5ショートストーリーズ2 その3【占い】
いつも元気な妹が入院した。俺は花束を持ってお見舞いに駆けつけるのだが…
体だけは丈夫な妹が入院した。
病名は…まあ、個人情報保護がうるさい今のご時世、大した
病気じゃない、とだけ言っておこう。
とにかく、妹が入院したので見舞いに行く事にした。
こいつは、おおざっぱな性格なのだが、根に持つと結構うるさい
奴なのだ。
たった一人の可愛い妹が入院したのに見舞いにも来なかったと、
この先何年も言われ続けたら、そりゃこっちの方が病気になるかも
しれない。もちろん手ぶらじゃ行けやしない。
そこで俺は病院の傍の花屋に寄った。いつもだったら冗談のつも
りで、わざと鉢植えの花を買い
「根がある花は 根づく、つまり寝付くに繋がるから、お見舞いに
持って行っては絶対にダメなんだぞ。お前もいい勉強になっただ
ろ?」
そう言ってニヤッと笑う事位はするのだが、彼女も初めての入院。
気弱になってるかもと慮り、いかにも元気の出そう
な色とりどりのガーベラの花束を手にした、という訳なのだ。
受付で病室を教えてもらい、行ってみると小児科病棟だった。
小児科? いくら妹が小柄で童顔だとは言っても、カルテを見れば
年齢位はすぐにでも分かりそうなものなのに。
教えてもらった病室はいわゆる相部屋で、妹の名前を含め、4人の
名前のカードが貼り出されていた。
ここは小児科病棟のはずなのに、子供の声はほとんどしない。後
で妹に教えてもらったのだが、子供の数が減った影響もあり、空い
てる部屋を増えた老人達とその他、で使っているらしい。
まあ、とりあえず、妹の元気そうな顔を見て安心もした。医者の
話では一週間くらいで退院できるとの事だった。
相部屋の他のメンバーはすべてお婆さん達で、一人が軽い肺炎、
一人が足の打撲、もう一人が食欲不振による検査入院、だった。
彼女らは入院患者の割には元気そうに見えて、ずっとおしゃべり
をしているのだ。普段妹もその話の輪に入り、楽しんでいるらしい。
妹が俺に耳打ちした。
「ねえ、おにい、あの人ちょっとすごいのよ。地元じゃ有名な占い
師さんなんだって!」
「占い師だって?」
妹が窓際のベッドの方をチラッと見た。
「うん、暇つぶしにタダでみんなを見てあげてるの。私もみてもら
ったの」
「へえ」
その占い師がゆっくりと立ち上がり、
「それじゃ、談話室に行ってくる。今日も頼まれているからの」
ひとり言のように占い師はそう言うと、病室から出て行った。
談話室? あの、テレビがある待合室みたいなところか。俺は興
味津々で妹に聞いてみた。
「俺も談話室に行ってもいいかな?」
「いいんじゃない?」
妹は他人の占いには興味が無いらしく、花瓶の用意をしている。
俺はそっと談話室に入った。そこは割と広めのサロン風で、大型
テレビといくつかのソファ、雑誌や漫画、本などが用意されている。
そこのソファには数人の入院患者と思しき人達が、占い師を囲ん
で座っている。
俺は少し離れた所に座り、聞き耳を立てた。
「では早速じゃが占いましょ」
占い師が、四十半ば位のご婦人の顔をじっと見て言った。
「う~む、ズバリ、あんた、体に悪いところがあるね?」
周りのみんなは思わず感嘆の声をあげた。
「お~お! 当たってる」
「ズバリじゃ!」
占い師は満面の笑顔。周りのみんなは目がキラキラしてる。
え? ちょっと待てよ? ここ病院だぞ? 入院患者さんが相
手だぞ? ズバリって、あんた…
そう思った俺は、妹の所に戻った。
「なあ、あの占い師さん、お前にはなんて言ったんだ?」
そう勢い込んで訊ねる俺に妹は言った。
「うん、あんた、これまで健康だったのに、最近ツイてないことが
あったねって当てられたの。スゴイよね、さすが地元では有名な占
い師さんだけのコトは…」
俺はもう何も言わずに帰ることにした。妹にも義理は果たせたし。
帰り際、俺は思った。占いなんて多かれ少なかれ、そんなもんな
んだ。朝の情報番組の占いを、大真面目に信じるのはもうやめよう。
今日の俺のラッキーカラー、黄色のシャツが目に沁みる、昼下が
りの病院だった。
占いはあくまでも占い。盲信はダメですよね。