2月25日 修学旅行4日目 午後8時14分
2018年2月25日金曜日、時忠高校、2年D組、須藤雅宗
1日目、北海道から修学旅行で九州に来た。
福岡県から鹿児島県までを5日間の旅。
飛行機で福岡県まで行き、太宰府天満宮を観光した。友達の由弘らとおみくじを引いたら俺は凶が出た。由弘は大吉が出て、他の奴らも吉や中吉ばかりで、テンションが下がった。その後ホテルでご飯食べて寝た。
2日目、長崎県へと行き軍艦島を見に行った。上陸して間近で見たけど、とてもすごかった。海も綺麗で由弘や真沙美らと写真を何枚も撮った。グラバー園などを見てホテルでご飯食べ寝た。
3日目、長崎ペンギン水族館に行った。お土産にペンギンの小さな人形を買った。自由行動で色んな所へと行った。そしてホテルでご飯食べて寝た。
4日目、長崎から鹿児島まで行き、桜島を見たり、知覧特攻平和館で昔の話を聞いた。昔の人達の勇気や男気を感じた。そしてお土産を買ってホテルで寝た。明日で最後だ。
「これで今日の日記は終わりと……」
お世辞にも綺麗とは言えない字で、明らかに急いで書いたと思われる適当な内容──
そっとパンフレットを閉じ、そこには《時忠中学校 修学旅行パンフレット》と書かれている。
パンフレットの隅には須藤雅宗──汚くその名が記されていた。
畳が敷かれた部屋──部屋は小さな薄型テレビ。部屋の半分が畳、もう半分が絨毯を敷いており、ベットが2つ置いてある。
片方のベットは掛け布団がぐちゃぐちゃになっており、ファスナーが開きっぱなしでシャツやパンツが散らかっているバックが投げ置かれていた。
もう片方は全く乱れておらず、ベットの横にバックが置かれていた。
「書き終えたぁ~」
雅宗は体操着姿でベッドに飛び込み、子供のようにはしゃいだ。
学校のルールでホテル内では体操着で行動しろと言われている為である。
すると、雅宗を大きな影が覆った。
「おい雅宗!日記真面目に書いてるのか?」
ズン! と圧力を掛けるような面持ちで迫ったのは 片桐由弘──見て分かる通り、大柄で柔道部所属。
周りからはその強面な顔と図体から、厳ついと思われて、その事を深く気にしている。
でも、根はとても優しい奴。
「書かないと先生うるさいだろ!最後にチェックするって言ってたし。お前こそ書いてんのかよ」
「お、俺は帰りに書くつもりだ……一気に」
軽く動揺してる所を見ると多分、由弘は書かないだろう……そう雅宗思った。
雅宗はベッドから飛び起きて、ベランダから外を覗く。
真っ暗な空──街は煌びやかな光に包まれており、遠くの建物がジオラマのように小さく見え、人がアリのようにうろちょろ歩いてるのが見える。
街中は車の光や街の光が右往左往しており賑やかさがよく分かる。
2月だが、外は凍えるほど寒いが雪はあまりなく、影がある場所にちょこっと積もっている程度だ。
息をするとタバコの煙のように白い息が出て、身体がブルっと震える。
「鹿児島とは言え、さっむいなぁ」
「まだ二月だからな」
ここは鹿児島市西千石町。
ホテルの2km先には海と鹿児島港もあり、ここからは鹿児島中央駅が見える。
雅宗がいるのは、エターナルホテル。加治屋町の大通りのすぐ側にある全10階もある大きなホテルである。
彼らの部屋は8階の809部屋──避難経路は確認済みだ。
「真沙美とは行かないのか? 町の探索に?」
「真沙美は由美と幸久らと、ホテルの屋上の景色を見るって言ってたからいいってさ」
そう言ってムスッとした顔になった雅宗は綺麗な方のベッドを見つめた。
そしてピョンっとジャンプして、ベッドをトランポリンのように飛び跳ねた。
「そこは幸久のだろ!」
由弘は声を上げるが雅宗は気にせずに飛び跳ね続けた。
「女と現を抜かす野郎は放っておいて、二人で駅前に行こうぜ!」
「電話すれば来るだろ」
「幸久呼んだら──いや、なんでもない!」
雅宗はボソッと呟くと、気を取り直したように、グチャっとなったベッドから飛び降りた。
気分が気分を変えてテンション高そうに制服に着替え始めた。
由弘は絶対真沙美と何かあったに違いねえなと、分かったが本人がこれで良いのならと、敢えて何も言わなかった。
由弘も着替え終えて、二人はマフラーを巻き、そそくさとホテルから出た。
ベランダから見るよりも外は肌寒く、全身に風がぶち当たる。
雅宗は一度、屋上を見上げて、由弘と共に駅前へと駆けた──
この時、午後8時14分……
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「ここからの景色は最高らしいよぉ〜」
「本当にぃ〜?」
ホテルの屋上──そこからはいい景色が見れると評判だとネットに書いてあった。
お揃いの赤いマフラーを巻いた制服姿のポニーテールの女子とショートヘアの女子が楽しそうに喋りながらエレベーターで屋上へと向かう。
「雅宗も誘えば良かったのに」
「良いのよ、雅宗は景色とか興味ない奴だから」
ショートヘアの子が白崎由美。
ポニーテールの方が雅宗が話していた赤羽真沙美。
そうこう話している間に屋上に到着し、2人はエレベーターから降りた。
屋上には制服を着た生徒達がちらほらいる。みんな厚着をしているが、全員冬の寒さで白い息を吐きながら肩を震わせている。
「でも、雅宗の事、本当は呼びたかったでしょ」
「呼びたくありません!」
真沙美が頬を膨らませてムスッとした顔を、由美は口角を上げてほくそ笑だ
「まだあの事怒ってるのぉ?」
「怒ってません!」
「なら、良いんだけどねぇ~」
由美も大方二人に何があったのかは分かっている。
そして柵に手をついている男子を見て由美が大声を上げた。
「幸久!!」
真沙美が手を振ると、とても綺麗な顔をした爽やかな男子がこちらを向いた。
彼は中村幸久──雅宗達のクラスの学級長であり、この修学旅行の委員長を務めている。
「幸久君は雅宗とは一緒じゃないんだ」
真沙美が顔を逸らして言うと、幸久は事情を理解しているのか気まずそうになった。
「あ……あぁ、俺は由美に呼ばれてな」
「そ……そう」
より、真沙美の顔がムスッとなった。
これ以上は空気が悪くなると、幸久は咄嗟に街の外を指して言う。
「それより、この光景見ろよ!」
「うわぁ〜綺麗〜」
2人は柵の向こうを覗くと繁華街の付近が見え、色んな色の光が街を綺麗に彩っている。
そして駅前には人が大勢歩いてるのも見える。話している人や帰りのサラリーマンと普段の生活通りの光景だ。その中に真沙美達の高校の制服を着た生徒達もちらほら歩いている。
それを見て由美は言う。
「あの中にも雅宗達いるのかな?」
「まっ……あいつらなら、すぐ分かるさ。アレを買うって言っていたからな」
「あれって?」
幸久がいうアレに疑問を持つ真沙美と由美。
そのアレとは──
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その頃、雅宗達は──
由弘と共にお土産屋を散策している途中だ。
「幸久め──後でこれでしばいてやる!」
雅宗は1メートルほどの小さな木刀を持ち、それを自分の肩にポンポンと軽く叩きながら歩いている。それと小さな白い袋を持っている。
「なんで木刀買ってんだよ?喧嘩する気か?」
「俺は喧嘩なんて出来ないって‼︎かっこいいからに決まってからだろ‼︎定番定番‼︎それに弟にもこの小型木刀キーホルダーをプレゼントする‼︎」
「……飛行機に乗る時に引っかかっても知らんぞ」
笑いながら小ちゃな小型木刀キーホルダーを見せびらかす。
いつまで小学生気分なんだよと、呆れて手を頭につける由弘。
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道から外れた狭く暗い路地裏。上着のボタンを全部外した綺麗なイケメン顔の時忠高校の男子生徒が1人で、4・5人ほどの他校の生徒と素手で喧嘩をしていた。相手も柄の悪そうな格好だが、勝敗は時忠高の圧勝で、相手の鉄のパイプを持っていた生徒達は鼻から血を出していたり、腹を抑えて横たわっているなど、圧勝したのが丸わかりな結果だ。
「ちっ……弱い奴ら……」
男子生徒は痰を地面に吐き、その場から立ち去って行った。
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ホテル7階の女子部屋705……
女子4人ほどが、1人のメガネの女子に目掛けて旅行バックを投げつけてた。この女の子の名前は望月綾音。背丈もE組のクラスで1番小さく気弱な性格がいじめの対象になった。
「い、痛い!やめて!!」
「うるせぇんだよ!お前は黙って押入れの中に入ってな!」
リーダーらしき見た目は可愛らしい金髪の女子が言う。この女子生徒は薪雪菜。時忠高の女子の中でもかなりの問題児である。取り巻きは真矢、沙里奈、遥子で3人とも茶髪でこの3人も問題児である。
取り巻き3人は雪菜の指示に従い、綾音を押入れの中に無理やり押し込んだ。そしてカバンの中から伸縮自由な棒を取り出して、棒の長さを調節し押入れの引き戸の間へと挟んだ。綾音は必死に叩いたり、引き戸を動かすがビクともしない。
「あたし達が帰って来るまでそうしてな!万が一外に出て先生に言ってみな。その時は顔面を殴る!」
そう言うと笑いながら取り巻き3人と共に出掛けて行った。
そして綾音は1人シクシクと泣いていた。だがその声は誰にも届かないのであった。
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ホテル8階、男子部屋806
「お前は行かなくて良いのか?伸二」
男子生徒2人が、横たわってテレビを見ながら、スマホでゲームをしていて、ポッチャリしてる少年に喋りかける。彼が勝岡伸二だ。頭は学年中でもトップクラスであるがネットやアプリやSNS中毒者である。
「僕はいいや。寒いしここでテレビ見てるから。2人で行っていいよ」
「分かった!何か欲しいもんあったら教えてくれよ!」
「OK〜」
横たわったまま、振り向かずに適当に返事をする伸二。それに納得し、出かける2人の男子生徒。
「あ〜スタミナ無くなっちゃった……ツイッター見よー」
ツイッターをスライドして行くと、最近のアニメのイラストやゲームの情報などが表示されている。それを見ながら時間を潰す伸二だった。
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ホテルの玄関、先生3人が生徒に名前を書かせてから玄関から出るのを許可している。
1人はショートヘアの若い女性教師、1人はメガネを掛けた見た目は若い平凡男性教師、もう1人は中年のポッチャリ男性教師。女性教師の南先生は玄関の外で寒さで肩を摩りながらみんなの帰りを心配している。
「みんなちゃんと帰って来るでしょうか?」
「大丈夫ですよ南先生。昨日の自由行動の時だってみんな帰ってきたじゃありませんか」
メガネをかけた教師西河先生は、大丈夫だと南先生を安心させようとする。だが横槍を入れるように太った白髪の中年教師、明石先生が言う。
「ワシはあの鷲田龍樹がまた何か問題を起こさないかが心配ですよ……昨日自由行動の時も他校と喧嘩してたって聞いて……」
「不安ですね……」
3人は一斉にため息を吐く。
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再びホテル屋上。幸久は街の景色見て言い放つ。
「最高の景色だ……」
「ええ……」
幸久に合わせるように言う由美。真沙美は何処かしら悲しそうな目で景色を眺める。
「本当に……綺麗ね……」
この日、大勢の生徒が思った。
最高の修学旅行だと……
修学旅行は明日で終わり、家へと帰り、家族に会い、またいつも通りの学校生活に戻る。
誰しもがそう思った。お土産を買う者、景色に酔いしれる者、喧嘩する者、いじめる者、いじめられる者、部屋で寝転がる者、生徒の帰りを待つ者、皆同じ事を考えているだろう。
そしてこの修学旅行日記を書くのも明日で終わり……だと……
ドガッ!!
突如何か硬い鉄にぶつかる鈍い音が駅周辺に響き渡る。
「なんだあれ?」
その音は屋上にいる小さくだが幸久にも聞こえ、不思議そうに言いながら、遠くの方角を目を細めて見る。
「どうしたの?」
「あそこだ」
由美が心配そうに言うと幸久が指す方向は鹿児島中央駅前。そこから黒い煙が燃え上がっているのが見えた。
この時、午後8時36分……




