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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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80話 門で竜とロボ 帝国軍人のお話

「貴方。気をつけてね」


「ああ、行ってくる」


 妻の眼差しが不安を訴えていた。胸に抱いている子供はまだ乳飲み子で、すやすやと寝息を立てている。


「心配しないでくれ。必ず帰ってくるさ」


「約束よ」


 帝都を離れる事に妻は、心配しているようだ。俺の受けた任務はこうだ。竜の戦士を補助し、異世界人を捕獲せよ。すでに部隊の編成は済んでおり、あとは部隊の移動するだけだった。

 玄関に立つ妻が、名残おしそうに手をいつまでも振っている。妻は器量良しで、周囲から賞賛を浴びているのだ。私はむしろエリザ、君のほうが心配なのだがね。義父の手配してくれた護衛が各所に配置されているため、一応は安心している。エリザと出会えた事が、この世界での最高のプレゼントだ。出会いは、地獄のような毎日に一筋の光がさした。

 嗚呼。この任務をさっさと終わらせて、君の元に駆けつけるよ。


 帝都から高速車で移動する事四日程でそこに辿りついた。専用の道路を辿り、対象の元につく。竜の戦士と共に異世界人達の捕獲に向かう。竜の思惑とこちらの考えは違うが致し方ない。部隊を展開させつつ、異世界人達に接近する。


「あれか」


 敵の攻撃射程が測れないため全軍を森に隠し、平地に展開する軍隊の様子を伺う。男は胸元から葉巻ケースを取り出すと火付け棒で葉巻に火をつけた。妻には健康に悪いと評判は良くない。だが、吸い込むと胸にすーっとくるその煙が、この作戦を成功させる為には必要だ。 

 報告によれば、転移門より現れた異世界人兵士の数は三千弱。ゴブリンやコボルトオークを送った後、異世界人の兵隊が鋼鉄の門より現れた。兵士達は罠とも知らずにのこのことやってきた。のんびりと野営地に塹壕や要塞化の作業を開始している。

 二足で直立する蜥蜴が寄ってきた。それは黒光りする鱗を持ちさながら城塞のようにそびえ立つ。それを見た人間は本能的に恐怖を感じずにはいられない。人は蜥蜴を畏怖を込めてこう呼ぶ、黒き暴君と。


 蜥蜴は、帝国に存在する世界転移門の守護者でもある黒竜だった。齢にして数百年とも数千年とも言われる偉大なる竜。只の蜥蜴とは一線を画す。それは存在感がまるで違う。そして、通常四足歩行の蜥蜴から進化したのか二足歩行をする。さらには人間と同じように武装し、高度な魔術を使う。竜の操る魔術を竜言語魔術(ドラコ・マギ)といった。

 黒竜の身体は鋼鉄よりも固く、それでいて尋常ではない身のこなしを誇る。数々の戦いを経て鍛え上げられた戦闘の勘によって、まず敗北する姿は想像すら出来ない。


 その黒竜に対し男が口を開いた。


「黒竜様。予定通りでございます」


「(手筈はわかっているな。ここはワシに任せて貰うぞ)」


「ははっ」


 思念によって返事を返す竜。翼を広げると黒光りする鱗と巨体を誇る竜が飛び立った。それと同時に世界転移門が閉じる。その身体には鎧を身に纏っていた。巨大な斧槍を手に盾を携え、黒竜は一気に勝負決めるつもりだ。

 若い下士官が遠ざかっていく竜を見上げた。


「我々はどうするのですか少佐」


「どうするもこうするもない。黒竜様が退治されるそうだ」


 下士官は名はフレデリックだ。優男風で若輩ながらも、栄えある帝国騎士の末席に身を置く。フレデリックは不満を吐く。黒竜と帝国軍との間にどれだけの差があるのかわからないのである。この青年も、肉片になるまで気がつかないタイプだった。気づいた時には地に伏せている肉人形。

 だから、人の勘に触るような言葉も出てくる。


「我々は高みの見物ですか」


「その通りだ」


 黒竜が飛び立って四、五分程度だろうか。平地に展開する敵勢力が混乱中に軍勢蹂躙する竜。戦いはもはや虐殺と化していた。飛び交う銃弾に火を吹く90式戦車の砲塔。だが、竜にはその一切が効いた様子ではなかった。二人して遠眼鏡で見物だ。待機中の部下達も鉄騎兵内部で見学している。

 優男フレデリックは呻いた。


「一方的ですね」


「まあな。異世界人の兵士達は優秀だ。だが、黒竜様相手ではな」


 異世界人の兵は火器を構え、混乱から体勢を立直し竜に銃撃を加えていく。だが、竜にはまるで効いていなかった。戦車が、兵士が次々に吹き飛ばされていく。優秀な兵士は携帯型ロケットランチャー110mmや84mm無反動砲等で反撃する。だが、命中しても竜の鎧にも身体にも傷一つついていない。

 暴風のように振るわれる戦斧が、兵士達の身体を肉片と化しさしめ、戦車に装甲車が鉄くずと化していった。


「黒竜様相手にどこまでやれるか見物だったがな」


「しょうがないですよ。見たところ連中の兵器じゃ傷を負わせる事、それ事態難しいでしょうし。私としては侍や忍者がいると期待していたのですが」


 必死でミニミと言われる銃器を手に立ち向かう兵士だったが、竜の振るう武器によって次々とミンチになっていった。只の蜥蜴とは違うんだよな。通常の武器が効く筈もない。不死なる蛇の裔にして、門の守護者。兵士達が哀れになってくる。兵士達は必死の形相でLAMのつるべ撃ちをするも、効果がない。単純な物理攻撃がほぼ効かない事を未だにわからないのだ。


「少尉。何人生き残るか、賭けてみないか?」


「少佐も人が悪い。その手には乗りませんよ。黒竜様は捕獲しませんから、恐らく0ではないでしょうか」


 暴れまわる二足歩行の蜥蜴の攻撃によって戦車がゴミのように潰され、爆散する。遠距離から集団になってロケットランチャーを撃つものの、その行為には意味が無かった。当たることは当たったが、竜は無傷である。戦車の砲塔が火を噴くものの、竜の身体には傷一つつかなかった。全身を鎧で覆い、弱点とも言える頭部の保護も完璧である。どういう仕組みなのかわからないが、魔術的な物で見ているらしい。

 蜥蜴の突撃が始まってまもなく勝敗は決し、黒竜は興味を失くし始めている頃だ。どうやら、活きのいいのすら居なかったようである。となれば、殲滅用の魔術を使い始めるに違いない。破光と呼ばれる視力破壊魔術か焦熱と呼ばれる熱風魔術かいずれにしろチートだ。現代兵士では防ぎようもないそれが使われれば、戦いは終わる。少佐は向こう側の兵士達に想いを馳せた。

 異世界への入口が開けば、毎度のように現れる兵隊達。

 自分もかつて命令で送り込まれ、地獄を味わった。定期的に向こう側で開く門について思い出した。向こう側に開く場所は様々だったが、そこから出てくるこちらの小鬼や豚獣の被害は馬鹿にできない。


「連中もいい加減に出入り口を封鎖したほうがいいんだがな」


「異世界人も懲りませんよね。ところで、何故彼等は降伏しないのですか?」


「仲間が戦っているからなあ」


 (降伏はしないだろう。かつての自分と同じように。死んでも味方を守る。皆そうだった。そんな奴から死んでいったな。気合でなんとかなる相手ではないんだよ)

 

 単純に、竜と兵士達の間には勇気や愛だけでは、ひっくり返りようのない戦力差があるのだ。

 なんとも馬鹿げた話である。敵の戦力を測る事もなく投入する事の無意味さを今敵兵は味わっている。 掛け値無しの一方的なデスゲームだった。

 戦力を測る目的なのだろう。帰れないのだから、兵士達の上は測り様がない。


「敵兵を逃がすなよ」


「了解であります。敵兵を捕獲するのでありますか」


「そうだ」


 男はうなずいた。

 少佐と呼ばれた男は、鋼鉄で出来た機体に乗り込む。高さ6m程度だが乗り降りにはワイヤー式タラップが必要だった。ある好事家達がかつて夢を見て、現実にした機体だった。機体使われる素材はアダマンダイトから作り出されたアダマン鋼、機体にはミスリルと呼ばれる不思議な鉱石が魔術で精製され、ところどころに埋められている。向こうの世界では実現不可能な強度を産み出し、そしてパワーとスピードを兼ね備えた兵器だ。

 

 攻撃は主武装の斧槍だ。斧槍は特殊な魔術兵装でもある。クレセントアックスとも言われるそれは、魔術文字が武器に刻み込まれ魔術を放つ触媒ともなる。そこから放たれる稲妻(ブリッツ)は見て避けれるものではない。 もちろんサブ兵装に銃も持っているが、弾丸一発の値段が高く撃てたものではなかった。銃が使用されるのは、魔術防御に優れた中型モンスター用である。

 防御の面に関して機体の装甲は、魔術を帯びない攻撃のほとんどを防ぐ。

 少佐の配下鉄騎兵100機程度が随伴する騎士や歩兵と共に散開していった。


 少佐が乗り込んだ機体のコックピットは、動く棺桶とも揶揄されていた。今でこそ慣れたこのコックピットには最新のハイテクノロジー技術が導入されており、魔術と科学が融合した最新鋭機だ。乗り込んで機体を始動させれば、自身のタンクに蓄えられた魔力水で魔導ギアエンジンが動き出す。起動と同時に電力を発生させ各部に電気が行き渡る。発生する魔力の流れを術式制御する魔導コア。それを電力で動くニホン製のコンピューターがサポートする。各種関節部もミスリル合金が使用され、現代ニホンでは再現不可能ななめらかさと強度を示す。


 ニホンでは無理だったが、こちらの世界では鉄騎兵は機体の強度さえ解決できれば、様々な用途に使えるようになった。帝国では、魔力を持たない人間の価値はかなり低いものとなる。自然と鉄騎兵に目が向くのは当然といえた。鉄騎兵は戦車と比べれば柔軟な動きが出来た。だが、評価自体は低いものだった。


 元々の素地は既にあったが、問題は兵器としての活用法であった。人が操縦するタイプの魔導アーマーであったが、兵士装備の延長上に位置するようになり、やがて戦車を駆逐するようになる。そんな魔道具甲冑を操る兵士を帝国人は鉄騎士と呼ぶようになった。帝国騎士(ライヒリッター)からは屑鉄と侮蔑を投げかけられるが。


 色々あるが、原因は生身の王国騎士に鉄騎兵がかなわなかった事にある。


 そんな事は、まだまだ改良の余地がある鉄騎兵にとって些細な事だ。重要な事は我々が、戦力になる事を示す事だ。帝国にとって有用であると、認めさせる。その為ならば、かつての同胞だろうと手にかける事にためらいはない。今はまだ、男にとって雌伏の時だ。

 

 侵入した兵士も下手に逃げおおせれば、男が味わった地獄を体験する事になる。逃げて、逃げて皆死んでいった。逃げた所で、言葉が通じないのだ。すぐに、異世界人だとばれる。

 捕まり、拷問の果てに剣闘奴隷となった。意外な事に男には近接格闘の才があった。命をかけた戦いに勝利する事幾度か。闘技場で貴族に気に入られ、自由を勝ち取った。貴族のコネを利用して、軍に入るとのし上がっていく。

 そうして、男はここまできた。


「ここまでのし上がってきた。まだまだだけどな。・・・皆見ていてくれ」


 誰に問うでもなく、独りつぶやく男に答える者はいなかった。



 少佐が乗る機体は、部下が展開する包囲網に加わった。一人でも助ける為に。




 

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