1 リサと、リサの安らぎの魔法
魔法少女の秘密 1
魔法少女は、魔法少女の気配が分かる。
どこの学校にも耳をぴくぴくと動かせる人がひとりはいるもので、それと同じようにリサは魔法を使うことが出来た。誰に教わるでもなく、何か特殊な訓練をするでもなく、気がついたら使えるようになっていた。
他人にはそんなことができないと知るのは小学生になってからで、それからはできるだけ目立たないように、そのささやかな魔法は使わないようにしている。
普通の女子中学生として生きるには魔法なんて邪魔なだけで、リサは普通の女子中学生として生きられればそれで充分だ。
それでも、たまに例外はある。
例えば、行きつけのバッティングセンターで小さな男の子が泣いている姿を見つけてしまった時だ。
まだ年齢が二桁にも達していない男の子が顔を押さえて泣いている様子を見て、リサはまず周りを見回した。
日曜日の昼間のバッティングセンターに人は少なく、その子の親らしき人もいなかった。打席への扉が並ぶ通路は奥に行くほど球速が遅くなる仕組みで、男の子が泣いている一番奥の辺りにはその子以外には誰もいない。
リサのいる辺りには大人が何人かいたが、ちらりとその子を見るだけか、そもそもその子に気づいていない。
仕方ない、とリサはその男の子の方に歩く。中年の男が興味深そうにリサを見るが、睨んでやると視線をそらして、煙草を灰皿に押し込んだ。
リサは男の子の横にしゃがみ込んで話しかける。
「どうしたの?」
男の子が泣き声混じりに説明するのを根気強く聞くと、どうにもボールが顔に当たってしまったらしい。
一番遅い打席でも、ピッチングマシーンが投げるボールの速度は八〇キロで、それが顔に当たれば確かに痛いだろう。ここのボールが硬球ではなくて軟球で良かったとリサが思う。
それでも痛いものは痛い。男の子が泣き続けるので、リサは周りの誰もこちらを見ていないことを確認してから男の子の手を顔から外させた。泣きはらした真っ赤な顔が困ったようにリサを見るので、リサは微笑んでやってから右手をそっと赤くなった鼻の横に当てた。
「当たったのはここ?」
「うん」
リサは強く触れないように気をつけながら右手でそこを擦った。
「痛いの痛いの、飛んで行けー」
日本中の母親が幼い子供にかけてあげるそのおまじないは、ただの気休めでしかない。子供扱いされたと感じて、その男の子は少しむっとしたような顔をする。
あれ? と、その顔が不思議そうにぽかんと口を開けた。
「いたく、ない?」
「お姉さんのおまじないはよく効くの」
からかうようにリサはそう言うと、男の子の頭を軽く叩いてその場を離れた。
そこそこ速い球速の打席の辺りで空いている場所を見つけて、そこに入る。
バッターボックスの後ろの機械にコインを入れると、モニターに電源が入りデシタル映像のピッチャーがマウンドに姿を現した。
リサは堂に入ったようにバットを構えて、投げられた白球を叩きつける。ライナー性の当たりは施設の奥のネットを揺らした。
女子中学生らしくない爽快な打球は少ない客の注目を集めたが、リサには慣れたものだ。ここに通い始めて二年近く、常連の客以外はどうしたって女子がいるとぎょっとする。それが鋭い打球を飛ばせばなおさらだ。
次々と投げられるボールを、金属バットで引っ叩いていく。
思い切り体を動かすことは気持ちがいい。ジャージを来ているので、何も気にせずにスイングできる。
順番待ちをしている人もいなかったので同じ打席でしばらく打っていると、右隣の打席に入る人影があった。それを見た瞬間、リサは少し驚く。
女子だ。自分と同じくらいの年齢。この辺りでは珍しく、オシャレな服装の。
その女子はちらりとリサを見ると、背中を向けてバットを構える。そして意外なほどかっこいいフォームで、バットを振って、快音を鳴らした。
隣の打席はリサと同じ球速だったが、その女子はリサと同じかそれ以上に鋭い打球を飛ばす。
水色のフレアスカートが広がる様もまるでダンスの一部のように綺麗だ。それに、何か不思議なオーラというか、目を奪われるような何かをリサは感じる。
もしかして芸能人だろうか、とリサが思う。テレビをあまり見ないので詳しくないけれど、これが芸能人のオーラだと言われれば納得できそうだ。
先にリサの方が決められた球数を終えて、打席から出た。ベンチに置いていた鞄から水筒を取り出して麦茶を飲んでいると、例の女子も打席を出てきた。その女子を見ていると何か不思議な感覚がある。目を離せないでいると、その女子はリサの方を見て微笑んだ。
「こんにちは」
不思議な雰囲気の女子の声は、普通だった。
そのことに少し安心したリサは挨拶を返す。
「こんにちは」
「ねえ、きみ、魔法少女でしょ?」
何でもないようにその女子が聞いた。
リサの方はパニックだ。魔法少女なんて言葉は子供向けアニメでしか聞いたことがなく、誰かの口からお前はそれかと尋ねられるなんて想像もしたことがない。しかも、リサは魔法が使えるのだ。
あの魔法のことを言っているのか? それを魔法少女と言っているの? それともただ頭がおかしい人?
疑問ばかり浮かんで固まってしまうリサに、その少女が微笑んで質問を変えた。
「きみは、この辺りの、ええと、たしか、奈川中学校の人?」
今度の質問は簡単に答えられることだった。
「そうだけど……」
リサは戸惑いながら答える。
その答えを聞いてその女子は納得したように頷いた。
「そっかそっか、地元民なんだね。そうか、それはあんまり考えてなかったな。そうだよね、いても全然おかしくないよね」
感情の垂れ流し、と表現できる言葉を少女が話す。
おかしくないよね、と言われても何のことかリサには分からない。
やっぱり頭がおかしい人なのかと疑いの目を向けるリサに、その女子は再び微笑む。
「今ね、この街には魔法少女が集まってるんだよ」
楽しそうにその女子が言った。
* *
「私のことは、ミカでいいよ。私もきみのこと、リサって呼ぶね」
涼しい空間はミカと名乗ったその女子に連れられて入ったチェーンの喫茶店だった。ミカはデザートかドリンクか分からない甘ったるそうなものを頼み、リサは一番安かったコーヒーに、これでもかとミルクを入れてどうにか苦い液体を飲み込んでいた。
喫茶店なんて、リサは入ったことがない。ジャージ姿も相まって居心地の悪さを感じていたが、ミカはそれに気づいてくれそうになかった。
ミカはにこにこと楽しそうに鞄から出したノートパソコンの画面をリサに見せる。
シンプルな画面にはポップなフォントで「マギカフェ」とだけ書かれている。
「これが魔法少女御用達の情報交換サイト。URL、短いから覚えといた方がいいよ」
十一文字の英数字はマギカフェというカタカナをそのままアルファベットにしたもので、覚えようとしなくても忘れられないものだった。
ミカは右下のログインという小さな文字を押して、何かパスワードを入力した。するとシンプルな画面が切り替わり、ごちゃごちゃと色々書かれたページが表示される。
「登録すると色々見れるんだ。マギカフェからのニュースとか、利用者同士の掲示板とか。きみは、まずここを見た方がいいかな」
ミカは「マギカフェとは?」という文字を押して、ノートパソコンをリサに渡した。
相変わらずポップな文字は、マギカフェというサイトについて説明していた。
マギカフェとは?
マギカフェとは、魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのサイトです。
あなたは自分が魔法を使えることを誰にも話せずにいませんか?
自分の能力が何なのか分からずに、不安になっていませんか?
同じような悩みを抱える魔法少女は日本中にたくさんいます。
マギカフェは、そんな魔法少女達がコミュニケーションを取り、悩みを解決したり、相談事をしたり、有益な情報を共有したりすることで少しでも皆さんの役に立てればと思い、解説したサイトです。
私達がなぜ魔法を使えるのか、そもそも魔法とは何なのか。それはまだ誰も知りません。
しかし、ひとりひとりが少しずつでも知っていることを共有すれば、魔法少女として生きるのが上手になることでしょう。
このサイトに皆さんの不安や悩みを解決するお手伝いができれば幸いです。
そのページからは「魔法少女とは」、「初心者魔法少女のための掲示板」、「よくある質問」などのリンクが続いていた。
なるほど、とリサは思う。どうやら自分が思っていたよりも魔法を使える人は多く、そして魔法を使える人を魔法少女と呼ぶらしい。少女以外に魔法が使える人はいないのだろうかという疑問もあったが、それよりも驚きが勝る。
感心してリサが呟いた。
「こんなサイト、全然知らなかった」
「人が多い都市だと口コミで広がったりするんだけどね。悪いけど、奈川県って田舎だから」
「山の方だからね。日本のおへその県だから」
日本列島の中心に位置する奈川県だが、それはつまり県のほとんどを山が占めていることを示すものだ。盆地にできた県庁所在地の奈川市も人口はそれほど多くない。
ミカの言う田舎という単語を否定できないような県と市で、しかし、では、どうしてミカはそんな所に来たのだろうか。
彼女はなんとわざわざ東京から来たという。電車賃も馬鹿にならない。ここのコーヒーが二〇杯は飲めるだろう。
そのことを尋ねると、ミカはよくぞ聞いてくれた、と再びノートパソコンを画面が二人で見れる位置に戻す。そのまま掲示板までページを進め、その中に書かれた文章を見せた。
その儀式は世界から魔法を消失させる。
誰か、一緒に止めてくれないか。
リサはそれを二回ほど読みなおして、ミカの方を見る。
「どういう意味?」
「さあ」
「さあ、って」
ミカの返答にリサは納得が行かない。
そもそもこれは何故ミカが奈川市に来たのかの答えになっているのだろうか。
ミカは画面をスクロールしながら真面目な口調で続きを述べた。
「みんな、この文章はなんだって疑問に思った。そもそもこれは、マギカフェのトップページに載った文章なんだ。管理人が言うには、誰かが不正にページをいじったらしくて、自分は知らないって。
何のいたずらか分からないけど、とりあえず害は無い。それがひとまずの結論」
ミカはストローに口をつけて中身をすすった。あんな甘そうなもので喉が潤うのか、とリサは疑問に思うが、ミカは気にせずに言葉を続ける。
「次に、今度は掲示板にさっきの続きらしき文章が書かれたの。ええと、あった、これ」
ミカが示した文章は短かった。
最初の儀式は既に佐賀で。
「これも変ないたずらと思われたんだけどね、佐賀市に住んでいるっていう魔法少女が掲示板で騒ぎ出したの。急に魔法が使えなくなったって。
いたずらの便乗にしては数が多すぎて、どうもこの儀式とやらは本当なんじゃないかって言われ始めたの。これが先月ね。みんな半信半疑だけど、儀式のことを気にして、色々議論が行われてたんだけど、二日前にこれが書かれたの」
ミカが示した文章は、リサにとって馴染みある地名が書いてった。
次の儀式は奈川で。
葉の月が満ちる日に。
奈川なんて地名はここ奈川県奈川市くらいで、その文章が正しければ次に儀式が起きるのはこの街らしい。
リサは正直に言えば、あまり現実感が無かった。自分以外に魔法を使える人がいるということすら知ったばかりで、マギカフェだ、儀式だ、新しいことが多すぎる。そもそも本当にそれは正しいのかも分からない。魔法少女だというけれど、ミカの魔法を見せてもらっていないし、日本中にいるという魔法少女も、今はネットサイトの文字でしか存在していない。
疑うようなリサの視線に気づかずに、ミカは儀式の話を続ける。
「葉の月が満ちる日、は、八月の満月の日だろうってすぐに結論が出た。これは八月十日で、今日が七月の二五日だから、あと十五日。
夏休みってこともあって、その儀式を調べにたくさんの魔法少女がね」
「ねえ、その、ちょっと待って」
リサは慌ててミカの話を止めた。
「色々急すぎるよ。ちょっと待って。その、なに、ええと、そもそもどうして私が魔法を使えるって分かったの?」
「……」
リサの質問にミカは答えない。
無視されたと思ったリサが文句を言おうとすると、どうもミカの様子がおかしいことに気づく。
何か、怯えているような。
ミカは青ざめた顔でリサの後ろの方、つまり、店の入口の辺りを見て固まっている。
その視線を追って振り向くと、リサやミカと同じ年くらいの少女がふたりが入店してきたところだった。ショートパンツが活発的な印象のひとりと、夏だというのに長袖を来たもうひとり。
ふたりを見ていると、リサは妙な感じを受けた。ミカを見た時にも感じる、不思議なオーラのような何か。ショートパンツを履いた方には、特にその妙なオーラを強く感じる。
ノートパソコンを閉じる音がして机の方に視線を戻すと、ミカが青ざめた顔のままそれを鞄にしまっていた。
そして震える声で言う。
「なんで魔法が使えるか分かるか、だよね。ねえ、あいつらを見ると、何か妙なものを感じるでしょ? それに私からも」
「え、う、うん」
「それが魔法が使える、つまり魔法少女だっていう証なの。魔法少女は、同類の気配が分かるってこと。
あいつらもこっちを見れば私達に気づく」
「なるほど」
「あのね、多分、すごく混乱するだろうけど、聞いて」
ミカが声をひそめて真面目なトーンで言った。
「すぐに逃げるから着いてきて。あいつは危険なの」
「危険って」
ただの女の子にしか見えないけど、とリサが振り向くと、そのショートパンツの女子がリサ達の方を見ていた。
その女子が、口元を歪めて笑う。
ぞくりとした悪寒をリサは感じた。
何だ、と思うのと同時に大きな音が背後で生じた。発泡スチロールを割ったときのような音。ただし、スケールは何倍も大きい。リサは何かが爆発したかと思った。
振り返ると、頑丈そうな机が中央を折り目にして壊れていく光景が目に入った。谷に吸い込まれるようにカップや紙ナプキンが落ちていく。机の断面や小物が床にぶつかって耳障りな音をたてる。
意味が分からない。
何が起きた?
破壊された机の向こう側でミカはすでに立ち上がっていた。そして素早い動作で、混乱するリサの手を取って走りだす。
二人が向かう店の出入り口は、例の二人が立っている。ショートパンツの女子はにやにやと意地の悪そうな笑顔でミカとリサを眺めた。
その女子の、妙な気配が大きくなる。再びリサにぞくりと悪寒が生じる。
先ほどの机を壊したのと同じことを、今度は人に向けてやる気だと直感する。
「私達の姿が見えない!」
突然ミカがそう叫び、リサを引っ張って横に飛び跳ねた。
一瞬前まで二人がいた場所の後ろで、今度は椅子が砕けて散らばった。
「な、なに?」
散らばった椅子の木片を頬で受け止めながらリサは怯えたように言った。その言葉は店内にいた客や店員が騒ぐ声に紛れていたが、ミカは鋭くリサを睨んだ。
しい、っとミカがリサの前で人差し指をたてる。
それから目線だけで例の二人の女子の方を示すのでリサも見てみると、その二人は不思議そうに周囲を見回していた。何かを探している。
「今、みんな私達のことが見えないの」
ミカがそう囁く。
その言葉通り、例の二人だけでなく、店員や客達もミカとリサのことが見えていないようだった。突然壊れた机と椅子を見て騒然としているが、リサ達に視線を向けている者はいない。
「今のうちに逃げるよ」
リサの手を引いてミカは出口に向かう。
二人の間近を通っても気づかれない。どうやら本当に見えていないらしい。例の二人が店内を見ている間に、ドアベルを鳴らさないようにゆっくりと扉を開けて外に出た。
リサの手を握ったままミカが走る。一刻も早く離れたいといった様子だ。
そのミカの右足が、脛の辺りで突然折れた。
「え?」
「きゃあっ」
驚きながら倒れこむミカに巻き込まれて、リサも地面に繋いだままの手をつく。
振り向くと、店から出た先ほどの二人がミカの方を見ている。長袖の女子の方はミカを指差していた。
「何で? 見えないくせに!」
ミカは混乱しながら必死に立ち上がろうとするが、右足が折れていて上手くいかない。激痛がさらに冷静さを奪っていた。
先ほどのふたりは余裕を示すようにゆっくりと近づいてきていた。
まるでゾンビ映画だ、とリサはどこか脳天気な感想を浮かべる。同時に、事態の切迫さも感じていた。状況は何一つわからないけれど、どう考えても友好的な二人ではない。
逃げなければいけないのだが、リサが手を貸してもミカはうまく立ち上がれない。
後ろの二人は、走れば五秒もかからない距離まで近づいている。
「やばい、やばい、やばい」
ミカの呟く言葉が、そのやばさとやらを端的に表している。
「ねえ、君達、大丈夫?」
不意に通行人が声をかけてきた。
リサが返事をする前にその通行人は素早くリサの反対側に周り、ミカに腕を回して助け起こした。
「そこの路地裏に入るよ」
すぐ横のビルとビルの間にミカを運ぼうとするので、反対側からミカを支えているリサもそちらに行かざるをえない。
ようやくその通行人の姿を見る余裕ができると、リサは驚いた。同年代の、不思議なオーラを纏った少女。
今日で四人目の魔法少女とやらだ。
黒い帽子を被ったその少女は、突然ミカごとリサを引っ張って路地裏に投げ込んだ。
「ちょっと!」
文句を言おうとしたリサの視界で、先程までいた歩道のアスファルトが砕けた。
まだ歩道に立っている黒い帽子の少女が何かを避けるように横へ飛ぶと、今度は彼女が立っていた場所の少し後ろでアスファルトが砕ける。意外に甲高い音だった。
「ったく、見境ないなあ。危ない危ない」
黒い帽子の少女は生意気な弟に呆れるような口調でそう言うと、路地裏に飛び込んできた。
それからミカとリサに向けて微笑む。
「よし、じゃあふたりとも目をつむって」
「え?」
意味の分からない指示にリサが戸惑う。
「リサ、従って」
折れた足の痛みに顔を歪めたミカが言った。彼女の方はすでに目を閉じている。
意味は分からないが従ったほうがいいだろう、とリサも目を閉じてみせた。
「よし、じゃあいくよ」
リサの襟首を誰かが掴んだ。おそらく黒い帽子の少女だろう。
あの魔法少女の気配とかいう不思議な感覚が何度も強くなって、何度目かの不思議な気配のあと、ようやく襟首が離された。
「はい、お疲れ様。もう目を開けていいよ」
言われた通りにリサが瞼を開くと、そこは路地裏ではなかった。
周囲のほとんどが青空。コンクリートの地面は少し汚れていて、柵で区切られた向こうには地面は無く、ビルの上の方だけが見えた。
屋上だ、とリサがようやく理解する。
先程まで路地裏にいたはずなのに。
右足の痛みにあえぐミカが、その疑問を解決するように言った。
「流石、瞬間移動の魔法はすごいね」
「瞬間移動?」
そんな魔法みたいな! と言いかけてリサが言葉を飲み込む。
そうだ、この人達は魔法少女だった。自分の魔法はささやかなものだが、魔法なのだからそういう凄い効果のものだってあるのだろう。
黒い帽子の少女は驚いた顔のリサを見て、頷いてみせた。
「そう、瞬間移動。『影渡り』なんて言われたりもするけどね」
「すごい! 魔法ってそんなのもできるんですね!」
「すごいよねえ魔法って」
黒い帽子の少女は呑気な口調でそう返す。
へえ、と感心するリサに反対にミカは呆れたように言う。
「そんなことができるのはあんただけだよ、黒帽子」
「ああ、やっぱり知ってたんだ、ボクのこと」
一人称はボクなんだ、と場違いなことを考えるリサ。
ミカは挑発するように頷いてみせた。
「どっちの派閥にも属さない最強の魔法少女のことを、知らないわけがない」
最強と呼ばれた少女は、少しだけ困ったように肩をすくめた。