91話 簒奪者と日常と
二人の男が、雪降る大地を踏みしめる。屋敷からの追撃する兵士を振り切り逃走を続けていた。鞄に持っている転移石をまだ使う訳にはいかない。
ルーンミッドガルド国以外では転移する術は貴重である。ハイデルベルを含む周辺国では転移術、またその使い手は殆ど見る事がなかった。辛うじて帝国産の転移石という物があるが、これは一度きりしか使えない。その上、使い勝手の悪さはルーンミッドガルドのそれと比べ物にならないほどだった。
血を垂らさないように応急手当を済ませてハイデルベルの路地をつき進む。だが、そんな二人を取り囲むように兵士達が接近してくる。
「反逆者ナオ、大人しく投降しろ。今ならばまだ寛大な死が与えられる事だろう。抵抗すればするほど貴様らの罪は大きくなるぞ!」
大きな声を上げるのは、年若いフルプレートを装備した少年であった。ナオは同年代の少年にしかみえない騎士をどうやって凌ぐか思案する。
「ドルフ、ここは俺が囮になる」
「馬鹿言えや。彼奴らは雑魚じゃねえ、死ぬぜ。ともあれ、このままじゃ不味いのは確かだ。包囲するのはハイデルベルの連中じゃねえし、地理には詳しくないだろうからそこを突くしかねえが・・・」
不意に異変を感じたナオは足元を見る。雪が、足を固めるように集まっている。振りほどくように足を動かすも、鉛を足に着けたかのように動きは鈍くなっていた。
「足が・・・」
「どうした?」
「くっ。やむ得ないか」
ナオは炎で足をあぶると熱により、雪が解けだす。それと同時に宙から飛来する金属をドルフが打ち払った。利き腕をやれている訳ではないが、傷を負っているにも関わらず正確に鉄片を撃ち落とす。
「忍者か!」
鉄片は苦無の形をしていた。ナオには一目見てそれがどういうモノかわかる。だとすれば、もはやここを離脱するには転移するしかない。その覚悟を決めると、周囲の気配を伺う。一瞬の空白の後に気配は遠ざかり、周りが騒がしさを増していた。ルーンミッドガルド兵が包囲を狭めているようであった。
ここにきてナオは決断を下す。
「仕方がない。か・・・」
「おいナオ。まさか、お前ここまできて諦めんのかよ」
「機会は生きていればいくらだってあるだろ? まずは、傷を治す事からだ」
「・・・わかったぜ。お前の方が悔しいもんな」
ナオにとって苦渋の決断である。それに納得がいかないドルフであったが、状況が状況であった。ドルフ達が潜む場所は既にばれているとみてよい。ならば、早急にこの場を離れる事が何より重要である。だが、周囲に居るルーンミッドガルド兵はハイデルベル兵とは訳が違う。多数でもって囲まれれば、ナオであっても危うい。屋敷で待ちかまえていた女騎士の配下であれば、当然耐火装備を中心とした体制を取っている事は想像できた。
ナオとドルフは路地から人の気配がしない家に侵入すると、撤退の為に石を使う。
外からは騎士と兵士の声らしき物が聞こえてくる。
「ドレッド。お前の隊はあっちに回れ。イープル隊と俺の隊でここを隈なく索敵するぞ」
「わかったぜ、レィル。けどここに居るって忍者は報告していたろ? ばらけるのは不味くないか」
「そうだよっレィル。固まって行動するようにってシグルス様に言われてんじゃん」
「うぐっ。確かにそうだった。しかし、こうしている間にも反逆者が逃げてしまうぞ。お前らも急げよ」
そんな会話を横に転移石を割ると光に満ちた穴が出来る。
そこはもう一つ対となる石に繋がっているのだ。
転移した先はアジトである。正確には魔術士カラの手元にあるであろう転移石だ。石と石が共鳴して通路を開くというのが、カラの見立てであったが真実は定かでなかった。転移石を高額で販売する帝国にも秘密が多い。帝国の科学と言われる学問によって魔術を解明しつつ、より効率的に誰でも使用出来るようにするというのは、かの国以外にとっては朗報であった。
カラの手元から生まれた光が広がっていくと、そこからナオとドルフが現れた。
「ふー、何とか帰りついたな。大丈夫かドルフ」
「心配いらねえ」
「あんた達いい所に帰ってきたね。これで何とかなるかねえ」
「どういう事だ」
カラから状況を聞かされると、二人は窓からアジト入口を眺める。雪積る一面に高く閉ざされている筈の門が破壊されていた。二体の巨大な白い物体が蠢いている。
「何だありゃ」
「ルーンミッドガルド兵とその魔術生物みたいでね。うちらの手下共は数は多いんだけれどねえ。逃げ出した奴もかなりいてさ。はっきり言って壊滅寸前てとこだよ。傭兵団も先の戦いで撤退しちまってるし、打つ手とは打っていても状況は良くないね」
「帝国は間に合うか?」
「間に合わなきゃ、逃げるしかないねえ」
カラはドルフの手を見ると治癒士を呼びよせる。ナオは簡単な手当を済ませて、包帯を取り出すと縛り上げた。カラの見たところ、大分傷は癒えている。ナオの治癒能力は脅威的な身体能力であった。
「出るぞ」
「そう言うと思ったよ。けどね、相手は強力な魔術師がいるみたいだよ。特に、遠隔系みたいな魔術生物には気をつけるんだよ」
「指揮を執っているのは誰だ?」
「グントよ。こらっ、エリオットが駆けつけるまで辛抱なさい」
シグルスによって折られた腕を添え木でもって縛り上げると、前線に出ようとするドルフであった。だが、カラはそれを許さなかった。負傷した状態で前線に行かせるのは不味い。それ位わかる男であるはずだが、手下がやられている事態に血が上っているのだった。
「カラ、てめえは何をやってんだ?」
「後方支援に決まってんでしょ。脱出路の点検とか、人員のやりくりとか色々やらなきゃいけない事沢山あるんだからね。それとも、あんたがやる? ねえ、あたしもこんなのつまんないんだけど? ナオは行っちゃったしあたしもついてこうかねえ」
「わりぃ。・・・・・・すまなかった」
「まあ、いいわ。それより安静にしてなさい」
怒りに雪をぶつけられて萎んでいくドルフに、意外そうな反応を見たカラは戸惑いを覚えた。
ナオは既に部屋を出ると走り出していた。カラが指揮を執る場所から、一直線に門へと全力で走る。
普段なら馬鹿騒ぎが見られる小屋が立ち並ぶその通りも、今は怪我人で溢れかえっていた。盗賊達の士気は下がりに下がっている。この分であれば、逃げ出す奴はもっと増えるとナオは内心感じた。
門に着くとそこでは巨漢の戦士が盗賊達の援護を受けながら、雪だるまと戦闘していた。巨大な人型タイプが三体程度であったが、盗賊達には荷が重かった。加えて吹き付けてくる冷気が、彼らの身体能力を著しく下げる。動きが鈍ると、その巨大な手で殴り倒されていった。
「うぉおおお」
「ナオか!」
「おう。グント苦戦しているみたいだな」
「ああ。そろそろ持たないと感じていたところだ。それで、例のモノは手に入ったのか?」
「残念だが、またの機会だな」
グントの表情は鋼鉄のヘルムで覆われていたが、安堵する声が漏れていた。ナオは大剣と鞄から取り出すと、雪巨人に向けて炎を伸ばしていく。【刺し貫く赤】を発動させると、足に狙いを定めて振りぬく。足を失った巨人が前のめりになると倒れてくる。10mはあろうかという巨体だったので、慌てて下がる。
「やったぜ」
「いいや・・・・・・あれをよく見ろナオ」
快哉の叫びを上げるナオに、グントは注意を呼びかけた。倒れた巨人から更に生まれてくる中型の雪だるまであった。残りの巨人の方は激しく突進を開始し、盗賊達が隠れる建物を破壊していく。巨人は入口を更地にする勢いだった。
「どういう事なんだよ」
「恐らく、敵の魔術師の狙いはナオお前だ」
ナオは雪だるまを次々と破壊していくが、周囲の雪を吸収するとさらに雪ゴーレム生み出されていく。
「きりがねえな」
「そうだな。といってもこやつ等を操る魔術師の元に接近する必要があるが、それすらも敵の狙いやもしれん。どうする?」
グントはそう言うが、敵の布陣がナオにはどの程度のモノかわからないのだった。迂闊に潜入する事を誘っているとも考えられた。次々と現れる雪ゴーレム達を破壊しつつ、敵の戦力を測る必要がナオには要る。というのも、巨人の遥か後方にしか敵兵が居なかった。
「糞がぁあ!」
ナオの怒りの叫びが盗賊のアジトに響き渡った。
◆
俺とシルバーナはレクチャー屋を出る事にしたが、そこで問題が起きた。
盗賊は有料という事実だった。
「ユウタは無料であたしには金払えって、なんでなのさ」
語気も荒く女店長に詰め寄る盗賊娘だった。カウンターの周囲にはまばらだが、客がいるのである。人目をもう少し憚って欲しいものだ。女店長ココナツさんは肩を竦めると腰に手を当てた。
「盗賊なんてゴミみたいな物ですからね~。ちなみに目を通したスキルについてはこちらで確認させてもらってますよ~。二刀流に音速刺し、その他にも盗賊系のスキル各種しめて三十万ゴル以上ですが・・・払えますか?」
「えっ?」
「なんでそんなにすんのさ!」
「元々そんなお値段ですよ~。本来であれば二百万ゴル以上なのです。ガンバルがスキル本を提示する恰好なのですが、こちらの落ち度もありますからその値段に値引きしてます」
申し訳なさそうにココナツさんは話すが、シルバーナは顔を真っ赤にしている。無理もないだろう、本人がタダだと思っていれば、有料であったという事実。三十万ゴルなんて無理すぎるだろう。俺の全財産を支払いに当ててちょっと残るくらいかな。今どれだけゴルがあったか・・・・・・確か四十六万くらいあったか。
俺が肩代わりしてもいいが、それでは安易すぎるよな。
それにしても凄い値段である。ちょっとした家より遥かに高いそれはどういう仕組みになっているんだろうか。隣に立つ少女は肩を震わせているが、まさか暴れるんじゃないだろうな。いくらぽやっとして天然ぽいココナツさんではあるけれど、ダンジョンマスターらしいのでその実力は侮れない。トラップホールみたいなインチキ罠でも使われると、シルバーナでは歯が立たないだろう。
そこまで考えて、ある事に気が付いた。そもそも、ここ『常夏』はもしかして店自体がダンジョンなんじゃあるまいかと。だとすれば、俺達はココナツさんのダンジョン内部で踊っていた事になる。知りたいだけ、習得出来るだけ俺にスキルを学習させるのは何故か。そこの所も全く考えていなかったな。兎に角、ダンジョンだとすればシルバーナが何のスキルを学習して習得したか。それを把握する事も出来ると推測する事は難しくない。
シルバーナは顔を赤くして抗議するも取り合ってもらえている風ではない。このままいくとどうなるんだろうか。
「あの、ココナツさん。支払いが出来ない場合って、どうなるんですか?」
「そうですねえ、肉奴隷として売り払うか。ここで働いてもらうかしますか、あと娼館行きというのもありますよ~。私としては、本意ではないのですけどね~」
いつの間に現れたのか、店の入口から青い鎧を着た騎士の集団が接近してきた。とても逃げ出せるような状況ではない。やって来るにしても、タイミング良すぎるだろう。騎士達はどう見ても、昨日アル様の傍に控えていた騎士風の装備であった。
ココナツさんと騎士団が繋がっているのかなあ。
「シルバーナ。お前いくら出せる?」
「九万なら出せるけどね。ユウタおかしくないかい!? 美味しい思いが出来ると思ったらこれさ。どんだ落とし穴があったもんさね」
抜け目のないコイツの事だ。
俺について行けば美味しい事にありつける位の感覚でいたのかもしれないな。
人を利用しようとばかり考えているからこうなるんだ。
お灸を兼ねて放置するという線も考えたが、二度と会う事もない予感がしてくる。
しょうがないな。
「ココナツさんわかりました。九万ゴルは払えるそうなので、残りは俺が払います」
「ええ!? あんた、いいのかい」
「これでは藪蛇・・・・・・いえ、お支払ありがとうございます」
イベントリを開くとココナツさんに金の支払いをする。盗賊娘の顔が、赤いが別の意味で熱を盛ってきたようである。
「ユウタありがとよ!」
「いいから、いずれ返済してもらうぞ。手をとってすりすりしたり、頬ずりするのは止めろ」
「え~? これじゃ不満なの? 身体で払うなら、何時でもいいけど?」
「お前何それ、安すぎないか」
「あんただけだって。こんな事いうのは初めてだし、あんたが特別だからにきまってるじゃないのさ」
「・・・」
そう言いながら、取った手を抱きしめようとするのを何とかすり抜けた。返事が出来ないのが辛いが、股間のほうはとっくにテントを張っていた。俺だって健全な男であって、可愛い子に言い寄られれば悪い気がしないのだが・・・・・・。残念な事に、心の方はシルバーナに接近していない。そんな状態で、肉体だけ繋がっても虚しくなるだけだ。
「あんたっ、ちょっとどこかで休憩しようよ」
「・・・・・・シルバーナ行くぞ」
それは、男が言うセリフだぞ! という突っ込みをしそうになる。「ちょっとあんたぁ」という声を背中に受けながら店を出ようと、騎士達の横を通り抜けていく。慌てて追ってくる娘。
カウンターの方向からは「あちゃ~」という声が聞こえてきた。
青騎士達の包囲を抜けると、アーバインの冒険者ギルドに移動する。
◆
【ゲート】を使用して転移すると、シルバーナが顔を青くしていた。どうも人によって慣れ不慣れがあるみたいだな。「大丈夫か?」と聞いてみるとキッとこちらを睨んでくる。何とも感情の振れ幅が大きい娘だ。
「あたしはあんまりこの手のには入らないからさ。ちょっときついから背中をさすっておくれよ」
「そうか? しょうのない奴だなあ」
シルバーナの背中をさすってやるが、皮鎧を着けているのであまり意味がないような?
それより行き交う人達の視線が気になってきた。これではまるで、恋人を介抱しているようではないか。なんいう羞恥プレイだ。シルバーナの奴は高度なテクニックで、俺を攻めているのだろうか。
「ありがとうよ。大分よくなったよ」
「そうか」
「こういう時男なら別の場所を触るもんじゃないのかい?」
「それ、どこから仕入れた知識だよ!」
休憩しようよ。というのは体調が良くなかっただけかもしれないな。
そこにDDが割り込んでくる。
「(ねえねえ、ユウタ。僕にもしてよ)」
「何を?」
「(卵なでなでしてくれると、嬉しいなあ)」
「意味あるのかそれ・・・・・・」
「(シルバーナばっかり優遇してるじゃん!)」
「そう見えるのか」
しょうのない卵だ。だが、世話になっているしヘソを曲げられるのも困るので懐に入れている卵をなでてやる。変な声を出し始めたが、聞かない振りをして割愛する。
シルバーナの具合もよくなったが、また気分が悪くなるかもしれない。
アーバインの冒険者ギルドで一息いれるか。中に入っていくと、人が少なくなっているようであった。冒険者達の軸足がペダ村に移ったということか? だとしても人ゴミで溢れかえらなくなったのは俺にとって好都合だ。入口から入っていくと好奇の視線が俺の方に向けられる。好奇心というよりは、これは殺意の類かもしれない。
そこかしこから話声が聞こえてくる。
「おい、あいつセリア嬢を連れてねえぞ。もう一人も連れてねえし」
「んなこと知るかよ」
「どういう事なんだよ。今度は別の女か。畜生羨ましいぜ」
「ちょっと、からかってやるか?」
「やめとけって、ヒロさんに絞められるぞ」
「でもよお・・・・・・」
言いたい事を思い思い言っているようである。セリアが居た時には、色々言われる事もなかったんだけどな。やっぱり、セリアの耳を気にしての事だったろうか。居ないとやはり、影響が出てきたみたいだ。シルバーナは休憩の為に、喫茶コーナーのテーブルについている。俺は一人カウンター前で受付の順番待ちをしていた。
そんな俺の周りに、数人の男達が接近してくる。男の内先頭にいる頬のこけた奴が声をかけてきた。
「よお、あんたに聞きたい事があるんだが。ちょっとだけ時間いいか?」
「いいですけど、時間はあまりないので。この場で手短にお願いしますよ」
「ゴホン、それじゃあ聞くけどよ。セリア様と連れの女の子はどうしたんだ?」
「二人ですか、彼女たちは学園に行ってますよ」
学園? と聞いた痩せぎす男は安堵の表情を浮かべた。別のチャラ男風の黒皮服を装備をした糸目が質問してくる。
「貴方とセリア嬢の関係はどういうものなのですか? 貴方はFランク冒険者ですよね。一体どういう繋がりで、一緒に行動していたりするのですか」
この糸目は服装に似合わず冷静な声をしていた。さて、どうしたものかな。素直に答えてやる義理はないし、何より色々と素性みたいなものを詮索されるのは都合が悪い。
「セリアとは仲間みたいな関係ですよ。色々あって一緒に行動しています」
「ふむ。いえ、色々と噂になっていたのですよ。セリア嬢が貴方の奴隷になっていかがわしい事をされている、とね。私としては真偽はともかく、そのような事はありえないと考えていたのです」
糸目はこちらを探るようにして話しかけてくる。嫌な感じはしないが、探られると痛くもない物がでてきそうだ。盗賊皆殺しの賞金稼ぎとか、ペダ村の代官だったりとか。王族の警護から村の役人と、少々ありえない話である。そして、現実を見ればセリアもモニカも奴隷でなく俺の方が、奴隷ではないだろうか。
正直いって、頭の痛くなるような話ばかりなのだ。これ以上揉め事とか厄介な話に巻き込まないでほしいのだが、それは向こうの方からよってきやがる。
目の前に立っている糸目に苛立ちを覚える。俺だって頑張ってランクをあげたり、ゴブリン退治に出かけたりしたいんだよ! しかし、村の状況も相まってそういう訳にはいかない。毎日毎日、アル様には呼びだされるし。
無難な受け答えを言って煙に撒いとこう。
「それは良かった。その通りですから、安心してください」
「わかりました。突然の質問に答えていただきありがとうございます」
「おい、待てよ」
痩せぎすと糸目が去ろうとするのを厳つい顔した男が筋肉質の身体を誇示するかのようして遮る。
「どうしました。ランドルフ」
「おかしいだろ、Fランクの糞虫とAAA+ランクのセリア嬢が組むってのは納得がいかねえよ」
「だとしても、何か事情があるんだろ。そこに突っ込めるのか?」
「うるせえフーズマンも腰抜けガンドも黙ってろ。おいクズ、セリア嬢に俺達を紹介しろや。代わりに組んでやるからよ。セリア嬢も役立たずと組むより、遥かにいいだろうぜ」
「・・・・・・」
わかりやすい糞野郎がいました。どうするべきか、ここでわからせてやるのは不味そうだ。
俺が無言でいると、ランドルフと呼ばれた男が俺を小突いてくる。
突き出される拳をスウェーの要領で、後ろに躱す。男は興奮がおさまらない様子であった。
「何をするんですか?」
「うるせえ、てめえ胡散臭すぎんだよ。ちっとこっちにこいや」
掴みかかって来る男の手を再度躱すと、周囲が騒然としてくる。ギルド内で揉め事を起こすとどうなるんだろうか。なおも襲い掛かろうとする厳つい男の元にギルド職員が走り寄ってきた。
てっきり、喧嘩か何かに発展すると考えていた。しかし速攻で屈強な職員に取り押さえられて、連行されていく男。それを見つめる二人は複雑な様子だ。
「大分気を悪くされたと思いますが、彼はセリア嬢の大ファンでしてね。当然、君の事を苦々しい思いで見ていたという事なのですよ。この先もまとわりついてくるかもしれません。十分気を付けてください」
「そうなのですか。確かに、ずっと見ていた相手にポッと変な男が現れた、となると感情が抑えきれないのはわかります」
「・・・・・・君は見た目に似合わない言葉を言うね。ここは、普通嘲笑うところだろう? 君も敵に同情していると足元を掬われるぞ」
糸目と痩せぎすは去っていくと、しばらくして受付の順番が回って来る。
人は誰かのモノを奪わずには生きられない生き物なのだ。何も奪っていないと思っているのかもしれないが、狭い星の上で互いに何かを得る為に他の誰かから奪わざるえない。道を歩けば、地面の蟻を知らない内に踏み潰している。俺がランドルフからセリアを奪ったというなら、その通りだしその内対決する事になるかもしれないな。
その時、ランドルフを嗤う事なんて俺にはできないだろう。だから、さっきも連行されていく男を嘲笑する事が出来なかった。
受付嬢に話かける。年の若い受付嬢だが、美少女や美女を見すぎたせいか魅力的に見えないのは欲目が過ぎるな。そんな受付嬢だったが、声は走り回ったかのように息も途切れ途切れにある。
「こんにちは、ユウタ様災難でしたね。ギルドとしては大変遺憾な事態になってしまい、申し訳ございません。それで、本日はどのようなご用件でしょうか」
そう話す受付嬢はよく見ると汗をかいている。走り回った結果出てきた汗というのとは違うようだが?
気にしてもしょうがないか。
「はあ、ええと。今日はクエストを受けに来たのですが」
「そうですか。では、お勧めとできるのはペダ村でトカゲ狩りとかアーバイン近郊の暗き森でゴブリンもしくはオーク狩りなんてものがありますね。どちらも10日以内が期限になりますが」
―――クエスト トカゲ狩り
本クエストを遂行するに当たって、注意するべき点が幾つかあります。
一つ、対象の死体を持ち帰る事。
二つ、ペダ村に接近する対象を優先する事
三つ、森内部での情報について提供する事
ちなみにゴブリン狩りも似たような物だった。情報を売り買いするわけでなく、全体で共有するというギルドの方針みたいである。しかし、未だ上級職やベテラン冒険者らしき人々をほとんど見ないのが謎だった。ゴブリンやトカゲは所詮、脅威としては低く見られているのだろうか。
「前回受けた時には死体を持ち帰る等無かったのですが変わったのでしょうか」
「そうです。そこが今回のポイントになりますね。最近、キューブによる確認を嫌う方もおられまして、選択式になっております。当方としては、どちらでも構いません。あ、ユウタさんはどうされますか?」
「俺ですか? そうですね。出来れば持ち帰って来る方針で行こうと思っています」
「そうですか。残念です」
ふむ。俺の手元にはトカゲの死体が沢山転がったダンジョンがあるが、中はどうなっているのか不明なので確認したい所である。色々聞きたかった事を確認すると、どうやらゴブリンの村を発見した場所を拠点にしつつ攻略を広げている模様であった。俺達が作ろうとしていた、木こりの休憩所はゴミ捨て場になっているらしい。ちょっと行って確認する時間はないな。
ペダ村方向に森を探索すると、トカゲの密集地帯にでるようである。したがって、どこにDDのいうモノがあるのかいるのかは不明であった。また中に入る必要があるのだけれどなあ。セリアもモニカもなしに入ろうものなら、速攻で全滅するフラグでしかない。
クエストを受けると、シルバーナの姿を探す。見れば、男が声をかけている様子だ。
「なあ、君可愛いね。俺とPTを組まないかい。ランクだってCだし、あんなもやしみたいなのと組んでいるよりずっといいと思うけどさ」
「・・・」
「俺の仲間だって君みたいな子だったら大歓迎するよ。どうかなあ、ここで会ったのも良い機会だし一度PTを組んでみないかい」
「話はそれかい? だったら間に合っているさ。連れも来たし、もう声をかけないで欲しいね」
栗毛の少女は大変ご立腹の様子だ。
俺が、カウンターに行っている間に何人の男が言い寄ってきたか細かに説明する。
こういう時どうしたらいいんだろうか、一先ず昼には早いが飯でも食いに行くとするか。
さて、何処で食べれば機嫌が直るんだろう。時間も押している、このまま城に向かうのもアリだが・・・迷う所だ。
閲覧ありがとうございます。




