修学旅行5日目 午後6時19分
午後6時19分……
安全と言われた志布志港はゾンビ達の襲撃により壊滅した。国民を運ぶ輸送艦とフェリーとヘリは撤退、自衛隊や警察もほぼ全滅。市内の検査を求めて来た人々の多くもゾンビ達の餌食になった。雅宗達6号車バスは、先に出たバス達の安否も分からずに志布志市内から逃げる事になった。
雅宗達は志布志市内を抜け、ゾンビ達の群れから逃げ切った。だが優佳は家族に会えず、期待していた検査も受ける事が出来なかった。バスの中は再び暗い空気になった。そんな中、龍樹があくびをしながら言う。
「これからどうするつもりだ?志布志港は全滅して、ゾンビまみれ」
誰も答える事が出来なかった。だが、幸久だけは答えた。
「今は安全の確保をするしかない。とにかく食料の調達しよう……」
「この近くで食料の調達が出来るのか?」
するとバスの運転手が運転しながら言う。
「この先を結構進むと大型デパートがあるはずです。食料や生活用品もいっぱい売ってます」
「なら、そこに行きましょう‼︎」
そこに西河先生達も話に加わる。南先生は先に出発したバスに連絡をしている。
「勝手に決めちゃダメだ!」
「今はみんなの体力の回復が必要です!昨日からの疲れで士気も落ちています。それにいつ体が悪くなるか分かりません!」
「……」
「私も食料の調達に賛成だ……」
前から弱々しい声が聞こえた。それは顔面真っ青の教頭だった。初めてゾンビ達を間近で見てトラウマになったように驚いている。
「教頭……?」
「私も腹が減ったと言ってるんだ!」
「落ち着いて下さい。教頭」
色々な事が積み重なり、イライラが爆発した教頭。生徒達はただ黙っているだけだった。すると南先生が大声で言う。
「バスと連絡つきました!どうやら船に乗れたようです!」
「乗れた⁉︎」
先に出発したバスは無事に検査を終え、船に乗れたようだ。
「我々はどうします?県境の検査所へと行きますか?」
「今行くのは危険だわ。暗くなって来て動くのが結構制限されている……それに志布志港の事で政府の発表があるかもしれないし……」
「先生!!今、総理の緊急会見が!!」
里彦が大声で言っていてバス全員が伸二のスマホに注目する。
佐部総理が卓上に上がり、深く礼をする。そしてマイクを向け言い放つ。
「先程志布志港の検査所は感染者の襲撃により、陥落しました。幸い自衛隊や警察の迅速な対応で輸送艦やフェリー、ヘリコプターに乗車した市民が助かりました。ですが……大勢の市民が感染者の襲撃により、命を落としました……我々政府が至らないばかりに、この様な事が起きました……」
佐部総理は再び深く礼をし、会見を続ける。
「そして感染者の目撃情報や被害情報が宮崎県や熊本県にも拡大しました。これにより、政府は九州地方全域を緊急隔離地方と指定します。九州地方全域の電車・新幹線・飛行機・船などの公共交通機関の停止及び九州地方からの出入りを禁じます」
「まさか俺達をこの地方に置き去りにするつもりか!!」
「なるべく外出は控え、政府の指示に従って行動して下さい。そして落ち着いた行動を取ってください。物資や食料などは自衛隊が供給します。なので事が収まるまで外出は控えて下さい……もし感染者に出会った場合はすぐに安全な所に逃げて下さい」
そう言うと総理は深々と頭を下げ、会場を後にした。
「九州全域から出られない……だと……」
すると幸久が鬼のような顔で運転手に叫ぶ。
「急いでデパートに向かって下さい!!早く!!」
「どうしたんだ幸久⁉︎」
「ただでさえデパートに人が押し寄せている。このニュースで更に人が押し寄せる……物資や食料が底を尽きる。昔もあっただろ……大雪でスーパーやコンビニの食料が底をついた事が……」
「あぁ……」
幸久達が中学生の頃、北海道では近年稀に見る大雪で100cmを優に超える積雪があった。その時、大勢の人が物資の輸送が遅れる事を知って買いだめの為にスーパーやコンビニなどの食料を買った。そして何日もの間物資が届かなかった。その体験が幸久の頭をよぎった。
「それと同じで物資が届かない為に人が押し寄せるんだ。だから少しでも食料の調達をするんだ!!」
「分かったわ……ならまずは食料の確保をしましょう!」
バスはそのまま北上して約30分後、霧島市に到着。霧島市にある大型デパートの駐車場に入るが、車がびっしりと止めてある。生徒達は外をみて驚愕する。
「なんて車の数だ……」
「みんな考える事は一緒みたいだな」
駐車場の端に何とか止める事が出来た。デパートまでは100m近く離れた場所になった。
「運転手さん以外にも何人かは残って貰いたい。誰か残ってくれるか?」
「私は残ろう」
手を挙げたのは教頭だった。
「あたしも残る」
「私も……」
雪菜と優佳も残る事になった。
「俺も残ろう。男子1人くらいいた方がいいだろう」
それは蒼一郎だった。
「何か外に異変があったらすぐに連絡してくれ」
「分かった……」
「金とかはどうするんだ?」
「今あるお金で買うしかないな……」
全員からお金を出し合い、残りの生徒と先生達全員でデパートへと向かった。雅宗は木刀を隠し持った。その道中幸久と南先生は相談をしていた。
「とりあえず食料と生活物資が欲しいな。二手に別れよう」
「女子生徒は私と共に食料売り場に行くわよ」
「なら由弘もそっちに行くんだな」
龍樹も話に混ざって来た。
「なんで俺が?」
「念のためだ」
「……分かった……」
龍樹の考えている事は分からないが、由弘には何か分かったようだ。食料担当は、南先生、綾音、真沙美、由美、由弘の5人となった。
「なら男子生徒は先生と一緒に行くぞ」
「少し貸してもらうぜ。来い」
「え?俺?」
龍樹は雅宗と里彦を何処かへと連れて行った。西河先生は龍樹の行動に頭を抱えた。
「あいつは何を考えているんだ⁉︎」
「奴なりに考えがあるんでしょう……」
「と、とりあえず簡単な生活用品を探そう」
生活物資担当は、西河先生、幸久、伸二の3人となった。そして龍樹に連れてかれた雅宗と里彦は……デパート2階の100円ショップへやって来た。龍樹について行く雅宗は恐る恐る龍樹に聞いた。
「1つ聞いていいか……」
「何だ」
「何を買う気なんだ?」
すると龍樹は後ろを振り向き言った、
「武器だ」
「ぶ、武器ぃ⁉︎」
いきなりの武器発言に驚く里彦と雅宗。だが龍樹は真面目な顔で言っている。里彦も思わず質問した。
「武器って何の為に……」
「当たり前だ。戦う為だ、あのゾンビ共と……」
「でも何故100円ショップに……」
「簡単に強い武器が作れる。それに色々な面白いものがいっぱいあるからな。それに敵はゾンビだけではない……」
「どうゆう事だ?」
「人間だ……」
「人間?」
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その頃、南先生達食料担当は食料売り場を探るが、人は大勢いて動くのも大変だ。そしてパンや惣菜などは全て売り切れ、調理済み野菜や菓子もかなり売れており、探すのが困難だ。ショッピングカートを動かしながら、食料コーナーを探す。
「食料が限られてるわね……とにかく長持ちする物を買うわよ」
「パン類などはもう売り切れてますね……」
「最低限、水・缶詰・菓子あたりは欲しいわね……」
女子生徒達は手分けして探す事にした。
「由弘君はカートを頼むわね」
「は、はい……」
南先生は由弘にカートを渡すと何処かへと探しに行った。
「何で俺がこんな事に……」
綾音と由美、真沙美は缶詰や菓子を探している。缶詰もかなりの数が売れている。
「みんなどれがいいんだろう?」
「なんでもいいから買いましょう!お金の事は後で考えればいいんだし!」
由美はあるものを適当にカゴに詰め込み20個以上詰め込んだ。そして保存食を何個も買った。
綾音も一人で菓子を選んでいる。主にスナック菓子や、クラッカーなどを選んでいる。
「これでいいかしら……」
由美の元に大袋のお菓子を何個か抱えて来た。とても苦しそうに持っている。真沙美達はすぐさま駆け寄る。
「綾音ちゃん⁉︎大丈夫⁉︎」
「うん……大丈夫!心配はかけないわ……」
お菓子に缶詰など多く集めカゴいっぱいになった。そこで南先生も合流した。カゴを2つ持って疲れ切っている。
「わ……私も何個か探して来たわよ!」
南先生の1つのカゴには2Lの水4本とお茶2本、もう一つはカップ麺が大量に入っている。
「カップ麺ですか⁉︎」
「西河先生達にガスコンロを頼むわ……」
それらを持ち全部を由弘のカートに乗せた。由弘も大きな袋の食べ物を持っていた。
「これなんかどうだ?」
由弘は四角形の形をしたラーメンを揚げたお菓子が10袋も入っている物だ。
「美味しいの……?」
「もちろん!安くて量も多くて最高だ。お湯を入れればラーメンにもなる」
女子生徒達は微妙な顔をするが由弘は嬉しそうに2袋も入れた。
そしてカートを会計所に行こうとすると、後ろから中年男3人が近寄って来る。3人共バットやゴルフクラブを握っている。
「おい!俺達にその水と食料を寄越せ!!」
「みんなは俺の後ろに下がれ」
由弘は女子生徒達を後ろに下がらせた。
「何故俺達を狙う!」
「俺達だって水や食料が欲しいんだ!!それがこの店で最後の水なんだ!!」
「何でこんな事に……」
周りを見ると人々が愚かにも物の取り合いをしている。人を殴り物を奪い、無力な老人から奪ったりとやりたい放題。床には商品が散乱し、そしてお金を払わずに泥棒をする者もいた。
「くっ……こいつら本気でやる気だ……」
「どうするの由弘君……」
「もし襲って来たら俺も対抗するしか……」
由弘達はこの状況から切り抜けられるのか?そして雅宗達は何をしているのか?
この時、午後7時30分……