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召喚

初投稿!



―――

唐突だが、俺はゲームが大好きだ。

この世で一番好きだ。三度の飯より、莫大な金より、美しい女性よりもだ。俺の人生で最も時間をかけたのがゲームだ。

現在高校生の俺はゲームが大好き・・・とは言うが、さすがに人並みの高校生活、青春は送っている。一応な。現実をないがしろに出来なかった俺は、夜の睡眠時間は30分、学校では三限と五限を睡眠に費やす。

いくつもの危ない仕事をかけ持って課金のための金を稼ぎまくった。

そして俺は、日本のトッププレイヤーにまで上り詰めた。世界でも片手で収まるほどのアタッカーになれた。


高校生活は充実してる。成績も取れてるし、友人も多くできたし、彼女もいる。


俺は今、幸せの頂点にいる。

大好きなゲームで日本一になり、リアルの世界でも勝ち組だ。


満足気な顔をして俺は今、このバスに乗っている。


何を隠そう現在、修学旅行中なのだ。沖縄旅行。二日目の今日はバスに乗って海へといき、遊び尽くす。他の日に研修などを詰め込むことによって生まれた一日分の余裕。この日を俺達は遊びに使うことに決めたのだ。

もちろん、教師達に許可はとってある。


我々二年Aクラス、遊びには本気である。


急な提案に戸惑っていた先生方に具体的なプランを提供し、費用の面からもアドバイスをさせてもらった。

そんなこんなで、この沖縄の海を堪能出来る機会を得たのだ!



「いーやっほーい!」

「白い砂浜!」

「青い海!」

「燦々と輝く太陽!」

「寝そべる美女!」

「光を反射するその柔肌!」


「全てが揃ったァァァァ!」


「「「沖縄ァ!」」」



バスに乗るAクラスの男子のほぼ全てがこんな調子。

女子はみんな呆れた目をしているが、待ち受ける海に少しウキウキしているのは同じご様子。


俺の隣で窓からみえるビーチに目を奪われている『篠田 亜美』さんもその一人。俺の彼女様だ。隣にいる俺には目もくれず、ビーチに熱い視線を送る。

相手が相手だけに嫉妬はしないが、会話大事にしようよ。


男子が歌い、女子はキャッキャとはしゃぐ。

なんとも騒がしい車内。そんな時だ――



――ガゴンッ!



バスが大きく揺れる。

その後



――キィィィ!



と、金属とコンクリートが火花を散らしながらつんざくような音を出す。


何が起きたのか分からないが、傾きから右前のタイヤが外れたことを察する。運転手の素晴らしい手腕のおかげで少しの間は揺れを抑えれていたが、やがてそれも限界を迎え、反対車線に突っ込むこととなった。



――バゴンッ!!



凄まじい衝突音とともに、バスは停車する。

衝撃を受け、全員気絶。俺も亜美を抱き抱えた状態で意識を手放した。楽しい旅行はここで終わりを告げた。



◇◆◇◆



パンパカパーン!


「ようこそ御出でなさいました!勇者様!」


訳の分からないお嬢さまの一言で俺は目を覚ます。

他のメンツも同時に体を起こした。俺以外のやつらもこの状況を理解出来ていないようで、皆一様に戸惑っている。


西洋風の作りをした城の一室。


高い天井に付けられたシャンデリア、廊下のように長いこの部屋で左右一列に並び全く動かずその場で直立する鎧をきた人間、そしてその先ではこれまたコテコテの玉座があるのだ。

これまた、冗談がすぎる。

俺だってゲーマー。多少なりはこういった話を聞くことがある。それもこれも、夢の話だと思っていたもの。


「シャトラス王国へようこそ!」


ここは異世界。

とある世界のシャトラス王国とやらに来てしまったようだ・・・!


最悪だ。喜ぶはずもない。


ここにいる連中はそこまで馬鹿じゃない。未知の国の名前を出され、中世ヨーロッパさながらの素敵なお城にご招待されることの危険さは重々承知。

異世界なんてものを知らないクラスメイトたちでも、タイムスリップと考えればことの重大さが分かるはずだ。俺達がいたのは平和な平和な日本。しかし、この文明レベルから察するところ、ここは戦争のある時代・・・ということ。


そして、俺達が呼ばれた理由なんて分かりきっている。


勇者、つまりは自国兵士の代替品だ。


この場では誰も声を出さないが、女子は頼れる人間に寄り添い、男子たちはその女子を囲むように立つ。俺も亜美を守ることしか考えられん。

全員、警戒心はマックス。

同乗していた運転手、バスガイドは状況を把握できないでいるため、地べたに座りこんだまま。


頼れる我らが担任は誰よりも鋭い眼光でお嬢さまを睨みつけている。普段は鬼のような教師だが、誰よりも生徒を愛しているため、剣を持った騎士達に対しても凄まじいプレッシャーを与え続けている。元々軍所属の人だったらしいし、場馴れしてんのかね。


「貴様らっ!なんだその態度は!王の御前である!直ちに跪け!」


文官と思われる男は俺達の態度に不満があるらしく、声を荒らげている。だが、そんな声に耳を傾ける人間はここにいない。

その間にも男子メンツは担任の指示を待つ。担任は視線だけをお嬢さまに送り、場の雰囲気と視線によって騎士の能力を測っている。


担任が測定を終え、目を閉じる。


女子を囲っていた男子メンツの足に力が入る。いつでもその場から飛び出せるようにするための準備。


そして、担任は閉じていた瞼を持ち上げると、生徒を庇うように伸ばしていた右手をビシッと斜め下に下ろした。


確認した男子生徒のほぼ全てがその場から飛び出し、騎士に突貫する。

鎧を着た成人男性に真正面から挑んでも勝てるはずがないので、わざと剣を抜かせるように仕向け、がら空きになった脇腹を全ての力を込めて殴り蹴る。


俺と委員長が、男子が囲っていた女子を、守るような立ち位置に移動し、俺は亜美を女子のグループに入れてから、仕事で培った殺気なるものを本気で放つ。

委員長も同様に動き始めた騎士達に殺気を叩きつける。

男子の暴走から溢れた騎士達を俺たちに集中させ、女子防衛戦を始める。俺達が下手をすれば人質を取られて終わるからな。ここは落ち着いて、かつ一撃で意識を刈り取るつもりでいこう。


我らが担任は一番ガタイのいい騎士とその隣にいた魔法使いのような女性に歩み寄り、俺と委員長よりも数段上の殺気を放つ。担任のブチ切れた時の顔はやばい。女教師がしていい顔ではない。

どう考えてもあの人が魔王だわ。

騎士が抜刀する瞬間に左足で柄頭を踏む。騎士の男は抜けなくなった剣を反射的に横目で見てしまった。その瞬間、兜の死角から速く重い担任の殺人ボレーが決まる。騎士はその場に叩きつけられ、膝をつく。その瞬間を見逃すほどこの担任は甘くなく、低い位置に落ちた頭にむけてカカト落とし。高い位置から落とされたその一撃は騎士の顔面を城の地面に埋め込ませた。

一瞬で無力化された騎士。その次は魔法使いだ。

女性の後ろから二本の火柱が上がり、担任に襲いかかる。しかしうちの担任は化物。いとも簡単にその二つを躱し、追撃が来る前に魔法使いの懐に入り込んで意識を刈り取った。


その二人があっさり負けたために、他の騎士たちが担任に向き直り、襲いかからんとする。だがここで――



「鎮まれェェ!!!!」



玉座に座る王様っぽい人のバカでかい声がこの広い部屋に響き渡る。

その言葉で騎士たちは立ち止まる。・・・が、止まれなかった男子生徒何名かが騎士の意識を奪い去った。


・・・どんまい。


王様がその玉座から立ち上がり、担任の元へと歩いていく。その後からお嬢さまと若い男が着いてくる。

余裕のある態度だ。王だからなのか、それともアホだからなのか、堂々と威圧感を放って一歩一歩近付いてくる。


「私はシャトラス王国国王『マルセラ・シャトラス』。戸惑いや怒りがあるのは分かる。ひとまず、私たちの話を聞いてはくれまいか」


王が頭を下げる。


臣下たちは慌てているが、俺たちからしたら当たり前。なぜそれを先にしなかった。俺達は誘拐されたんだぞ。反撃に出るのは当たり前だろう?

反撃するのって・・・・・・俺たちだけか?


「・・・分かった。だが、私の生徒になにかしてみろ。貴様の首を刎ねる」


懐から一瞬で引き抜いた漆黒のタガーを首元に突きつける。

首筋から一滴の血が垂れる。担任はその状態でなら話を聞いてやる。そう言ったのだ。


一国の王にとる態度としては大きすぎるが、この先生は生徒を守るためならば何だってする。この行き過ぎた行為もその一つだ。


首に突きつけられたタガーをものともせずに王はしっかりと頷き、口を開いた。


「私達は今、窮地に立たされている。他国からの侵略、魔族からの攻撃、神獣の暴走。大きな問題が幾つもある。このままいけば、私の国は数年と持たずに滅亡する」


魔族、神獣・・・ね。


「私は起死回生の一打として勇者の召喚を選んだ。これは他の世界から人間を攫ってくる謂わば誘拐と同じこと。だが、私は自国を守るためにこの選択をした。全ての生活は保証する。一生の安寧を約束する」


約束するって言われてもねぇ・・・・・・。

実際のところ、俺達は向こうの世界では将来を約束されていた。俺たちの通う学校は特殊で、成績優秀者だけが入れる特別校。クラスは勉強や部活動の成績により、EからAに分けられる。俺たちAクラスは内定を貰ってるやつもいれば、大学からのご指名を頂いてる者もいる。二年生で、だ。

そんなわけで、俺達は将来有望、将来安寧。


正直、俺達の努力が無くされたようで怒りが湧いてくる。


どうせ、帰れんのだろう?


「・・・・・・少々勝手がすぎるな。貴様ら王族の首すべて頂いてなおも足りない。ここにいる全員は貴様よりも余程世のため人のためになるからな。だが、今回ばかりは見逃してやる。私達も帰還の目処が立たないこの状況で、後ろ盾がないのも厳しいのでな」


ま、そうなるわな。


「貴様!王を侮辱す――ヒッ!」


先ほどの文官がまた調子に乗り始めたので、戦闘行為のできる男子生徒と担任で睨みつけてやる。ああいった馬鹿は調子に乗らすとろくなことにならねぇからな。本能に恐怖を埋め込んでいきたい。


「私達の世界では『働かざる者食うべからず』なんて言葉がある。貴様らが誠心誠意私たちをもてなすと言うならば、私もこいつらの代表として前線にたってやる。どうだ?」


「・・・そなたは強いが、一人では流石に足りぬ。この少年少女全員を食わすとなると、相当の働きが必要になるぞ?」


「安心しろ。私の生徒はとてつもく優秀だ。貴様らよりも財政管理も研究開発も農地作業も全て秀でている。この子達にも適性がある。それ通りにしてくれて言っているんだ。私は戦闘に強いが、ほかの者はそうではない。足でまといを連れていけるほど私は武を修めていないしな」


俺達にはそれぞれの専門分野がある。


例えば委員長。彼は政治政策、特に軍部において絶対的力を発揮する。頭脳戦最強の男だ。

例えば亜美。あの子は医学のスペシャリスト。幼少期から世界中の医療現場を覗き、そのスキルを習得していった。今では日本トップと肩を並べる。

例えば担任。彼女はとある国の特殊部隊で最強として君臨していた。どの国の軍部でも彼女の名前を知らない者はいないほど。

例えば『神谷 義之』。バスの中で陽気に歌っていたうちの一人。彼は農業分野の開発現場において最前線を走る男。


こんな風に日本を背負って立つような人材ばかり。

ここまで特殊なのは二年Aクラスくらいなものだが、うちの学校はこんな人間が集まってくる。


しかし、適性外のことに関しては才能がない。


つまり、亜美や義之が戦場に立ったところで瞬殺されるわけだ。我らが担任はそれを恐れていた。


担任の条件を飲んだ王は先程までタガーを突きつけていた担任に背中を見せながら若い男とお嬢さまの後ろに戻っていった。

わざわざ王様が背を向ける、というのは信頼を作りたいからだろうか。


「分かった。・・・よし、では職業と固有スキルの確認から入ろう」


わお、マジで異世界っぽい。


王様が振り返ってそう言うと、手前の若い男が半透明のカードを一人一人に配っていく。

王様が少し微笑んだことで、お嬢さまと男の緊張がほぐれたのか、少しだけ安心した顔をしている。


「・・・・・・これは?」


担任が訝しげに半透明のカードを調べていく。


「それはステータスカード。この世界で最も重要なカードだ。魔力を込めるとその人物に所有者が固定され、異空間に収納される。取り出しは思い浮かべるだけでいい」


「・・・魔力・・・・・・」


「どうした?」


「いや、私たちの世界では魔力なんてものは存在しなくてな。少々戸惑っている。魔力とは一体なんだ?」


「・・・っ!そ、そうか。先ほどの戦闘は魔力を使っていないのか。・・・それでアレか。少しばかりヘコむが、今は気にする必要は無いか。・・・マリウス、説明を」


担任が魔力について尋ねると、王様が近くにいたカードを配った男に説明させる。


その男の説明によると、魔力とは体内に循環するエネルギーのことで、人々はそれを使って肉体の強化や魔法を発動させるようだ。血液とほぼ同じ道をたどって体中を回るそうだ。

最初はよくわからなかったが、血液に意識を集中させると、僅かながらその魔力とやらを感じることが出来た。


ふむふむ。


感覚があるだけに不思議だな。

イメージ的には酸素のように血液に混ざって体内を巡っているような感じだ。だが、酸素のように感じないものではなく、意識すればそこにあることが分かる。

俺達には未知の領域だ。

異世界に来たことが関係してるのだろう。


「なるほど、これが魔力か。興味深い」


研究科タイプの峰がそう呟いた。

彼ならば今よりも分かりやすい説明をしてくれそうだな。


さて、この魔力をカードにインプットさせればいいわけだな?


魔力を集中させると、半透明のカードに文字が浮かび上がってくる。


『氏名:横井 新一 職業:神魔騎士 固有スキル:神魔槍』


ほぉ?


これは、俺のゲームステータスだぞぉ・・・?




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