87話 異世界二ホン
異世界か。しかし、そんな所行って何をするというんだろう。
全然説明がないのだけれど、俺の疑問や戸惑いを他所に事態は進行していく。
「ちょっとこっちに来い」
「はい、アル様」
アル様に促されるまま部屋の中央に立つと、周りには青い鎧の騎士達と召使い達がとり囲む。
盗賊娘は召使いに連れられていた。
「あの、アル様この人達も?」
「フォース隊形を組むからこっちに移れ。終わったら転移するぞ」
アルのフォースに入りますか?
▽
はい いいえ
シルバーナの方も強引に組み込まれた。最大24人なのだろうか。
ここからフォースの連結で、更に人数が増えるのかもしれない。
アル様が俺の手を強引に引くと、中央の石台まで連れてこられる。
四角い石にはびっしりと魔術文字らしき何かが書き込まれているのだが、判別がつかない。
アル様がそれに手を触れる。部屋全体が脈動するように明滅を開始した。
世界が、空間が、グニャグニャになっていく。
「アル様!?」
「静かにしていろ。すぐに済む」
やがて、目の前が真っ暗になる。俺の意識はそこで途絶えた。
◆
ペチペチと何か感触がある。目蓋を開けると、知らない女の子の顔があった。
冷たい感触が額にある。それを手に取ると、可愛らしいハンカチだった。
「あの、道路で寝ていたら死んじゃいますよ?」
「え? それはどうも」
あれ? ・・・日本語だ。道路か、やばかった。
「気がついたみたいですね。大丈夫そうですし、それでは失礼します」
「ありがとうございます」
少女はにこりと微笑むと、優雅に一礼をして去っていく。
笑顔がキュートだ。
手には少女が手に取ったハンカチは返さなくていいのか?
黒髪が美しく切りそろえられた少女だった。女学生なのだろうか。鞄を手に、歩く姿は華がある。
ここは何処なのだろう。
「(ユウタ、デレデレしすぎじゃないかい?)」
「そう見えたなら、気を付けるよ」
「(!? どうしたのさ、気持ち悪いね。頭でもやられたの?)」
「いや普通だよ」
「(ふーん)」
最初が悪かっただけで、後は普通なのだ。この卵には、世話になっている。
土手道を一台の車が接近してくる。なんだ、乗用車か。視線を女の子が去った方向に戻す。
「(ユウタ! 後ろ!)」
「後ろ? えっ」
DDの声に反応して振り返ると、車は轢き殺すつもりなのか?
こちらに猛スピードで突っ込んできた。
不可視の盾を張るが車に跳ね飛ばされる。フロントガラスにぶち当たるも割れる事はなかった。車は、倒れた俺を尻目に通り過ぎていく。殺したつもりなのだろうか。
地面に伏せた俺は身を起こすと、此処が何処なのか改めて周りを見渡す。
川沿いの道か・・・道の横には川が流れている。車が去った方向を見ると、少女の傍で車が止まっていた。
「放してください!」
「大人しくしろ!」
何やら不穏な気配だ。これは・・・ひょっとして、誘拐の現場に居合わせているのだろうか。
困惑していたが、足は走り出していた。身体にダメージはない。
周囲に人通りもない。つまり、これは格好の場所だったのだ。
少女の手を掴み押し込んでいる怒りで、頭が破裂しそうになった。
争う少女が押し込められつれさられんとする車に走り寄る。
顔に傷のあるいかにもな男が、こちらを向く。糞野郎はこちらを一瞥すると、唾を吐いた。
「んだ、てめえ死んでねえのか? 運が良い野郎だな。ガキはすっこんでろ」
懐から何かを出そうとする男に接近する。腕を払いつつ、腹に一撃を食らわせる。
強面の男が落とした物は、拳銃だった。
「兄貴! 糞ガキィ」
「・・・」
頭の中は、灼熱の殺意で一杯である。
俺は無言で銃を広い上げつつ、安全スイッチを取外して男に止めの銃弾を放つ。
「あ・兄貴! やりやがったな!」
「・・・」
「ぎゃ・・・」
「ゴフ・・・て・てめえ」
「な・なんなんだ。お前は・・・」
「・・・」
手に持つ凶器の火薬が弾ける音と共に、残りの男達三人を手早く始末した。
相手の急所を銃撃したが、内心驚くほど正確に銃弾が吸い込まれた。
恐らく相手が、反撃してくるとは思ってもいなかったのだろう。
三人は銃を持ち出して来る事もなく、余裕なのか素手で棒立ち。
男達の眼光は鋭かったが、詰め寄ってくる男達は余裕を見せすぎだった。
銃の音がかなりの物だったし、誰かこないとも限らない。早々に立ち去らねば。
周囲に人気のない場所だが、車を放置するかどうか迷う。
車の中には少女が薬でも嗅がされたのか、ぐったりとしている。
手を取ると脈はあるので、気絶しているのだろう。
少女を車から降ろして、男達の死体をイベントリにしまおうとする。
口からは・・・不思議な発音が漏れて黒い染みが広がった。
とりあえず、この世界でも魔術にスキルが使える事に安心する。
死体と車を収納すると、少女を連れて移動していく。
手に抱える少女は軽かった。何処か、公園でもあればいいのだが。
「(おい。ユウタ、今何処にいる?)」
「!? (アル様ですか? 今・・・此処が何処なのかわかりません)」
「(一刻も早くこちらに合流しろ。此処の連中は手際が悪い)」
「(しかし、そちらの場所がわからないのですが。如何がいたしましょう」
「(こちらから迎えを出すと、すれ違う可能性がある。ちょっと待っていろ」
アル様はそう言って念話を止めた。念話も出来るので、もしかして魔術全般使えるのだろうか。
試して見ると、【ウォーター】を発動させる。魔術は普通に使えた。銃はいらないような気がしてくる。
しばらく歩いて、人通りのない橋に着く。誰か通るかもしれないので、少女を降ろす。
風を送りながら、目覚めを待つことにした。
空は青く、晴れ渡っていた。白昼堂々の誘拐とか、この世界は物騒だな。
どうも日本にしか見えないが、誰も通らない。
「(ユウタ、今から現在地を言うぞ)」
「(はい、アル様)」
「(それと、シルバーナの奴も居ない。探し出して連れて来るようにな)」
「(はっ)」
此処が何処なのかわからないので、言われた場所そこに行くのにどうやって行けばいいのだろう。
お金も無いのでありますよ。電車に乗る金も無ければ、タクシーに乗る金もない。
俺は途方にくれた。
さっきから、卵の反応がない。
外見は割れてはいないのだけれど、呼びかけても返事が返ってこないのだ。
俺はぐつぐつと煮えたぎる鍋を掻き回すような怒りを感じていた。
誰も通らなかった道の先に、一人のチンピラ風な男が現れる。
男は何かを探している様子だったが、こちらの側で横たわる少女を見ると目を剥いて走ってくる。
「てめえ! お嬢に何してくれてやがんだ」
「何って、貴方はこの子とどういう関係なんですか?」
「ああん? 親父の大事な一人娘に決まってんだろが」
「それは良かった。丁度、娘さんを保護した所なんですよ」
男達の詳細を省いて、説明する事にした。ちょっと無理があっただろうか。
チンピラ風の男は山田銀次と名乗った。
名前をそのまま言うのも芸がないので、ジョン・ドゥと名乗っておく。
「んだ、おめえは外人か?」
「みたいな物です。ジョンと呼んでください」
「んまあ、とりあえず組に戻るけどよ。ついてこいや」
俺は頷くと、銀次が携帯を鳴らす。しばらくすると、黒塗りのベ●ツが走ってきた。
それっぽいなあ。やっぱり、これはそういうとこのそういった事情がありそうだ。
銀次は少女を大切そうに抱えると顔を赤くする。つまり、そういうことか。
目の前に停車した車に、三人乗り込むと背広姿の男がこちらを向く。顔に刃物でできたような傷をつけていた。
「どうも、お嬢がお世話になったようで」
「いえ、大した事はしておりません」
「恩人には違いない」
妙に圧迫感のある背広の男が前に乗っている。プレシャーでちょっと、逃げ出したくなってきた。
このまま行くと、当然ながらヤがつく人達の事務所に連れて行かれるのではないだろうか。
道すがら通りを眺めていると、よく見たコンビニ等がある。
看板や標識といった物も、俺が居た世界によく似ているのだ。
車は大きな屋敷に止まる。門構えから、広くどっしりとした作りであった。
門の前には強面の男達が並んでいた。
「「お帰りなさいやし!」」
「おう、おめえら出迎えご苦労」
背広の男と銀次が前を歩いて行く。俺はここで失礼してもいいだろうか。
「それじゃあ、銀次さん。俺はこれで、失礼します」
「まあ、待てよ。お客人に何の世話もしないまま返したとあっちゃ組の名折れだ。なあ、兄貴」
「ああ、アンタはお嬢の恩人だ。何もしないってわけにはいかねえ。入ってくれ」
逃げられないのか!
そんな会話をしているところに【気配察知】スキルが何かの接近を知らせてくれる。
車か。何台もの車が、連なってこの屋敷に近づいている。大型のこれは、一体なんだろうか。
パンパンという銃声が聞こえてきた。門の外で戦闘でもやっているのか?
「大変だ。●●組のカチコミだ! !! 野郎!」
「ぐあ。こ・こいつら・・・」
幾つかの怒鳴り声と、パンパンという銃声とパララッという音が交差する。周りの男達は物陰に身を隠す。正面門に黒い車が止められた。俺もボケッとしているわけではない【シールド】を張りつつ、襲撃者の車に【サンダー】を放つと、それは爆発を起こした。周囲に隠れるの男達は茫然とした様子だ。
車に搭載されたガソリンに引火したのだろうか。正面に走り寄る男達は稲妻を受けるとマシンガンを持ったまま倒れる。勢いよく燃え上がる車が障害物となって、後続が入って来れないみたいであった。
屋敷ないの男達は障害物に身を隠しているが、俺は塀を越えると敵の最後尾にいる車両を襲撃した。
門前から一面に【アイス・ミラー】の氷面で移動を封じつつ、【サンダー】の電撃を放つとあっという間に勝敗は決した。
連鎖的に爆発を起こす車とその爆風に煽られて、電撃を浴びる襲撃者共は倒れた。
動いている相手がいないか探しつつ、息があれば止めを刺していく。
7台ほどの車が燃えているので、鎮火するのも忘れない。ちょっとやってしまった感もあるが、こいつらを始末しておかないうっとおしい。
死体を回収する際おかしな事が起きる。数体だが、混じっているおかしな死体。
それは顔が・・・ゴブリンなのだ。
最初のは死んでいても、変わらなかった。
こいつら顔が赤いというより全身が赤く額に角が生えていた。
結構時間を食ってしまった。手早くイベントリに死体と武器をやらを回収する。
車も同様に入れていく。とっつあん、イベントリこれは完全犯罪スキルだ。
屋敷にいる男達は引きまくっているが、銀次だけは話しかけてきてくれた。
「お、おい。あんた何モンだ?」
「ふう。通りすがりの小僧です。あ、良ければ、着替えの服とかもらえませんかね。地図とか携帯もほしいのですが、何とかならないですか」
「お、おお? そんなモンでいいなら用意できるけどよ」
「あと、こいつらの本拠地とかわかりませんか」
銀次が目を開くと、額から汗を流した。
「まさか、そりゃ●●組の場所か?」
「そうそう。それですよ」
「いくらなんでもよお・・・その様子じゃ言っても聞かねえな。おい、お客人に車を出して差し上げろ」
銀次に俺は替えの服を何着かと資金に携帯やらを貰うと、地図で教えられた場所に向かう事にした。よくわからなかろうが、スマホで楽々たどりつけるはずだ。ついでに、シルバーナとかも探さないといけないので手早く済ませたい所だ。
門の前は何もなかったかのように静まり返っている。
裏口から車で移動する事になった。
移動していくと住民が通報したのか、警察車両とすれ違う。もう少し遅ければ、出るに出られない状態になっていたかもしれない。
「(ユウタ! 右右。シルバーナじゃないのかな)」
「銀次さんちょっと待ってください。車を止めてください」
「ジョンどうした」
「知り合いがいまして」
DDに言われて右を見ると、通りをふらふらと歩く栗毛の娘がいた。
DD生きているなら、返事くらいしろよな。
女が着ている服装からいって当然の事ながら、周りからは好奇の目で見られている。
拘束具姿のままなのだ。よくもまあ、職質に引っかからなかったものだ。
探す手間が省けてよかった。
「(おーい。シルバーナ! こっちだ。周りを見ろ)」
「(!? ユウタかい? どこいるんだい)」
俺は車から降りると、栗毛の娘を車に連れ帰る。
拘束具を解いてやると盗賊娘は元気を取り戻したようだ。傍でじゃれついてくる。現金な物だ。
「あんた! 人をほったらかしにしてどこいってんのさ」
「悪いな」
「この子は仲間なのか?」
「ええ。とりあえず、近くで降ろしてください。後は自分たちで何とかしますから」
「お前なんだって、こんな事するんだ? 奴らの兵隊はまだまだ大量にいるんだぜ。とてもかないっこない。どう見ても自殺行為だろ」
さて、どう答えたものか。一宿一飯の義理とでも言うべきだろう。
銀次さんはきっとあの子に惚れている。とても、助けられたあの子の瞳が綺麗だったからだなんて言えない。俺のやっている事といえば、大量殺人であり、いずれ報いを受けるだろう悪党だ。
「大丈夫ですよ。俺が死んでも銀次さんは何も知らない。何も見なかった。そういう事です。それと、このハンカチを返しといてもらえますか」
「なんだよこれは」
「お嬢さんのです」
「おめえ・・・」
相手の組についても色々と聞く事ができた。まあ、敵対組織についてなので色がついていたりするかもしれないが。誘拐だのカチコミなんだの仕掛けてくる辺りで判断する事にした。
武装にしても、ミニミやら短機関銃を装備した勢力だ。押されっぱなしの銀次さんの組は古い組織で、地域と密着した組らしい。最近じゃ、税金を支払う商売に手を付けているとか。
敵対する相手は、何でもあれの組織で薬の密売から売春と幅広くやってきていると。
そして、今日の誘拐劇に組襲撃である。銀次さんも思う所があるのかもしれない。低い声ながら、高まる声量でヒートアップしてくる。
顔の赤いゴブリンについても聞くことができた。
「赤い子鬼か? ありゃなあ、連中怪しげな物使っているみてえなんだ。薬か、陰陽術とかって噂だけどな。オカルトだろって誰も信じやしねえ。兄貴分の一人が死ぬ前に鬼が出るみてえな事言ってたらしいけどよお。まさかおめえさんも・・・」
「それはないですよ」
「心配しちまったぜ。くれぐれも気を付けろよ」
会話している間も程なくして車が停止した。周りには住宅街だが、こんな所に本拠地があるのか?
「あの道を通って行けば、連中の組裏口に出る。後は、知らねえ・・・でいいんだな?」
「ええ。次、会ったとしても知らない振りでお願いしますよ」
「ちょっと、あんたどうなってんのさ」
「黙っていてくれ」
多分、銀次さんにはシルバーナが何を言っているのかわからないはずだ。
俺は聞きなれた言語なのだが、こっちではまんま日本語の看板と標識だしね。
車を降りると【ゲート】の場所を決める。MP回復をするのも忘れない。
回復さえしておけば、いくらでも撃てるのが魔術の強みなのだから。
銀次さんを乗せた車が去ると、二人して移動していく。
黒頭巾を少女に渡すし自分も着ける。
「シルバーナ。隠形を使ってくれ」
「はあ? あんた、使えるんじゃないのかい」
「使えるが、使っている間魔術が使えないだろう」
「なるほどね。で、今から行くとこはなんなのさ」
「ちょいとした野暮用さ」
「野暮用ねえ・・・まあいいけど」
栗毛の娘はまだ納得した様子ではなかった。手をつなぐと【隠形】を発動させたみたいだ。
歩いて行くと、監視カメラらしき物が見えるので投石で破壊していく。
やがて、裏口までたどりつくと扉が開いて組員と見られる男達が出てくる。
やはり、こちらが見えていないようだ。【隠形】これなんて凶悪なスキルなんだ。不可視モードとかステルスとか光学迷彩とかそういうLVじゃない。
男達が背後を見せると、後続が来ない事を確認して襲いかかった。完全に不意を突いたそれは、一方的な展開である。心臓に一突きしていく。俺の攻撃で倒れる男達は驚きの表情を浮かべ、次に来るシルバーナの追撃で叫ぶ事ができないまま倒れていった。
「(あんた、よっぽど暗殺者に向いてると思うよ)」
「(かもしれないな。だが、これも人助けの一環だと思っている)」
「(何さ、人を殺すのに善も悪もないだろうに)」
言われてみると、確かにそうだ。殺さずに済むならそれでいいのだが、現実はそう甘くない。
倒した相手の男達もまた良い銃を装備していた。収納すると使えそうなのだけ持っておく。
閉まった扉の鍵を回収すると、死体となった男達の中にやはり赤子鬼が混じっていた。
「(あんた、これは?)」
「(ああ、化けているのかわからないがゴブリンみたいだな)」
シルバーナはまじまじと赤ゴブを見ていた。
扉を開けて中を伺う。
中にはどうやら巡回の見張りもいるようだったが、こちらに来る様子ではない。
巡回の男が連れている犬が強敵に見える。さっさと屋敷の中に入っていく事にした。それにしても不思議なのは物音が立たない点である。足音くらいしてもいいはずなのだ。屋敷の中は板張りで気づかれると思っていた。
相手が出てこないとやりづらいが、親玉を探していく。
廊下に立っている男達は二人一組だったりするが、甘すぎた。
【隠形】という異世界チートの前に無防備で立つ木偶。それとなんらかわない。
殺される相手の顔は苦痛よりも驚きに満ちていた。いきなり頭に剣が生えるのだ。
頭部に喉に心臓に、切れ味抜群の魔術剣が突き刺さって倒れる。
攻撃する際にはやはり見えているみたいだが。
どうしようもない。【気配察知】もない上に【身破り】もない。気がついた時は既に終わっている。
繰り返す事二十以上か。素早く見張りを倒し、死体を収納しながら進む。
丹念に部屋を調べていくと、嬌声を上げる部屋があった。男女のそれだ。
聞くに堪えない会話が耳に飛び込んでくる。
「ひぃ」
「おら、姉ちゃん。助けを呼んでも誰もきやしねえぜ? 大人しくしやがれ!」
「やめてえ」
「へへ、もうすぐお仲間が増えるんだぜ。楽しみだろ?」
「あそこのお嬢様はどんな味がするのか楽しみだぜ」
女以外皆殺しにしよう。
襖を開けて中に入ると、畳み12畳といった空間で男女が十数人絡み合っている。壁際に警護役の人間がいた。どうやら、警護役の男は勝手に開いた襖に不審を抱いたみたいだ。
先に、こいつから片づける事にする。
スキンヘッドにサングラスといった恰好の男だったが、身のこなしはそれなりに有りそうだ。
一気に相手に詰め寄ると、相手を切り捨てる。首をいきなり飛ばされた相手は、何が起きたのかわからなかっただろうな。
「なっ、なんじゃお前ら! 鉄砲玉かい」
「・・・」
男達の一人が気が付いた。しかし、もう遅い。
後はもう乱戦であったが、武器を持たない相手がいくら居ても戦いにならない。
一方的な殺戮現場となっている。幸いにして、女達は部屋の片隅に固まりつつあった。
銃に手を伸ばそうとする相手には剣を取り出して投げつけてやると、避けられないまま頭に刺さった。
そうしてシルバーナと二人で始末をつける。盗賊娘は意外なまでに短剣を使える。
さっきの戦闘でも見積もった感じだと、モニカ以上俺未満という所だ。
最後に残ったのは、でっぷりとした男だけだ。いかにも親玉といった風情をしている。
「お前ら、こんな事してただで済むとおもっとるんかい」
「黙れ・・・お前ゴブリンの元締めか?」
「なんじゃそらわしはしらんぞ」
「知らないならしょうがないか」
「ま、待てっ・・・」
男に止めを入れる。頭から割ってやると絶叫を上げる事もなかった。
変な香草を焚いている上に、祭壇のような物までこしらえていた。
なんというか邪教の信徒っぽいそれだ。
女達は怯えきっているが、どうにか金庫がありそうな場所を聞き出す事に成功する。
全裸なので布か何かを着せられるといいのだが、手元には着替え用しか残っていない。
女達には死んだ男達が鬼には見えないようである。死体を怖がっているが、恐怖のあまり気絶したというのは凄惨な現場のせいだろう。女達には侵入してきた通路から逃げるように言う。怪しげな神像を打ちこわし祭壇を破壊してから、金庫がありそうな書斎まで移動していく。
物取りの線にしておかないと、少女や銀次さんに迷惑がかかりかねないからな。
教えてもらった書斎前の扉に立つと、どうも鍵がかかっているようである。
シルバーナに目で合図すると、鍵穴に棒状何かを刺すとカチャカチャとやり始めた。
開錠をし始めてすぐ鍵は外れた。
「(どんなもんだい)」
「(やるな)」
「(なんかさあ、二人だけの世界作り始めてないかい?)」
「(それは、DD。気のせいだ)」
中に入るとゴテゴテした部屋に大きな金庫がある。なんてわかりやすく置いてあるのか。
他にもいろいろな書類が置いてあった。意外な事にPCやらなにやらまである。
根こそぎいただいていく。本からなにから頂いていくと、本棚が置いてあった裏に入口が出てくる。
怪しい。
「(ユウタ、こいつは気にならないかい)」
「(ああ)」
「(僕は嫌な感じがびんびんするよ!)」
止めとくか? と一瞬だけ考えたが、ここまで来たのだ探ってみるのも悪くない。
入口に入るとすぐに階段となっていた。古い石畳でできたそれを降りていく。
地下なのだろうか、酷くかびくさかった。それ以上に匂うのはイカ臭い匂いだった。
地下の通路にでると、鉄格子の嵌ったそこには赤いゴブリン達が入れられている。
そこを通り抜けていくと、広い空間にでる。そこにはなにやらゴソゴソと蠢いている物体があった。
「(これは・・・)」
「(酷いね。ゴブリン達の養殖場みたいだね)」
「何奴だ?」
奥のほうにいた巨体の赤黒い子鬼がこちらの方向を見ていた。
「お前がここの親玉なのか?」
「いかにも、ワシが鬼達の主よ。お主も薬を求めてやってきただろう。女を差し出せば用意してやってもよい」
「・・・」
俺とシルバーナに【浮遊】をかけると【アイス・ミラー】を地面に張る。同時にPOTをあおりつつ、【稲妻】を放つ。周りの子鬼達もろとも子鬼の主を倒してしまいたい。子鬼達の被害にあっている人は残念だが、諦めるしかなかった。
もう、人の姿をしていなかったのだ・・・
「ふはは。やるではないか!」
「(ダメだよ! ユウタあれはオーガキングだよ)」
「なんだと?」
ゴブリンじゃないのか。
稲妻をオーガに向けて放つものの、それを受けても平然としていた。
周りの子鬼は倒れ伏しているというのにだ。オーガは氷の地面を割りながら歩きだす。
突然、鬼が吠える。突っ込んでくる巨体を躱すと一撃を入れるも効いた風ではない。
地獄の鬼のような容貌だが、怯んでいてもしょうがない。
「堅いな」
「くははっ」
鬼は金棒を振り回す。でたらめに振り回してくる相手をシルバーナと挟み撃ちにする位置取りだが、盗賊娘には期待ができない。硬いし、一撃貰えば高確率で死ぬだろう。むしろ、逃げてもらったほうがいいのだ。
時間、それにシルバーナがこいつの一撃をもらった時のリスクを考える。
ちょろちょろと逃げ回っている間に、シルバーナの方に目をつけられるかもしれない。
金棒は嵐のように振り回しているつもりなのかもしれないが、セリアのそれに比べれば遅いと言わざるえない。加えて闘技場でぼこぼこにされたあの時から幾つものスキルを手に入れている。
シルバーナも仮とはいえPTメンバーだ。殺られるわけにはいかない。【蘇生】は使えるが、頭を割られてしまえばどうなるか。俺は賭けに出る事にした。
まずは【金剛身】に【硬気功】を使い身体能力を上げる。鬼の一撃が大振りになった瞬間を見逃さず飛び込む。
「馬鹿め!」
「はっ」
大振りが誘いなのは承知の上だ。強烈な蹴りを貰いながら、相手の金棒を持つ腕を切り飛ばした。
飛ばされた金棒の前にシルバーナが立つ。
「あんた! 大丈夫かい!」
「ぐっ」
破壊力抜群の蹴りを貰って血反吐が出る。【ヒール】をかけると全快になるので心配はない。腕を切り飛ばされた相手は、すんなり立ち上がってくる俺に恐怖した様子だ。余裕をとって再度魔力回復薬を飲む。
オーガがどこから赤い子鬼を召喚してくるが、氷面と化した地面で動けないままだ。
動けない子鬼は【サンダー】の電撃で死んでいった。
まだ、抵抗する気でいるオーガが失った腕の痛みなのか鬼相を歪める。
「お、お主は一体なんなのだ」
「俺か? 俺は・・・ただの人間だよ」
「馬鹿な。ただの人間など欲望の塊。ゴミのような存在にワシが負けるだと?」
「・・・そうかもな」
切りかかる俺に拳で対抗しようとしたが、腕をあっさりと切り飛ばされる。
両腕を失ってしまった大鬼は、まだ諦めの目をしていない。
警戒を怠らずに止めと行こう。
「人間如きにぃい」
「・・・」
イベントリから丸太を取り出すと、暴れそうなオーガを滅多打ちにしてやる。
口から何か出そうとするが、丸太で殴られると明後日の方向に赤い何かを打ち出した。
その赤い何かで、抉られる壁に恐怖した。怯まず殴り続ける。
「・・・」
子鬼の主だったオーガは半分肉塊状態に変わってしまった。
DDはキングだとか言っていたが、とても信じられない弱さだ。
悪あがきにはびびったが。
あっ。しまった、情報を聞き出すのを忘れていた。
「こ、このままでおわらせぬ。貴様らも道連れだ!」
「まだ死んでないのかよ」
死にぞこないが何か唱えるのを防げなかった。オーガの頭と手が赤い靄を出して光る。
地下全体が振動していく、どうやら生き埋めにする気らしい。
オーガの執念は凄かった。だが、俺達は【ゲート】を開くと外に転移した。
キューブステータス サナダ・ユウタ 16才 冒険者
装備 ミスリルの剣 ハーフプレート チェイングリーブ プレートヘルム 硬い皮のブーツ 対魔術の盾 銅の篭手 オークの弓 オークのワンド
邸宅有り セリア 人狼 モニカ 鍛冶士
スキル テレポート PT編成
特殊能力 なし
固有能力( 人形使役、人形化 、幽体離脱、生命操作、力吸収、ダンジョン生成、竜化)
▽
[冒険者LV80]市民85村人85戦士 85剣士 85弓士 85勇者 85狩人 85魔術士 81商人 81薬剤士 80騎兵 80弓騎兵80格闘士 80英雄 80治癒士 80料理人 80魔獣使い 79付与術士 79錬金術士 80木こり77下忍 77神官75人形使い72死霊王21生命王21闘技士49騎士49槍士49 村主41 竜人13ダンジョン生成士13使徒10
所持金 35万5千中ゴル(9万クーポン有)
閲覧ありがとうございます
寒いです・・・




