修学旅行6日目 午前7時29分
午前7時29分……
生徒達の支度はでき、西河先生と南先生がバスの前列に立ち今後の行動を説明する。
「私達が出来ることは政府からの情報を聞いて、大人しくする事しか出来ないわ。下手に動くとそれこそ感染者に襲われる事になってしまうわ」
「それに動き回れば、燃料が大きく消費していざという時に動かなくなってしまう」
すると後ろの席から、ピーンと手を挙げた生徒がいた。
「すいません先生。ニュースでこんな記事が!!」
言ったのは伸二だった。それに釣られてバス内の龍樹や教頭などを除く大勢の生徒がその記事を見た瞬間、目がまん丸になった。
「それ本当⁉︎」
その記事は政府が九州に自衛隊を派遣し、感染者の鎮圧を試みる作戦であった。鹿児島を中心に鎮圧する模様。
「自衛隊で感染者を倒すって事か?」
蒼一郎が驚いた表情で言う。
「そうみたい。自衛隊には色んな武器がある筈……それで何とか」
「あんなに大勢いる感染者を自衛隊が倒せるといいんだけどな……1匹残らず」
「もう一つ、このニュースも……」
それは福岡県の事だった。昨日の夜中に福岡市内との連絡が突如途絶してしまった。そして福岡県内にも感染者の目撃情報が相次いでいる。
「どうゆう事だよ……ゾンビが福岡まで行ったとでも言うのか?」
雅宗が不安そうに言う。それに伸二が答える。
「歩きで福岡で行くのは無理ではないかもしれない。でもそれなら他の県にも大規模な被害があるはずだ……でもそんな記事や情報は全くない。嫌な予感がするよ……」
「どうゆう事だよ伸二」
里彦が不安そうに伸二に聞くと下を俯いて言う。
「福岡でも鹿児島と同じ何か原因がある筈だ、それが分かれば……」
「だとすると、俺達は脱出を早く考えないと……」
「そうだね……原因よりも脱出が優先だ。早く何か手を打たないと福岡と鹿児島から両挟みで囲まれてしまう……」
それに南先生が話に割り込んだ。
「さっきも言った通り、下手に動くのは禁物だわ」
里彦がそれに反論するように言う。
「ここに居たって救助が来るとは限りません‼︎それならもっと上の県に行って九州からの脱出を試みるべきです‼︎」
「道路が混んでいてそこに感染者が現れれば、志布志港の二の舞になるのよ」
「……」
里彦が言葉に詰まるも、「す、すいません」の声と共にバスの運転手が手を挙げた。
「先程私の知り合いから連絡が来て、大型船で四国に逃げると言っていました。それも結構な人数が乗れるみたいです」
それに西河先生が少し驚いた様子で言う。
「ふ、船⁉︎でも今は政府によって禁止されているはずじゃ」
「私も言いましたが、緊急事態だからそんな事言ってる場合じゃないって」
「場所は……どこなんですか?」
西河先生の質問に、一瞬間を開けて運転手は答えた。
「大分県の佐伯市です……」
大分県は宮崎県を北に超えた場所にある。佐伯市は大分県の海に面している市で港もある。幸久は一度考え、言う。
「大分県か、でも僕達が乗っていいんですか?」
「はい。貴方達の事情を言ったら即了解を得ました」
「すいません。僕達のためにここまで……」
「いいんですよ、お客様を目的地に連れてく……それが私の役目です」
「……ありがとうございます」
幸久が深く礼をすると運転手は軽く笑いながら会釈した。
「教頭先生、いい生徒を持ちましたね……」
不満そうな顔をしていた教頭は、急に作り笑顔になって今日初めて口を開いた。
「あ、ありがとうございます。我々の誇りの生徒です」
南先生は西河先生と相談して、どうするかを決めた。
「どうしますか西河先生?」
「この山道は昨日から見てもそこまで車は通っていませんでしたし、この道から北上すれば少し遠回りになるかもしれませんが、安全に行けるはずだと思います」
「……そうね、この道なら海沿いを通るよりかはマシな方ね」
そして南先生は頷き、再びバスの前列に立ってみんなに大声で言い放った。
「じゃあみんな今から大分県に向かうわよ!」
「はい‼︎」
南先生が言うとバスは大分県に向けて発進した。霧島山を北上し約30分、山の中をただ進み宮崎県の小林市に通りかかった。山に囲まれた市である。
「何だ……これ」
雅宗が開口一番見たものとは……コンビニはシャッターが降ろされており、街からは煙が上がっており、建物の窓が割れていたり、車などもあちこちで衝突事故が起きている。そして至る所に血が飛び散っている。それを見た雅宗が不安そうに言う。
「ここも感染者にやられたのか……」
由弘もこの光景を見て冷や汗をかきながら言う。
「人の気配が無いところを見ると、その可能性は十分にありえる。壊滅したって事だな」
そこでこんな状況にも関わらず、優佳は俯きながらお腹をさすり、ふと外を見てるとある場所を見つける。
「あれ……まさかスーパー⁉︎」
優佳が食いつくように見つけたのは、窓ガラスが割れていて外から見ても分かるほど中が無残に荒らされている小さな食品スーパーだった。何台もの車や自転車が乗り捨てられており、まだスーパーが開店していた時に襲われたのが分かった。
その優佳の発言に雅宗がとっさに思った事を口走った。
「た、まさか泥棒する気か⁉︎」
「き、緊急事態よ‼︎そんな事言ってる場合じゃないよ‼︎腹減ったの私は‼︎」
そこで南先生は考えた。食料は今はまだあるがいつ切れるか分からない……大分まではまだ遠いと。
「運転手さん‼︎あのスーパーの前に止めて下さい‼︎」
「マジですか⁉︎先生まで⁉︎」
「えぇ⁉︎」
先生までもと、驚く雅宗や幸久達。そしてスーパーの前に止まるバス。
「大分に今日到着出来るという確証は無いわ。だから少しでも食料を増やす為に行くわよ。幸い感染者の気配はないみたいね。私が行くわ」
南先生が率先して出ようとする
「……なら俺も行くぜ‼︎」
「俺もだ‼︎」
雅宗と由弘が手を挙げた。
「先生‼︎俺も行きます‼︎」
幸久も同じく手を挙げると、南先生は手を出して止めた。
「3人で大丈夫よ。幸久君は外を見張っていてくれる?西河先生もここに残って下さい。もし何かいたら大声で教えて」
「……分かりました」
雅宗と由弘はリュックの中身を全部出し、食料を入れる袋代わりにした。そして雅宗は木刀を片手に持ち、周りをゆっくりと確認しながらバスを出て、なるべく音を出さずに3人はスーパーへと向かった。
「昨日とは別で、静かで不気味だ……」
静かでバスのエンジン音が町全体に広がり、安心するエンジン音が逆に恐怖を煽っていた。
入り口の窓ガラスは割れている為、ガラス片をなるべく踏まないように、ゆっくりと侵入した。
「食品コーナーへと向かうわよ」
「はい」
暗い店の中は商品が無造作に散乱しており、昨日の霧島市のデパート以上に荒れている。中に感染者が居ないとは限らないので、静かに3人は歩き食料を見ている。
「やはり食料の多くは買い占められていたり、取られたりしているな」
「とにかく食べれそうな物を探そう。俺は倉庫の方に行く」
そう言うと雅宗は普段入れない店員が行き来する倉庫の中に入って行った。
「ここも大分荒らされているな……」
ここも暗くなっており、段ボールの山が崩れ落ちていて、箱から飛び出ているスナック菓子系の食料などが散らかされている。
雅宗はそのスナック菓子を集めてリュックサックに入れ始めた。
「少しはあるようだな……ん?」
奥を目を凝らして覗くと、食い荒らされたペットボトルやお菓子の袋のゴミが何個も散らかっている。
更に一本のペットボトルが奥から足元に転がってきた。
「……誰かいるのか?」
小声で言い、ゆっくりと奥へと進む。近づくにつれて木刀を握る力も段々と強くなっていく。すると奥から段ボールが崩れ落ちる音が聞こえた。それと同時に男の悲鳴が聞こえて来た。
「うわぁぁぁ‼︎」
「だ、誰だぁ‼︎」
木刀を構え、いつでも戦えるように構えて進むと段ボールの崩れ落ちた山の中から1人の男が現れた。
「い……いってぇ……」
それはスケッチブックを持った眼鏡を掛けている青年だった。雅宗は思わず口から言葉が出てしまった。
「だ、誰だ……」
この時、午前8時24分……