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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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81話 邸宅で卵

  ふと目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。ここは一体何処だ。ベッドの上に寝ているようだが。


「ゆーちゃん! 起きて~起きないとこうだぞおお。とう!」


 なんだ? それは重いのに柔らかい何か。よくわからないがすごぶるいい感触の肉団子が胸に押し付けられた。それは、超危険な物体だった。何この最終兵器、やばすぎる。


「う・・・ん。誰だ」


「誰だって酷いよ~萌花だよ~。おはようのキスくらいしてもいいんだよ~」


 呼ばれる声の主を見る。そこには、セミロングのモニカが青い制服を来てベッドに横たわる胸の上にのしかかっていた。似合っているが、そんな格好をさせた覚えはない。やたら胸がデカイのでついそっちのほうに目が行ってしまう。しかし、可愛らしくまじまじと見つめてくる萌花は気がついている様子では無かった。思わずつぶやきが漏れた。


「コスプレ?」


「コスプレって酷いよ~もう朝だよ。学校行こうよ」


 頬を膨らませる萌花は身体を起こすと、腕にカバンを持って部屋を出て行く。朝から学校って何だ。周りを見ると、机に椅子やテレビといった生活用品がそろっていた。


「起きたら~着替えて~ご飯だよ~」


「あ・ああ」


 何が起きているんだ。萌花は既に廊下に出て話かけている。ドア越しに声が聞こえる。


「早く着替えて~。も~ご飯が冷めちゃうよ~」


「わかったよ」


 萌花あまり廊下で待たせるのも悪い。そそくさと着替えに移ると、ブレザーの制服が壁にかかっていた。それに着替えると、萌花と階段を降りてテーブルについた。

 テーブルに広がっているのは和食中心の食事だ。美味そうに出来ていた。 


「いただきます」


「はーい召し上がれ。ゆーくん、愛理ちゃんはもう学校行っちゃったよ~」


 萌花が聞きなれない単語を口にする。

 愛理とは誰だ。

 ここは何処だ。

 このご飯を作ったのはモニカそっくりの萌花という少女のようだが。


「愛理って誰?」


「やだな~ゆーくん変だよ~。妹を忘れちゃうなんて酷いよ~」


「そうか、妹がいるのか」


「へんな、ゆーくんだよ」


 不思議そうに小首をかしげる萌花は俺の事を見つめてくる。そんなに不思議がられてもな。俺にとっては、妹が居た事のほうが驚きだ。おっ、この味噌汁は絶品だ。濃い味もいいな。


「今日はねえ新学期なんだよ~ちゃんとしないと~」


「わかったよ」


 新学期だったのか。俺と萌花は食事を終えると二人して通学路を歩く。

 歩いてすぐ銀髪の少女と出会った。


「おはようユウタ」


「ああ。おはようセリア」


「ん・・・誰だセリアというのは」


 銀髪の少女は目が釣り上がる。耳も尻尾も無いようだが、みるみる内に険悪な表情になっていった。


「ま・間違え・・・た?」


「ゆーくん。酷いよ~優里亜ちゃんのこと間違えるなんて~」


「ユウタ!! また、新しい女か! お前という奴はぁあああ」


 いきなり俺の首を締め上げるつり目の少女。な・なにが起きているんだ。が、苦しくはなかった。おかしい。

 何故だ。これだけ締め上げられているのに痛くもない。

 ん、あれ。両親とかいないのか? なんかおかしいぞ。

 突如地面が崩れ落ちて、世界が硝子のように崩壊していく。何もない空間に金色に輝く卵が浮かんでいた。


「あっ。バレちゃったわ」


「お前だれだよ」


 声が卵から聞こえてくる。無明の空間にポツンと存在するそこから何処かからかう響きが伝わってきた。

 今までの全部、コイツの仕業か。

 俺は心の中で血の涙を流した。


「いやあ、ほら魔力ご飯貰ってるわけじゃん。そのお礼よ。君だって確率的に存在する並行世界のワンシーン楽しんでたでしょ。僕くらいの存在になると、夢操作だって余裕のよっちゃん。朝起こしに来てくれた幼馴染が迫ってくるシチュなら、君だってやる事やるかなあって予想してたのに。なんであそこでやっちゃわないのかなあ。これだから、童貞はこまるわ。はあ・・・」


「まさか・・・本当に変な金卵か?」


 ご飯というと・・・魔力辺りしか想像がつかない。どいつもこいつも童貞童貞と五月蝿い。卵の声を聞くとむかついてきた。


「変な金卵とか酷いなあ。我こそ竜族の頂点の神聖竜DD(ディーディー)であるぞよ。崇め称えよ、童貞」


「ああ? お前、明日には目玉焼きな」


「え? ちょ・・・じょ・冗談だよね」

 

 言いたい放題のこいつに苛立ちを隠せない。神聖竜とか凄そうだ。なのに、金の卵はプルプルと震え、汗を吹き出していた。どうなっているんだこいつは。


「竜だってんなら、焼き鳥ならぬ焼き蜥蜴かな」


「はわわぁあああああ。ま・待って。ごめんなさい、謝るから! いたずらしてごめんなさいいぃいいぃ」


 地味に神聖竜の焼き蜥蜴肉が、気になってきた。卵は滝のように汁を出していた。もしかして、チビっちゃっているのか? ちょっと悪い気がしてくる。


「そう言ってもなあ。勝手に人の魔力を吸いまくって、そんな盗人行為が許されると思ってんのか」


「わ・わかりましたあぁあああ。貢物を献上しますんで、勘弁してくださいいいいぃ」


 む。貢物か、ちょっとわくわくしてくる。魔力とか只みたいなもんだしなあ。

 勘弁してやるかな。卵をイジメるのもなんだか情けない話だ。

 貢物にワクワクしてきた。

 

「まあ、そこまで言うなら勘弁してやらんでもないな。貢物がしょうもないのだったら、ゆで卵の刑だぞ」


「はうぅ・・・」


 真っ暗な世界から痙攣する卵の姿が消えた。

 意識が浮かびあがったのか。9日目の朝、いつもの部屋で俺は目を覚ます。

 身体の上には卵が乗っており、なぜだが不思議な布をつけていた。

 これは布か。!? ・・・ぱ・ぱんつだ。誰のパンツだ。黒と白のやつだった。

 げええぇ。思わず声が出そうだった。咄嗟に剥ぎ取るとベッドの下に隠す。


「あのご主人様? ・・・!」


「こ・これは違うんだ」


「返してください!」


「見損なったぞ」


「違うんだ。この卵が勝手に・・・」


 なんて展開が目に見えてるじゃねえか。このクソ卵どうしてくれようか。卵が寄越した貢物は超危険物体だった。なので俺は卵を掴んで、左右に振りまくる。卵が悲鳴を上げた。

 なんで悲鳴を上げれるんだ? 卵には声が出だせるような場所はついていないのだが。黙っていた卵だったが、渾身シェイク攻撃に早くもギブアップした。


「や・やめてえええぇえ。割れちゃう、割れちゃうから」


「お前」


「や・やあユウタ。僕タマゴというの」 


「ん。お前喋れるのか」


 俺は卵が悲鳴を上げるので振る手を止めた。一体全体何処から声を出しているのかわかんないけどな。


「いやあだって僕・・・竜だし。0歳児だけど凄いんだよ! NAISEIだってお手の物なんだからね」


「じゃあ、タマゴさんよお。ペダ村を何とかしてくれよ。金に困ってんだ」


「そんなの簡単じゃん。知識チートでぱっぱっしょ」


 卵がクルクルと回ってさも当然であるかのように話す。0歳児が内政だと? 巫山戯やがって。知識チートだって簡単には行かねえんだよ。金ないし、人を動かす力もない。部下というか奴隷はいるけど。どうやって知識チートするってんだ? とりあえず話を聞いてみるか。


「具体的に言ってくれ」


「んじゃ。風呂でも作ろうよ」


「あるわ」


 もう作ってるよ。五右衛門風釜風呂に木で出来た天然風呂まで至れり尽せりだ。


「んじゃジャガイモ作って農業革命」


「それもある」


 元々ペダ村には芋がある。却下だ。


「んじゃ銃とか火薬とか兵器でどーんとかどう」


「んなのぱっぱと出来るわけねーだろ」


 銃一つとってもネジやら何やらで作るの大変なんだぞ。火縄銃作るのすらかなりの技術力がいるんだ。火薬は確かに出来ない事もないだろうが、大量の死体が必要になる上に時間がかかる。ん? 幸いにして死体だけなら大量に手に入ったから硝石作りに手を出してもいいが。銃弾が飛び道具の分類で矢避けのルーン一つ刻まれると無力化しそうだ。


「じゃじゃあ、・・・カジノとかゲームとかトランプとか」


「無理無理。そもそも賭博とか特許とか時間かかりすぎるだろ」


 出た賭博。盗賊共の縄張りに踏み込む事になる上に、今度こそ本気で忍者とやりあう羽目になるだろうが! 

 却下だ。


「あ、あの。もしかして内政チート乙です?」


「ああ。乙だ。っていうかお前どっからその知識を集めているんだ」


「えっとユウタの脳みそから?」


「お前・・・」


 まさかとは思うが、こいつ。人の脳味噌を覗けるんじゃないだろうな。だとすると超危険な生命体だ。今の内に処分しておくか? 更に俺の思考を読んだかのような・・・


「嘘っ。冗談だからあ。やだなもう。定番じゃないの定番。0歳児の様式美って奴よ。ねっ」


「おいタマゴ。なんかあるなら、今の内に言っとけよ」


「は・はい。それじゃあ、・・・えーえーと。・・・精油とか鋼鉄とかどうかな」


 無理に決まってんだろうが! タマゴを思わず壁に叩きつけたくなった。原油を掘り当てたとして、それを精製する設備を作る事が出来ない。まず、掘り当てる事が現実的でない。原油は原油のままでは使えないからなあ。鋼鉄もしかりだ。しかし、鋼鉄都市とか聞くともしかしてあるのかと想像してしまう。

 ともあれ、一から作るのは・・・無いな。


「お前・・・舐めてんのか。原油からガソリンの精製も鉄鋼石から溶鉱炉まで作る? それ一夕一朝で出来るもんじゃねーんだよ。それこそ年単位かかるわ。プラントも製鉄所もどんだけ時間と金がかかると思ってんだ」


「そこはほら、王子様に頼めばどうかなって」


「俺の尻がやばいわ。もういい、お前ゆで卵の刑」


 何処で知ったんだ。アル様に頼み事なんてしたく無い。どちらかと言えば、全力でバックダッシュだぞ。


「や、やめてええ。こんなんだけどメスだから。ねっねっ。人化だってきっとあるよお。殺さないでえええ」


 なんと床に立つタマゴが横になったり立ったりする。タマゴは高速で起き上がりまた倒れた。やがて疲れたのか、タマゴは横になったまま、プルプルと痙攣する。タマゴの下には大量の汁で、湖が出来ていた。


「ん・・・うーむ」


「お礼のつもりだったんだよう。死にたくないよう」


「わ・わかった。そこまでいうなら許してやらんこともない」


 タマゴの必死な言葉に、罪悪感が湧いてきた。これではまるで、俺が悪人のようだ。ヘンテコな夢を見せやがったが、まあ良しとしよう。タマゴ相手に、本気で怒りを見せるのもみっともない。


 不意にタマゴが消えた。ドアが開くとセリアとモニカが入ってくる。


「ご主人様。料理ができたぞ」


「おお。ありがとう」


「ところでご主人様。私達のぱんつしりませんか」


「いや・・・」


 いや知っているが・・・とは言えなかった。タマゴに嵌められるところだったぞ。あの黒と白の物体がセリアとモニカの・・・。俺はゴクリと喉が鳴った。


「それならいいが、独り言をいうのはよくないぞ」


「気をつけるよ」


「ご主人様。下で待ってますから用意してくださいね」


 下で食事を作ってくれたようだ。

 変な夢が正夢化しているのか。

 二人が退出すると着替え始める。隠れたタマゴが懐から出て来た。


「お前何処に隠れてんだ」


「えへへ。いやあ、旦那様。危ない所でしたね」


「ぱんつな。返しとけよ」


「ええ? ユウタは本気で言ってるんですか?」


 タマゴは驚きの声を上げる。全くもってこのタマゴは変態っぽい。身体の何処に隠れてるんだ。とかツッコミ入れたくなるが、今のうちから矯正しておかないとな。このまま孵化したら、タダのエロ蜥蜴とかになってしまいそうだ。


「本気も本気だ。駄目なもんは駄目だ。人にはやって良い事と悪い事があるんだぞ」


「はあ、これだからチキン野郎は困るんですよ。ここはぱんつをネタに、身体を迫るくらいの甲斐性を見せてほしいものですよ。異種族間であっても大丈夫。子供できますよ」


 どんだけエロ親父なんだ。このタマゴ、0歳児にして犯罪者だった。とても神聖とは程遠い存在だろう。


「人それを犯罪者と言う」


「またまた、ユウタってむっつりですよねえ。あっ僕が貰ってあげてもいいですよ」


「もういい、下に降りるぞ」


「ああっ、ユウタ待ってください。逃がさないもんね、僕もダイヴ!!」


 タマゴが空中を駆け、背中に張り付いて潜りこんできた。この卵はどういう仕組みで空中を飛ぶのか。張り付いた卵は、懐に潜り込んでくる。魔力を吸い取り始めた。吸い始めると卵の表面が金色に輝くのだ。多少なら問題ないが・・・


「魔力を吸うのは、いい加減にしろよな」


「いいえ。お断りします。この味わい深かく、それでいてさっぱりとしていて癖になる魔力。こいつはやめられない。止まらない!」


「はいはい、もういいから。大人しく、静かにしといてくれよ」


「了解であります」


 五月蝿い上にヘンテコな卵だった。とても厄介な奴に取り憑かれたな。朝っぱらからとんでもないスタートになった。おかしい。せっかく自由な生活が出来る筈なのに、いつの間にやらがんじがらめの人生になっている。

 そんな気がした。


  

 セリアにモニカも待っている。下に降りて、食事に取り掛かるとしよう。



閲覧ありがとうございます。

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