84話 村から色々!
曇天の中、少女が襲い来る蜥蜴を倒していく。大きさとしては50cm弱のちょっとした中型犬だが、動きは俊敏だ。少女はそれを易々と切り倒していった。
「ハアッ」
木を伐採していた筈だったが、途中で後退するしかなかったのだろう。砦前までセリアとモニカの二人が走ってくる。黒い軍用とみられる服が二人とも似合っていた。砦から出て来くる俺の姿を見たセリアが立ち止まると、追撃してくる蜥蜴の迎撃を開始した。
「DD。蜥蜴なんとかできないのか? 仮にも自称竜なんだろ」
「んーと、あれ眷属でもないし。無理だよ。めっちゃ怒ってるし言う事聞かない気がするもん」
使えないタマゴだった。
迎撃を開始するセリアだったが、いきなり鉄の槍が折れた。散々酷使してきただけに、耐久力がなくなっていたのだろう。素手になったセリアは、ガントレットで蜥蜴を殴り倒していく。蜥蜴達は少女の拳や蹴りの一撃で爆散していった。こちらにも蜥蜴がやってくるのでイベントリから替えの槍を取り出し、セリアの足元めがけて投擲する。投擲された槍は狙いを外れず、セリアは足元に刺さった槍ととって戦い始めた。
蜥蜴達は槍の一閃事にその数を減らしていく。
モニカは隣で蜥蜴と戦っている。転職して何かが変わったのだろうか。以前よりもやる気というか闘気みたいな物が増している。戦い方もまた変化して豪快になりつつあると言えばいいのだろうか。メイスも小ぶりな物から一回り大きな物に変更した。盾も小振りなラウンドシールドから長方形のタワーシールドになっている。もちろん、モンスターを倒した際の拾い物なんだが。
俺はどうなんだろう。装備自体まるで変わっていない。転職もない。へんな荷物とか厄介事だけが積み重なっていく。特にDDとか。金のタマゴでなければ投げ捨てている。
剣と盾で迎撃しているが、遠目に赤いのと青いのが見える。
しかし、こちらに襲い来ると思われた赤青蜥蜴は森の中に引き返していった。
「モニカどういうことだ?」
「さあ、計りかねます」
「蜥蜴にだって、脳はあるんだよ!」
「誰も脳が無いなんて言ってないぞ」
ほとんどの蜥蜴をセリア一人で倒してしまう。俺とモニカは残飯処理係状態だ。槍を振るい、ぐるぐると回転するかのようになんらかの槍スキルを発動させたみたいだ。辺り一面に蜥蜴の死体がバラバラの状態で散乱していた。死体回収もこれでは厳しそうだった。
同じ爬虫類として種族としてDDには思うところがないのだろうか。気になる所だ。
「DDは蜥蜴の味方しなくていいのか?」
「んっと、僕はね。ユウタの味方さ。つまり竜だけど、蜥蜴につくも人間につくもそいつ次第さ。ユウタはもし育ての親が竜とかで、竜の里が人間に襲われたらどうするの?」
「そりゃあ。人間と戦うよ」
「そういうことさ。味方の味方。養ってくれる国とか人とか存在っていうのは大事だよね」
「ああ」
DDは、タマゴの癖に一人前の大人な口をきく。と、上手い事言っても土壇場になるとわからないのが人だ。竜だというDDがどう出るかは未知数といった所か。特に森で卵を破壊しまくったりするのは・・・。人間でいえば・・・という事な訳だし。重い事になりそうだ。
蜥蜴達の死体は回収しようがない物が多い。特にセリアが倒したのとか。拳脚だけでモンスターをここまで破壊出来ると、武器いらなさそうだ。
「卵の事なら気にしなくていいよ。あいつら・・・多分だけど、この大陸を制圧する為にニーズヘッグかドゴスギース辺りの強硬派が送りこんで来ている尖兵だろうね。ほっとくと、森周辺の人間皆殺しにあっちゃうよ。早めに森を探索して、連中を率いている軍団長か遺物をなんとかしないと危ないと思うよ」
「DDは何でそんな事わかるんだ」
「だからいってるじゃん。僕、結構偉いんだって」
「DDちゃんは凄いんですね」
「えっへん」
モニカが余計な事を言うものだから、卵が元気になった。あまり褒めると、この卵はろくでもないこと言い出しそうだからなあ。森の中探索しなくちゃいけないのだけど、あんまり時間はない。
三人で蜥蜴の原型を留めているのと木をイベントリに回収する。
一旦、休憩の為砦に戻る。土橋を渡り、扉の無い門を抜けて砦の中に入った。
意外な事に、さっき別れたばかりのカズが仲間を連れて中に入っていた。他にもPTが一つ一緒にくっついている。セリアとモニカの為に簡易の土椅子を作ってくつろいでもらう。
「やあ、ユウタ君。さっきは世話になった」
「こんにちはカズさん。ペダ村砦にようこそ」
黒髪黒目の青年カズさんは、戻ってくるの結構早かったな。
後ろでくつろいでいるPTメンバーは女一人に男三人だった。皆、土色一色な砦の内部を見ていた。
カズさん達PT用に土椅子を土木魔術で増やしておく。
「さっきは無かったのに、これを砦と言う事は・・・これ、まさか君が作ったのかい」
「ええ。我ながらなかなかいい出来だと思うんですが、その・・・雨が降るとやばそうです」
折しも曇天。雨がいつ降ってくるかわからない。
俺が土椅子を製造しているのを見ていたカズさんは、驚きを隠せない様子だ。
「ふーむ。どうだろう、僕らが使っても差し支えないだろうか」
「いいですよ。出来ることなら屋根をつけて欲しいのですが」
俺はイベントリから木材と麦の藁束を取り出した。
「それくらいお安い御用さ。丁度僕らはここら辺に、監視小屋でも建てる依頼を受けててね。他にもPTがそろそろこっちに来る頃合だよ。森の中を探索するPTは結構いるし、僕のPTでここの整備を進めるとするかな」
「よろしくお願いします」
「ところで、あの小屋は一体なんだい?」
「あれですか」
どう答えたものか。カズさんの指さした方向を見ると、俺の作ったダンジョン入口の小屋があった。
「ゴミ捨て場ですが、危険ですので入らないでくださいね」
「危険とは?」
「ゴミの腐臭で目とか鼻とかが大変な事になります。入らないようにお願いします」
「そうなのか。わかった。皆にも注意しておくよ」
人の死体も置いたり予定もあったりするし、モンスターの死体をゴミゴミいったらだめだよなあ。かといって成仏させる為の施設と言うのもまた違うし。早いとこタンジョンスキルで魔力とかにしてしまうのが良さげだ。
そうなると、魂とかどうなるんだろう。転生してしまうのかな。謎だ。
ダンジョンも冒険者用の訓練施設として活用するつもりではいるけれど、現状では入られたくないな。
下手に入られて、ゴミダンジョンの評判が定着してしまうと覆すのが難しいと考えている。
出来る事なら簡単に入れて、リピーターのつくダンジョンが作りたい。取れるアイテムがゴミとかだと、不人気まっしぐらだ。
ダンジョン運営で儲けが取れるとは考えていない。何しろ侵入者を殺す仕掛けを作らないし。冒険者が入ってくる理由がないと寂しい迷宮になりそうじゃある。呼び出すモンスターもちょっと考えないといけないな。レアドロップを落とす雑魚とか・・・そんなのがいればいいのだけど。
キューブを出してダンジョン生成士のスキルを確認すると、そこにはまだ何も出てきていなかった。調べてないし設営したのもついさっきなので森の中を探索するか迷うが、一旦村に戻って木を置いてからにするか。
レクチャー屋に寄ってから、アル様の所に行くといい時間になりそうだ。
カズさん達冒険者達に後の事を任せて、俺達はペダ村に戻る事にした。
◆
【ゲート】を使ってペダ村に転移すると、人で結構な賑わいを見せている。村人だけでなく、冒険者から亜人まで様々だ。村の中も午前中で、いい時間なのだろう。
しかし、俺には時計が無いので正確な時間がわからなかった。日時計で大体の時間と目星を付けるしかない。
時計をなんとかして手に入れたい所だ。
「こんにちは、お兄さん」
一人の少女が話かけてくる。見るとハイデルベルから連れてきてしまった幸薄そうな薄い水色が特徴的な髪をした少女だった。小汚い服から着替えさせられたのかメイド姿である。将来的には美人になりそうだが、ちょっと年が離れているような。中●生位にしか見えない。
風呂に入ったのか汚れを落とした髪はすっきりとしている。瞳の色も髪と違って濃い水色だ。ボロ布からメイド服にチェンジしていたので見違えるくらいだった。手足が長くスッキリとした体型なのだが、むしろ栄養失調のそれかもしれない。
今の少女は、絶望で濁った目をしていないのが救いだ。
「こんにちは。村の人は良くしてくれてるかい」
「ええ。とっても良い人達ばかりです」
「そりゃよかった。それじゃ」
少女は、その場を離れて木材置き場に行こうとする俺の前に立ち塞がった。
「あの。ユウタさん、私。アクアっていいます。覚えてください」
「あ・ああ。覚えておくよ。それじゃあね」
少女アクアの脇を通り抜けようとすると、外套を引っ張られる。かなりの力だった。
「あの。何処に行くんですか?」
「うん? 木を置きに行くんだ」
「そうですか。それじゃあ何かしてほしい事とか無いですか?」
「んーむ。んじゃあ、村の生活に慣れてくれるといい。もっと言うなら、大人達の手伝いをしてくれるといいね」
「わかりました。頑張ります! ですから、また来てくださいね」
「うん。じゃあね」
そう言うとアクアと別れて木材置き場に到着する。モニカがメイスで手をバシバシと叩いていた。素振りのつもりなのだろうか。まるで某獄長のように、鉄の塊を叩きつけるモニカの目は座っている。俺が何をしたっていうんだ。ただ、女の子と話をしただけだぞ。
俺達はイベントリから木を取り出すと置いていった。
「ユウタって随分とあの女の子に慕われているみたいだね」
「そうかな」
「そうさ」
DDが話しかけてくるが、女の子に慕われて悪い気はしない。むしろウェルカムだ。あの子は将来的に美人になる。今の内から手塩にかけて磨きをかければ・・・。そんな俺の考えを見抜いたのか、モニカが詰め寄ってきた。
ヘルムを被る茶色い髪をした少女の顔が思いっきり近寄せられた。ボーイッシュな髪型とは裏腹に整った顔立ちなのでドキドキしてしまう。
「あの、ご主人様。随分と・・・さっきの少女と親しげでしたよね」
「え? ああ。そんな事もないと思うけど」
「いいえ。そんな事あると思います。これ以上新参が増えたら・・・。・・・何でもありません」
いつになくモニカが怒り気味だ。何時の間にか牛から猛牛にジョブチェンジしてしまったんだろうか。
頭から怒りマークでも出てきそうな勢いだった。
だんだんと、モニカがセリアに似てきたようだ。木こりで伐採した木も置いた事なので戻ろうとする。
「ユウタ。気がついたかい」
「何を?」
「あの少女さ」
DDは何か伝えたそうに話しかけてくる。
あの少女と言えば、さっきの水色の髪をしたアクアの事だろうか。
彼女の何に気がつくというんだろう。
「アクアの事か」
「そう。彼女を放って置くと大変な事になるよ。大まかにしかわからないけど、間違いないね」
「と言われてもなあ。俺に何が出来るんだよ」
「んー。見た感じ、憎しみを打ち消すには愛しかないかなあ。とにかく、彼女のそれは大陸全土を巻き込んだ大戦争への道標になってしまうんだ。なんとかならないかな」
なんか凄いスケールの話に飛んでいるようだ。大まかなのか? 大戦争って大変な事じゃないか。
あの少女に、そんな力があるようには見えないけどな。
「なんだか凄い話だけど、信憑性が無いよ。いきなりそんな事言ったって信じられないぞ」
「ま、そうだよね。どうしたらいいか考えているんだけどさあ。ユウタはどうしたら良いと思う?」
「俺に振るのか。まあ、考えられるのは両親の仇を討つ事かな?」
「それだ。それをしようとすると、帝国と大戦争になるって寸法さ」
「何でそうなるんだよ。DD、お前何を知っているんだ」
「僕かい? 僕は知っている事しか知らないよ。でも未知の事については誰よりも知りたいね」
金の卵はわかるようなわからない事を伝えてくる。煙に撒こうとしているのだろう。
いくら考えた所で結論の出ない話じゃないか。本人の心の中なんてしりようがない。
何とかしてほしいというのはわかるけど、俺にはどうすればいいのかわからないぞ。
「言いたい事はわからないけど。気にかけるようにしておけばいいのか?」
「それだけじゃ、足りないんだけどさ。ユウタにはわからないんだろうけど、憎しみってのは薄まったり濃くなったりするもんなんだよ。周りに良い人がいれば薄まるし、手遅れになってからじゃ手の打ちようがなくなるよ」
「なるべく話かけるようにはするさ」
いい加減卵との会話を打ち切ってレクチャー屋に移動した。
◆
「いらっしゃい。ユウタくん、本日はどのようなご用件ですか~?」
「聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」
レクチャー屋『常夏』の女店主ココナツさんは、相変わらず間延びした声をしていた。
「それは内容によりますね~」
「ダンジョンスキルについてなんですが・・・」
「あ~それはですね」
俺が受付で説明を受けている間、セリアにはモニカと一緒にココナツさんが作っているダンジョンに入ってもらう。なんでもゴブリンだけを集めたゴブハウスらしいとか。様々なゴブリンと戦えるコースらしいので森での戦闘にもいいかもしれない。
「すぐ戻る」
「ああ、モニカを頼んだ。セリア」
「楽しみです」
「心配だぞ」
そう言って二人が転移陣で移動していった。俺はココナツさんの説明を元にスキルの練習をする事にした。練習といっても、ココナツさんの説明通りにキューブからスキルを選択しつつ使用するだけだったが。使えると言われるまでアイコンらしき物が出ないという謎仕様なのが気になる。
キューブにはダンジョン生成士の項目からスキルが並んでいた。ダンジョン生成の他にもスキルがあるということなのだが、使えるスキルが魔力生成とモンスター製造、罠設置と項目が並んでいた。ダンジョン生成だけしか考えていなかったのだが、死体を処理出来るのも相まって利用しない手はない。
ダンジョンLV・・・1
迷宮経験値・・・1/100
迷宮スキル 魔力生成 モンスター製造 罠設置
ココナツさんが言うにはこれに加えて宝箱生成や迷宮拡張、施設設置等があるみたいだ。聞かされるだけでアイコンが浮かび上がってきた。スキル確認するとツリーまでご丁寧に出てくる。
とりあえず作れるのは・・・スケルトンとゾンビか。それと倒したモンスターだった。どれもこれも微妙だ。
「ココナツさん。お薦めのレアモンスターとかないですか」
「うーん。そんなのは中々作れないよ? レア度で言えばクリスタルゴーレム辺りがいいけど強いし、コストがかかるしね~。低LVで限定なら・・・トレント系がいいかもね。ビッグフロッグとかフォレストベアもいいよ。匂いのついたレア香木とか食用に使える素材とか。何にしても素材として狩る価値のある物を召喚すると、迷宮が人気のスポットになりやすいし~。リピーターを増やしたいならボス部屋もいるよ~」
ココナツさんが資料を見ながら教えてくれる。図解入りのテキストでの説明がわかり易い。
背後で入口の扉が開く。振り向くと数人の女学生といった感じの集団が入ってきた。中心にいるのは、縦巻きロール金髪のポニーテールとなんともわかり易い少女だ。
さては忍者か盗賊と、勘違いしてビクビクしているのはしょうがないと思う。
与作丸の捨て台詞を忘れる訳がないのであった。
「ありがとうございます。それじゃあ、セリア達が出てくるまで色々スキルでも弄ってみます」
「はい、まいど~」
「あの、お料金は?」
「大丈夫だよ。無料だからね~。ユウタくんから前回だって貰わなかったじゃないの」
そういえば・・・そうだったかな。ちょっと記憶があやふやになりつつあった。
「それでやっていけるんですか?」
ココナツさんは指を振りながら「チッチッチッ」と呟いて腕組みをする。
「そりゃあね。でも、国営だし、スキルの売りがメインだもんね~尚且つ補助金もでるの~。ええっと・・・ユウタくんその子と知り合い?」
「は?」
後ろを振り返ると、目と鼻の先に先程の少女が立っていた。サラサラの縦巻きロールが強烈な印象だが、キリリとつり上がった目尻といい泣きボクロのきつそうな容貌をしている。少女の視線は、俺を射殺さんばかりであった。出会ったばかりだというのに、何故かガン飛ばされている。接近しすぎた身体を離そうとすると、腕を掴まれた。
「貴方・・・今まで何処で何をしていらっしゃったの?」
「え?」
「答えなさい!」
く・・・首を締め上げるように揺さぶられると答えようがありません。
前後左右に激しく揺さぶられる。服を掴む彼女の鬼気迫る勢いに押されっぱなしだった。
「く・・・苦しいのですが」
「はあはあ。いいでしょう。こちらでじっくりとお話を聞きましょうか」
名前もわからず少女とお供の女子に囲まれた。俺に逃げ場は無いのか!
ココナツさんに助けを求める視線を送ってみたが、ニコニコと微笑むばかりだった。
俺は必死の思いで「早くセリアよ帰ってこい」と、念じてみたものの念話の返事は聞こえなかった。転送先と遮断されているのだろうか。
そのまま、少女達に囲まれた状態で連行された。
「こちらにお座りください」
レクチャー屋『常夏』にある待合室の片隅で話をするようだ。
お供の女子が椅子を差し出してくる。縦ロールさんはそこに座る。縦ロールさんと少女達は全員学生服を着ており、女学生といった雰囲気ではあった。
「で・・・何故連絡をよこさなかったのですか? さあ、今すぐに答えなさいな」
「え・・・っと」
いきなりで悪いが、俺にこの子の情報はない。頭の中をフル回転させるものの、脳のどこにも金髪縦ロールちゃんに関するモノはなかった。つまり、人違いしているんだ。そうに違いない。となれば、どのようにしてこの子の誤解を解くかなのだが。学生服を着た少女の目には、炎が見えるようだ。
「すいませんが、どなたかと人違いしておられませんか?」
「ふっ」
少女は残像を残して姿が掻き消えた。それと同時に、頬が強烈な衝撃を受ける。
「痛い。何をするんですか」
「冗談にしては、タチが悪いですわ。貴方を見間違える筈がありませんもの」
「ユウ様酷いですね。幼馴染みのフィー様を知らないフリするなんて最低ですよ。その黒髪に染めてみた所でバレバレですからね」
フィーだと? 誰だよそれ。しかし、俺に幼馴染みが居た事の方が衝撃的だった。
また、知らないと言ったところで叩かれるのがオチだ。
金髪縦ロールのフィーは残念な子といった視線を投げかけてくる。フィーの胸はセリアには負けているがかなりの物だ。つい胸にばかり視線が行ってしまうのは、男の性というやつだ。
考えろ。この場を切り抜けるには、どうしたらいいのか。
「実は・・・記憶喪失みたいでさ。君たちの事を全く覚えていないんだ。今日はレクチャー屋でスキルを学習する処だったのさ」
「まあ・・・」
フィーは一転してほろりと涙を零した。突然、ズキリと心臓が痛む。何故、こんなにも胸が痛むんだ。
少女の涙が引き起こす痛みで、身が切り裂かれそうだ。
お供の女学生がポロポロと涙をこぼすフィーを椅子に座らせる。
黒髪を短く切りそろえた少女は、落ち着きを払っている。
「そうでしたか。それでは、連絡が無いのも頷けますね。でしたら、私はセンカと申します。我が主フィナル・モルドレッセに成り代わり記憶を取り戻す方法を考えましょう。ついては、連絡先をお教えください」
「えーと、王都の住宅街の・・・」
教えても良かったのだろうか。一つ言える事は、この女学生達が俺の知らない俺を知っているという事だ。
お供の女学生達がフィナルを立たせると、受付に向かって歩き出す。
おかっぱな髪型をしたセンカは、冷徹と言ってもいい眼差しをこちらに向けてきた。
「それでは、後日改めてご挨拶に伺います。ユウ様逃げないでくださいね?」
「あ・ああ」
俺は女学生達を見送る事しか出来なかった。俺には知らない過去があるとでも言うんだろうか。
彼女たちの事は全くしらないのだった。昔の事を思い出そうとしても、だんだんと思い出せなくなっている。
数日前までは思い出せた筈の事を忘れてしまったのだろうか。かつてやってきたゲームや日常に渡る知識等は思い出せるのだけど・・・この身体の16歳より前の事がまるで思い出せない。
ともあれ、俺はスキルの調整をしつつモニカとセリアが出てくるのを待った。二人はフィナル達が転送陣に消えた直後に戻ってくる。もうちょっと早く帰ってきてくれれば、俺も尋問に合わずに済んだかもしれない。
「お帰り」
「只今戻った。・・・どうしたんだその頬は」
「気にしないでくれ。俺自身にも記憶にない事で、責められるという体験をたった今したばかりさ。覚えていない俺が悪いんだろうけどね」
「そうか」
「聞いてください。ご主人様・・・」
冒険者育成学校『ラグナロウ学園』に向かって移動しながら、モニカとセリアの戦闘を聞いていた。
『常夏』の玄関を出ると、ラグナロウ学園の最寄りの地点まで移動しよう。
「・・・という訳なんです。セリアさん凄いんですよ」
「まあ、セリアだしな。空を駆けたって不思議じゃあない」
「そうですよね」
「・・・」
セリアはもじもじしていた。あまり褒められるのには慣れていないのだろうか。
耳が立ったり、尻尾がフリフリと揺れていた。尻尾で俺を惑わそうというのか! 飛びつきそうになるのだったが、必死に耐えた。
戦闘とか何とかもう予定とかも吹っ飛んで、先程の女学生達の事ばかりしか頭に浮かばない。
気がかりな事は多いが【ゲート】を開くと転移する。
色々と考える事が多すぎるよ。
キューブステータス サナダ・ユウタ 16才 冒険者
装備 ミスリルの剣 ハーフプレート チェイングリーブ プレートヘルム 硬い皮のブーツ 対魔術の盾 銅の篭手 オークの弓 オークのワンド
邸宅有り セリア 人狼 モニカ 鍛冶士
スキル テレポート PT編成
特殊能力 なし
固有能力( 人形使役、人形化 、幽体離脱、生命操作、力吸収、ダンジョン生成、竜化)
▽
[冒険者LV76]市民81村人80戦士 79剣士 80弓士 80勇者 80狩人 80魔術士 77商人 77薬剤士 76騎兵 76弓騎兵76格闘士 76英雄 76治癒士 76料理人 76魔獣使い 75付与術士 75錬金術士 76木こり72下忍 72神官70人形使い68死霊王18生命王18闘技士44騎士44槍士44 村主36 竜人11ダンジョン生成士11使徒9
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