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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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93話 見守る者と日常と

 

 そこは天空か。否。だが、周りの空間を見たならば遥か上空としか見えない場所に、少年は来ていた。

 少年が会いに来たのは、一人の老人である。ローブを身にまとう老人は、普通の人間が見たならばどこにでもいそうな存在としか認識できない老人だ。

 老人が持つ水晶玉、いや七色に輝く宝玉は空中に映像を映し出している。

 空間に映し出された映像は、今まさにベルティン率いる軍勢の上空に達しようとしていた船団を捉えていた。二人以外誰も居ない場所で、老人にしては張りのある声が神殿の如き場所に響く。

 

「ふむ。これをどう見る」

「どうもこうも、敵の狙いはあれでしょう。人の造り出した忌まわしき兵器。爆弾を使うつもりでは? 察するに、船の甲板に人形を乗せて腹には爆弾を満載しているモノとみますが」


 老人の問いに黄金の鎧を身にまとう少年が、映像から見解を述べる。寸胴のようにむっくりとした胴体を持つ船体だ。ゆっくりとした速度はさながら雲に紛れていて、地上から捕捉する事を困難にしていた。だが、同時に吹雪を降らせる雲は地上の電波探知を妨害し、正確な射撃は困難な筈と少年は楽観視していたが。


(何かあるという事を言外に伝えようとしているのか?)


 少年の意見に同意する老人は、疑問を浮かべる少年に対して更に問いかけた。


「じゃろな。これはお主の配下に手に余るかもしれぬが、如何する?」

「あれの番ですし、私が口に出すことでもありません」

「まあよい。お主も素直になる事じゃな。魔術師ながらあれだけの力を持つ人間はそうは居まいて、大事にする事じゃ」

 

 老人に言われずとも、部下を大切にするのが少年の持つ王としての価値観である。

 次にオーブから映る風景は、大剣を抱えて逃げる少年と手下であった。老人から少年は多大な特典を受け取り世界移動した移住者である。老人が施しをするのは、何時もの事だと考えていた。

 その為、老人がユウタに対して行った特典付与ゼロに納得がいかなかったのだ。

 少年が疑問を老人に向けて発する


「しかし、解せません。他の者達には世界移動特典や転生特典を与えておきながら彼の者には何も無しとは如何なものでしょうか」

「ほっほっほ。それはの、あやつは若い頃からMMO、VRMMO物をやりすぎてのお。それをそのまま特典として与えると、世界のバランスどころかナロウ宇宙そのものが崩壊しかねん。じゃから、あえて武器も特殊能力も無しじゃ。ついでにLVも1からじゃし、それではあまりにも酷いと言うかもしれんがの。苦労するがええんじゃ、あやつにとってもそれが幸いとなる。眺めとる方からするとのお。指を動かしただけ意識を向けただけで、あらゆる敵を倒し障害を排除する事が出来てしまうような強さなんぞは、面白うないでな」


 老人は風を呼び込むといっては異世界の住人を転生もしくは移動させている。この助平な老人は、少年の知る限り無量大数の世界を造り、今もなお創造し続ける存在であった。基本的には起点となったこのナロウ世界に留まっている。

 そんな老人が言うような力を持つようには視えなかったが。膝をつく少年以外にそれが真実だと答える者はいない。


「それほどの力があるようには感じませんが」

「そうであろうな、しかしだ。それにも訳があってのお。奴のキューブは幾重にも封印がしてあるからの」

「それでは、あの大剣を持つ少年に遅れをとるのでは?」

「ふふ、敗れるもまた一興ではないかの。あやつもまたそれまでの男であったという事じゃよ。まさか、お主もあやつの事を気に掛けるとは・・・惚れたか?」

「お戯れを」


 老人の問いかけを否定する少年。そう口で言いつつ危惧する疑問に応じて老人は宝玉から目を放す。

 老人は長い髭を撫でながら少年に目を向ける。その眼差しに、黄金の髪を持つ少年は心の奥まで見透かされるような居心地の悪さを感じた。


「さようか。ま、お主らも『共振』には難儀しておるようじゃな。おなごである事を忘れつつある者、捨て去ろうという者、忘れえぬ者様々で心千地乱れるという処かの」

「私を放って雑事にかまける者など・・・確かに任務は遂行しましたが。嫁としては失格です」 

 

 生まれ持った王族としての性質が、王としての自分を忘れさせない。

 少年が溜息をつくと、老人は長い髭を整えようと何処からか出したハサミで手を入れていく。


「ふーむ、それは何か違う気がするがの。婿でも嫁でもいいが、セリアを排除してみれば今度は違う虫がよってきて大変じゃな」

「あれに転んでしまうようなら・・・」


 無意識の内に手を握り締め俯く少年の脳裏によぎったのは、銀髪狼耳を持つ剣士の姿であった。彼女とあやつが接近し過ぎるのは不味い。少なくとも、そうであるならまだ元の鞘に戻してやるほうが良い。

 その為に労をおってみれば、次は下賤の者が纏わりつきだしていた。怒りのあまり少年は、手にした扇子をへし折ってしまった事を思い出す。


「どうせなら手に入れた姫を有効活用してみてはどうじゃ」

「それ位考えてあります。が、今度はそちらに転ぶリスクを考えねばなりません」

「王子を演じるのも難儀な物じゃな。さりとて、降りるわけにもいかんしの。そうじゃ、今から父に作らせてみてはどうかの」

「今から間に合うとお考えで? それに、次出来ている子も九十九%の確率で女子と出ています」

「そうかの」


 老人の提案は、確かに有効的であると少年も判断している。

 不意に天空の青を覆い隠す影が生まれる。上空とも地下ともいえる場所にあって、なお世界と宇宙を隔絶させる一面の黄金は圧倒的であった。

 少年が瞬きするとその輝きは姿を消し、一人の女が老人に歩み寄っていく。黄金の鱗状の鎧を見に纏い抑えるに押えきれない力の波動に少年は眩暈を覚えた。黄金律を体現したかのような体躯に、金の粉雪を振りまく女を前にして哀れな子羊のように少年はなるしかなかった。

 少年の小さくなる身体。そこには、もはや屈辱を通り越した羨望しかない。


「やあ、お久しぶりだよ愛しい君。元気にしてたかな」

「お主か。これを見にきたのかね」

「それもあるけどね。これ、こっちで見ようよ」

「そうだの。では、またのおアルトリウス」

「はい、ジジ様」

 

 女は少年を一切視認しなかったのが気に障る。

 だが、そのような事を口に出す程力の差が見えなくない。

 髭を蓄えた老人はローブを翻すと女と共に姿を消す。老人が使ったのは空間転移なのであるが、少年にはまるでそこに居た事さえ無かったかのようだった。

 残されたのは七色に輝く宝玉である。光命の樹、命の泉とも称される存在だ。


「マスターより褒美を賜り光栄ですね。では以下のモノよりお選びください」

「では、これとこれと・・・・・・」


 少年が指し示すモノは、神を引き裂きし黒き闘神、闇の炎を抱きし殲滅天使、紅蓮の永劫凍結。これ以上はポイントオーバーであった。エターナルフォースファイア、エッジオブザダークネス、ヘルヘブンドラゴン、アークロンユニバースどれも読んでいる内に少年は流れる冷や汗を禁じ得ない。

 老人は今も病気のようだ。出会った時から、ずっとこのセンスにはついていけないと感じる。

 宝玉が反応し、音声を紡いでくる。


「以上でよろしいですか」

「ああ。それとこのポイントシステムは見えるようにならないのか?」

「残念ですが、見えるのはマスターとワタシのみとなっております。なお順位についてもお答えは出来ません。悪しからず、ご了承ください」


 声からは機械的なモノではない、人間的な感情が伝わって来るのが不思議だった。見た目はただの玉なのであるが、序列外である存在というのは伊達ではない。

 貰えるモノを受け取ると、自己の収納空間に収めていく。イベントリは共用空間なので、何時掠め取られるとも知れないのだから。 


「わかっているが、聞かずにはいられなかった。では、またくるぞ」

「はい、またのおこしをマスター共々お待ちしております」


 部下の上空を取らんとする空を飛翔する船。これを何とかするために、少年は帰路を急いだ。










 俺ユウタっていうんだ。その・・・異世界に来ちゃったみたいなんだけど、色々あって平穏無事とは言えない生活を送っている。でも、こんな痛いのはアーティに彼氏が出来てたって事実を味わった事以来の痛み味わったりしてて大変なんだ。

 どう大変かって? 具体的に言うと、少女二人に殺されかかっているんだなこれが。

 いい加減、二人共人の腕で綱引きはやめてくれと言いたい。 


 二人の少女が俺の都合など全くお構い無しに両方で引っ張り合っている。片方のシルバーナは姉御肌で身長は170cmは有りそうだ、長いブーツと引き締まった腰そして盗賊娘にしては力がある。あと数年もすれば、立派な女ボスになりそうである。

 もう片方で引っ張るのは、水色の髪をした少女だ。まだあどけなさが残るその容貌は、中●生といったところかな。手は小さいが、必死で俺の腕を引っ張るので、どこにそんな力が隠されているのか聞いてみたいほどだ。結構小さい子なのだが、成長するとかなり目立つ子になるのではないだろうか。

 少女の名前を聞いていなかったのだが、頼まれると何でもいう事を聞いてしまいそうな不思議な感覚がする。


「ちょっと、お前放しな」

「あなたが放してください」


 言い争う少女たち二人を引き剥がすと、立ち上がりながら自分の身体を確かめる。腰まで裂けていたが、何か堅い物に当たったようで止まったような? 懐から転がり物体があった。地面に落ちる金の卵には裂け目が入っていた。咄嗟の事で受け止めようとするが、地面に落下する方が早く、卵は地面に叩きつけられる。表面にヒビが走ると中からドロリとしたモノが出てくるかと心配したが・・・


 雀サイズのトカゲが卵の殻を食べていました。黄色いのでヒヨコに見えるな。


「おい。DD?」

「・・・」

「おーい、返事してくれよ」

「・・・・・・」


 呼びかけるものの返事がない。卵の殻を食べているヒヨコなトカゲは羽毛ではなく艶々とした金の鱗が生えていた。話かけてみても打ちどころが悪かったのか、それとも退化してしまったのか? ともあれ反応のないDDは、辺り一面に散った俺の血を飲み始める。服を着替えている間に飲み干してしまって、地面を舐めていたヒヨコな奴は腹を膨らませていた。使い物にならなくなった鎧を回収すると、膨らんだDDを懐に入れてゴメスさんから話を聞く事にした。

 

 道具屋の中で顔を腫らしたゴメスさんが、飲み物を出してくれる。


「傷の方は大丈夫なのですか。見ていましたが、とても酷い傷を負われたように見えましたが」

「大丈夫です。しかし、飲み物はいただけません。胃の中が大変な事になっているので」

「そうですか・・・災難でした。あの方には以前から難癖をつけられていたのですが、税を納めないと知ってこのような事をやりに来たのでしょう」

「以前とは、その村が襲われた時よりももっと前の話なのですか?」


ゴメスさんは傷薬を取り出すと手に取って腫れた場所に塗っていく。


「ええ、この地は昔からシュテルン家の領地だったのです。先程の無法を働いてらした方は、当代の息子です。当代の領主様になってからは本当に酷いモノでした。先代は本当に良く治められた方だったのですが、ゴブリンとの戦闘にて老体の身ながら戦って亡くなられました。つっ、その際に周辺の村がゴブリン達に襲われて全滅しております。農地が広いのにも関わらず、村が周辺に無いのはそのせいですね」

「成程、つまりその無能だったという事ですか。ギニアスという少年がどうしてあれ程居丈高に振る舞う事が出来るのか、それが私には疑問なのですが」


 話をするゴメスさんは痛みで顔を歪める。

 色々気になる情報が聞けた。DDの様子も気になる。俺は懐のDDを撫でてやると腹一杯になったのか、ヒヨコトカゲは動かなくなってしまった。

 シルバーナと水色の髪をした少女はすっかり敵同士となって睨み合っているなあ。


「ユウタくんはこの国の貴族についてどの程度把握しておられるのですか?」

「ある程度しか面識がありませんが、皆さん立派な人ばかりでした」

「そうでしたか、それは実に運がいい。我が国が、騎士階級によって成り立っているのは周知の事実です。商人はどちらかと言えば搾取される側でしてね。売上もそのほとんどを税で持っていかれます。だからといって他国に逃げ出したとしても、他所で成功は覚束ないのです。理由は色々ありますが、貴族は搾取する側で当然のように平民を虐げる特権を有しているのですよ」


 一体なんだろうか。そんな特権が許される理由でもあるんだろう。横を見ると何時の間にかシルバーナが身体を寄せていた。水色の髪をした子は何処へいってしまったのか。


「あの子はどうしたんだ?」

「知らないね。泣かせちゃいないさ、結構根性あるみたいだねえ」

「あの子とはアクアちゃんの事ですかな。気丈な子ですが、あまり苛めないでないでやってくださいよ。アクアちゃんは本名はアクア・シューネといいます。ご両親を亡くされてから、一人で弟を抱えて頑張っているのですよ」

「そうかい。そりゃあたしも大人げ無かったねえ」


 目頭を押さえるゴメスさんにポリポリと顎をかくシルバーナ。二人の様子を見ている俺はというと、あの子の名前すら思い出せなかった駄目男だった。

 そこへロクドさんが飛び込んでくる。


「ゴメスさん! ユウタくん! 大変なんだ。ロイ君の容態が! とにかく急いで家に来てくれ」

「わかりました。急ぎましょう」

 

 話が終わったら風呂に入ってから城に向かう予定なのだけれど、ロクドさんの後をついていく。

 村では大変な騒動の後だった為か、人通りが多い。シルバーナは用があるといって離れた。

 トイレだろうか。そんな事は口に出して言えないが。

 小走りで先を行く二人についていくと、村の外れにある一軒の家についた。茅葺の屋根に貧相な壁、相変わらず変わらないアーティの家である。その横に同じような造りと見栄えなロイの家があった。 

 家も隣同士の幼馴染という事か。結構な人が詰めかけていて、中に入るのも手間取る。


「おい、ロイ君しっかりするんだ。今ゴメスさんとユウタ君が来てくれたぞ」

「具合は、どうなんですか」

「それが、見たところ肋骨が折れてどこかに刺さっているみたいなんだ。丁度、冒険者達も出かけてしまっていて、今村には治癒士がいないんだ。何とかしてもらえないか? 」

「わかりました。なんとかやってみますが、俺は医者じゃありませんので期待するのも程々にお願いします」


 集まった人達の見守る中で、ロイに回復をかけていく。この際、ここでこのままにしておくか? という考えがチラリと脳裏をよぎったが、なんとか耐えた。悪魔の提案に乗りそうになる自分を戒めつつ、全力で回復を連打する事に。回復をかけていくと、みるみるうちに折れた骨も元通りになった。ロイの呻き声も治まると、周りの村人達も安堵の声を上げる。時間にしてはかなり短いが、また手間取ってしまった。

 回復であっさり治ってしまった為、驚きを隠せない村人達。アーティがロイから離れてこちらに来る。


「また、助けられちゃったね。ありがとう。お礼に何かしてあげたいのだけれど・・・」

「うん、どうってことないし気持ちだけ受け取っておくよ」

「頼りっぱなしで悪いね。あっ、そうだ。パンが出来てるよ! アクアちゃんと一緒に作ったんだけど、ユウタにあげるよ」

「うーん・・・ありがとう」


 一瞬、抱きしめさせて欲しいとか考えてしまった。ちょっとそこまでするわけにはいかないよなあ。アーティのパンかあ、有難いな。イベントリの在庫も少なくなっているわけで、貰えるのは助かる。手を握ってぶんぶんと嬉しさを表現するアーティ。ちょっと俺の手は緊張で湿っていたが、気づかれただろうか。ロイの家を出ると、ロクドさんにゴメスさんが待っていた。


「ありがとう。助けて貰っておいてなんだが、謝礼に渡せる物がないんだ。どうだろう、妻の手料理でも食べていってもらえないかな」

「ありがとうございます。しかし、時間の都合がありますのでまたの機会にお願いします」

「そうか。それではまた来た時是非来てくれ」


 胃の中は大分良くなってきているが、ロクドさんの家で世話になる訳にはいかない。

 アーティのお母さんに、接待受けてたら諦めきれなくなってしまう。

 むしろ、もっと気になる事が残っていたはず。


「それはそうと、彼らがやりそうな事があるんじゃないですか」

「それは?」

「村を苦しめる為に労力を惜しむタイプには見えませんでした。ですから、次打ってくるギニアスの手と言えば何だと思いますか?」

「嫌がらせではない本気の手という事かな」


 ロクドさんとゴメスさんは頭に手を当てると考え込む。


「だとすると、やはり麦が収穫の時期を迎えておりますから。やはりそこと、村人を誘拐して人質に使うとかでしょう」

「冒険者にお願いする事になるな。資金の目途が立たないのが頭の痛い処だ」

「資金は、皆さんで出し合う事で解決できますよ。私の店が大分儲かっていますし、資金は任せてください。ただ、村人でとうにも出来ないモノもありまして領主が裁判権を持ち出して来ると大変です・・・」

「わかりました。俺も何とか乗り切れるように手を考えてみますのでよろしくお願いします」


 貴族というだけに、領主には色々特権がありそうだ。厄介な事になってきたが、乗り切れるか不安である。なんせ部下らしい存在はゼロで、名ばかりの奴隷を抱えていたりするからな。もっとこうビシッとやるべきだろうか。

 家の外で話をしていると、水色の髪をした少女アクアが両手にパンを乗せた籠を持ってきた。


「お兄ちゃんこれ、あげてって」

「ありがとう。偉いなアクアは」

「えへへ」


 嬉しそうにするアクアがもじもじする。つい、頭を撫でてあげたくなるなあ。丁度俺の胸辺りまでの身長で、いい所に頭があるのだ。パンをイベントリにいれつつ、パンの種類を増やす方向も考えないといけない事に気が付いた。ふっくらパンというだけではパンチ力が弱い。パンの中身を考えていかないと、あっという間に類似品にやられてしまう。

 生産物が、麦なので麦メインの商品を考えていかないとダメだ。菌関係をどうにかするか、それとも製造方式を考えるか。色々と出来る人材を当たらないといけない。


 顔を赤くしたアクアから離れると、ゴメスさんロクドさんの二人に挨拶して別れた。シルバーナを探しに村の通りを歩いていく。何時出来たのか通りにはちらほらと店がある。急遽作られたという感じで、掘立小屋にしか見えない一軒の店で声をかけられた。大きな声で呼ぶ店員を見ると、ドワーフぽく背丈の短い亜人が立っていた。


「おーい、そこの兄ちゃん。武器防具を見ていかないかの。おっとこれはユウタ様じゃ」

「こんにちは、ジェフさん・・・でしたよね」

「おう。まあ、あれから色々あっての。この村で、店をやる事にしたんじゃ。幸いにも武器防具屋はなくての、ただ鍛冶場造りから皆でやっておる。見ての通りまだまだ、品揃えは良くないんじゃ。お前さん見たところ、装備があまり良くなさそうじゃ。どうじゃね、ここで一つわしの所で装備を整えてみんか?」

「そうですねえ」


 ジェフさんはどうやら故郷に帰る事よりもこちらで商売をする方を選んだようだ。装備かあ、確かに見てくれが良くない訳で鎧も盗賊が着けていたレザーアーマーに格下げしている。懐具合を確認すると、少々見通しが暗い事になっている。食費が一人十ゴル程度として、見積もって節約しているのだけどポンポンと何かしらいる事態が発生して減っていく。

 俺の浮かない顔を見たジェフさんは何か察したようだ。


「そうか、どうやらお主も困った事があるようじゃな。で、資金に素材もないワシじゃが腕はあるのじゃ。ワシとお主でどうじゃね、一つ持ちつ持たれつでいかんか」

「というと?」

「うむ。ワシの不足しているモノは物資じゃ。兎に角素材と鉱石が必要なんじゃが、モンスターを狩ったらワシの所に持ちこんで欲しいんじゃ。お主には金が無いんじゃろ、装備を良くしていこうと思うならこれしかなかろうて」

「わかりました。取りあえずこれを受けとってください」


 ジェフさんの腕は未知数だが、俺と手を組みたいようだ。願ったり叶ったりなので、狩ったモンスターで素材になりそうな奴を出していく。あっという間に店が埋まってしまう。ウルフ、ベア、マンティス、トカゲといったモンスターが素材として使えそうだ。オークとかゴブリンとかは使えそうにないので、ダンジョンに捨ててある。


「ちょっと待つんじゃ、出すのは止めるんじゃ。一体、お主どれだけため込んでおるんじゃ。当面はこれを加工した皮製品に骨製品でいこうぞ。商品が売れたらお主に利益を還元する方向でいいかな? 買い取る資金が無いんじゃ」

「よろしくお願いします」

「任せておけ。これは嬉しい誤算じゃ。おーいライチ材料と運んでくれー」

「あいさー」

「ぶっ」


 掘立小屋の奥から、虎耳をした少女が出てくる。その恰好が問題だった、皮で出来たブラとパンツだけの姿だったのだ。慌てる俺は鼻血を出していないか慌てて鼻を押さえてしまう。

 ライチさんはたわわに実った果実を見せつけるかのようにぶら下げている。これは品物さえ揃ったら、人気の店になる事間違いない! 

 皮製品で際どい水着か。なんという商品なんだ。セリアやモニカに是非着けて貰いたい。二人の姿を見た敵の戦意は急速に無くなる事請け合いである! 多分。

 乾燥した木で支えられたテントで出来ている店を出ると、シルバーナを探しに村を歩く。

 宿屋らしき建物や村人の家を眺めつつ探して回る。見当たらないまま、村の外にある酒場に到着すると食事をとっているシルバーナを発見した。

 食事をとっている娘に近づくと、どうやら気が付いた様子だ。シルバーナが振りむくと、口にうどんを頬張っていた。つるつると口に麺が吸い込まれていくと、急に腹が減ってきた。


「話は終わったのかい。横にすはふなふ」

「口に物を入れたまま喋ると、その汚いぞ」


 盗賊娘の横に腰かけると、犬耳をした店員にうどんの注文をする。客の入りも悪くないようで、昼だというのに冒険者達の姿がちらほらと見受けられる。

 シルバーナの横顔を見つめると少女は声を尖らせた。


「細かい事きにすんじゃないよ。で、どうすんのさ。やっぱりこの村を守るのかい」

「当然だろ、それとも見捨てるとでも思ったのか」

「いやね。今回ばかりは相手が悪いんじゃないかってねえ。現実は厳しいよ? 手の届かない位置から攻撃してこられると、あんた手におえないかもしれないかって考えちまうのさ」


 シルバーナが言わんとする処はわかる。俺だって危険な橋は渡りたくないし、命を懸けるような展開はごめんこうむりたい。だが、向こうからやってくるのだ。二十四時間戦えますか? みたいな感じで。

 シルバーナはウドンを食べ終えると、懐から何かを持ち出し見せて来る。


「これが、何だかわかるかい」

「いや、首輪? 何に使うんだ」

「こいつは隷属の首輪っていってねえ。奴隷用の支配アイテムなんだけど、セリア様には悪いけど言う事聞かないようならこいつをつかっちまいなよ。奴隷が主人に反抗的なのはおかしいじゃないのさ」

「確かにメリットはあるな・・・・・・だが、断る!」

「なんでさ。のうのうと学校に行かせている場合じゃないだろうに」


 細い腕に握られたのは二個の金属でできた輪っかであった。サイズは魔術で調整されるのか? 首が締まるタイプに見えた。

 奴隷だからって、無理やり犯したりなんかしたら俺の命が危ないわ。セリアとモニカにはムラムラ来る事が多いがなあ。こちらの言う事を聞かないという風でもないし、このままでも全く問題ない。警備するのに、家の合鍵くらい渡しておくべきか。書類等の整理も二人にやってもらわないといけない。こちらに代官用の家も出来るし、真面目に働いてもらわないといけないのだ。


 よって、魅力的な提案にぐらっときたが却下だ。

 なんとなくだが、シルバーナに危険な香りを感じ取ったのもある。


「だとしてもだ。セリアならむしろ率先して警備くらいやってくれるはずだ」

「チッ・・・だといいけどね」


 シルバーナが舌を打つので、何か企んでいるようだ。

 うどんを食い終わると、ゴルを支払う。味付けはさっぱりとしていて俺好みだ。というか、ここのレシピは恐らく俺が作った奴をそのまま使っているのではないだろうか。醤油を後で、ゴメスさんに売りつけておかないとな。ラーメンが食いたいんだけどなあ。蕎麦とラーメンの道のりは結構厳しいようです。ゲームみたく、ぽんっと製造される訳ではないので・・・なんとかしないといけないな。


 ペダ村をから王城に移動していく。途中立ち寄った冒険者ギルドで、鍵を渡してもらうよう依頼しておいた。昨日のように、下手をすると帰るのが遅いとか帰ってこれないという事が考えられる為だ。

 合鍵の方を不動産屋で受け取ると、城門前までたどり着く。すっかり昼を回ってそうな時間に、馬車が城に入っていく。窓から見える人は・・・アル様だった。昼に来いと言うのは、出かけているせいか。

 こちらに気づく事無く馬車はそのまま城の中に入ってしまった。


 いつも通り門番に取次をお願いすると、案内されて城内を抜けていく。門を抜けて城内を通り過ぎていくと、一つの宮に案内される。それは、真っ黒な塔のようだった。

 別の宮殿に案内されて、進むと黒塗りの壁に光を吸い込んでいるような黒曜石が敷き詰められている。内部に、兵士がほとんど立っていないのがまた違う様相であった。

 床が黒くところどころ光を放っているので、まるで宇宙を歩いているかのようだった。照明はあかりを放っているが、現実感覚を狂わせてくる魔術でも使われているかと警戒してしまう。


 案内されて、アル様がいるはずの部屋の前に立つ。

 扉は真っ白に輝くようなコントラストをしていた。

 何だか知らないがとっても嫌な予感がしてくる。

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