85話 王都で学園!
学校と聞くと、ザワザワとしたものを感じる。セリアに案内されて、いかにもバスといった風な乗り物に乗る事になった。冒険者ギルドで森がどうなっているのか情報を集めたい処だったが、時間がないのでパスして移動する。乗り込んだ座席でタマゴが話かけてきた。
「(ねえねえユウタ。さっきの子とどういう関係なんだい)」
「知らない。身に覚えがない。俺に聞くなよ」
「どうしたのですか」
「いや、何でもないよ」
独り言をいうかの如く見えるのだろう。きっと、頭がおかしくなったのかと心配されたぞ。
セリアと言えば、何やら考えているようである。切れ長の瞳を閉じて腕を組んだまま長い足を交差させていた。
「ところで・・・モニカは学園の場所を知っているのかな」
「いえ、私も知りません」
「ん。何の心配もない。この魔導車に、乗って外都市部に移動すればすぐだ。次からは学園前まで【ゲート】を使えばすぐなのだし、道に迷う心配もないだろう。ただ、学園前まで【ゲート】で転移はできても内部には結界石の効果で無理だ。そこは忘れないで欲しい」
俺達は冒険者ギルド前の停留所から黒い箱といった感じの魔術車に乗って移動している。中は意外にも広く、座席の方も結構あった。昼も近いという時間なので、学生は少ないのだろう。学園行きの魔術車には、乗客に学生がいなかった。さっき出会った学生は、スキル買いの為レクチャー屋に来たという事なのだろう。
窓に当たる部分からどんな材質かわからないが、外が見える。流れる景色から察するに、王城方向とは逆方向に向かっている。セリアが外都市部と言うからには、内都市という区分けがされているのかもしれない。区分けされる大型の門を抜けてひとしきり走ると、大きな敷地が広がる建物が連なっていた。
「セリア。これが学園なのか?」
「その通りだ。ここが冒険者育成学校、王立ラグナロウ学園だ。もうすぐ正門だぞ」
「なるほどね」
「広いですね」
学園の正門前で、停車する魔術車から代金を支払い降車した。門からは何処かのお嬢様学校か? と勘違いしたくなるような雰囲気を感じる。門には重装甲を装備した屈強な守衛さんが左右に立っていおり、このまま中には入れそうもないような気がする。すると、セリアがスタスタと歩いて門横の受付に向かった。
セリアが受付で会話すると、僅かな会話で入れる事になる運びになった。
セリアは顔パスという事なのだろうか。武装を解除される事もない。
「ご主人様。モニカも入れるが、受付で書類の記入に時間がかかる。待っていてもらえるか?」
「わかった」
【ゲート】の位置を決めてから、俺は待ち時間にキューブを通して魔力生成を行う事にした。遠隔地であってもダンジョンで死体を魔力に変えてコアに吸収させる事が出来るのは便利と言える。死体を魔力に替える事で迷宮のLVを上げる事が出来る訳だ。迷宮の機能で入口の封鎖も選択しておく。魔力生成を行っている内にピロリンという音がする。モニカには聞こえていないみたいだが、それと共に迷宮のLVが上がったようだ。
名無しの迷宮・・・LV2
経験値・・・25/200
迷宮スキル 魔力生成 モンスター製造 罠設置 宝箱生成 迷宮拡張 施設設置
キューブを通して視るとこうなっている。LVが上がりSPは10/10から20/20となっているが、何も設置されていない。迷宮としての広さを上げるべきかそれとも、モンスター製造でもするべきか。
迷宮スキルに考えている間にセリアが戻ってくる。早いな。
「待たせた」
「いや、早かったね」
「そうですよ」
セリアは書類を手に歩きだす。どうやら、勝手知ったる我が屋のようだ。実に堂々としていた。
学園の並木道を歩きながら、レンガで舗装される広い道を歩いて行く。涼しい風がセリアの髪を撫でていく。銀の髪が流れる。
突然、行く手を阻むように仮面をつけた男達が現れる。武器こそ持っていなかったが風体が怪しすぎた。
「なんだあんた・・・ら・・・」
俺に最後まで言わせず問答無用とばかりに襲いかかってきた。取り囲むように円陣を取ろうとするが、させないとばかりにセリアが動く。当然俺も合わせて逆方向の男を制圧しようとする。
仮面の男達は学生服を着用しているが、俺の正面に立つ男は右ストレートを放って来る。
セリアの拳打に比べれば遥かにスローモーなそれを易々躱して、腹部に一突きだ。男は腹部を抱え込むように崩れ落ちた。更に二人同時に男達が殴りかかってくるが、右に周り込むよう移動しつつ側面から脇に向けてエルボーを差し込む。
嫌な手応えとともに、骨が折れる感触がある。だが、俺は追撃を緩めず足払いを加えると男達の片割れは倒れた。襲ってくるかと思われたもう一人は、棒立ちになっている。どうも、びびってしまったのか。残念だ。無言で近寄ると俺は速いが手加減をした水月蹴りを放つ。避けるかガードするかと想定していたのだが、キャッチされるでもなく決まって腹を抑えながら地面に仮面でキスをする。
周りでは既に戦いは終わっていた。倒したのはセリアが七人・・・俺が三人。モニカは二人だった。
「なあ、セリア。学園じゃこんなことが白昼堂々行われるのか?」
「良くある事だ。魔術や武器を使って襲ってくる奴はいないから、毎度の事になっているな」
大したことではない感じでそう言うと、セリアが歩きだした。毎度の事って、慣れっこになっているのか。
セリアはそうでも、俺はドキドキしてしまうぞ。それに気が休まる物じゃあない。
「こいつらこのままでいいのか」
「心配ない。こいつらのサポート役が側に控えている」
「いやそういうことじゃなくて」
「ああ、執行部や風紀委員それに守衛所につき出すのは無しだ。襲ってくる相手が少なくなってくると腕が鈍るぞ?」
「そうなんですね。凄いですセリアさんは」
モニカがセリアを尊敬の眼差しで見つめている。ちょっとセリアさん、百合の空気が流れていますよ!
ずんずんと前を進んでいくセリアが頼もしく見えるのは錯覚ではない。
やがて前方に校舎が見えてくる。茶で塗り固められた校舎でかなりの高さがある。少なくても4階建てくらいはありそうな構造をしていた。
進んでいくと見えてきた校舎の入口には、ブレザー服姿の男達が立っている。
大柄で精悍な顔立ちをした金髪オールバックの男に率いられたその集団はどいつも美形揃いときた。
「帰ってきたか。チャンプ」
「ベルンハルトか。今日は見学だけだ」
「チャンプは何を言っている? 今日はランキング戦再開の記念日だぞ。執行部も上位序列戦をしたがっているしな。俺が今日こそ勝つ。それでは後程会おう」
イケメン男達が去っていくと、入れ替わりにロシナさんがやってきた。相変わらず美少女達をお供に連れている。赤い鎧は着ていない。騎士と学生の二つを掛け持ちなのだろうか。
「やあ、ユウタ君よく来たね。待っていたんだよ」
「こんにちはロシナさん。何かご用ですか」
「うん。それはセリアくんの事なんだが少々込み入った事情があってね。今日一日借りてもいいだろうか」
「はい。お断りします」
「ちょ・ちょっと待ってくれたまえ。セリア嬢にとって重要な事なんだよ」
「お断りしますが?」
セリアを持っていくとか・・・俺に死亡フラグが立つわ。ロシナさんも好青年だと思っていたのに裏切られた気分だ。学校を見ろなんて言われたが、嫌な事になった。帰る事にするかな。
だが、そんな俺の感情を他所にロシナさんは話をする。
「ユウタ君、聞いてくれ。セリア嬢は休学扱いになっているのは知っているかな」
「いえ」
「そうか。それなら話はまずそこからだな」
ロシナさんの話を聞くと、さっきのランキング戦がどうたらとか序列がどうとかいう事について理解出来た。
セリアが、休学しているため学内で行われるランキング戦と呼ばれるPT戦が停止していた。また、序列戦と呼ばれる単独での強さを証明する行事もストップしていたのだった。
つまり、セリアが学園に必要だという事なんだ。しかし、俺にもセリアが必要だ。
「どうだろう。ユウタ君、今日の午後は何とかお願いしたい」
「うーん。そうですねえ、そう言う事情でしたらしょうがないですよね。セリアはどうなんだ」
「出られるのなら出ておきたい。ルナ様との約束もあるし、ここは我が儘を言うようで心苦しいのだが・・・」
それは初耳だぞ。となれば、出てもらうしかないが。これは俺の死亡フラグ立っちまうんだろうか。
そうなると、モニカも一緒に学園にいてもらうしかない。これまでの経験から行くと、二人でいると死にかけやすい。セリアに守って貰う方が安全だ。
「えっとそれじゃあ・・・」
「セリアさん頑張ってくださいね」
「!? いや・・・モニカは私と来るのだ」
「大丈夫です。私がご主人様をお守りしますから。セリアさんは安心して学園に通ってくださいね」
「いいや、モニカではご主人様の身が危ない。色んな意味で心配だ。こっちに来た方がいいな。さあ、行くぞ」
「わわっ。ご主人様~セリアさん離してー」
「ユウタ。モニカの事は任せてほしい」
「あ・ああ。モニカを頼んだぞ」
モニカよりも身長の高いセリアに腕力でも技術でも負けているので、引きずられるようにしてセリアに連れて行かれた。ロシナさんは面白そうな物を見たかのようにセリアを眺めている。
「いいのかい?」
「そうですね。自分としては複雑なのですが、何とかなりますよ」
「そうか。それは良かった。というのはだね。ルナ様からなんとしてもセリア嬢の復帰を言い含められていて困っていたのさ。私にも仕事があるのだけれどねえ。あの方は色々な処に顔が利くし、学園に対する援助もそれなりにある。もし仮にここで断ったりしたら、あの方はセリア嬢を買い上げるとおっしゃっていた」
「それは困ります」
「そうだろう。だから良かった。まあ、まるでセリア嬢の気持ちを慮っていない処はあるのだけどね」
やれやれという風に金髪の貴公子は肩をすくめた。色々なしがらみがあるのだろ。そこにどんな事情があるのかわからないが、俺としては独りになってしまった。そんな俺に気を遣うかのようにDDが声をかけてくる。
「(あの? 僕を忘れてないかい)」
「まあ、頑張るしかないか」
「(聞いてよ。ユウタぁ)」
「はいはい聞いてますとも」
お前さんの問題は・・・人でなく卵という点なんだ。どう見てもおかしいからな。
そんな俺を不思議そうに見つめるロシナさんとお供の人。残念そうな視線を浴びるようになったら人として終わる気がするんだ。時間が押している俺にロシナさんは爽やかな笑顔を向けてくる。
「ユウタくん。君は観戦していかなくていいのかな」
「いえ・・・俺は時間がないのでこのまま王城に向かう事にします」
「そうか。ではこれを」
ロシナさんが差し出してきたのは、一枚の用紙であった。サイン入りのそれを確認すると、どうも出入り許可の押されたスタンプ入りだった。許可状を手に外に出ていこうとする。何か視線を感じる。だが、周りを見渡してもロシナさんとお供の少女達以外見当たらない。
「それでは失礼します」
「ああまた来てくれ」
ロシナさんと別れて並木道を歩き出す。ここに来るのが初めてではない既視感を覚えるのだが、不思議だ。
帰り道では誰にも襲われる事なく守衛所に着く。かなり急いで出て来たが時間が詰まって来た。
用紙を提出すると、武装チェックされる事も無く学園を出る。
独りになってしまった。寂しいが、王城に向かう事にした。
閲覧ありがとうございます。
読者の皆様はヒロインが誰か分かりますでしょうか。
「私に決まっている!」
「私です」
「我だろう」
「選ぶのは自由です」
「・・・」
他にも沢山。本当に多い・・・。ラブコメ考えないといけないです。
以下にしかならないのですが。
セリアと別れ王城に向かうユウタとモニカ。
「そろそろHが欲しいなあ。モニカどうかな」
「えっ。・・・ご主人様さえ良ければ。ニコッ」
「そうか! なら早速こっちで・・・ハッ」
振り返ると一人の少女が迫ってくる。
ポキポキと指を鳴らす音を立てて背後から近寄るセリアの表情は堅かった。
「私がいない処で何をするつもりなのだ?」
「え・・・と・・・その一体何処から・・・」
「Hな事だとか。聞こえた気がするな」
ずるずると引きずられていくユウタであった。
「ここは?」
「気にするな邪魔は入らない」
「ゆ・許してくださいセリア」
「あ~聞こえないな。匂いが嘘をついている匂いだな? 臭い嘘のニオイだ」
何処から取り出したのか鞭を構えるセリアはユウタの顎をとってクンクンとニオイを嗅ぐ。
それから小一時間説教タイムが始まった。




