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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第1章 九州脱出編
16/124

修学旅行5日目 午前9時16分

 

 午前9時16分……


「マジかよ……」


 雅宗の予想は的中し、ロビーに706号室の合い鍵を取りに行く事になった。だが幸久は前向きに考えていた。


「同じ学校の生徒だ。助けない訳にはいかない」

「うん、当たり前だ‼︎」


 幸久は由弘も呼び出し809号室で作戦を考える。


「非常階段で1階まで行き、正面玄関からロビーに向かうのはどうだ」

「1階までは無理だ……」


 幸久の発案に由弘は苦い顔をする。


「何故だ⁉︎」

「非常階段の下を見ろ……」


 幸久達が非常階段の1番下を覗くと、生徒達の声や姿を察知した感染者達が大勢集まっている。幸い非常階段入り口に柵があり進入を防いでいるが、この状況だと1階からのロビー侵入は不可能だ。

これにより1階からの侵入作戦は無くなった。


「1階からは無理か……」


 再び809号室で作戦会議をする。由弘が部屋に備え付けのホテル内地図を見せる。


「2階からはどうだ?非常階段はゲームセンターに繋がっている。そこから1階に降りてロビーに行くのはどうだ」


 2階の非常階段はゲームセンターの非常口に繋がっており、そこから廊下を直線に少し渡り、ロビー前の階段を降りれば1階ロビーへと到着する。これが由弘の案である。幸久はこの案に頷いた。


「よし‼︎これなら行ける‼︎この案で行こう‼︎」

「私も行きます‼︎」


 威勢良く声を出したのは、南先生だった。


「ぼ、僕も行くぞ‼︎」


 ちょっと弱気な発言の西河先生も参加してきた。そして南先生が自分の胸を叩き言う。


「あの子は私のクラスメイトです‼︎だから、私も……」


 すると幸久は即答した。


「それはダメです」


 その答えに南先生は反論した。


「なんで、私が女性だから?足手まといになるからダメなの?」

「先生が1人でもいなくなったら2年E組を誰が引っ張るんですか。だったら俺がーー」


 するといきなり1発のビンタが幸久の頬を直撃する。頬は赤色に腫れ、幸久は自分の頬を抑え南先生を睨む。


「⁉︎」


 幸久が見た南先生は目から無数の涙が流れていた。部屋は静まり返り、誰も何も言えなかった。


「私も言うけど、私は生徒1人残らず家に返すのが役目よ‼︎……だけど何人もの生徒がもう帰らぬ人になって、私はこれ以上犠牲者は増やしたくないの‼︎昨日の生徒達に変わって死んであげたい気分よ、こんな辛い目に遭うなら……」


 幸久は何も言えなくなり黙り込む。すると部屋に3人の男子生徒がズカズカと入って来た。


「なら俺達も行かせてくれよ」

「足が速い方が良いんだろ」


 そこに来たのは、野球部キャプテン澤田秀丸(さわだひでまる)とサッカー部キャプテン市川蒼一郎(いちかわそういちろう)と里彦だった。里彦が幸久に説明をした。


「2人共行くって聞かなくて」

「行く気はあるのか?」


 幸久の質問に里彦を含む3人は頷く。


「当たり前だ。こんな状況で協力し合わないと帰りたくても帰れないからな」


 澤田の言葉に雅宗達は手を前に突き出して全員で手を重ね合った。先生達も手を重ねた。


「南先生、行く事は許可しますが、無理はしないで下さいね」

「……分かったわ」


 幸久の言葉に頷く南先生、その顔には凄い気迫を感じる。この時、全員は1人の女の子を救う為に手を取り合う。そして作戦会議を全員で交わし、幸久をリーダーとし作戦は決まった。


「作戦はこうだ。2階からロビーに向かう班と3・4階から感染者を誘導させる班の3班に別れてもらう」


 全員真剣な表情で、耳を傾けて聞く。


「2階班は、俺、秀丸、蒼一郎、由弘の4人。3階班は西河先生と里彦。4階班は南先生と雅宗。これでいいな?」

「おう‼︎」


 8人は再び手を重ね合わせて気合いを入れる。3班に分かれて、綾音を救出する作戦が今始まる……


「行くぞ‼︎」


掛け声を合わせて、全員が行動しようとすると雅宗が幸久に言い放った。


「幸久‼︎これを渡すぜ‼︎」

「……これはお前の木刀?」


 雅宗は幸久に昨日買った木刀を投げ渡した。


「護身用だ。お前達の幸運を祈る」

「ありがとう。雅宗……」


2人は軽い握手を交わして下へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーー


 2階班……2階非常階段に到着。雪が降り、肌寒い中、1階真下には大勢の感染者達が幸久を食い殺そうと無数に手を伸ばしている。


「これが感染者って奴なのか……」

「あぁ、こんなにもいるなんてな」


 じっくりと目をまん丸にして真下を覗く秀丸と蒼一郎。幸久と由弘は昨日ので慣れてるからか、2人よりは冷静になっていた。


「由弘がここの見張りをしてくれないか?」

「分かった。無理はするなよ」

「秀丸‼︎蒼一郎‼︎行くぞ‼︎」


 まだゾンビ達を見てる秀丸と蒼一郎を呼びつけ、注意を促す。


「ニュースで見たと思うが、絶対に噛まれるな。噛まれたら数分以内にあの感染者共と同じになる。死んだも同然だ‼︎いいな‼︎」

「噛まれたらアウトって訳か……」


 ここに来て少しずつビビり出す秀丸、そこで幸久は勇気付ける為に雅宗から貸してもらった木刀を渡す。


「これは俺よりお前の方が合う……野球部だろ」

「こ、これであのゾンビに?」

「人間と思うな、俺達を殺しに来る殺人鬼だと思え‼︎」


 秀丸にもやはり抵抗はあった。人じゃないと言われても形は人間そのものである。だけど助ける為にここに来た。迷っている暇はない‼︎そう思い、秀丸は決心し、木刀を握りしめる。


「そして行動する時は全員で外向きで3方向の円になりながら移動する」

「なんでだ?」

「ロビーはとても広く道も多い、だから3方向からの監視があればいつゾンビが来てもすぐさま対処が出来る」


安全に行くための幸久の考えた策。これに2人は頷いた。


「OK、なら行くぞ」


 そして蒼一郎は非常ドアを恐る恐る開け、顔を覗かせて感染者がいない事を確認して、ゲームセンターに侵入した。


「奇妙な雰囲気だな……」


 一番手に入った蒼一郎はホテルの異様な雰囲気に戸惑った。ゲームセンター内は暗いまま電気などがついたままで、クレーンゲームやアーケードゲームなどのゲーム機の音が鳴り響いていた。

 三人はゲームセンターに入り込むとゆっくりと歩いて幸久が先頭に立ちゲームセンターの入り口に張り付き、廊下を覗く。廊下を直線に進むとロビーが見渡せる吹き抜けに出る。その横にロビーに降りる階段が設置されている。


「この廊下はいないな……」


 2階廊下は何もなく、幸久は3・4班に連絡する。


「陽動作戦開始だ」


 幸久の合図と共に3・4階で雅宗と里彦がその階の階段付近で大声をあげ、陽動を始める。


「おーーーい‼︎俺を食いたいならこっちに来い‼︎」

「俺を食ってみろ‼︎」


 3階は西河先生、4階は南先生が非常ドアで待ち構え、里彦と雅宗が陽動をする係である。もちろん色んな階にいる感染者達はすぐさま声の元へと向かって行く。2人は階段を徐々に上って来る音を聞きつけると非常ドアまで一旦下がる。そして階段からゾンビ達が上がって来るのが見え、雅宗達の元へと向かって来る。ギリギリまで待ち10メートル以内に入った時、


「下がるぞ‼︎」


 雅宗の合図と共に雅宗と里彦は先生達にドアを開けて貰い、非常階段に戻りドアを閉める。一度ドアに大きな衝撃か加わり、感染者達はドアを引っ掻き回す。


「雅宗君大丈夫?」

「こんくらい幸久達に比べたら全然楽だよ、応援するなら幸久達を応援してくれ先生、アイツらの方が俺らの何倍も怖い世界にいるんだ」

「……そうね、祈りましょう。無事に戻ってくるのを」


 南先生が気遣うが雅宗は幸久の無事を祈るだけだった。

 雅宗らに誘導されて感染者の気配は無くなった。それを確認し、幸久達は一気にロビーへと向かう。


「ロビーに向かうぞ‼︎」


 由弘を待機させ幸久を先頭にロビーに向かう。円になりながら、感染者が来ないか確かめながら進む。ゲームセンターから廊下を進みロビーを見渡せる吹き抜けにたどり着き、幸久がロビーを確認する。雅宗達のお陰で、ロビーにはゾンビがいない状態である。


「いないようだな、階段を降りるぞ」


 幸久達は円のまま螺旋階段をゆっくりと降り、ロビーに降り立った。幸久が昨日見た光景と同じく、ロビー内はとても凄惨な状態である。そして警戒を怠らず、カウンター奥の事務室へと向かう。


「うっ、これは気持ち悪い光景だ、吐き気が……」


 蒼一郎が口を押さえ始めた。


「我慢しろ、もう少しで着くんだ‼︎」

「あ、あれは?」


 秀丸が指差す場所は玄関前でそこには、感染者となった明石先生が突っ立ている。


「明石先生⁉︎」

「あの人も感染者に……」


 すると明石先生はこちらの存在に気づいた。事務室は玄関を入ってすぐ左にあるカウンターの奥にある。


「うわっ‼︎こっちに気づいた‼︎」

「事務室まで走れ!!!」


 幸久の叫びと共に3人の陣形は崩れて、事務室へと駆け込む。もちろん明石先生も全力で追いかけて来た。


「飛び込め‼︎」


 ドアを無造作に開け、明石先生が来る前にドアを閉めた。部屋は暗く、一気に走った全員は息を荒げている。幸久は全員いるか確認する。


「みんないるか⁉︎」

「あぁ……」

「なんとか大丈夫だ……」


 安全を確認した幸久は手探りで何とか電気のスイッチを見つけた。そしてスイッチを押すと


「えっ?」


 明かりを点けたらホテル員の感染者が1匹いた。


「へへ、嘘だろ……」



 ーーーーーーーーーーーー


 806号室……伸二は何か情報がないか自主的に行動している。この時間はいつもニュース番組をやっているのだが、鹿児島県内の検査所の場所や感染者達の目撃情報がアナウンサーによって呼び掛けられている。


「感染者目撃情報です‼︎さつま市・鹿屋市・枕崎市などでの目撃されたとのことです。ただいまの検査所の設置場所は志布志市・出水市・伊佐市の保健所、鹿児島県境にある総合病院、きりじま国分山形屋の駐車場の大型テントなど、随時設置完了となる検査所を発表して行きます……」


 テレビは再び設置場所の紹介をし始めた。伸二は少しでも役に立とうと、SNSで情報を調べる事にした。SNSは多くの人が利用しており、何か目撃情報がないか、安全な場所はないか、など調べている。


「何か、情報は無いのか?……⁉︎」


 伸二が感染者と検索して目にしたのは数分前に投稿された1枚の写真だった。伸二は目を疑った。その写真の投稿者は


 ーー宮崎県なんだけど、これって感染者?ーー


 と書いてある。その写真は血塗れの作業服を着た男が住宅街を歩いている所を窓から撮った写真だった。その写真に多くの人が反応して、逃げた方が良いぞ‼︎と心配そうに言う者もいれば、お前感染者じゃねwwと呑気に茶化す者もいる。


「嘘だろ……」


 そして投稿者のホームを見ると串間市に住んでいると書いてある。串間市は鹿児島県の県境にある志布志市のすぐ隣の宮崎県の市である。


「み、宮崎県に……た、大変だ」




 この時、午前9時45分……

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