表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~希望が丘駅前商店街 番外編~ 黒猫狂想曲  作者: 白い黒猫
黒猫名物~シークレットライブ~ (Jazz奏者Kenjiと寂し気な目をした男)
1/6

verse 

コチラの物語『スモークキャットは懐かない?』という物語の主人公が黒猫を訪れたという描写があったことから生まれた物語。『希望が丘商店街シリーズ』の時代より二十年程経過した世界になっています。その為にKenjiとイリーナ夫婦の間にも十六歳となる子供がいたり、透くんもとっくに結婚していて子供もいるという状況になっています。

 日本で知り合いのやっているjazzbar黒猫に来ると、帰ってきたという気持ちになる。その為か日本での仕事の時は実家ではなくコッチについつい帰っている。まあ俺の親もコンサートホールの楽屋で孫に会わせてあげたから満足はしているだろう。  

 娘のマリアにもこのアルコールと煙草の香りに満ちた程よくホットな熱気に満ちた空気は肌に合っていたのだろう。奏でる音がいつも以上に生き生きとハジけていやがる。マリアの音は俺の音よりも野生的で、そして若さ故にギラギラと尖っていて面白い。

 俺はそんな音を時にはつつき、時には寄り添いとセッションを楽しんでいた。

 俺達の子供で母親の美貌と両親の音楽の才能を受け継いだ子供という事で下積み無しで十六歳という若さでいきなり華々しくデビューしてしまったマリアにもこういうJazzBarの空気を味わって貰いたかったから此処に連れてきた。娘は困った事にまだ客を楽しませるのではなく、自分が一番楽しむ為の演奏しか出来ていない。だからこそマリアは客の反応がこの距離で感じられるここは勉強になるだろう。日本人は基本お行儀良いからこの距離で演奏させても安心というのもある。マリアも此処の刺激も新鮮で楽かったのだろう。良い感じにハイになっていて、アッシュカラーの髪を振り乱してヴァイオリンを奏でている。


 俺達の演奏とアルコールで良い感じにホットになっている客席へと視線を巡らせる。この店の現オーナーでフロアーを仕切っている(ユキ)ちゃんの姿が見えた。出会った頃の青くて固い感じも良かったが、年を重ね良い感じに色気も増し熟成している今も美味しそうだ。ソムリエエプロンに包まれたひき締まった尻がまた唆る。

 透ちゃんが俺の視線に気がついたのか俺の方を見てフワリと笑う。変わらず無防備なその表情がまた可愛い。

 食っちまいたいのだが、流石に恩ある友人の秘蔵子である彼には手は出せない。カウンターに目を動かすと友人の杜が目を細めて別の意味でゾワリとさせる視線で俺を見ていやがる。俺は苦笑を返し、更に視線を店内に巡らせる。そしてカウンターの所に二十代位の若い男を見つけた。

 陽気な酔いに満ちたこの店の空気の中でその男の冷静に見える表情は浮いていた。俺達の演奏に興味ないという訳でなく、カウンターを背にグラスを手に薄い笑みを浮かべ楽しんではいるようだが、その瞳には愁いがあり心の半分は別の所にある感じ。どこか虚ろなその感じがこの熱気に満ちた店の中で浮いている。男は俺の視線に気が付いたのかメインである娘から俺の方を見て首を傾げた。俺はソイツを見ているが事を知らせる為にニヤリと笑ってやる。そして唇だけで、メッセージを送る『タ・ノ・シ・メ!』と。

 男が目を見開くのを確認してから、俺はピアノに指を走らせよりアップテンポに華やかな演奏へと変化させる。娘はいきなり音を変えた事に驚きコチラをチラリと見るが、俺の表情から何か読み取ったのか俺の音に乗ってくる。再びは男の表情を見守ると、だんだん気分ものってきたようでその悦の色を表情に滲ませ、熱を帯びた瞳で舞台を見つめるようになってくる。それで良い。興奮したきた表情により色気も増す。俺のライブ会場は余計な日常の感情やら想いなんて持ち込みは不要である。此処では音にだけをその身体に満たせば良い。俺はさらに盛り上げるべく指を鍵盤の上で躍らせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ