晴れ間
息が白い。
空は重く、灰色だ。
寒い。ひどく寒い。
僕は凍えた指先に息をはいた。
少しも温まりはしない。
なぜ僕はここにいるのだろう。
1度も来たことが無いはずなのに。知らないはずなのに、
ひどく懐かしい。
目の前を通り過ぎてゆく、人、人、人、
誰も僕に気づきはしない。
誰も僕に気づいてくれない。
たまに、僕のほうを振り返る人がいる。
僕は死んだ。確かに死んだ。
何も覚えてはいない。
ただ僕の心で燻っているのは、
「死」という残酷な記憶。
僕の足元には、綺麗な花が置かれている。
僕が死んだのは、ずっと昔ではないらしい。最近だ。
僕の家族。友達。いたかは分からないけど、愛しい恋人。
何も覚えてはいないのだから、
僕に語りかけていた「家族」も、ピンとこなかった。
多分、父であろう人は僕に「なぜ自殺なんかしたんだ」と言っていた。
僕は、自殺したのか。
そう思ったけど、別に悔しくはなかった。
今、僕の足元で僕の名前を呼び、泣き崩れている女の人は、多分恋人。
僕の愛していた人だ。
そう思うと熱くなった。
僕はここで「誰か」を待っている。
漠然とだが、分かる。
とても逢いたい。
ただ、今ここで泣き崩れる恋人でも、家族でもないことは分かる。
早く逢いたいな、
その「誰か」が来てくれるまで、僕は待つよ。ここで。
いつまでも、
逢わないと、僕は楽になれないと思うから。