修学旅行5日目 午前8時57分
午前8時57分……
7階も里彦や雅宗達の活躍により封鎖が完了し、女子生徒達も安全に廊下に出られるようになり、喜びに満ちた。
だが雅宗は1つ疑問な事があり、女子部屋706号室前に立つ。そして幸久が雅宗に聞く。
「どうしたんだ?」
「いや、女子生徒の感染者がこの部屋の前で突っ立てたのが気になって……」
「この部屋の生徒は?」
「それが、まだ出てこないんだ……」
幸久は周りを見渡して、一言大声で呼びかける。
「この部屋の生徒はいるか⁉︎」
廊下は静まり返り、1人の女子生徒が静かに手を挙げる。
「君か?部屋の生徒は?」
「私じゃないけど、そこの部屋にいた子なら昨日見たよ……」
「昨日?どうゆう事だ?」
そして幸久はその女子生徒に話を聞いた。
「この部屋の子は薪雪菜ちゃんって言って、その子と3人の子が廊下を歩いているの見た」
「その4人は戻って来たのか?」
「分からない、それにもう1人望月綾音ちゃんって子が居るの」
「その子はこの中に?」
「多分……」
何故ドアを開けないのか?幸久は疑問に思った。その時、幸久の彼女である由美が来た。
「幸久?どうしたの?」
「すまん‼︎話すのちょっとだけ待ってくれるか‼︎」
両手を合わせ頭を深く下げる幸久。そして幸久はすぐさま南先生と西河先生の元へ向かった。由美は非常階段を登っていく幸久を見てホッとした顔で独り言のようにつぶやく。
「いつも通りで良かった……」
そんな由美と幸久を見て真沙美は雅宗との心の距離がまだ遠いのかと切ない思いをする。確かに幸久と由美は付き合っているからあんなにも仲良しだが、真沙美と雅宗は付き合ってはおらずまだ友達の関係である。この状況でこんな気持ちになるのは変かもしれないが、もっと雅宗と居たい……そう思う真沙美であったが、真沙美はそっと部屋に戻って行った。
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幸久は809号室の南先生と西河先生の元に到着し、南先生の眼球の奥を覗くように眼を見つめ鬼気迫る顔で聞く。
「先生‼︎昨日の外出した706号室の薪雪菜他3人は戻って来てますか⁉︎」
あまりの幸久の勢いに驚く南先生だか、苦い顔をして答える。
「706号室は、私が出るまでには雪菜ちゃん1人だけが戻って来たわ。でもそのあとは分からないわ……」
暗い顔になる南先生だがすると何かを閃くように言い出す。
「あっ、先生達の部屋に戻って来た生徒のリストがあるわ」
「それ‼︎持って来れますか‼︎」
「え、えぇ……すぐ取ってくるわ」
南先生は急ぐべく走って行く。その間幸久は考える。あの部屋の事も部屋の前に立っていた感染者の事を。
「なんで、あの部屋の前に突っ立てたんだ……」
「自分の部屋に戻って来たんじゃないかな」
窓から外を覗いていた西河先生が話に混ざって来た。
「戻って来た?」
「映画とかでも脳を破壊すれば殺せると言うけど、その理論が本当なら今のゾンビ達は脳が生きていて人間の時の記憶が残っていて、その記憶通りに動いている可能性があるかもしれない。あの女子生徒も元はあの部屋の生徒だったのかも、あくまで僕の推理だけどね……幸久も知ってると思うけど、僕はゾンビ映画とか好きでさ、実際に起きたら生きる自信があると思ってたらこんなざまだ」
照れながら答える西河先生、だが幸久は冷静に答える。
「でもその可能性は絶対にはないとは言い切れません。俺達は今、人類が体験した事のない事に未知なる遭遇をしてしまったのです。何が起きてもおかしくありません……」
「そうかもな」
そう話している間に南先生がリストを持ってきた。
「これがリストよ」
リストには部屋の番号と隣にはその部屋の生徒の名前が書いてあり、帰って来た生徒には○が付いていた。706号室は誰も○が付いていない。
「全員いないのか……」
「雪菜ちゃんは帰って来たし、綾音ちゃんも外出はしてないはずなのに……」
「2人以外は帰って来ておらず、ホテルにいるはずの2人はいないと言うわけか」
綾音が押入れにいる事を知らない幸久達、そして雪菜も1階女子トイレに隠れている事も知られていない。
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雅宗は本当に人がいないか確かめるべく706号室のドアを軽く叩いている。
「誰かいるのか‼︎いたら返事しろ‼︎」
静かで人がいる気配など微塵も感じない706号室の部屋。押入れの中いる綾音はドアを叩く音と雅宗の声が微かに聞こえた。その音を綾音は聞き逃さなかった。
「今の音は?……誰かいるの⁉︎誰か‼︎」
綾音は必死に叫びながら押入れを叩く。力一杯叩いた。ここにいる事を知って貰いたい、その一心で叩く。
「ん?何か音が……」
廊下の雅宗もその音に気づいた。そしてドアに耳をつける。
「誰かいるのか‼︎おい‼︎」
耳をぴったりとつけると何かを叩く音が聴こえて来た。そして廊下の生徒達の方を振り向き一言大声で言う。
「みんな静かにしろ‼︎何か聞こえる‼︎」
廊下は静まり帰り、雅宗は706号室の音に集中し、ドアに耳を当てた。何かを叩く音、それと誰かの声が微かに聞こえる。
「この部屋誰かいる……誰だ‼︎聞こえるなら名前を言ってくれ‼︎」
雅宗は大声で、部屋に向かって言う。もちろんその声は綾音は聞こえた。綾音も必死に叫ぶ。
「2年E組の望月綾音‼︎早く出して‼︎」
その声は雅宗にも微かだが名前が聞こえた。
「綾音……分かった‼︎何が起きたか言ってくれ‼︎」
「押入れに閉じ込められて出られないの‼︎」
「押入れ⁉︎押入れなのか⁉︎」
押入れに閉じ込められた、その言葉に雅宗は耳を疑った。聞き間違いかと聞き返した。
「そうよ‼︎雪菜ちゃん達に閉じ込められて‼︎」
綾音は雪菜ちゃんにもう怒られたっていい、叩かれたっていいと覚悟して全てを話した。
「分かった‼︎何とかして助けてやる‼︎待ってろ‼︎」
雅宗はすぐさま幸久に電話した。
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「押入れに閉じ込められた⁉︎どうゆう事だよ‼︎」
「雪菜って奴に閉じ込められたって言ってたんだよ‼︎」
「でもそいつはどこにいるか分からないって訳か……」
「そいつの写真があったら送ってくれ‼︎他の部屋にいるか確認してから、1度幸久のとこに行く‼︎」
「分かった‼︎」
そう言うと雅宗はドアを何度も蹴った。とにかく思いっきり、だが、ドアはビクともしなかった。そして里彦や他の生徒達も蹴ったり、体当たりをしたが全然開く気配は無かった。
その頃、幸久は南先生のスマホから雪菜の写真を送ってもらい、それを更に雅宗に送った。そして雅宗は女子部屋を確認してから、幸久と809号室で合流した。
「部屋の鍵は雪菜って奴が持っているが、そいつはどこにいるか分からない、他の女子の部屋も確認したがいる気配もない……」
「何故押入れに……」
すると南先生が曇った表情で言い出す。
「1年生の頃、雪菜ちゃん達と綾音ちゃんのいじめの問題があったの……」
「どうゆう事ですか?」
「雪菜ちゃん達、タバコを吸っていてそれを綾音ちゃんが私に報告して、私は雪菜ちゃん達を注意したの、そしたら雪菜ちゃん達は綾音ちゃんを標的として裏で陰湿なイジメを始めたの……」
南先生は更に暗い面持ちで言い続ける。
「そして2年生の初めにそのイジメの事を耳にした私は雪菜ちゃん達をキツく怒ったの。そしたら2人は仲良く握手して和解したって言っていたから安心していたら、こんなことに……」
雅宗は一言、言う。
「あんな奴らなんて、昔からそんなもんさ。先生の前だといい子ぶって、先生達が見てない所だとイジメて威張っている、感染者に捕まったって自業自得だ」
「私の責任だわ、クラスの内情を知らなかった私の責任……」
南先生は両手を顔に当て俯いた。西河先生は南先生を慰める。
「先生は全てを知っているとは限りません。私達教師は見つけるのも当たり前ですが、生徒達の心を知る事も大事です。ですが、生徒達にも理由があります、それから知る事です……」
「ありがとうございます、西河先生」
先生達の横で幸久は、また頭を抱える。
「どうにかして助けないと……」
「でも鍵が無ければ開けられない、積みだな……」
「鍵……そうか、合い鍵だ‼︎合い鍵を取りに行けば」
「ど、どこに取りに行くんだ?」
嫌な意味で胸騒ぎがする雅宗。そんな雅宗の目を見て幸久は震える声で言う。
「ロビーに……」
「マジかよ……」
この時、午前9時16分……