表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
83/710

79話 雪国でトリップさん

「さむい」


 少女の手足は、既に氷のように冷たくなっていた。

 それでもここに立つしかないんだろうか。

 仲間は盗みを進めるけど、自分にはこれしか無かった。

 

 何もないけれど、たまにお金をくれる人もいたのだ。

 身体を売るしかないのか。貧弱な身体では客を取れるのかわからない。

 

 両親を守ろうとした騎士達は殺された。


 両親も盗賊達に殺されて。

 少女は弟を連れて、身寄りの無い子供達でグループを作るようになった。

 もう食べる物がなかった。

 どうしようか。

 大人達はアテにならなかった。頼りになる騎士達も、盗賊達に殺されてしまった。

 

 この世には、正義も勇気も圧倒的な力の前には無力なのだろうか。

 両親が残してくれた食べ物ももう尽きた。

 略奪を逃れた少ない食べ物だった。


 数日前から弟の体調がよくない。

 力さえあれば。ぎりぎりと少女は奥歯を噛み締めた。

 両親を守れただろうか。


 税金は重くて。

 生活は苦しかった。

 売り物は田畑で取れる痩せた芋だった。

 それでも懸命に働いていたのに。

 

 突然現れた盗賊達は、全てを奪っていった。

 ささやかな幸せも。両親の命も。

 家族の団欒も今では古い記憶のようだ。 


 あの炎を放つ大剣を持つ少年の薄笑いが、頭から離れない。

 さも当然という風に、騎士達を殺してまわった悪魔。

 復讐なんて虚しいだけ、と言う奴もいる。

 愛する者を殺された事がないからわからないのだ。

 奪われた痛みを癒すには、あいつの死体しかない。


「殺してやる」


 少女のつぶやきは北風に紛れて、消えた。


 



 城を出ると黒い鎧の上に白いコートを羽織りを入城していく一団とすれ違った。白黒のコントラストが、なんとも絶妙であった。足音一つ立てず整然と闊歩していく。顔も美形ばかりだったが、実力ある騎士ばかりだったな。


「あれは?」


「帝国の連中ね。想定していた事態があっさり鎮静化したので、飛んできたっていうところでしょう」


「盗賊達が退却してから、来たってこと?」


「さあそれはわからないけど、ハイデルベル王国の隣国ハイランドは帝国の傀儡政権になってるとも聞くわ。国境沿いにハイランドの兵力を集結していたみたいだけど、無駄に終わったわね」


 それって、まだまだ油断出来ないんじゃん。むしろ、隣国と戦争が起きるんじゃないか。

 開戦の可能性は十分にある。

 これだけ盗賊共に荒らされた国に侵攻してくる帝国。

 ハイデルベルは泣きっ面に蜂と言える。戦いが始まる前と終わった後が大変というのはまま有る事なんだろう。一つの戦いが終わってまた新たな戦いが待っていた。


「この国は大丈夫なのか」


「大丈夫じゃないわよ。ハイデルベルの兵士はほとんど殺られて、蘇生もままならないわ。だからルーンミッドガルド本国から大量の兵員が動員されているのよ」


 蜂蜜色の髪をこれよがしに見せつけるためか、少女エリアスはフードを取り払った。

 金粉のように髪が舞った。

 相変わらずの美少女振りだ。多分フードの下を見るために金を積む人間が居てもおかしくない。

 何故兵士の蘇生が無理なのか。


蘇生(リザレクション)無理なのか」


「頭部の欠損、病死、ここら辺が絡んでるとまず無理。だけど【リザレクション】にはもっと大きな秘密があるのよ。そう例えば・・・この国の人間は蘇生が出来ないとか」


 【リザレクション】に、一体どんな秘密があるというんだ。これみよがしに関心を示さざる得ない。


「それは?」


「秘密よ」


「むむ」


 人を期待させておいて、お預けとは酷い話だ。エリアスはしょっちゅう女教師モードに入るなあ。俺達は、深々と降り積もる雪を踏みしめながら歩く。

 降り続く雪が、大地に流れる血を覆い隠す。


「なんでも人から答えをもらうのはやめなさいよね」


「それは一理あるな」


 俺には、恥も外聞もなくすぐ聞いてしまう性質がある。

 俺はちょっと雪を拾うと球にしてエリアスにぶつけてみようとした。が、馬鹿にされそうな光景しか目に浮かばない。それで雪だるまを作る為に雪を転がし始める。雪の質がいいのかすぐに大きくなった。


「ご主人様。何を作っているのだ」


「雪だるまさ。セリアもどうだい。やってみる?」


「わかった」


「私も作りますね」


「ほんとモノ好きな人達よねえ」

 

 セリアにモニカも加わって、三人で雪だるまを製造していく。

 そうして出来た雪だるまをイベントリに入れていく。ペダ村にいい土産が出来そうだ。

 カマクラでも作るかという所で、異世界人PT現れた。

 異世界人達は日本人らしいが、今度のはPTメンバーが豪華な装備をした美女美少女ばかりだった。俺も人の事言えないが。男が一、二人いるくらいだ。

 日本人らしき少年が二人近づいてきた。


「あんたがユウタか」


「そうですが、貴方達は?」


「俺はケンイチロウ。こっちはトモだ。ちょっと話さないか?」


「いいですよ。只食事もしたいのでハイデルベル詰所まで戻っていいですか」


「それでいいだろう」

 

 俺達と異世界人の帰り道に、雪の降り積もる通りの端っこで座る少女がぽつんと見えた。

 乞食なのだろうか。

 空き缶には何もはいっていなかった。身につけているのは、ボロボロになったなにかの布だ。

 乞食か。現代日本じゃほとんど見た事が無かっただけに、俺は衝撃を受けた。それでだろうか、つい少女に声をかけてしまった。

 

「寒くないのか」


「寒い」


「お父さんお母さんは?」


「いないよ。死んじゃった」


 や・・・やばい。何がやばいって俺の涙腺が破壊されかかっている。

 敵を殺すのに、何のためらいもなく殺れるというのに。

 こんな話を聞いただけで。

 どうしようもない戦場の痛みを知る。 


「身寄りはいないのか」


「いるよ。弟達と仲間がいるもん」


 少女は体育座りをしながら、こちらを見た。生きることを諦めていない目だった。

 ゾワゾワした何かに襲われた。

 この少女が、生きる事の手助けをしたくなった。

 目から変な汁が滂沱していた。止まらなかった。


「う・うちにくるか」


「泣いてるの? おにいさんも変態なの?」


 もって何だ。も、とは? 変態だと? 断じて否。

 変態的な趣味嗜好は無い。

 可愛い子は微笑ましいが。止まらない汁が流れ落ち続ける。

 少女は変な物でも見るかのように、こちらを見上げてくる。


「いや違う。今日ここに来たのも、何かの縁みたいなもんだ」


「遠い国で売り飛ばす気なんでしょ」


「そう見えたら心外だし。縁がなかったって事だね」


 確かにそう見える絵面だった。怪しいおっさんが声かけている。そう見えてもしょうがない。

 断られれば縁がなかったと諦めるしかない。赤い頭巾から水色の髪がチラリと覗かせた。


「じゃあ、お兄さん何処に行くのか教えて」


「ルーンミッドガルドの詰所かな」


 俺がそう言うと、赤い頭巾の少女は立ち上がって走り出した。

 一体何処へ行こうというのか。少女は少し驚いた様子を見せた。


「! ちょっと待ってて」


「お・・・おい」


 異世界人達はとっくに戻ってしまっており、エリアス、セリア、モニカが残っている状態だ。

 来るか? とは聞いたがまさかな。凄い弟がいるんじゃなかろうか。いや、待て。

 俺は鼻汁をかんだ。

 しばらくして、少女が戻ってきた。


「お待たせ」


「こ・・・コイツ等全部なのか?」


 絶句した。そして、そう言わざる得ない数だった。

 仲間というから4-5人かと想像していたが、なんと二、三十人位居た。

 同じような格好をした少年少女が、ヒヨコの群れのように少女の後ろについて来ていた。 


「うん」


「わかったついて来い」


 赤い頭巾を脱いで、満面の笑みを浮かべる少女に何も言えなくなった。来るか? とは言ったが、仲間やら全部連れてくるとか。少々どころかとんでもない重荷が降ってきた。

 セリア達の所に戻ると、いきなり魔術娘が声を荒げた。


「ユウタ。あんた何やってるの」


「俺も何が起きたのかさっぱりわからないよ」


 エリアスお前は俺の母ちゃんか。

 ちょっとした気の迷いから、大量の孤児を抱える羽目になった。

 後悔はしていない。

 力の限りこの子達を援助していこう。幸いにして、ペダ村で受け入れすることが出来る。

 そんな俺の想いとは裏腹に、魔女の言葉が突き刺さった。


「人は、犬猫と違うのよ」


「うっ」


 動物とは酷い。だが、その通り。安易に拾ったのは、不味かった。しかし俺はなんとかするつもりだ。少女の瞳には、この世に強い怒りが満ちていた。放っておけなかったのだ。少女が復讐者になるような気がしていた。

 エリアスの厳しい追求が飛んでくる。


「それにこの子達を養うのに、どれだけのゴルが必要になるのか計算してみなさい」


「エリアス殿いいではないか。ご主人様のこういう所がいい」


 セリアが意外にも味方してくれた。てっきり何やってるのだご主人様は、と言われると思ったが。


「セリアまで何言ってんの。これは未成年者略取に当たるわよ。集団誘拐よ。犯罪だわ」


「いいや違う。これぞまさに騎士だ。女子供を守るは、騎士の本懐である。善の勧めならば良い事なのだ。むしろ責めを負うべきは、守れず手を差し伸べる事の出来ないこの国の騎士と王であり、糞盗賊共だ。ユウタは立派だぞ」


 セリアはそう言ってくれた。勢いで連れてきてしまったが、よく考えると犯罪なんじゃなかろうか。

 

 俺達は子供達を連れ、王都から移動してきた臨時の詰所まで移動した。女性陣に子供達の世話を任せる。

 騎士団詰所となっている屋敷の一室で、くつろぎ二人と話をすることになった。もっとも俺は話すどころか頭が痛くなってきていた。


「それじゃあ。改めて、自己紹介をさせてもらうとしよう。俺は相賀健一郎17才。日本人でこの世界に迷い込んだ人間だ。今はルーンミッドガルドで世話になっている」


「俺は武田智っす16才。健一郎と同じっす」


 そう言って自己紹介をしてくれた。二人共に黒髪黒目していて、典型的日本人である。日本人いいよな。もう金銀青緑黄紫とかカラフルな頭髪に、目が痛くなってくる。黒も悪くない。


「俺は真田悠太16才みたいです」


「みたいって。・・・まあいい。悠太に話があるというのはだ。一つは情報交換だ。2つ目はそれを踏まえた上で俺達と手を組まないかという事だ」


「興味深いです。話を聞かせてください」


 こうして一日終わってしまいそうだ。料理を注文しながら、俺達は雑談に興じた。なんせまともに話が出来そうな人間が現れたのだ。威風堂々といったロシナさんは転生タイプで、健一郎に智はトリップタイプだった。ビーフシチューのような料理をつつきながらしゃべる。


「すると、健一郎さんは冒険者稼業をしながら、稀に招集を受けて働く半官半民で生計立てているんですか」


「そうだ。といってもダンジョン潜っている方が身入りが多いし、異世界人対策で呼ばれるのは税金みたいなもんだな」


「俺も同じっす」


 痩せぎすの少年健一郎は、細マッチョという体型だ。かなり背が高く眼鏡をかけたインテリタイプだ。

 犬系な少年智は小柄だが、人懐っこい表情を浮かべたモテショタっぽい。


「悠太は何をしているんだ」


「俺ですか? 俺はえーと木こりしたり冒険者クエスト受けたり、村の再生なんていうのもしてますよ。あっ最近騎士見習いとか代官になりました」


 俺がそう言うと、健一郎残念そうな表情を見せた。


「おいおい・・・。悠太はどんなマゾなんだよ。そんな働いてたら、そのうち死ぬぞ」


「そうっすよ。今からでも、自由な生活目指すといいっす」


「はあ。俺もそう思い始めたんですが、今更引くに引けない状況になりつつありまして」


 苦笑する健一郎と同情する表情を浮かべた智。俺もいい加減抱えすぎだ、というのはわかる。

 正直言って、この世界でもやはり奴隷人生は変わらないのか。

 細マッチョな健一郎とショタ智は早くも麦酒を飲み始めた。


「ふう。まあ悠太がとんだマゾっていうのはわかった。それは置いといてだな。この世界には、世界転移門があるらしいんだ」


「世界転移ですか」


「そうっす。元の世界に戻れるかもしれないんすよ!」

 

 健一郎は酷い言い草だ。言いがかりも良いところだ。俺はマゾじゃない。智は興奮している。

 確かに俺にとっても興味深い話だ。本当に世界転移門なんて物があって、自由に行き来出来るならな。

 最重要機密になってもおかしくなさそうな情報だが、普通に話してていいんだろうか。


「俺としては戻らなくてもいいんだが、向こうの世界からマンガやらアニメは取り寄せたいからな。特に、ネット小説とかな」


「えっと、ネット小説ですか」


「そうっす。健一郎さんは大ファンっすからねえ。モンスター倒す度、アニメとかで影響を受けたキャラの立ちポーズ決めるのやめてほしいっす」


 智はげんなりした表情を浮かべた。健一郎はスープをすすると、湯気を立てる肉にかぶりついた。

 立ちポーズってどういうポーズだよ。なんとなく分かるような。


「うっせえ。智お前だって、氷漬けになって逝っちまいなあぁとか叫んでるじゃねえか」


「あ、あれは・・・健一郎さんのが感染ったんす」


「あの、それで世界移動できるとかいう門は何処に?」


 このままだと、アニメ談義になってしまいそうだ。いや本当は、それでもいいんだが。

 この人らというか健一郎さんは、絶対にオラとか無駄とか攻撃する際に言ってそうだ。間違いない。

 只、本当に言いながら戦闘出来るかと言うと、疑問だが。


「それが、この情報交換の肝さ。まあなんつーのかねえ噂だけなんだが、帝国にあるらしい」


「そうっす。帝国とは何処にあるのかと悠太は言うっす」


「帝国とは何処に?」


 糞、先を読まれた。智はドヤ顔していた。お前超時空的存在に消されるぞ。

 俺は一息入れるように湯気を立てたスープを飲み干す。ボルシチにも似たホワイトスープは侮れない味わいだ。

 子供にもあったかい飲み物が配られていた。子供学級というところだ。 


「このハイデルベルとハイランドといった緩衝国さらに数カ国の属国をまたいだ向こうにあるみたいだ。自●隊ぽいのから色んな軍隊の連中まで、様々なのがミッドガルド送り込まれてくるからな。大陸最大クラスの大帝国らしいが、色々きな臭い」


「一言で言って、悪の帝国っす」


「そうなんですか」


 そういえば、あの自●隊みたい連中は何処から来たのか疑問だった。

 悪の帝国が大陸最大だと大変じゃないか。

 アル様のルーンミッドガルド王国も危なさそうだ。 


「どうだ、興味湧いてきたんじゃないか」


「そりゃあもうと・・・」


「・・・」


 智が、また先読みしてやがった。危なかった。その通り言うところだった。

 少々苛立ちを隠せなくなったのだろうか。健一郎が智をたしなめてくれた。


「あまり、その人の真似を使うなよ。ともかく、知っておいて欲しいのは帝国に取り込まれるな。ということなんだ。俺達の目的の為にも、情報交換程度は冒険者ギルドを通して色々出来るからな。手を組んでおいて損はないだろう」


「早い話が、皆でグランドクエスト協力プレイして乗り越えっす」


「俺は・・・色々あるので、考えさせてください」


 俺には色々と都合があるんだ。今日だって本来ならペダ村強化をするはずが、雪国で戦闘だった。


「まあ、急いで結論を出さなくていい」


「けど、うちらのグループには秘伝POTの作成法やらメリット沢山あるっすよ。ダンジョン攻略やアイテム作成についても、詳しい事教えられますけ・・・あ」


 ドヤ顔で話をする智に、健一郎のチョップが決まった。メッという感じであった。色々と利益を提示して釣ろうというのか。智の話ではPOT作成が気になる。


「そうなんですか」


「まあ、餌で釣るのはいかにもといった感じだ。でも、ちょっと入りたくなったか?」


「もちろんですよ」


 興味深いじゃないか。それに情報交換する分には悪くない取引だと思う。

 それに仲間という奴は、どれだけいたって困るもんじゃない。敵対よりずっと生産的だ。


「釣れた子クマっすね」


「正直いうと、君というよりセリア殿が目当てというのがある」


 俺じゃなかったんですか。そうきたか。なんとなくわかってた。


「健一郎、ぶっちゃけましたねえ」


「エリアス様ともシグルス様とも親しいみたいだしな」


「まあ、正直そうみられますよね」


「ああ、セリア殿と言えば学園モテ雄ランカー。学園で銀の騎士と謳われ、拳でも武器でも最強だからな。なんで奴隷なんぞやっているのかが謎だ。それについては、詮索はしないほうが身のためだろう」


「他にも異名あるっす。銀の流星とか北天狼神拳の継承者なんて言われるっすね」


 学園ってあの王立学園の事なのだろうか。北天なんちゃらってなんだよ。素手でも強いってそういうことなのか。


「二人は学園に通っているのですか」


「そうだな。朝から昼までは授業を受けて、昼から迷宮潜って金稼いで夜は女と寝ているな」


「僕もそんな感じっす。これでアニメとかネットあればもう帰る必要なくね? というのが本音っす」


 可愛い女の子をはべらせておきながら、アニメにネットを楽しみたいだと?

 もはや元の世界の人間が負け組になっちゃうわ。

 学園に通いつつ、俺TUEEしながら女の子と夜はしっぽりだと?

 正直に言うことが出来る。


「羨ましい」


「羨ましいのはこっちのほうだがな」


「こればっかりは、隣の青芝っすよ」


 食後の珈琲を飲むと、無性に酒が飲みたくなった。麦酒を煽っている二人を見ると、異世界にやたら馴染んでいた。

 未成年は、お酒飲んじゃダメなんだぞ!


「悠太も学園に通ってみちゃどうだ。色々とこの世界の常識とか知らない事が分かっていいぞ」


「可愛い子も多いっす」


「気になりますねえ。考えときます」


「ああ、そうしろ。それで話が戻るが、帝国が門から現れる軍隊をしばき倒しているという話があるんだ。この話は気にならないか?」


「もちろん。現代兵器は強力無比な物が多いですから、気になります」


「どうやって倒すのかっすけど、帝国の連中はロボを持っているみたいっす」


「ロボですか」


「まあにわかには信じられないだろうがな。鉄騎兵と呼ばれる機械と魔術を融合させたゴーレムタイプらしい。現物は学園図書室の図鑑でしか見た事がないから、正確な事はわからないな」


「図鑑を見る限り、強力みたいっす。鉄騎兵を使って、世界転移門から出てくる軍隊を蹴散らしてから捕獲しているらしいっす」


 なるほど、そうやって異世界人を確保しているのか。謎が少しだけ解けた。しかし、どうやって捕獲した後言う事を聞かせているんだ。ロボなんていたら王国存亡の危機じゃないか。


「とまあ、話は尽きないな。こちらの騎士とあちらの鉄騎兵で五分らしいがな。なんせ、こちらの騎士達は簡単に【リザレクション】で蘇っちまうし、ほとんど肉体がなくなっても【ソウルリターン】で肉体再生付きの蘇生が可能だ。こいつは、肉体の再生時にかなり記憶が飛ぶらしいがね」


「ほんとルーンミッドガルドはチートですよ。他所の国じゃ火一つ起こすのに長ったらしい呪文を唱えているのに」


 生身にやられるロボってどんだけ雑魚なんだ。いや、ルーンミッドガルドの騎士は確かに、やばい強さだ。

 今回の戦いでも、死傷者0ってどういう事だ。ラキシアさんも、結局蘇生を受けたみたいだ。

 大分酷い事になっていたらしいけど、良かった。


「他所の国の魔術士は能力が低いってことですか」


「ああ、とてもじゃないがルーンミッドガルドのとは戦えないな」


「弱弱っす。一つ呪文を唱えて発動させてるっす。その時点でバレバレっす」


 呪文唱えてちゃダメだろう。せめて簡易魔術で詠唱省略くらいしてないとな。

 王国の兵士に当たる気がしない。

 盗賊達やモンスターは別だ。

 どうやら、盛大な勘違いをしていたみたいだ。


「俺としては【ゲート】くらい普通にあるのかと」


「そりゃ勘違いだな。考えても見ろよ。移動に空間跳躍ってのは、魔術の中でも本来高LVの大魔術なんだぜ。それがホイホイ出来る魔導技術ってのは、凄いことなんだ。俺なんて空間転送器見て、あれ? これゲームの世界か? と思ったわ」


「そっすね。僕が拠点とする鋼鉄都市シュッツバルドなんて、魔術と科学が融合したハイブリット都市です。鋼鉄の魔導列車まであります。周辺諸国もそうですが、このハイデルベルの首都ゼギテアでは移動手段が石畳を走る馬車がメインというのが普通っす」


 行ってみたいな、シュッツバルト。

 とっても不思議な光景が、見られるに違いない。異世界なのに鉄道に乗れるのか。


「俺は経済都市シュッタッフガルドに居る。来てみりゃ分かるけどよ。こっちの世界は技術力やらなんやら国の差が激しすぎるぜ。あと冒険者ギルドもピンキリだって事もな。悠太が来てくれりゃ街案内くらいするぜ」


「そうなんですか」


 健一郎と一緒のPTメンバーなのか。美女の一人が寄って来た。

 寄ってくる美女に気がついた健一郎は腕時計を見た。

 トリップだけに腕時計なんて持ってやがる。羨ましい。

 健一郎が席を立つ。続いて智も席を立った。


「おっと、そろそろ時間か。約束があるんだわ。また、よろしく頼むな」


「僕もそろそろ失礼するっす。またっす悠太君」


「お疲れ様です」

 

 なんとも話しやすい異世界人だった。

 アニメ好きと言う事があるせいかな。あのアニメかどうかは、不明だ。

 とりあえず拾った子供達をペダ村に空間転送器を使って移送した。


 ゴメスさんの経営する道具屋に行って、暫くするとロクドさんも現れた。

 夜も更けているのに嫌な顔を見せず相手をしてくれるのはありがたかった。


「こんばんは、ユウタくん。今日は大所帯だな」


「ゴメスさん。いきなりなんですが、この子供達を預かってもらえませんか」


「ほう。確かにいきなりだね。君のために作る屋敷があるからそこでいいかね」


 何時の間にそんな物が作られていたのか。ペダ村に屋敷を作る依頼をした覚えは無かった筈だ。


「ええ!?」


「といってもまだ土台の段階なので着手したばかりさ」


 と、これはロクドさんだ。まだ出来てないんですね。ちょっと驚いた。


「今、空いている家はないけどね。すぐにでも着工に入ろう。ひとまず子供達は、村長の屋敷で世話をする事にするよ」


「ありがとうございます」


「なあに、今村は人口も増えて活気に湧いているからね。村に酒場やら武器屋に防具屋までできちまったよ。あと裁縫屋なんてのも出来たね」


 活気が出たペダ村では、色々建築が進んでいるみたいだ。


「ゴメスさんもロクドさんも、夜分にすいませんでした」


「いや、いいってことよ」


「そうですよ」


「それでは失礼します」


 俺は頭を下げた後、ゴメスさんロクドさんの二人と別れた。

 俺は少女の名前を聞くのを忘れていた。


 色々あったが、長い一日が終わりそうだ。俺達は邸宅に帰り着く。俺は、速攻で邸宅のベットに倒れこんだ。

 異世界人が好き勝手した結果、少女と出会った。とりあえず、あの少年剣士をぶち殺す事を胸に誓って眠りにつく。

 

 

 俺はリュックの中で脈動する卵の存在をすっかり忘れていた。

閲覧・評価・ブクマありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ