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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第1章 九州脱出編

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修学旅行5日目 午後2時19分

 

 午後2時19分……


 雅宗達6号者一行は鹿児島市から志布志(しぶし)市内へとたどり着いた。


「……う、今どこだ……⁉︎」


 目を開けて驚く雅宗。隣の優佳が雅宗の肩に頭をもたれて軽く寝息を立てながら、スヤスヤと寝ていたのである。


「すぅ〜すぅ〜」


 無理に退かすのもアレなのでそのままでいた。すると前から南先生が振り向く。


「雅宗君起きた?」

「あっ、はい、今どこですか?」

「もう志布志市内に着いたわ、でも……」

「ん?」


 バス内からでも雅宗はあることに気づいた。バスが走っている感じが全くしないのだ。カーテンを軽く開け、外を覗くと異様な光景が広がっていた。


「うわっ⁉︎何だこれ⁉︎」


 雅宗達は志布志市内の道路にいるが、港側の道路はとんでもない渋滞を起こしている。窓から見ても、呆れるほどの数の車が港方向へと向かっているのだ。中には車を止め歩いて向かっている人も多くいる。それほどみんな焦っているのだ。


「この通りかなりの時間がかかるわ。でも志布志港は3カ所から入る事が出来るの。志布志港事務所側とその近くにある橋2つから。そこの前で自衛隊による検査があるの」

「検査?テントでするんじゃないですか?」

「まず怪我人や感染の可能性がある人を橋の前でするって事。感染の可能性がある人がそのまま来たら大変な事になるからね」


 まず乗り物を駐車場に止め、歩きで志布志港の3カ所の入り口で検査し、許可を貰った人は次にテントで検査をする。そこで許可を貰った人達は、港に止まっているフェリーか自衛隊のおおすみ型輸送艦に乗るか、大型輸送ヘリCH-47に乗って、本州へと行く事が出来る。

 だがかなりの時間が掛かるのだ。フェリーと輸送艦があるが送迎にも時間は掛かる。ヘリで収容できる人数も限られており、戻って来るのにも時間が掛かる。勿論検査も時間が掛かる。

 志布志市内では警察や自衛隊が総出動で車を各地の駐車場へと誘導を行なっている。


「とりあえず俺は二度寝します、腹減るし……」

「志布志港のテントで食事も配ってるから、そこまで頑張ろう!」

「はい、バスが駐車場に止まるまで待ちます」


 そう言うと雅宗は深い欠伸をし、再び眠りについた。


「もうすぐですね、西河先生」

「こんな悪夢ともうすぐで……」

「ゴールは目の前です‼︎頑張ましょう!」


 南先生と西河先生は2人で励ましあう。だが、西河先生は疑問に思ってる事がある。こんなに人が密集しているこの場所にもし感染者が現れたら、大パニックは確実。幸い町の中には大勢の自衛隊と警察の監視がある為対処は早いと思いたい。


 そして時は進み、午後5時46分。

外も暗くなり雪は更に強まり降り注いでいる。外の人々の寒さに震えながら歩く中、予想に反して検査は難航していた。あまりにも多くの人が押しかけ、検査用の道具も足りなくなって来た。まだ感染者達はこの町にはいないが町全体からはピリピリとした空気が流れている。


「雅宗‼︎起きろ‼︎雅宗‼︎」

「なんだよ……着いたのか……」


 体を揺らされ、目を開けると幸久が目の前にいた。それにバスの生徒達はみんな降りる用意をしていた。バスは志布志港から100m離れた志布志警察署に止める事が出来た。バスなどの大型車はここに止める事が許されたのだ。そこから1番左の橋の検査所へと向かう事になった。

 雅宗が目を擦ってる時、頭を軽く叩かれた。


「早く降りるわよ雅宗‼︎」


 それは優佳で親にもうすぐ会える事が嬉しいのかテンションが高くなっている。その後ろの真沙美は相変わらず優佳が気になるようだ。


「なんて馴れ馴れしい子なの……」

「真沙美、まさか嫉妬しているのぉ?」

「そんな事ないわよ‼︎」


 里彦と蒼一郎も準備しているが伸二は1人不安そうな顔をしている。

 

「どうしたんだ伸二?そんな浮かない顔して?」

「宮崎県にも感染者はいた……だけどここに居ないのはちょっとおかしいと思って……」

「なんでだ?」

「昨日の時点では鹿児島中央駅前が最初の目撃場所だけど他の場所だと一切話を聞かない……あの写真が投稿されたのは朝……だとしたらあまりにも感染速度が早すぎる。この場所もいつ感染者が来てもおかしくない……」

「……そんな怖い事言うなって‼︎もうすぐ帰れるんだからな‼︎」

「そ、そうだよね……帰れるよね、絶対に」


 伸二も用意を済ましてすぐさまバスを降りる。運転手も含めて全員降り、雪が降り注ぐ中雪道を歩き志布志港の橋へと向かう。


「寒いなぁ……」


 雅宗は赤いマフラーを巻き、白い息を放つ。そして空を見上げ昨日や朝の事を思う。多くの出来事を見て、悲しみ、そして助けた。だがもうすぐでこの地獄から去る事が出来る。雅宗達は歩き始める。

 雅宗達は人の波に入り橋の検査を待つ。だが、人が大勢並んでおり、見渡す限り人がいて時間がかかる事は確実に予測される。

その橋付近には小銃を持った自衛隊員が何人も立っている。そして橋前には小さなテントがあり、そこにも自衛隊や白衣の人が何人も軽い検査をしている。

 30分以上待ち、雅宗達も着々と橋に進み50mくらいに差し掛かった。


「寒いし、長いし、もうこんな所懲り懲りだ‼︎」

「そう言わずに、教頭……」


 怒り心頭の教頭を止める西河先生。


「ちっ、タバコが切れそうだな」


 タバコの箱を確認しながら、タバコをふかしながら歩く雪菜。切れそうなのか多少は機嫌が悪くなっていた。


「ふぅ〜」

「ゲホッ‼︎ゲホッ‼︎」


 ワザとらしく煙を綾音に吐く。思わず咳をする綾音。


「しつこいぞ‼︎お前‼︎」

「うるさいんだよ‼︎お前‼︎」


 また雪菜と蒼一郎が喧嘩をしそうになり、由弘と幸久が止めに入る。


「お前らは喧嘩をやめろ‼︎」


 教頭の愚痴、いじめ、喧嘩、こんな事ももうすぐ終わる。北海道に帰ればまたいつもの生活に戻れるかもしれない。多くの犠牲のもとに、雅宗はそう思っていた。そしてその事を真沙美に聞いた。


「真沙美……」

「……何?」

「帰れるよな……このまま行けば」

「うん、絶対に帰れるわよ」


 そのまま雅宗はゆっくりと真沙美の手を握ろうとした。すると


「キャァァァァ‼︎‼︎」


 パンッ‼︎パンッ‼︎


 志布志港から逆の方面にある、東の町方面から何発もの銃声と悲鳴が響き渡った。


「なんだ⁉︎今のは?銃声⁉︎」


 慌てふためき騒つく人々。一斉に背後を振り向いた。橋付近にいた小銃を持った自衛隊全員は銃を構えながら、その方面に急いで走って行った。


「まさか……そんな」


 伸二の不安は的中した。


「ぎゃぁぁぁ‼︎」


 20m以上離れている後ろの人達がいきなり感染者数体に襲われ、覆いかぶさられていた。そして別の場所でも感染者に警察が襲われており、町中から悲鳴がこだまする。人々は検査所から我先にと志布志港へと目指す。雅宗達が人ごみに押される中、西河先生が叫ぶ。


「みんなバスに戻るんだ‼︎船は諦めろ‼︎」

「何故です⁉︎」」

「今向かっても、もう船は出発する‼︎」

「嘘だろ……」


 西河先生の言う通り、感染者がこの町に現れた事を知った輸送艦とフェリー、ヘリはすぐさま入り口を閉じ、乗り遅れた大勢の国民や自衛隊や検査員などを置いて行き発進を始めた。


「人が密集し過ぎたせいだ……あまりにも多くの人が集まりすぎたから、感染者達もここに……」


 伸二の言葉は当たっていた。ここには何千人いや何万人もの人が集まっていた。感染者達もつられてここに集まって来たのだ。


「お父さん、お母さんが‼︎」」

「そんな事言ってる場合か‼︎早く来い‼︎」

「い、嫌〜‼︎お母さん‼︎お父さん‼︎」


 雅宗は優佳の手を無理やり引っ張り人混みから抜け出した。他の生徒達や先生も何とか人混みから抜け出す事が出来た。


「みんな早くバスに戻るよ‼︎」

「急ぐんだ‼︎走れ‼︎」


 先生達も焦りながら、生徒達を誘導する。


「あと少しだったのに……」

「さっき噛まれた人が……」


 由美と真沙美が見た方向はさっき噛まれた人が感染者に成り変わり他の人々を襲い始めたのだ。


「運転手さんも早く‼︎」

「は、はい‼︎」


 教頭は走りながら志布志港から離れていく船やヘリを見て嘆く。


「あぁ、天の助けが……潰えた……」


 志布志市内はパニックに陥り大勢の人々が去っていくヘリや船に向かい届かない声で嘆く。そして町の中も感染者達が押しかけ、大勢の人々が感染して行く。外は暗く雪も降り視界も足も制限されており、歩きも多く逃げる事が困難になっている為、感染者達には格好の餌食となる。白い雪が大量の血に染まった。

自衛隊員も銃で応戦するが身体を撃っても全くダメージを受けている様子がない。


「な、なんだこいつら……ぎゃぁぁぁ‼︎」


自衛隊員や警察は殆ど全滅し、志布志港や志布志市内はもう感染者によって制圧されたも同然だった。

雅宗はこの状況に昨日の時と同じくただ逃げる事しか出来なかった……


「クソォォォ‼︎‼︎」


 雅宗達は人がいない裏道を通りいち早くバスに乗り込んだ。そして西河先生が運転手に叫ぶ。


「早く出発をお願いします‼︎」

「は、はい‼︎」


 バスは勢いよく発進し、裏から脱出した。志布志港から離れた大通りに出て志布志市内から出ようと山側へと向かう。するとバスの後ろから思いもよらない光景が。


「な、なんだこの数は……」


 大勢の感染者が逃げる人々やこのバスを追いかけている。その数100体以上……この場所で噛まれた人もかなり含まれている。


「スピードをあげます‼︎皆さん‼︎しっかり掴まって下さい‼︎」


 運転手はスピードを上げ、感染者達から離れて行く。逃げる人々は何かを叫びながらバスに手を伸ばすが、全員感染者達に包み込まれるように捕食された。バスの中は明るかった空気から暗い空気に戻った。


「私の、家族が……」

「すまない、あれしか方法が無くて……」


 1人涙を流しながら俯く優佳。他の生徒達も下を向いて誰も外を見ようとはしなかった。バスはそのまま何処かへと向かって行く。


 この時午後6時19分……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 教頭と男性教師はフェリーで脱出してストーリーからいなくなってもよかったのかも?読み返しているんですが特に教頭はこの先も役割がなくてヘイト稼ぐだけです。さっさと退場させる方がエンタメ的に…
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