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性能テスト


重々しい雰囲気の中、王様が口を開く。


「大型の魔物が攻めてきた。助けて欲しい」


ほぉ。


我らが担任も思うところがあったのか、王の言葉を鼻で笑った。


「なかなかに面白い話だ。それで?昨日まで争いなんてものにこれっぽっちも無かった私の生徒になにをさそうって?まさか、表に立って殺りあえとでも言うつもりか?」


担任の言葉に謁見の間から音が消える。

さすがの彼らも我々の言い分を理解しているようだ。喚き散らすアホがいると思っていたが、意外だったな。召喚の時に騒ぎ立ててた文官がまた出てくるかと思っていましたよ。


俺達がこの世界に来てから半日も過ぎてない。


愛着もない国のために、わけも分からない状況で未知の生物と戦えと。なめてるのか?


「無理を言っているのは分かっている。だが――」


「だがじゃない。私は貴様らの今が気に食わん。なぜ騎士のトップがここにいる。なぜ魔法使いは防衛準備を始めていない?順番が違うぞ。自国のためにまずは自分の兵を動かしたらどうだ?」


「騎士団長をここに呼んだのは私だ。勇者との交渉のために呼んだ。他の者達もその一員だ」


交渉ねぇ。


「まずもって、私の生徒が勇者と呼ばれるのはまだ分かるが、私が勇者と呼ばれるのはおかしな話だ。私は勇者様のような優しい人間ではない。自分の利益、理想のために人を拷問し、四肢をもぎ、殺害してきた。勇者などと一緒にしないでくれ」


「ではなんと・・・」


「私にも名前がある。『天崎 翔子』という名がな。それを使って適当に呼べばいい」


「では天崎翔子。再び願おう。我々とともに戦って欲しい」


もしかしてだけど、この王様達って弱い?

担任が俺たちに攻撃指示を出した時点で多少下だろうとは思っていたが・・・。


「召喚時にも言ったが、適材適所だ。私が前線に出ることは構わんが、生徒は自主参加とする。それを認められないならば、私達はこの国から出ていこう。貴様らを全員殺して宝物庫から財宝を盗み出すことくらい今の私ならば簡単なことだ」


あんた、化物だもんな。


「分かっている。私が求めるのは天崎翔子とそちらの二人だけだ」


俺と委員長か。


「横井はいいだろう。だが、委員長が戦闘行為を行うのは無しだ。彼は指揮者であって騎士ではない」


「心得た。・・・では、協力を得られたということで、さっそくだが会議を始める」


議題は大型魔物の討伐だな。


会議内で聞いた話によると、敵モブはワイバーンからゴブリンまで大小様々。だが、ボスにキングゴブリンがいるそうだ。

名前的に弱そうだが、キングとだけあって並の魔物とはかなり違うそうだ。キングゴブリンはその種族から魔王が生まれることもあるほどの強者。この世界でも倒せる人間は限られる。冒険者ギルドに討伐依頼を出しても誰も手に取らなかったそうな。

んで、やむなしに魔物討伐は緊急依頼としてギルドにも御触れを出したとか。この王都にいる冒険者全員に参加義務のある依頼だ。

騎士と魔法使い、冒険者、そして俺と先生が参加者。

魔物の魔核を持ってきた数によって報酬が決まる。俺と先生は一定の報酬と討伐することによりプラスアルファが付くようになっている。


ここで多少食料を確保しようって狙いもあるらしく、食える魔物は最小の傷で倒したいそうだが・・・


「私達はどのような魔物がいるかすら教えて貰っていないからな」


何が食えて何が食えんのか。

まるで分からぬ。


「そなたらはあまり気にしなくても良い。二個も三個も要求するのはさすがに私でも気が引ける」


あっそ。


「作戦決行は明日の朝から。他の勇者に恐怖を与えぬよう、城内でこの話をすることは酢禁ずる。騎士団や魔法師団にも徹底させるように!よいな!」


「「「はっ!!」」」


面倒なことになったぜ、クソッタレが。



◇◆◇◆◇



深夜二時(体内時計)。

亜美と同室の俺は一つのベッドに二人で寝ていた。少し狭いが、そこは愛だよ。そんな幸せ夢気分な俺の肩をユラユラユラユラユラユラボキッと・・・・・・ん?ボキッと?


「いってぇぇぇ!!!」


うぉい!今凄まじい音が鳴ったんですけど!?肩関節外れちまったじゃねぇか!?大惨事だわ!あ、まだ二時か。・・・って違う!


「なにすんだよ、この野郎!」


「私は野郎ではない。まだまだピチピチの乙女だ」


ざけんな!

誰が乙女だこのバカっ!


「くそっ、どうすんだこれ・・・」


「篠田」


なぜか忍び込んできた担任が隣で静かな寝息を立てる我が天使の名を呼ぶ。すると、亜美がそれに反応してか、俺の手からその小さな手を離し、俺の外れた肩へと手を伸ばす。

そして、


――ゴキっ


俺の関節を無理やりはめ込んだ。


「うぐおぉぉぉぉ・・・・・・!!!」


激痛が走る。

いつもの亜美さんなら優しくしてくれるんですがね・・・今回ばかりは意識が無いため強引でした。・・・てか、これさ、強引にやるとまずいんじゃ無かったでしたっけ。今回は上手くいったが、うまくいかないことの方が・・・・・・


「なんだ?貴様の可愛らしい天使が治してくれたんだ、喜ぶべきだろう」


「むにゃぁ・・・・・・」


「そもそもお前が脱臼なんてさせなきゃ良かった話だろうがっ!」


「すまない、悪戯心がな」


「子供の遊びならまだいいが、お前はゴリラと同じレベルの力なんだから自重しろよっ!」


幼稚園児がするタイキックとゴリラのするタイキックでは痛みがまるで違うでしょうがっ!分かれよっ!てか、俺はあんたの大切な生徒では!?


「誰がゴリラだ。私をあんな雑魚一緒にするな」


「その頭脳がゴリラだっつってんだよ・・・!」


脳みそゴリラめっ!ゴリラを雑魚と言えるのは人間じゃねぇよ。どんな化物だ。


「今のうちにお前の能力を確認しに行く。はやくいくぞ」


最初からそれを言え!!!

関節外す時間必要でしたかね!


くそ、色々言ってやりたいことがあるが、日が昇る前に試さねぇといけねぇのは納得だ。もうちっと穏便に起こしてほしいものだがな。



◇◆◇◆◇



俺、担任、委員長は今壁の上にいます。

国を取り囲む城門の上だな。ここからは王都の街並みが一望できる。うむ、なかなかに良い景色だ。真夜中ということもあり、人は一人も見当たらない。門の守りはいいのだろうか・・・。


「横井、力の使い方は分かるか?」


「あぁ、このキャラには思い入れがあるからな」


「キャラ?」


「こちらの話だ」


何言ってんの?的な顔をされるが、俺にとっては自分のリアルな体よりも大切なアバターなんだ。こいつには自分以上に金をかけたからな。


まず、俺のプレイしていたゲームには収納機能がある。そして、装備なんかも登録してあれば一瞬で変える昨日も備わっている。


「換装」


だから、俺が手に入れた専用装備も呼び出せる。

画面上でしか見たことのなかった鎧が装備された。白銀の神魔装備。兜からは鬼のような角が生えており、絶えることなく黒い瘴気が放出され続けている。銀靴は針のように尖り、鋭い先端が地面に向かって伸びている。白銀の鎧の所々に黒い線が入っており、禍々しさを感じさせる。この鎧を着ている時だけは常時浮いている。理由は知らん。

今の俺からは見えないが、ゲーム上では左の肩甲骨から闇の瘴気が放出され、右側からは白銀の粒子が漂っていたはずだ。


・・・みてぇ!


くそっ!カッコイイぜ・・・。運営側に感謝だな。まさかリアルでこんなものが着られるとは。


「なんだその鎧は。私にも着させろ」


「ふざけんな。こいつは俺しか着れん。諦めろ」


「安心しろ、冗談だ。私の戦闘服は黒スーツにハイヒールと決まっている」


なら言うなよ。

いちいち反応してたら時間がかかりすぎるな。とっとと能力測定に入ろうか。


えー・・・と、まずは・・・基本からだな。


「神魔槍」


神魔槍ってのは神魔騎士のスキルの一つ。武器召喚。課金すればするほど強くなる固有職のくせに課金させようとする気満々のスキル。

しかし、課金をしまくれば、どんな課金装備よりも強くなれる。無限の可能性を秘めた最高装備なのさっ!・・・・・・廃人製造スキルだけどな!


神魔槍は黒と銀が互いに主張し合い、決して混ざろうとしない不気味な槍だ。


どや。


委員長と担任にアピールするように武器を持ってブンブンと回す。


「なんだ?褒めて欲しいのか?」

「すまない新一。何を褒めていいのか分からん」


・・・・・・「カッコイイ!」って共感してくれる人いないのかな。

・・・俺って厨二病なのか?周りとは違うのだろうか・・・。


・・・こんなにカッコイイのに。


もういいよ。

早くやれって言うんだろ?分かったよ。


基本攻撃はこれをぶん回すか、ぶん投げるかだな。神魔騎士ってのは相当にチート性能で、この単純な攻撃でもとんでもない火力が出る。

近くに投げると被害がでそうなので、遠くの山に向かって投げる。


――ヒュンっ!


音を置き去りにする程の速度で放たれた槍は閃光を撒き散らし遥か遠くにある山を貫いた。


――ゴォォォン・・・


いやぁ、やっぱりリアルで見ると迫力が違うな。


担任と委員長の方に振り返ると、二人共頬を引き攣らせていた。

・・・みなまで言うな、分かっておる。俺もここまでだとは思っていなかったんだ。


「今のは単発技でもう使えないのか?今のは必殺技か?」

「槍もどこかにいってしまったし・・・」


・・・・・・・・・


「神魔槍」


俺の手に再び収まる黒と白銀の槍。

顔から表情が消える担任と委員長。


「・・・そうか」

「・・・・・・・・・」


「・・・なんか、すまん」


神魔騎士はリアルで再現するもんじゃねぇな。

基本技で大災害レベルとか洒落になりませんからね。槍をぶん投げ続ければこの国も速攻で落とせる気がしてきた。


「・・・聞きたくないが、他に技は?」


「残り30はある」


「・・・そうか。その殆どが封印だな」


「だよな・・・」


思い返すと、ろくな技が無かった気がする。


「と、とりあえず一番弱い技をやってみたらどうだい?」


了解した。


神魔騎士の持つ他の技は全て魔法。魔力量、攻撃力、スピードが桁違いに高いこの職はゲーム内最強の攻撃タイプ。・・・防御力が紙だがな。


「〈顕現せよ・・・〉『暴走せし魔王』」


神魔槍が貫いた山付近に二体の怪物が出現する。一体は死霊を引き連れた骸骨黒魔王、もう一体は機械で全身を固めた銀の魔王。

敵もいないので、二体に争わせてみる。

二体の魔王が暴れ出す。

骸骨の魔王は近くにいる召喚した死霊を規格外の力でぶん投げる。それを機械の魔王が蜂の巣にし、撃ち落とす。次は機械の魔王が高い機械音を出すと、草原だった場所から大小様々な銃やら大砲やらが現れ、一斉射撃。それに反応した死霊たちが次々に現れ、骸骨の魔王を守るための肉壁となる。蜂の巣にされても、すぐに新たな体とともに蘇り、骸骨の魔王の壁となる。


遠くで行われている怪物どうしの闘争。


遠い目をしている担任と委員長。


「・・・横井、お前もう戦うな」

「僕もそう思う」


「だが魔物が迫ってきてるんだぞ?・・・・・・これは俺が前面に出ていかねぇとな!」


「今回はいいけど、他の日はダメだよ」

「あぁ。ろくなことにならん。それに、お前を戦争の兵器と思われるのも嫌だからな」


ちっ。

俺も先生みたいに前線で大暴れしたかったのに。


「その鎧と槍だけでも十分だろうが」


否定出来ない。


俺もこいつにはかなり課金したからな!自画自賛自己満足ばかりだが、相当強いぞ!


「まぁいい。お前のその職業がとんでもないことは充分理解できた。明日は私とお前で前面に出て魔物を屠り、委員長はサポートに回ってくれ」


「了解した」

「分かりました」


神魔騎士がデタラメなことがわかったところで、今日はお開き。三人とも大人しく部屋に帰ることとした。

俺も自室に戻ってきたわけだが、亜美がぐっすりなのでゆっくりとドアを開ける。少しでも音を減らそうと俺の動きはものっそい遅い。電気が消えた静かな部屋で亜美が俺のベッドの上で静かな寝息を立てている。亜美の右手がいなくなった俺を探すようにベッドの上でウロウロしている。

なんという可愛さ!素晴らしいではないか!


亜美を起こさないように静かにベッドに入り込み、右手を掴むと、亜美は安心したように笑顔になった。


・・・・・・しかしこれは・・・どうしたことか・・・・・・ベッドに入ったはいいが、眠れなくなってしまったぞ。


寝息を立てる彼女を横目に、俺は己が欲望と世が明けるまで戦い続けた。

とてつもなく眠いっ・・・!






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