修学旅行5日目 午前8時19分
午前8時19分……
男子生徒達が8階廊下をマットレスなどを使用し封鎖した作戦は成功し、雅宗は幸久と由弘に合流を果たした。喜んでいる裏で、教頭は廊下の騒ぎに苛立ちを隠せなかった。
「さっきから何ですか!」
教頭は怒った鬼のような顔で廊下に出た。
「何だこれは⁉︎」
教頭が見た廊下は、エレベーター方面の廊下がベッドのマットレスや机で封鎖されており、生徒達が喜んでいる光景だった。
「お前達!‼︎一体何をやっているんだ‼︎」
教頭の1発の喝で廊下は一瞬で静まり返り、全員の視線は教頭に移った。
「ホテル内をこんな風にしよって、何を馬鹿な真似を‼︎」
すると男子生徒の人混みの中を幸久がくぐり抜け教頭の前に出た。幸久はいきなり頭を下げた。
「教頭、無許可な行動をお許しください」
「⁉︎」
いきなりの謝罪に教頭も驚いてしまった。だが教頭は怯まず幸久に怒る。
「こんな事していいと思っているのか‼︎」
「教頭もお気づきでしょうが、この街は感染者に囲まれております。教頭も昨日見たでしょう。このホテルに感染者がいる事を」
「だが──」
まだ怒ろうとする教頭に対して幸久はボソッと言う。
「教頭は昨日、光吉先生を見捨てましたよね」
光吉先生は教頭の命令で廊下に出て、感染者に食われて死んだ。教頭が部屋のドアから見ていたのを幸久は見ていた。
その言葉に教頭は黙り込んでしまった。
「くっ……それは」
「僕達はこれから7階にいる女子生徒達を助けに行って来ます。先生方は部屋で待機していて下さい。バスが来るまでは……」
「その事はまだのはず……はっ⁉︎」
教頭は809号室の前に南先生と西河先生が居るのを発見した。
「先生達は昨日の内に帰って来てたんですよ。あの街ん中からな。部屋に篭って何も知らない教頭先生は連絡貰ってなかったですか?」
「くっ、うるさい‼︎勝手にしなさい‼︎死んでも知らんぞ‼︎」
教頭は怒って部屋に戻って行った。静まり返った廊下に幸久は再び生徒達の方へ向いて言い放った。
「教頭の許可を貰った‼︎さぁ7階に行くぞ‼︎」
「おおぉぉ‼︎」
多くの男子生徒が声を上げた。だが幸久はどこか不安に思う所があった。
準備の為一時休憩してる時、809号室で幸久は由弘に話す。
「今は士気が良いものの……食べる物が無ければいづれは士気は下がる」
由弘も不安そうに言う。
「あぁ、確かに食べる物はほぼ無く、腹を空かせた生徒ばかりだ。何とか食べる物があれば……」
100人近くいる生徒達、そして本来なら今の時間は、朝食の時間でもある。食事処は1階にあり、しかもホテル員はほぼ全滅状態。
雅宗も話に混ざる。
「これまで買った土産物はバスの中、来るのは午後と来たもんだ……」
「考えてもしょうがない‼︎準備を急ごう!‼︎」
幸久は目先の状況を第一に考え、7階を救う準備に取り掛かる。生徒達は自分の部屋からマットレスを運ぶ準備に取り掛かかっている。
雅宗達は階段を確かめる為、非常階段を調べた。螺旋階段で1人通る事が出来るくらいの横幅で、曲がりがとても急な作りでありマットレスを持ち運ぶのはかなり難しい。幸久は由弘に相談する。
「この階段では1人じゃマットレスを持つのは難しいな……」
「2人で持つのはどうだ。お互いに端を持ち運ぶ感じで」
由弘の意見に頭を抱える。
「それだと時間がかかってしまうぞ……」
「今回はみんな部屋からの行動だったから早かったが次は非常階段からの廊下封鎖だ。1人通れるだけではかなりの時間が……もしゾンビが来たら2次被害が発生する」
「う〜ん」
その頃、雅宗は里彦と共に非常階段で7階の偵察に行っていた。雅宗は防衛用に木刀を持ち歩いている。だが問題が発生した。非常ドアは曇りガラスで作られており、廊下奥が見えない。
「クソ〜これじゃあドアの奥が見えないじゃないか……」
「すぐそこにいる訳じゃないから大丈夫だろ」
「そ、そうだといいんだが……」
里彦が雅宗を元気付けて恐る恐るドアを開ける。
「うわっ……⁉︎」
ドアを開けた時、706号室のドアの前に女子生徒の感染者が呆然と立ち竦んでいた。雅宗はびっくりして声が出そうになったが里彦が無理矢理口を押さえた。
「大声だすな‼︎」
「ご、ごめん‼︎……感染者が女子部屋の前にいやがる。これじゃ行けねぇぜ」
悩む雅宗だが、そこで里彦が肩を叩いた来た。
「俺がそのゾンビの気を引く。6階から大声なり何なり上げて。その間に7階を封鎖しろ」
「そんなことしたらお前が危険に……」
里彦は笑顔で答えた。
「昨日も言ったはずだ。俺はサッカー部だし走れるって。それに他の場所にいるゾンビ共も一緒に引き込めば一石二鳥だぜ」
「分かった、お前に任せるが、無理はするな」
「もちろん」
二人は軽くハイタッチを交わして行動を始めた。
そして午前8時45分……
幸久は7階の女子生徒達に連絡を入れ、部屋待機を言い渡す。
8階、男子生徒達は2人で1つマットレスを持ち運ぶ事に決定した。男子生徒は非常階段でマットレスを持ち待機する。雅宗は由弘と共に1番手でマットレスを持つ。そして6階の非常階段のドア前には里彦が待ち構える。7階のドア前に幸久が神妙な面持ちで待機する。
「里彦‼︎準備はいいか‼︎」
幸久は6階の里彦に聞く。
「大丈夫だ」
里彦の声を聞いた幸久は、非常階段の全員に言い渡す。
「行くぞ‼︎7階を解放するぞ‼︎」
「おぉぉぉ‼︎‼︎」
非常階段で男子生徒の大声は叫び、街中に響き渡る。
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そして里彦はゆっくりとドアを開け、6階に侵入した。周りを見渡すが、感染者などの気配は無かった。
「6階はいないようだな……」
そろりそろりと移動し6階階段から7階へと向かう。そして706号室前の感染者を発見する。すると感染者を指して大声で言い放った。
「おい、そこの感染者‼︎俺の所に来て、捕まえてみやがれ‼︎」
すると里彦の存在に気づいた感染者がすぐさま走り出す。挑発した里彦もすかさず6階へと走って逃げた。
『こちら里彦‼︎挑発にのってついてきた。作戦開始しろ‼︎』
通話状態にしてある電話を階段を下りながら幸久に話す里彦。すると5階より下の階から無数の感染者の走る足音が徐々に聞こえて来た。
「嘘だろ⁉︎」
里彦が6階に入ると感染者達も後ろから全速力で追いかけて来るが、里彦は後ろを振り返る事も無く必死に走る。そして非常階段のドア目掛け、命懸けで走る。
「間に合えぇぇ‼︎」
ゾンビの手が里彦に届いた……がその瞬間里彦は非常ドアに滑り込みで入り込みギリギリドアを閉める事に成功した。ギリギリ助かり、身体の力が一気に抜けてしまった。
「はぁ……はぁ……助かったぁ。七階は大丈夫だろうな」
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幸久は全員に作戦開始を呼びかける。
「作戦開始‼︎行けぇぇぇ‼︎」
「行くぞ‼︎」
「おう‼︎」
幸久の掛け声と共に、雅宗と由弘はマットレスを持ち、静かに廊下の横に立てるように配置した。そして別の男子生徒も入り同じように配置した。
置いた生徒はマットレスを抑える役として廊下に待機する。6個ほど横に置き、次の生徒達は4つほど倒して6個の上に重ねるように置く。これで一応封鎖は完了した。
「ふぅ、これで一件落着か……」
一息つく幸久だが、マットレスをよく見ると少しずつこちら側に向かって押されているように見える。
「まさか……バカな⁉︎押されているのか⁉︎」
「全員で抑えろ‼︎‼︎」
その場にいる10人ほどの男子全員で動くマットレスを抑える。由弘は押しながら力強く言う。
「下手に強く押すと向こうのマットレスが倒れる可能性がある‼︎何か重い物を置け‼︎」
幸久は適当な女子部屋のドアを叩き、部屋に入れてもらい大きな机を何個も並べた。
雅宗も真沙美の部屋にも入って机を持って行こうとする。
「雅宗⁉︎廊下封鎖出来たの⁉︎」
「話は後だ‼︎それより机を貸してくれ‼︎」
「えっ⁉︎」
久しぶりの再会に驚いた真沙美とは裏腹に雅宗は焦りを隠せない顔でそそくさと机を持って行った。
「え⁉︎何なの……」
そして男子生徒達は他の部屋から冷蔵庫や机などを置き、息を殺すようにじっと置いた物に背中引っ付け、しばらくするとマットレスは動かなくなった。
男子生徒達は静かに喜びを分かち合った。幸久と雅宗は手をハイタッチした
「やったな……」
雅宗が言う。
「雅宗こそ、よくやったな」
「俺も忘れちゃ困るな……」
その言葉は女子ゾンビを引きつけた里彦だった。
「里彦⁉︎お前もよく頑張ったな‼︎」
「やっぱりあいつら怖ぇわ……」
7階も何とか封鎖出来た雅宗達、だが雅宗は1つ不思議に思った事があった。
何故あの女子生徒ゾンビは部屋の前で呆然と立っていたのだろうか?
この時、午前8時57分…