神様の愛は執拗に…
神の寵児シリーズ『神の寵児アン・リードの異世界学園生活!』の卒業後の物語です。この終わり方は最初に決めていたのですが、アンにとってはハッピーエンドといえるのかどうか…?なので、短編として掲載しました。
前世では神様の愛が重過ぎた。きっと歯車が少しずつ狂ってしまったのだ。そして、二十歳を目前に最期を迎えることになった。しかし、今世では当初望んだような平凡な生活を送れたわけではなかったが、なんとか二十歳を迎えることができた。
学園を卒業し皇太子妃の教育を受け始めて2年後、私は二十歳を迎えた。晴れてレオナルド王子と婚姻を結び、皇太子妃となったのだ。皇太子の婚姻の儀は国を上げての盛大なもので、婚約期間を2年とって準備をするというのも納得の儀式だった。
衣装の準備は、今思い返しても大変だった…。繊細で触れるのも躊躇われるほどのレース…目が眩む程の宝飾品…皇太子妃として戴く優美なティアラ…。しかも、ドレスは1着だけでなく、何着も必要なのだ。婚姻の儀用のドレス、お披露目のパレード用のドレス、舞踏会用のドレスは数着…。それらをすべて皇太子妃として相応しいドレスに仕上げなければいけないのだから、2年というのは決して長過ぎなかった。
(仮縫いの日は他に何もできなかったな…。お針子さん達は睡眠時間も削ってくれていたのだろうけど…)
皇王陛下が退位なさって、レオナルド様が即位されてからは、私も皇后となり彼を支えた。それまでの間に、子どもも二男一女に恵まれた。レオナルド様似の長男に、私似の長女、二人の特徴を半々くらいに受け継いだ次男、と三者三様だったのだけど…。見事に瞳だけは、レオナルド様と同じアメジストのような紫の瞳だった。
(王家の遺伝子ってすごい!傍系の方は直系の王族ほど濃い紫色ではないけれど、王家の血を少しでも受け継いだ方達はみんな紫の瞳なんだもの!)
レオナルド様が退位し長男のレイモンドが即位した後は、ゆっくり余生を過ごせるかとも思っていたが、皇太后としての役割とやらを任され、レオナルド様も何かと忙しく、晩年になるまで中々ゆっくりとはできなかった。
晩年だけは、休養を要求!そして、レオナルド様と最低限のお供だけを連れて避暑地を巡ったりなど、なんとかゆっくり過ごせたのだけど。
そんな晩年までの多忙な公務の合間を縫うようにして、研究所での魔法の研究も続けた。成果は確実に出て、格段に魔法の研究を発展させることができた。全属性を扱えるということと、滅多に尽きることのない豊富な魔力を持つということは、実験に最適なのだ。古代語で書かれた記述を読み解いても、実験をしてみなければ読み解いた結果が正しいかどうかがわからない。それには、何十回もの検証が必要である。
もちろん実験といっても、王宮の練習所で安全を確保されてのことだけど。騎士様にも護衛されてる研究者って…。なんか申し訳なさもあったのだけれど。
また、これまでにない規模の結界の構築にも携わった。今までの結界の数十倍はあるかと思われる規模のものだ。オスラン皇国の結界はあと数百年…いやそれ以上でも揺らぐことはないかもしれない。
外交として同盟国にも訪問することも多かった。もちろん、皇国に同盟国の王族を招くことも同じくらい多くあった。気候の良い時期は連日連夜パーティー漬けだ。そこで、重要な会談も行われるのだから、全く気は抜けないのだが。
そんな風にめまぐるしい一生だったけれど、レオナルド様と添い遂げることができ、私はとても幸せだった。
納得のいかないこともあったけどね。例えばこれは些細に思えることかもしれないのだが…。
全属性持ちの神の寵児で、既知の全魔法を習得済み、他国にも強い影響力を持つ皇国の皇后…。そんな私に与えられた影の称号は『最強の女帝』だそうだ…。
(いや、レオナルド様が皇王なのであって、私は王様でも帝でもないから!権力もレオナルド様ほどないから!最強でも…多分ない?)
魔法に関していえば、未だに全属性持ちは現れていないし、最強と言われても仕方ないのかもしれないけど、武術は相変わらずさっぱりだし、魔法以外はちっとも『最強』なんかではないのだ。
ちなみに、この不名誉な称号は相変わらず情報通なアリーネから教えてもらった。彼女は研究者を経て、家業の【ブラウン商会】の経営者になった。リラン、ジェシカと共にお互いが孫を持つ歳になっても、交流が続いている。
そんな波乱万丈な人生だったけれど、そろそろ終わりを迎えるみたいだ。アンとしての最期にまた夢をみた。【杏】の人生の最期に見た夢と同じ。また夢の中に神様達が現れた。
そろそろ、アンとしての人生も最期を迎えるのか…。また転生するのかな…などと、わりかしのんきに考えていたのだが、驚きの言葉が神様から発せられていく。
神様は語った。
今回は転生はしないということ。
実は前回の転生は特例で、神様の元へ戻るための必要な過程だったのだということ。
神の寵愛を得て、本来あるべき世界で命を完うした魂は、神々が強く望むと神様の世界へいけるのだということ。
神々は私の魂が神々の住む世界に来ることを、ずっと望んでいたのだということ。
私は、本来生まれるべき世界とは異なる世界に杏として生まれてしまった。その為、干渉が難しい異世界で私の魂を必死に守ろうとし過ぎて暴走してしまったのだが…。
なんとか、元の世界に転生させることができ、今度は無事に守り抜き人生を完うさせることができた。だから、神々が住む世界に…?
(ん?神々が住む世界に行くとどうなるのだろう?)
疑問に思い問いかけてみる。すると、神様はあっさりと答えてくれた。
『神々の花嫁に望まれるのだ』と。
なんだって!?驚いて、どういうことかと問いただそうとしたのに、神様達は『また会おう』と言って立ち去ってしまった。
(神々の花嫁って!?今度は加護を受けるとかじゃなく、直接神様に愛されるということ!?)
神様の愛は私が思った以上に…執拗だったようだ。来世があるなら、来世こそは愛情は程々に!とお願いしたかったのに、それどころじゃなかった…!
その後、私は夢で告げられた通り、今世の生を終えた後、神々の住む世界に住まうことになった。そして、光神・火神・水神・風神・地神、そして闇神からそれぞれ花嫁に望まれ…という、平凡とはかけ離れた世界に生きることとなった。しかも、神々の世界では私の命も永遠で…。
神々の住まうこの世界での話は簡単には語り尽くせない。それは、また別のお話だ・・・。
最後まで読んでいただきありがとうございました。また何か掲載する事があるかもしれません。その時は目に止めていただけると嬉しいです。