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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第1章 九州脱出編
19/124

修学旅行5日目 午前11時50分

 

 午前11時50分……


 生徒達は12時のバス到着に備えていた。教頭達は


 809号室の雅宗達も準備をしていた。幸久が雅宗達の部屋へと来た。その顔はいつもの優しく笑っている幸久だった。


「雅宗、由弘、携帯の充電は大丈夫か?」

「幸久?大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫だ。凹んでいてもしょうがない。秀丸の為にも生きていくんだ。それより充電は大丈夫か?」

「充電?あぁ大丈夫だが」

「今は災害と同じだ。いつでも連絡を取れるようにしておくんだ」

「あぁ、分かった‼︎」


雅宗と由弘は幸久が無理しているのは分かっている。だが、幸久の真っ直ぐな心と目に快く返事した。


「それとまた作戦があるけど……いいか」

「?」


 ーーーーーーーーーーーー


 806号室……


 伸二と里彦、そして蒼一郎も共に準備している。


「やっとこのホテルから出られるのか……」

「うん、そうだね」


 2人が話している隣で蒼一郎は黙々と準備をしている。そして里彦は1つ気になる事があった。


「そういえば気になる事があるんだが……」

「なに?」

「どうやってこのホテルから脱出するんだ?」

「えっ?」



 ーーーーーーーーーーーー


 7階……712号室


 真沙美と由美も準備を終えた所だ。


「由美、準備終わった?」

「うん……」


 やはり幸久の事で、まだ頭にモヤモヤが残っている由美。


「あっ‼︎そうだ、あの子の部屋に行こう!」


 真沙美は由美の手を引っ張り706号室へと移動した。そこには綾音が1人で黙々と荷物をバックに仕舞っていた。


「貴方が綾音ちゃん?」


 真沙美は笑顔で話し掛ける。


「う、うん……」

「私達も手伝おうか?」

「あ、ありがとう……」


 綾音はモジモジしながらも答えて、真沙美は由美と共に綾音の荷物を仕舞うのを手伝う事にした。


 ーーーーーーーーーーーー


 8階廊下、12時


 外にはバスが待機しており、教頭を含む先生達5名と男子生徒達が体育座りで教頭の話を聞いている。


「今から外に待機しているバスに乗る‼︎絶対に離れるな‼︎」


 すると幸久が手を挙げ立ち上がる。


「教頭先生、外をご覧になったのですか?バスの周りには感染者がうろついており、非常階段1階は感染者が溢れています。どうやってバスに辿り着く気ですか?」

「君達がやった様にまたやれば良いんじゃないかな?」


 教頭の軽く言う感じに幸久は怒りの表情になる。


「簡単に言うな‼︎それをしたおかげで仲間が死んだんだぞ‼︎」


 そこに雅宗が割り込んで来た。


「あいつと言い合ってもしょうがないだろ。さっきの作戦通りに行くぞ」

「……そうだな」


幸久は全員に呼びかけた。


「みんな‼︎これから作戦を伝える‼︎」


すると教頭がトボけた顔で言う。


「なんだ?やっぱり作戦があるじゃないか」

「あんたを試してみたが無駄だったよ‼︎聞いただけで意味はなかったんだよ‼︎」


他の先生達は昨日の光吉先生の凄惨な光景見てから、怯えて威厳がなくなっていた。だから、幸久達生徒が率先して動くこととなった。


 ーーーーーーーーーーーー


 ホテルの玄関前には大型バスが6台到着していた。だがバスの周りは感染者に囲まれている。今からその感染者を退かしつつ、大勢いる生徒をバスに乗せる。1班2班と合計5・6班程に分けてバスに乗せる事になった。

 無能で無計画な教頭のせいで再び雅宗達は命がけの作戦に挑む事になった。幸久は秀丸の事で、考えが慎重になっている。


「俺が外に出て囮になる。その間にバスに乗り込むんだ。後は任せたぞ……」

「お、おい‼︎幸久待て‼︎」


 幸久は里彦がコンビニから拾ってきたモップを持ち、非常階段の3階から走って行く。


「これで少しでもみんなが助かれば……」


 そのまま階段を降り、1階のロビーを感染者がいる中、足を止める事なく駆け巡る。


「おらおら‼︎付いてきやがれ‼︎」


 感染者達も幸久の存在に気付き、追いかけ始めた。幸久の目の前にも感染者が居たがモップの先端で頭を一直線に貫いた。


「こんなもんか‼︎感染者共‼︎」


 幸久は玄関を飛び出て、バスを囲む感染者達も誘き寄せる為に、大声を出す。


「こっちを向きやがれ」


 バスを囲む感染者はもちろん、周りにいた感染者達も幸久目掛けて追いかけ始めた。幸久はすぐさまホテルの裏に移動した。すると……


「非常階段1階の感染者達が……」


 由弘が非常階段1階を見ると、先程まで大勢いた感染者達が幸久の声に引かれて、一斉に移動し始めた。


「今が好機だ‼︎みんな行くぞ‼︎」


 由弘と雅宗が先頭で、1階に降りバスが停めてある玄関前まで1班40人程を連れて移動する。雪で足元が不安定な中、生徒達は我先にと素早く移動し始めた。


「さぁ、慌てずに早く乗るんだ‼︎」


 1班の生徒と先生をバスに乗せた。


「バスを発進させて下さい!」


 雅宗の言葉に運転手は驚く。この少年達も乗れば行けるのに、救助優先に驚きを隠せなかった。


「君達はいいのかい⁉︎」

「俺達は違うバスで行きます‼︎だからすぐに出発を‼︎」


 そう言う雅宗の真剣で熱い眼差しが運転手の目を貫く様に感じた。


「君達の無事を祈る……」

「ありがとうございます……」


 そう言って運転手は雅宗達に一礼しバスを発進させた。


「次2班……」


 2班を呼び込もうとした時、別の場所から感染者1体がこちらに近づいて来た。雅宗は咄嗟にその感染者に向かって雪を投げた。


「由弘‼︎ここは頼む‼︎」

「お、おい‼︎雅宗⁉︎何をするんだ‼︎」


 雅宗は感染者をここから引き離す為に、感染者を連れて何処かへと走って行った。


「雅宗……くっ、2班バスに急いで乗り込め‼︎」


 雅宗を助けに行きたい気持ちを抑え、2班を呼び込む。


 ーーーーーーーーーーーー


 その頃里彦と蒼一郎は非常階段1階で周りを確認し生徒達が安全に進める様に奮闘している。


「押さないで‼︎」

「ゆっくり進んでくれ‼︎」


 真沙美と由美も非常階段2階で途中途中で怖がっている生徒達を励ましている。


「大丈夫だからね‼︎」

「何も考えずに進みなさい‼︎」


 綾音も3階で小さい声だが一生懸命、生徒達を励ましていた。


「綾音ちゃんも早くバスに‼︎」

「私は最後でいい、私は助けられたから、今度は助ける番……」

「……うん、分かったわ」


 綾音の行動に由美と真沙美は、より一層頑張りを見せた。

 8階では他に生徒がいないか南先生と西河先生が確認していた。


「他にはいないわね……」

「そういえば龍樹見てませんか?さっきまでいたはずなんですけど……」

「先に行ったんじゃないでしょうか?」


 ーーーーーーーーーーーー


 幸久は1人でホテル裏にある駐車場を逃げ回っている。朝方に積もった雪で駐車場は整備されておらず、普通に歩くのは困難である。


「くっそ‼︎このままじゃ……うっ‼︎」


 雪に足を取られ、こけてしまった。只でさえ焦っている中、幸久は焦りに焦った。


「早く抜けろ‼︎くそ‼︎」


 1体の感染者が幸久にじりじりと近づいて来た。このままでは噛まれてしまう。幸久は死を覚悟した。その時、感染者の頭から鈍い音が寒空の中響いた。

幸久はゆっくりと顔を上げた。


「絶対に誰も死なせないって言ってなかったか?自分が死んだら意味ねぇだろ」


 それは龍樹だった。龍樹は人知れずホテルを抜け出して、幸久の元へと駆けつけたのだ。


「な、なんでお前が……」

「しのごの言わずに行くぞ。感染者共が来るぞ」


 幸久の手を引っ張り、立ち上がらせて更に奥に走る。


「この先は……」

「この先には鉄網がある。そこをよじ登れば、感染者をここに止まらせる事が出来る」

「なるほど」


 2人は鉄網をいとも簡単によじ登り感染者を網の向こうで止まらせる事に成功した。感染者達は網を引っ張るが、千切ることも出来ず、恨めしそうに見ていた。


「助かった、何故助けに……」

「無計画かと思ってな……」

「すまないな」



 ーーーーーーーーーーーー


 トイレにいた雪菜だが、玄関の騒がしさに起きた。


「誰か、いるのか……」


 扉を開くと、ロビーには感染者達は全くいなかった。


「あれは、バス⁉︎」


 雪菜の目に入ったのは、バスに乗っている生徒達だ。5号車が出発した所だ。あと1台となったバスを見た雪菜は重い腰を上げ、ゆっくりと歩き始めた。


「あ、あれに、乗らないと……」



 ーーーーーーーーーーーー


「やれやれ……やっとこんな所から帰れる。」


 教頭も5号車に乗ろうとすると由弘が大声で止めた。


「教頭先生これ以上は無理です‼︎」

「えっ⁉︎」


 5号車は椅子は全て生徒と先生が座っており満員である。


「次のバスに乗って下さい‼︎」


 そしてバスはすぐさま出発した。


「……ま、まぁいいでしょう……」


 そこに隣にいた由弘がみんなの確認をする。


「残った奴はだれだ‼︎」


 真沙美、由美、綾音、西河先生、南先生、里彦、蒼一郎、伸二が揃った。

 伸二の存在に里彦は目をまん丸になった。


「伸二、お前も残っていたのか⁉︎」

「僕も少しでも役に立とうと思って……」


 由弘は今いるメンバーを見る。


「とりあえず、バスに乗ろう。龍樹、幸久、雅宗を待とう」


 教頭はその言葉に気に食わない顔した。バスに乗る生徒達、綾音も乗ろうとした時玄関から誰かが歩いて来た。


「あっ……」

「私も、乗せて……」


 それは疲れ果てていた雪菜だった。綾音は手を貸そうにも、昨日の雪菜との出来事が怖くて身体が動かなかった。


「雪菜ちゃん‼︎早く乗りなさい‼︎」


 そして南先生が雪菜の肩を持ちバスに乗せた。由弘は幸久に電話を掛けていた。


「幸久‼︎大丈夫か⁉︎」

「あぁ、大丈夫だ。生徒はどんだけ残っている?」

「お前と龍樹と雅宗だけだ‼︎もう戻って来い‼︎」

「分かった、今行く」


 幸久は鉄網の前の感染者に別れを告げて、反対側から玄関のバスに乗り込んだ。由弘が慌ただしく駆け寄った。


「2人共大丈夫か⁉︎」

「全然平気だ……」

「運動には良かったぜ……」


 そして一同は雅宗を待つことになった、


 ーーーーーーーーーーーー


 その頃雅宗はホテルから離れた、雪が積もってる大通りを走っていた。


「しつこいぞ‼︎」


 しつこく追って来る感染者にムカついた雅宗は木刀でゾンビの顔面を攻撃した。感染者は雪の中に埋もれて動きを停止した。


「はぁ、はぁ、これで戻れる」


 息を荒げて、何も言わずに戻ろうとホテルへと歩き出した時、高見橋方面から声が聞こえて来た。


「おーい‼︎助けてー‼︎」

「うん?」


 雅宗が目を凝らして良く見ると、1人のポニーテールの少女が大勢の感染者に追われているのだ。


「な、なんだテメェ‼︎」

「助けてぇぇ‼︎」


 とにかくあの女の子を助けようと、雅宗はすぐに玄関のバスまで誘導する事にした。


「おい‼︎俺について来い‼︎」

「う、うん!!」



 ーーーーーーーーーーーー


 バス6号車……待つ事に10分、教頭も段々とイライラが募って来た。


「雅宗君とやらはまだかね‼︎」


 それを西河先生が受け答える。


「もうすぐで来ますから、もう少しお待ちを……」


 由弘と幸久は外へ出て雅宗の帰還を待っている。すると教頭がさらりと言った。


「もしかしたら感染者にやられているのでは?」


 そのふざけた言葉にとうとう真沙美は立ち上がり、キレる。


「教頭‼︎自分の学校の生徒なのによく言えるわね‼︎あんたこそ自分の事しか考えない人よ‼︎」


 まさかの真沙美のキレ具合に由美は呆然と真沙美を見ているだけだった。バス内も静まり返り、教頭も何も言い返せず黙り込んだ。

 そして外を見ている幸久がある事に気付いた。


「あれは⁉︎」


 目を凝らして良く見ると、100m先に雅宗が女の子を連れて雪の中死にものぐるいに走っている。そして何か口ずさんでいる。


「……する………ろ!」

「何だって⁉︎」

「発進しろ‼︎バスを発進させろ‼︎」


 その声が聞こえた瞬間、雅宗達の後ろに大勢の感染者がいるのが見えた。その数は何十という数である。


「……う、嘘だろ⁉︎」


 そして駐車場に留めていた感染者達もこちらに向かって来た。幸久はすぐさま運転手に告げた。


「バスを少しずつ発進して下さい‼︎」

「わ、分かったよ‼︎」


バスは徐行しながらゆっくりと発進をはじめた。そして女の子を連れている雅宗は大声で叫んだ。


「あと少しだぁぁ‼︎」


 駐車場側の感染者達と高見橋の感染者達が接近している。由弘達も一生懸命手招きしている。


「乗れぇぇぇ‼︎雅宗‼︎」

「うおぉぉぉ‼︎先に乗れ‼︎」


段々足の力がなくなって来た女の子を軽く身体を持ち上げて先に乗せた。


「う、うわわわ‼︎」


 そして雅宗も乗ろうとすると、感染者が雅宗の背中に触れた……瞬間、うまく回避してバスに乗り込んだ。ドアも閉まり感染者達はドアを叩きまくる。


「早くバスの出発を‼︎」


 幸久の大声にバスはすぐさま発進した。だが感染者達はバスを追いかける。雅宗と女の子は息切れを起こしながらお互いの目を見合った。


「はぁ、はぁ、助かったな」

「あ、ありがとう……」


助かった事を喜び2人の顔は、笑っていた。

 そしてホテルは段々離れていき感染者達も追ってこなくなった。疲れている雅宗は幸久に一言。


「脱出成功だな」

「あぁ、これで帰れる……」




 この時、午後0時24分……


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