修学旅行5日目 午後7時57分
午後7時57分……
隔離地方発表が広まり人々はデパートに食料の調達に集まって来た。だが暴徒の如く奪い合いが始まり、由弘達が巻き込まれた。そこに雅宗達が助けに入り難を逃れた。食料や日用品、武器などを手に入れバスでデパートを後にする。そして霧島山の高千穂峰へと向かいそこで一晩を過ごす事となった……
バスは山へ向かう為、北上している。バスの中は静かで誰も口を開こうとはしない。デパートで見た光景、奪い合いする人間。自分達に刃を向けて来た人。恐れていたのはゾンビだけではなく、人間もまた恐ろしい事を雅宗達は知る事となった。
雅宗は1人席に座り、あの時の事を思い出していた。バスに乗る時、自分達に攻撃をして来た男性の事を。本気の顔だった、あの男性は本気で自分達の食料などを奪う気だった……それが頭をよぎる……
優佳は相変わらず落ち込んでいる。すると電話が一本掛かる。優佳はすぐさま電話に出た、
「あっ……もしもし!ママ⁉︎パパは⁉︎うん……大丈夫!よかった……」
優佳は安心した顔で電話を切り、思いっきり息を吐く。雅宗は恐る恐る聞く。
「どうしたんだ……」
「パパとママ2人とも船に乗れて大丈夫だったみたい……でも私は……」
すると雅宗は力強く優佳に言う。
「元気よくする!楽しくする!そうすればお前の親も心配しなくても済むんだ!元気がある事が今一番に大事なんだ!!」
「うん……そうだね!私元気になる!!太っちょ君!これ返す!」
「えっ?」
携帯充電器を投げるように伸二に返す。
「僕は太っちょ君じゃなくて伸二だよ!!」
「太っちょ君の方が愛嬌あると思うんだけどなぁ〜」
バス内は笑顔が戻り賑わいを見せ、そのまま高千穂峰へと向かう。
そして約1時間後……
バスは人里離れた街を抜け、木や草が生い茂る高千穂峰の森の山道を走る。そして道の端の空き地に止まる。バスの運転手は後ろを振り向き言う。
「到着しました。この道なら夜はあまり車は通らないはずです。それに山の中ですから感染者も中々来れないはずです」
「ありがとうございます……」
そして南先生が前に立ち、食料を説明する。
「食料も水も限られているわ。この人数なら1週間持たない」
「1週間分なら別に大丈夫じゃないですか?」
「九州を1週間で出られる確証はないわ。最悪な事態も備えてなるべく節約して食べるわよ」
そうして生徒、先生、運転手1人ずつに缶詰1個とカンパン2個ほどが配られた。缶詰は魚や肉の煮物が多い。これに真っ先に怒ったのは雪菜だった。
「流石に少な過ぎるだろ!節約と言えどこれはやりすぎだ!」
「これも生きる為よ、我慢して」
「ちっ……」
「今は食べる物があるだけマシだ。食料が無くなったらそれこそ終わりだ。じっくり味わおうぜ」
幸久の言葉に、雪菜は無言で食うしかなかった。他の生徒も黙々と食った。優佳以外は
「あったかいの食べたいな……コーンスープ飲みたいな……」
「水は貴重なんだから我慢しようぜ。この地獄が終わったらいっぱい飲もうぜ!」
雅宗に励まされ優佳も黙々と食べた。水やお茶は200ml入るくらいの小さなコップに半分ほど入れて飲む事にした。2Lの水は4本、お茶は2本。バスには運転手を含め16人いる。だからなるべく節約しなければいけない。
「体力を使わない為に早く寝ましょう」
「今何時ですか……?」
真沙美の質問に南先生は腕時計を見る。
「もう10時くらいね」
「まだ10時じゃないですか⁉︎」
優佳が目を丸くして言う。
「貴方達には早いかもしれないけど、教頭を見なさい」
みんなが一番前の席にいる教頭を見ると、教頭はぐっすりと寝ていた。
「……とりあえず体力の為にも早く寝ましょう……」
「もし寝てる間にゾンビが来たら……」
由美の不安そうな声に幸久が答える。
「なら見張りを立てるのはどうだ?2・3人組で交代交代で」
「なら男子生徒と我々教師達で見張りをするのはどうだ?」
西河先生の案に南先生もうなづく。だが雅宗が疑問視する。
「女子生徒はいいのか?」
「あぁ……体力的に無理だ。男子生徒なら大丈夫だろう」
「だろう……って……」
その後先生達は男子生徒達と話し合い、最初に雅宗と幸久、由弘と龍樹、蒼一郎と里彦と伸二、そして南先生と西河先生の順で見張りを2時間交代で行くようだ。外は寒く、暗く危ないのでバス内から外を監視する形で行く。
「何時頃までしますか?」
「空が明るくなるまでね……7時頃かな」
「分かりました」
その話し合いの裏で優佳が騒いでいる。
「お風呂入りたい〜髪洗いたい〜お腹減った〜」
「うるさい〜!」
うるさい優佳に真沙美も頭も抱える。
「もうすぐで車のエンジン切るわよ」
「えっ⁉︎もう切るの⁉︎」
「もちろんよ。燃料の無駄遣いは出来ないわ」
「そんな〜」
幸久は買い物袋から2個懐中電灯をだしそのうちの一つを雅宗に渡した。
「懐中電灯?」
「あぁ、これも節約の為何か怪しいのを見つけた時だけ付けて確認するぞ」
「分かった」
そして南先生は最後の確認をする。
「もうエンジン切って大丈夫?」
「最後に質問いいですか!」
里彦が手をあげる。
「何?」
「明日の行動予定とかは?」
「下手に動くのは危険だわ。政府から何か発表があるまで待機よ」
「マジですか……」
「じゃもう切るわね」
そして車のエンジンは切り、バスは真っ暗になる。
「俺達は見張りをするか」
「そうだな」
外は寒い風が吹き荒れ、エンジンを切ったバスの中はものの数分で寒くなる。雅宗と幸久は2人で別々の列の席に座り、外を見張る。電灯もなく真っ暗の外はいつもとは違う不気味さが漂う。
この時、午後10時15分……
そして時は流れ午後11時30分……




