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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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95話 雪国の地上戦




「よし、降下する敵を叩くぞ」

「了解しました」


 アル様の選択は降下する敵兵を一掃する事のようだ。やはり味方重視という事が伺えるな。落下していく敵船からは沢山の落下傘が生まれていた。大破した浮遊船が味方の陣地に突っ込むかと思われたが、その気配はなく明後日の方へと下降していく。


 アル様の操縦する機体は急降下すると同時に通信が入る。


「こちらヒロです。アル様、変身の許可を頂きたい!」

「よかろう。私が許す、王国騎士の力を連中に思い知らせてやれ。ふー・・・大神の末裔たる我は勝利を願う。我が臣下の為、ここに轟け王者の雷名よ! 響け騎士の誇り! 我等正義と友情を胸に剣をとる! 顕現せよ神術【王国の剣】!」


 画面にアル様の言葉がそのまま表示されると周囲に黄金の光が満ちてきた。

 何かが起きているようだ。

 しかし、これだけの術とか装備が使えるならゴブリン辺り軽く一掃できそうなモノだ。どうして使わなかったのか疑問が浮かぶ。


「あの・・・」

「ふん。言いたい事は察しがつくが、まずは順を追って説明してやるから黙って聞いておけ。それと敵の護衛から沈めるからな。地上に降り立つ人型は無視だ。まずは空を握る!」


 アル様が攻撃しようとする相手は生身の人間か? 表示されているのは敵を示すアイコンであった。引き金を軽く引いていくうちに酷い眩暈を覚えた。これは・・・一体? 相手の事をよく知らないまま引き金を引いて殺しているのに違和感を覚えているのか。


 アル様の話ではこの機体は借り物であるという事らしい。そして今使った術は味方全体を強化するモノだとか。そして、俺をここに乗せている必要性って魔力タンクとしてなんだな。その事実に俺は寂しさと感じる。別に後ろに乗せるのは、誰でもいいんじゃないのか。


 降下している敵の兵隊はワイバーンやペガサスのような飛行系の魔獣を操っている様子。撃ってみたが撃墜アイコンは示されない。攻撃を防がれたってことか。


「どうした。手加減はいらないぞ、敵に帝国騎士が混じっているならもう少し派手な奴に切り替えていけ。味方は劣勢なのだ。さっさとやらねば負け戦が確定してしまう。敵の空車、天馬系、飛竜は千を超えている。私たちだけでなんとかせねばならんのだ」

「ははっ」


 確かにどこもかしこも敵を示す赤いアイコンで埋め尽くされていて、地上も劣勢のようだ。バラバラになっている味方の青い光点は赤いのに取り囲まれては消えていく。やられているのか撤退しているのか不明だ。けど眩暈や疲労を感じている場合じゃないな。適当に攻撃方法が表示される画面をスライドさせていく。もう少し派手なのって何だろう。どうも、雷系と闇?系しかないような・・・『ダークネスハンド』これは何が出るのだろう。


 ポチってみました。すると機体から黒い何かが伸びていき、敵の乗る飛竜に伸びていく。黒い触手攻撃かよ。さらに触手を伸ばして他の天馬や飛竜を攻撃していくが、敵も素早く回避していく為当たらない。しまったな、これは失敗だ。『ホーミング・ブリッツ』が産み出す雷弾は優秀過ぎた。小刻みな回避運動が出来る生物には当てるのが難しい。しかも、相手の騎士達は黒い触手を斬り飛ばしてくるし。狙いを空車に切り替えよう。


 アル様が空車と呼んだ奴はまんまヘリだ。小刻みな運動が出来ない代わりにかなりの火力があるのだろう。地上を掃射する敵の攻撃で味方がバタバタと倒れていく様が見える。一機でカバーしろっていうのが無理じゃないでしょうか。雷弾と闇の手を駆使して敵を掃討していく。

 

 アル様は華麗に敵の攻撃を躱しつつ旋回しているが、何度か敵の攻撃をシールドに貰っていた。アパッチとかコブラとか詳しくないが、武装した攻撃ヘリはあらかた片付いた。帝国騎士のように生身でこちらの魔術攻撃を防いでくる相手の方が厄介だな。


 味方の光点は集結しつつあるようだ。空中からの奇襲で、連携を分断されていた騎士達だったが態勢を立て直しつつある。スピードだけで、防御力の低いヘリは雷弾の連射によってその姿を消していく。空からの攻撃がなくなれば、この劣勢も立て直しが効くか? と思われた。


「やむえんか、地上の軍は撤退だな」

「え・・・どういう事ですか」

「そのままの意味だ。このまま私達だけで敵を殲滅したとしても、味方が居なくなっては制圧できなくなる。どこかでお前も聞いた事がないか? 味方が全滅し敵もまた全て倒してただ一人丘に佇む孤独な王の話を。あれはただの馬鹿がやる事だ。王たれば、味方を守り導かねばならぬ。王は至強、王は強欲、そも王は智勇兼備でなければ勤まらないのだ。味方は殆ど撤退させる。私とお前、二人で敵を叩くぞ!」

「了解しました!」


 テンションがただ下がりだとか感じている場合じゃないな。敵は地上の味方を包囲しつつある。盗賊達の砦方向からも火の手が上がって大ピンチだ。前後に挟まれた上に、まごまごしていればさらに劣勢になりそうだ。そういえば、敵はハイランド軍のはずなのに何故か帝国騎士というのが紛れ込んでいるが? 国境沿いに展開している連中の本隊までやってきたら壊滅してしまう。


 味方に指示を出しているアル様の操縦は上手いのだが、たった一機では戦局を打開するのに時間がかかる。味方を撤退させてから本気を出そうというのかな。味方の騎士達が死体となって地上に倒れている有様を見たら、俺もやるしかないと心が燃え上がってきた。味方がやられてんのに、落ち込んでいる場合じゃねえ。


「ようやくやる気になったか! これならば・・・いくぞ。超光合体、我戦乙女アルーシュの名において命じる。来たれ戦の鎧、それは力、それは希望、金にして黒たる我の呼びかけに応じ馳せ参じよ『シュバルツ』!」


 アル様の呼びかけに応じるかのようにして、空中で浮遊する機体の上に【ゲート】の光が降って来る。地面方向からも光が出てきている事から下からも何かが機体に向けて接近してくるようだ。何かが挟まる轟音と共に、機体の画面がフルスクリーンに変わり全周囲モニターと化していた。


「あの、アル様。これは?」

「細かい事は気にするな。お前は引き続き火器を操縦するのだ。過剰な魔術攻撃の撃ち過ぎには注意しろよ? 魔力が切れると動けなくなる。後、敵は地上の奴を先にやる。空中のは後回しだ。行くぞ!」

「はい!」


 アル様が操る機体? は地上に向けて移動していく。空中から一面を雪が覆う地上に降りると重いGを感じる。地面とぶつかるような音とか・・・足が生えているようだ。先ほどの下から立ち上っていた光から出てきたって事なのか。僅かに歩いたかと思うと、また重力を感じて機体は少し浮いたようだ。ホバリングすると、雪で覆われた地表を滑らかに移動して最後尾にいる敵集団に遅いかかる。


「ふん、ライトニング・セイバ―を固定化モードで起動するのだ!」

「了解しました!」


 すかさず切り込む機体の手からは稲妻を収束させた剣が現れている。迎撃する敵はかなりデカい。どこかで見たようなロボットだ。フォルムは人型か。三から十メートルと大きさも形もまちまちで色は緑色、その中でも小さな奴を一刀両断・・・は出来なかった。小癪にもアル様の斬撃を躱すと、躱しざまに手に持った剣で反撃を仕掛けてくる。そこに俺が操る黒い手をぶつけてやると、スライム状の黒い物につつまれ相手は動かなくなった。この触手画面にタッチしてスライドしてやることで、360°自在に動かす事が可能なようだ。

 一匹やったが、敵は有象無象と大量に揃っている。その内の羽飾りを付けた青い機体が拡声器でも使っているのか大声で話かけてくる。


「あー貴様~。一体何者だ。たった一機で我等の邪魔をしようというのか?」

「如何にも。私の名はアル。王国軍を預かる将でもある。貴様らに私が討てるか? 一体だろうがまとめてだろうが一向に構わん。かかってこい!」

「馬鹿な・・・大将首が最前線に出てくるだと? そんな話聞いた事もないぞ。どうせ偽物の語りであろう。お前達、さっさと殺ってしまえ」


 敵の誰何を真正面に受け止めたアル様だったが、相手の指揮官は取り合う様子ではない。一機に対して全員で襲い掛かってきた。シールドの出力がかなり下がっていたので増強しとかないと、耐えきれない攻撃がくるかもな。シールドの項目を漁っていると『アビス・シールド』が使用可能と表示されていた。何がどうなるのかわからないが取りあえずポチってみると、シールドが黒っぽくなった。


 それと同時に、出せる黒い触手が複数出せるようになる。画面を操作して、ウネウネと伸びていく触手が相手を取り込んでいくと動きが止まった。これはいい。捕まえたら殺さないようにしてダンジョンに放り投げて捕獲だ。

 

 最近、俺も殺さないっていう事に目覚めつつある。出来る事なら敵は捕獲したい。相手が殺しに来るから殺すというのは状況次第ではあるが、地上でならダンジョンスキルのアレでどうにか出来る。ちょっと前まで、敵はさっくり殺すべきというのがポリシーだったんだけどな。シルバーナの事を考えると、敵であっても知り合いになっちまうという事がある。

 だからだろうか、殺さずに済むなら、そんな力があるなら殺さないというのもいいだろう。


「アル様」

「なんだ、どうした」

「背後にトラップを仕掛けますので、お気を付けください」

「わかった。『ダークネス・セイバ―』とは・・・またとっておきを出したな。まあいい、背後の守りも任せたぞ」

「はい」


 機体の手に握られた稲妻の剣もまた黒い靄のようなモノに変わっていた。背後に生み出された穴であるが、敵には見えないようで回り込んだ相手が落ちていく。トラップホールは、やはり使える。黒い手で相手を行動不能にして投げ込んでやれば一丁上がりなのだ。敵が硬かろうが、速かろうが、強かろうが、そんな事はお構いなしで、引きずり込む。中にとりこまれた後はどうなっているのか不明だけど、敵を処理するにはもってこいである。


 自然と回り込まれる心配もなく、アル様の蹂躙が始まった。


 空から追撃してくる空軍とも言うべき相手の竜に乗った騎兵や天馬に乗る騎士といった存在も忘れてはいない。空から降って来る攻撃もまた、黒い手を操って受け止める。お返しに【サンダー】を見舞ってやるも魔術防御に優れているのか効き悪い。相手の兵は、生身の方が厄介な印象を受けるな。

 

 敵騎士達の攻撃は投げ槍や手斧といった原始的なモノだが、魔術的なモノを纏っているため侮れない。下手をすればコックピットを貫く恐れを感じていた。空の騎兵達は慎重にこちらの射程を測って攻撃を繰り返す為、いい加減鬱陶しい物がある。その代り地上ではアル様が無双していた。斬って払いのけ、突いて突進しまた薙ぎ倒す。

 俺はというと空から降って来る敵の攻撃を防御しつつ、相手を捕獲して穴に投げ込む訳だ。


 ウネウネと広がる触手と相まって、気味の悪いこちらに相手は恐怖を感じているようだ。それもそのはず、見た目は黒い玉になっているはずだから。そんなこちらの攻撃で、次々と敵のロボットはやられていくのである。何もないはずの地面に吸い込まれていく敵の機体は、兵士達の恐怖を一層加速させたようだ。黒い玉から生える触手と伸びる剣によって、斬り倒され倒れたロボットも、そうでないロボットも地面に投げ込まれると消えていくのだ。


 撤退しようとする相手の兵とロボットだったが、手加減しないアル様の攻撃によって次々と倒れていく。既に相手からは戦意喪失している雰囲気を感じとっているのだが。降伏してもらっても、結局捕獲する以外に道がないからなあ。取りあえず相手をしていた敵の指揮官らしいのを含めた周囲にいた敵ロボットは全滅。歩兵のほうも散々な有様に逃げ出したのとへたり込んでしまったのは放置しつつ、ヒロさん達が粘る本陣に向けて移動していった。


 二人でどうにかなるものなのか? 戦闘で勝って全体の戦いでは負けるという展開に見える。相も変わらず敵の赤い点は周囲を埋め尽くしており、味方を示す青い点はどんどん減っていく。

 撤退が完了すればアル様も引くんだろうか。

 

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