2月27日 修学旅行6日目 午前7時2分
2月27日午前7時2分……
朝……明るくなる空。曇りの空の中小鳥のさえずりなどは一切聞こえず、寒風が葉をなびかせる音しか聞こえない。
見張りをしていた南先生と西河先生が、バスの中央通路に立つ。そして南先生が大声で呼びかける。
「みんな!!起きて!!もう7時よ!」
この声に大勢の生徒が起き上がる。雪菜は真っ青な顔をして物凄い汗を掻いていた。
「はぁ……はぁ……またあの夢が……」
あの時の事がまた夢に出て来たのだ。取り巻き達がゾンビに襲われた時の事を……
隣の列の席にいる綾音は心配そうに見ている。
「もう……こんな時間か……」
雅宗も背伸びをして起きる。南先生は後ろの席を見てある事に気付いた。
「あれ?伸二君、里彦君、蒼一郎君ちゃんと寝れた?すごい眠そうな顔をしてるけど?」
「いえ、大丈夫です……」
3人は目の下にクマが出来て、こぞって由弘を睨んだ。由弘に殺気のような感覚が周りから襲いかかる。なんか睨まれてるような……そう思う由弘だった。
「ふわぁ〜顔洗いたい……髪整えたい〜」
髪がボッサボサになった優佳が愚痴をこぼす。雅宗がツッコミをいれる。
「雪に顔を突っ込んでろ」
「レディにそんな事言う⁉︎」
スッっと優佳の後ろからブラシと手鏡を渡される。
「えっ?」
「貸してあげる……後で返してね……」
それは真沙美だった。ブラシを押し付けるように渡す。
「あっ……ありがとう……」
申し訳なさそうにブラシを貰う優佳。そして各自それぞれの朝の支度をする。里彦と伸二は先生の許可を貰い、念の為武器の支柱を片手に外に出た。里彦は思いっきり背伸びする。
「ふぅ〜!気持ちいい!!」
「天気が晴れならもっと気分がいいんだけどね……」
「そんな事言うなよ伸二。晴れであろうと曇りだろうと気持ちよければそれでいいんだよ……ってうわっ⁉︎」
街の方角を向いた里彦は何かに驚き、大声で叫んだ。
「どうした⁉︎里彦⁉︎」
雅宗達も一斉に窓を開けた。
「ま、街が……」
里彦の目に映るものとは……昨晩のデパートがある霧島市から何ヶ所も煙が上がっている。
「昨日は夜だったから分からなかったけど……もう街がこんな事になっていなるなんて……」
伸二の恐怖に震える声。唖然とする生徒達。数日前まで、街は明るく人々により賑わっていたのに一日でここまで崩壊する。
「……」
里彦はそのまま黙ってバスに戻った。
「ま、待ってくれよ」
伸二も怯えるようにバスに戻った。雅宗は心配そうに話し掛ける。
「大丈夫か、里彦?」
「あぁ……ムカつくくらい良く目が覚めたよ」
そう言うと静かに席に戻った。
優佳は真沙美に貸してもらったブラシと手鏡で髪を整える。
由弘も外へ出てバスの周りを小走りで走っている。雅宗がその光景をぼけ〜っと見ている。
「朝練気分か由弘」
「バスの中じゃ身体が鈍っちまう。また襲われた時に身体が動かなかったら大変だからな。お前も走れよ雅宗」
「ふ〜ん。俺はパス」
10分後、優佳は真沙美にブラシと手鏡を返した。
「ありがとう。貸してくれて」
「いいのよ、それくらい」
返してもらったブラシで真沙美も自分の髪を整え始めた。雅宗はそれを遠目で見ている。
「どこを見てるのかなぁ?雅宗君よ〜」
「ゆ、幸久⁉︎い、いや外に何か怪しいものはいないかと!」
「ならいいけどねぇ〜」
幸久がニヤニヤと雅宗に問い詰めるとびっくりした様子で言う。そして幸久はニヤニヤしながら立ち去った。
伸二は、スマホで九州の各県の状況を調べている。
「他の県も食料難か……」
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宮崎県宮崎市の住宅地のとある家の2階。
電気を消した暗く狭い部屋で太った男がパソコンでネットのFPSゲームをしている。
「これで終わりっーーだぁ!!ヒャッホーーウ!」
男がゲームしてる後ろでドアを叩く音が……
「ヒロ君!ご飯よ!」
男の母親が置いたのは食事が置かれたお盆。男はドアを半分開けご飯を確認する。茶碗半分のご飯と茶碗半分の味噌汁、そして昨日の残り物の煮物が少々。確認した瞬間、ドアを思いっきり殴った。
「おい!ご飯が少ねぇぞ!」
「仕方ないでしょ!!食料が不足してるんだから!!文句は政府に言って!!」
「クソッ!!」
お盆を持ちドアを思いっきり閉めて椅子に座り込む。
「ちっ!何が感染者だ!俺の食事を減らしやがって!感染者を生み出した佐部首相のせいだ!ネットに書き込んでやる!」
食事をしながらチャットサイトで書き込みを入れる。
すると下の部屋から……
「きゃーーー!!」
叫び声が聞こえキーボードを触る手が止まった。
「うるさいぞ!!」
部屋を出て、下の階を覗くと男の母親が血まみれで倒れていた。血は玄関のドアに続くように落ちている。玄関ドアは開きっぱなしだ。
「ひっ……!」
それを見た男はすぐさま部屋に戻り、鍵を閉めた。
「な、なんなんだ……一体……」
すると外からも悲鳴が聞こえてきた。恐る恐る窓のカーテンを開けると、ゾンビ達が街の住人達を襲いかかってる光景が広がった。
「あ、あぁ……」
その中に先程倒れていた血塗れの母親も人に飛び掛かっていた。
「は……はは……ははは!でも俺は死なんぞ!この部屋なら!!はっーはっはっは!!」
家に響き渡る男の笑い声、そして男の家に集まってくるゾンビ達。集まって来たのは男のいる2階だった。それでも男は笑い続けた。狂ったように……
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熊本県熊本市……
熊本駅前はいつもならサラリーマンや学生の通勤で賑わっているのだが人は全く歩いておらず、食料が売ってる店は全て完売の文字のシールが貼られてシャッターが閉まっている。
電車もバスも全て運行停止中……まるでゴーストタウンのような静けさである。
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福岡県の福岡空港……
昨日から大勢の人が福岡空港で立ち往生している。旅行で来た人、海外から来た人なども巻き込まれている。もちろん飛行機は運行停止だがそれでも抗議をする人が後を絶たない。
「飛行機に乗せろ!!」
「見殺しにする気か!!」
「せめて子供だけでも乗せてあげて!!」
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福岡県博多港……
静まり帰った博多港……死体と池が出来るほどの血で地面が染まっている。福岡市内も一夜にしてゾンビ達により壊滅した。
「たっ……助けてくれぇ!!」
1人の若い青年が街を走っている。事故った車や火事があちこちで起きている街中を走り抜けて行く。
後ろからは無数のゾンビが追いかけてくる。
「か、鹿児島だけじゃ……なかったのか……」
青年は路地裏に入り、ゾンビ達から身を隠した。
「はぁ……政府の発表と全然違うじゃないか……」
疲れ果てた青年は壁に手をつきながら奥に入って行くと、突如ビルの上から何か小動物が首に襲いかかって来た。
「うわっ!!」
首を噛みつかれ、思わず倒れてしまった。更にビルから数匹の小動物が襲いかかって来た。
「な!なんだ⁉︎ね、ネズミ⁉︎」
青年を襲って来たのはなんの変哲もないネズミだった。
「や、やめろ!!誰か助けてくれぇぇ!!」
ネズミに首筋を噛まれ、血が流れ始めた。青年は抵抗するが体のあちこちを噛まれ、青年は静かになった。体は至る所に噛まれた穴があり、無惨にもボロボロに食いちぎられた。
街のゾンビ達は、あるところへ一斉に向かって行った。それは近くにある福岡空港である……
この時、午前7時29分……