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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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83話 街道で砦とか迷宮!

「うわっ」


 9日目朝から森の入口に向けて移動する為【ゲート】を開くと、人が飛び込んできた。冒険者風の格好をしている男だ。皮鎧の上に外套を羽織っている。その下に見える身体には何かと戦っていたかのような傷があちこちに見えた。

 とりあえず、声をかける事にした。


「大丈夫ですか」


「うっ。いや、どう見ても大丈夫じゃねえって・・・」


 男は飛び込んできて地面に倒れこんだので、【ヒール】で傷を治癒してやるか。茶髪の青年を抱き起こしながら手当をしていくが、どうも武器による傷に見えた。


「モンスターですか」


「ああ、森から出てくる奴を叩くのが仕事だったんだが・・・」


「ご主人様。来るぞ!」


 ろくに男と会話をする暇もない。光る門から次々と飛び込んできたのは、リザードマンだった。1匹1匹と入ってくる度に、セリアとモニカに倒されていく。セリアが切り倒し、モニカが頭部を粉砕する。モニカがメイスで殴り倒し、セリアが頭部に槍を突き入れる。出てくると、すぐ倒されるので死体が溜まっていった。やがて、リザードマンが入ってくることはなくなった。リザードマン達は馬鹿だった。

 セリアもモニカも黒軍服の上に鎧着込む姿が非常に似合うのだけど、学生服というのも捨てがたいな。俺はめんどくさいし、冒険者育成の学校なんて行きたいくないけどな。美少女達ときゃっきゃうふふの学生ライフというのは興味を惹かれる所じゃあるけど、村をほっぽりだして学生ライフする事になる。午後は午後で、アル様の相手をしないといけないし。

 予定を考えると頭が痛くなってくるが、セリアとモニカに軍帽でも揃えてやりたいところだ。ハーフヘルムに隠れる髪が勿体無い。今後は、おしゃれ装備にも気を配りたい所であった。ティアラ型とか、帽子型とか金がかかりそうだ。

 とりあえず、一旦【ゲート】で開いた光る門を閉じる。開くとMPが減るのと開きっぱなしでも減り続けるみたいなのだ。飛び込んできた男の治療をしながら、話の続きを聞こう。


「ふう、ありがたい。俺はカズっていう。冒険者稼業をやっている者なんだが、仲間と入口の警備を請け負ったんだ。交代で見張りをしていたんだが、いきなりリザードマンの群れに襲われてな。最初は数が5:4で五分五分くらいだったんだ。けど、倒すのに手間取っていたら連中の数が増えやがった。最後は俺が囮になって、皆を逃がすハメになってこの様さ」


「それで、俺が開いた【ゲート】の門が見えたんで飛び込んだと」


「その通り」


 この人【ゲート】が何処に通じているのかも確認せずに、門に飛び込んで行くなんて度胸あるなあ。リザードマンの群れに追われていれば、一か八かの賭けに出るというのはわかる。


「それで、PTメンバーの人達は大丈夫なんですか」


「ああ、向こうには殆ど行かなかったと思う。火壁(ファイアウォール)も出していたしな」


「それじゃあ、モンスターを村まで連れてこないように囮に?」


「そんなとこだ」


 意外にも独りで囮になる事を選んだ。それにも訳があったみたいだが、【ゲート】や【テレポート】を使えばよかったんじゃ。


「【ゲート】や【テレポート】は使えなかったんですか」


「それは使えるけどな。敵と距離それに自分の集中力が必要だろ。俺は足に自信があったし、引き離して使うつもりだったんだけどなあ。追いつかれそうになったんだ。それより、あんたのPTメンバー強いな。あんたもあれくらいの実力なのか?」


「いえ、違いますよ」


「そうなのか?」


 カズは意外そうな顔をした。モニカも最初の頃と違って、クラスアップした上にメイスを振るう姿が様になっている。返り血を最初は浴びまくっていたのになあ。成長するモニカに対して、俺はと言うと非常に微妙な戦闘力だ。何でも出来るようで、何でも一流ではないというのを地で行っている。モニカさん強くなりすぎないでね。

 カズの治療が終わると立ち上がった。青年もついで立ち上がる。


「それじゃ、もう大丈夫そうですね」


「ああ、助かった。この礼はその内に返したい」


「ええ、期待しています」


 俺達はリザードマンの死体と武器防具をイベントリに回収すると、【ゲート】を開いで出口を確認する。どうやら、周囲にモンスターはいないようだ。俺達は森の入口に移動しようとすると、青年カズが引き止める。


「君、ちょっと待ってくれ」


「カズさんなんでしょうか」


 光る門を通り抜けようとする俺達が振り返ると、青年は真剣な表情であった。


「俺も連れて行ってくれないか」


「というと?」


「仲間と合流したいんだ。お願いしたい」


「わかりましたよ」


 これも何かの縁という事かな。カズと一緒に【ゲート】で移動する。






 

 移動した先にはモンスターらしき気配も姿もない。ただ気がかりなのは、曇天で今にも雨が降ってきそうだという事だ。雨の中、モンスターと戦うなんて事になれば不覚を取らないとも限らない。

 青年カズはキョロキョロと周りを見渡していた。きっと仲間の姿を探しているに違いない。


「君、ありがとうな」


「いえ」


「名前を聞かせてくれないか」


「ユウタといいます」


「ユウタ君か。ありがとう世話になった。それじゃあな」


 そう言うとカズは手を振って、村の方向に向けて走りだした。上手く合流できるといいな。

 俺達は俺達でやる事がある。銀髪の美女も茶髪の少女も汗だくという風ではない。

 リザードマンを倒した疲労は、ほとんど無いと見ていいか。

 こちらを見る軍服姿の二人にする事を命令しておく。


「セリアとモニカは木こりを頼めるかな」


「ん。了解だ」


「わかりました。ご主人様は、如何なされるのですか?」


 俺が何をするのか気になるんだろうか。モニカがきょとんとして不思議そうな顔をしている。


「俺は村に繋がる道に砦と迷宮でも作るよ」


 説明しようとする俺に二人は驚いた表情を浮かべた。いつも切れ長の瞳をしているセリアの瞳が大きく開かれた。そんなに驚く事でもないだろうに。


「砦はわかるが、迷宮を作るか。それで、何をするのだ?」


「ペダ村の観光業かな」


「観光業ですか」


「そうなんだ。こっちは一人でやる。任せてくれ」


 二人に木の伐採を任せると、俺は建設予定の場所に移動していく。

 懐から声が聞こえてくる。DDの奴だ。


「ねえねえ。ユウタはなんでこんなに村にこだわるの?」


「んー。DD居たのか。寝てるのかと思ったぞ」


「そんなの当たり前じゃん。しゃべるタマゴなんて不気味でしょ」


 自覚あるのか。こいつに普通の感覚があるとは・・・

 正直に言って、この五月蝿いタマゴは傍から見て気味が悪い。

 俺はてくてくと村までの道を歩いていく。


「何で・・・か。何でだろな」


「わからないなら教えて上げるよ。ズバリ、未練だよ。村の女を諦められないストーカーと言ってもいいね。そんなに気になるなら、相手の男を殺してしまえばいいじゃん」


「それ、まんま糞野郎じゃないか」


「でもさあ、何も行動に移さないでおいて気を引くっての無理じゃないかな」


「二人の仲を裂く為、具体的に何かするというのは、気が進まないな」


「ならさ。さっさと諦めなよ。側にいい女がいるのにだよ? 気持ちをさっと切り替えて違う女に目を向けていかないとさ。童貞で終わるよ。ユウタを助けた女・・・えーと、アーティだっけ。あの子普通じゃん。どこがいいんだかわかんないよ」


 普通って言われてもなあ。普通の容貌でどこが悪いんだ?

 強いていうならロイが邪魔だ。だが、女が幸せになるのを見守るのも男の器量ではないだろうか。

 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるというのに。


「そう言われてもなあ。こればかりは人の気持ちという奴だ。っと、着いたから少し黙っていてくれ」 


「もう! うー」


 金のタマゴはまだまだ話足りない様子だが、建設予定地に着いた。


 黒い森の前は平地でなだらかな道が村まで続いている。よって、森入口前からちょっと離れた場所に土木魔術で砦っぽい何かを作る事にした。

 予定では正方形の砦だが、まず作るのは土壁(アースウォール)で土壁だ。

 盛り上げた土を土木魔術【建築(ビルド)】で固定する。盛り上げた土は何処から取るのかというと堀に当たる部分だ。自然と、外敵から身を守るようにする事が出来る。

 

 堀には【ウォーター】で水を入れておく。内側からの高さはそれほどでもないけれど、外の堀を合わせると結構な高さになった。魔力回復薬を飲みながら作っていく。


「うーん。我ながら、いい出来の壁だ」


「ユウタってさ、多芸だけど・・・。僕がこれだけ吸い出しているのに。尽きないって、やっぱり・・・」


「ん? なんだDD。言いかけて口篭るなんてらしくないな」

 

 話をしながらも、砦内部に土壁と建築スキルを活用して建屋を作っている。壁はともかく屋根だけはどうしようもない。土木魔術は癖になりそうだ。これを使えば、色々ペダ村を改造出来るかもしれない。冒険者が村に逗留するようになってから急速に村の家が進化しているのは、これが関係してるのかな。生木の件といい、意外にも魔術士が村の生活を改善していた。


 村砦の門は森から村の通行を防ぐ為、狭く作って二、三人しか通れないようにしてある。門で戦うなら一対一になりそうだ。もちろん掘の上の土橋も狭い。

 

 塀の土壁もそれほど高くないので、ちょっと頑張るとよじ登れてしまう程度の物なのが、残念だ。あと土で出来ているので雨とかにも弱い。補強が必要なのだけれど、レンガとか運んで取り付ける必要がある。セリアとモニカには木こりを頼んでいるが、音を立てたらきっと蜥蜴がわらわら寄ってくるんだろうな。


 俺はペダ村砦にダンジョンを設営する事にした。レクチャー屋で学んで、作るのは簡単だった。魔術で土を盛り上げて台座を作ると、そこにダンジョンコアにあたる玉を設置する。それから、迷宮作成のスキルを発動させた。


「我は創る。奥深き園を。 いでよ迷宮! 【迷宮生成クリエイト・ダンジョン】」


「へえ。ユウタってダンジョン本当に作れるんだ」


「スキルで作れるんだからな。ゴーレム使って、手掘り作業だったらどうしようかと思っていた」


 台座があった村砦の片隅に小屋が出来た。そこから入れるようだ。小屋の中に入ると下に降りる階段があり、扉を開けると何もないだだっ広い空間が広がっていた。100x100mくらいはありそうな広さだ。


 ダンジョンコアの部屋を封鎖して、いらないモンスターの死体を処理しよう。

 イベントリからいらないモンスターの死体を取り出していく。スプラッターな光景が展開された。

 おびただしい数の死体が折り重なる。これは腐敗したら、酷い匂いを発するようになりそうだ。

 何か良い手を考えなければ。


「これさ。放置すると腐臭が凄い事になるよ?」


「解ってる。何か良い手はないか考えている所だ」


「ふっふっふ。なら僕がアドバイスするよ」


 死体から発生するであろう腐臭が気になる。誰もはいれない迷宮とか終わってるよな。

 ドヤァタマゴしているDDが話かけてきた。ドヤ顔したいんだろう。


「死霊魔術でアンデット化しちゃえばいいのさ。もしくは、ダンジョンスキルで吸収するといいよ。ダンジョンコアが魔力として死体を分解吸収した後、モンスターとして出現させる事が出来るのさ。まあ、オーソドックスな所だと、スライムを撒いておくのもいいね。でもさ、肝心な物忘れているんじゃないかな」


「宝物か」


「そうだよ、それ。人間がダンジョンに入ってくる理由なんてそれしかないわけ。つまり、お宝無しのこのダンジョンは・・・ゴミ? ゴミ捨て場だけにゴミダンジョンってウケないよ!」


「た・確かに」


 早くもペダ村観光業は、潰れる寸前だった。ゴミダンジョンなだけに運営する気ゼロだった。そう言われてもしょうがない。とはいえ、俺にはいい案が思い浮かばなかった。

 自称竜のDDは、何か識っていそうだ。

 

「ユウタは宝物の当てとかあるのかい?」


「いや、全くない」 


「ああもう、これが龍界(ドラゴヘイム)ならいくらでも持ってこれるんだけど。ユウタは興味ない?」


「どこなのそれ」


「それはねえ・・・」

 

 DDから宝物ゲットする話を進めようとした所だった。

 木こりをしているはずのセリアが、念話で呼びかけてきた。


「(ご主人様。蜥蜴だ!)」


「(わかった。セリア今行くから)」


 セリアに返事を返しつつ、外に出て壁に上って見る。二、三十匹近い小型の蜥蜴に昨日の黒軍服に鎧姿をした二人が追いかけられていた。セリアはモニカを先に走らせ、飛びかかってくる蜥蜴を切り倒しながら撤退してくる。

 長く美しい銀髪をたなびかせ、蜥蜴を退けながら走る少女に、見とれそうになる。蜥蜴の集団との間に火壁を置いていく。火達磨になっていく蜥蜴達は進撃を諦めたのか。火壁を迂回してくる。



 森の方向を見るといつぞやの赤、青蜥蜴が姿を見せていた。

 これは、不味い展開だ。

閲覧ありがとうございます。

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