尻餅をついた。


「あっ……あぁ……」


 雪菜は驚きの光景に恐怖し、顔面が青ざめて震え始める足を無理やり立たせ、涙目になりながら建物の壁に片手をつき逃げ始めた。


「雪菜ぁぁ!!!待って!!!助けてぇぇぇ!!!」


 沙里奈の悲痛な叫び声が響くが、耳を傾けずに、ただひたすらに逃げる事だけを考え、おぼつかない足取りで公園から立ち去った。そして自分の理性を保つために、ずっと一人ごとを呟いていた。


「これは夢だ……夢なんだ……夢なんだ……」


立ち去ってからも、公園からは叫び声が聞こえてたが、その内声はなくなり、肉を乱暴に貪り食うような音しか聞こえなくなった。


 ーーーーーーーーーーーー


 ホテル屋上……

 最初は興味本意で写真や動画を撮っていた生徒や幸久達は、唖然と街を眺めていた。

 10分くらい前までは、綺麗な風景だった場所が今や駅前以外にも繁華街からも阿鼻叫喚の叫び声が響いている。幸久にも街から聞こえて来る声が心に響く。


「何が起きているんだ……」


真沙美は雅宗に電話を掛けるが出る様子はなかった。それが更に不安となり、真沙美の心は不安だらけとなった。


「雅宗……無事だよね……絶対に」


 ーーーーーーーーーーーー


 8階の伸二の部屋


 テレビをつけて、ツイッターを見て行ていると[鹿児島中央駅で変な奴が駅員を噛み付いていたwww]という名の動画があった。それは雅宗達が見た男が噛み付く光景が動画してツイッターに流れていた。


「鹿児島中央駅って……まさか……」


 するとテレビから緊急速報のテロップが出て来た。


 鹿児島中央駅付近にて、小規模な暴動が起こり死傷者が多数出た模様。機動隊が出動し鎮圧を試みる模様。付近の住民は安全な場所へ避難するか、自宅へ待機をお願いします。


「映画みたいな展開だな……」


 テロップを見た伸二は部屋の窓を開け、外を覗くと、駅前付近で逃げ惑う人々や倒れている人の姿が目に焼き付いた。


「……え、これ……マジもんかよ……」


 伸二は口を開けこの光景を、呆然と見る事しか出来ない。動画や写真も撮る事もしない。ただこの光景を目に焼き付けているだけだ。



 この時午後8時49分……

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