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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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77話 寒い国で白と赤! (ナオ、カラ、ドルフ

登場人物 ナオ、カラ、ドルフ

「私が相手では不満でしたか」


「いえ、そんな事はございません」

 

 可愛らしく紅い瞳を上目遣いで見つめてくる黒髪の騎士に、俺はそう答えるだけで精一杯だった。シグルス様はもうちょっと周囲の目とか、気にして欲しい。・・・じゃなくて、魔力を吸い取るだけが目的とか酷い。魔力が欠乏してよろめく俺は、MP回復薬を取り出すと飲み干した。

 雪こそ降らない雪国で、周囲の気温が更に低下していった。シグルス様配下の騎士達は、殺気立っていた。キスが原因だってのはわかるけど、俺が悪いみたいじゃないか。上司によるパワハラ攻撃を受けているのは、俺の方だ。しかし、そんな俺の事情を他所に騎士達の嫉妬は、燃え上がっていた。

 いたたまれなくなって、周りを見た。茶色の髪をしたボーイッシュなハーフドワーフも根暗プレイのフード女も、傍観していた。

 二人も傍観していないで、少しは俺を助けてくれたっていいはずだ。

 

 フード女が突然「ユウタやったわ、ゲットだわ!」とか言い出した。


「どうした、エリアス」


「ふー、大金星。ユウタ任務完了よ」


「俺には、訳がわからないよ」


「そりゃそうね。んと、魔術で銃使いの能力者を殺ったの」


「そりゃ凄いな」


 エリアスがこっち来てから黙っていたのは暗殺のためか。身体のふらつきも治まってきた。


「どうやって相手の位置を察知したの」


「聞きたいの?」


「もちろん」


 蜂蜜色の髪をした魔女が、取り出したのは水銀か何かのようだ。


「それは?」


「これは水銀にして水銀にあらず。魔術生物の一種よ」


 ぴょんぴょんと、跳ね回るスライムにしか見えないが、それは生き物らしかった。


「エリアスが、暗殺しなきゃいけないような相手いたのか」


「そりゃね。最優先目標だったのよ」


 聞けば、エリアスの気が変わったのも、この任務を受けたからだとか。物理攻撃に強く、探知能力に優れ遠隔操作が可能なこのスライム状の魔術兵器は、魔術に弱いらしい。試しに【エンチャント・ファイア】で足に火属性を持たせて蹴ってみたら、魔術生物は蒸発した。


「相手ってどんな奴なんだ」


「相手はユウタと同じ異世界人ね。こっちに移動してきたのか転生したのか元日本人なのか、そこは不明ね」


「ふーん」


「もしかして、同じ日本人かもしれないから気が引けた?」


「いや、やる気満々だ。銃を使うのなら、エリアスが真っ先にそいつを潰すのは正解だな」


 それは・・・ある。しかし、盗賊を使ってやりたい放題やっている奴と組んだのなら、只の異世界人だ。はっきり言うなら、糞野郎を倒すのに遠慮はしない。降り積もっていた雪も、気にならなくなった。

 進撃する騎士団は、皆ゴム製の覆いを足に履いていた。雪が地面を覆っているだけに【サンダー】が、要注意なのだろう。

 美貌の女性とのキスで、ぼんやりした頭に声が響いた。 


「(ユウタ、突撃します。前線に来てください)」


「(シグルス様、了解しました)」


 俺達が部隊の先頭に移動すると、前線に移動していったアル様とシグルス様が突撃しようとしていた。シグルス様配下の三騎士ことレィル、ドレッド、イープルも一緒であった。


「ではベルティン。後の指揮は任せたぞ」


「ははっ」


「それでは私に・・・」


 アル様が叫ぶや否や、口を塞がれた。シグルス様が犯人だった。後ろから口を塞ぐと「盾方陣構え!」と叫んだ。

 俺達も盾を上向きに構えると、部隊に矢が降り注いできた。敵の攻撃だった。エリアスが呪文を紡いでいた。降り注いでいた矢が、手前に落ちていった。


「矢避けのルーンを刻んだわよ」


「うむ、エリアス見事だ。黄金の指輪が、僅かな数しか術者を派遣しなかっただけのことはある」


「アル様、失礼いたしました」


「いや、私の判断ミスだった。感謝するぞシグルス」


 黄金の鎧を着込んだアル様からすっと身体を離すと、白騎士(ヴァイスリッター)が剣を抜剣し叫んだ。


「敵は、極悪非道の限りを尽くす外道共だ。掃除するのに、一切の遠慮はいらん。騎士達よ、私に続け!」


 そう言うと、シグルス様は敵の集団に向かって走り出した。


「セリア、シグルス様の援護を頼む」


「わかった」


「モニカはアル様の援護で」


「はい!」


 セリアには、一人で星形の盾を構える突進した騎士様の援護をしてもらう。モニカはアル様のフォローだ。

 俺とエリアスは、後ろからちまちまと相手を削らせてもらうか。盗賊達は場馴れしている様子だった。だが、シグルス様とセリアの攻撃で、隊列があっという間に破壊されていった。


「はっ【シールド・プッシュ】」

 

「・・・【スラッシュ】」


 シグルス様が、持つ盾の攻撃が脅威だ。盾で突き飛ばされると、人が飛んでいく。周りの盗賊達を巻き込みながら飛んで行くのであった。

 セリアというと、槍のスキル攻撃がチートだった。【スラッシュ】ひと振りで2,3人と盗賊を仕留めていった。モニカとアル様は慌てふためく相手を刈り取っていった。盗賊達の数は多い。4人に攻撃が集中する事は目に見えていた。集団戦では、攻撃魔術は使いづらかった。味方の騎士達を巻き込む恐れがある。

 俺は【シールド】、【マジック・シールド】等のバフをセリア達前衛にかけて、回復と効果更新をメインにした。敵の後列に攻擊魔術をしたい。最近はまっているのが【アイスミラー】と【サンダー】のコンボだ。【アイスウォール】からの派生魔術はまだ使っていなかった。これを試したいが、相手にも魔術士がいた。


「ユウタ、敵の【アイスミラー】よ!」


「わかっている。【大地に熱をもたらせ(アースヒート)】」


 エリアスの声を聞きながら、俺は、氷属性に変えられる魔術の上書きをする。【アースヒート】なんてことはない火属性の地形変化系魔術だ。【アイスミラー】のカウンター魔術に当たるそれは、熱を持つ地面に替えることができる。魔術効果の程は、鉄板の上で火にあぶられながら踊るといった感じだ。相手の魔術士も【アイスミラー】で更に上書きしてこようとした。こうなってくると、もはや根比べだった。

 隣にいるエリアスは【アイスウォール】で氷壁を発生させて、敵集団を分断すると攻撃しているようだった。

 いい加減上書き合戦に苛立った俺は、エリアスにこっそりお願いしてみた。 


「(エリアス、銃使いを殺ったあれで敵の魔術士殺れないか)」


「(はあ、ユウタ。わたし言ったわよね。魔術に弱いって。ま、試しにやってみたけど相手の側に腕の立つ護衛もいて無理だったわ)」


 物理殺しのスライムさんだが、魔術を使う相手には弱いようだ。恐らく魔術を身につけられない相手、魔術的な物を装備出来ない相手には絶大な威力をはっきするのだろう。


「(そうか)」


「(それにあれは、異世界人専用のやつなのよ)」


 やはりか。異世界人がやたらと入り込んで、好き勝手していたりすれば、それを狩る組織があってもおかしくない。黄金の指輪とは、只の魔術士ギルドなのだろうか。俺は、そこがとても気になった。


「(魔術が効かない相手は、魔術を探知出来ないわ。あの魔術生物は、物理的探知を掻い潜り接近するのよ。これ秘密よ、他の人間にはしゃべらないでよね)」


 確かに重要な秘密だ。もし、魔術が使えないなら対策らしい物は取れない。魔術が効かない、といったメリットと引換のリスクを突いた使い魔系の魔術だ。

 ジワジワと攻撃を受ける相手は、集団を形成できなくなりつつあった。一人の少年剣士が、進撃を続けるシグルス様の前に立ちはだかった。セリアの前には凶悪な面構えをした盗賊風の男が立つ。この二人は敵の主戦力なのだろう。


「よくもまあ、手下を殺ってくれたな」


「貴方が首謀者ですか」


「そうだぜ、俺が反乱軍首魁ナオだ。美人を殺すのは惜しい。どうだ、こっちにこねえか?」


「戯言ですね。我が名はシグルス、騎士団白銀の剣ズィルバーンシュヴェルト団長です。投降など無用。我が剣ブリュンヒルトを受けて死になさい」


 黒髪の白騎士は白銀の剣を少年に向けると斬りかかった。少年剣士ナオは炎の大剣で受け止めた。直後、炎がシグルス様を襲った。炎が騎士の身体を覆うかに見えた。

 だが、シグルス様は一回転して炎を振り払った。マントに消火機能でもついているのか。


「チッ、やっぱ簡単には倒せそうもないか」


「手加減は無用です。追撃をしないのは愚かというべきです」


「確かにな。なら、こっからは手加減無しだ」


 そう言うと少年の大剣が赤い炎を伸ばす。まさに炎の大剣だった。炎の大剣のリーチは脅威の一言だ。並の騎士では間合いに入れず死ぬしかない。シグルス様は炎を盾で防ぐ。


「何ぃ!」


「これが異世界人ナオ。貴方の特殊兵装ですか」


 ナオと呼ばれた少年が、大剣を振るう度に右から左から炎が騎士に襲いかかった。それを受け続ける騎士の盾は、受ける度に蛍の光に似た輝きを放つ。


「そんな馬鹿な! これを受けられるなんて」


「この炎。只の炎ではありませんね。大方これでハイデルベルの騎士達を倒してきたのでしょう。が、私には効きません」


 少年剣士は、炎の大剣から伸びた炎で白騎士に攻撃をし続けた。


「はあはあ」


「そろそろこちらも反撃させてもらいます」


「ぐっ」


「我が身は不死身。竜殺しの系譜にして勝利者の血を受け継ぐ者。幾世代を超えて求敗の境地に至り、荒廃する地上に光を求める! これは光。聖なる輝きを集めしモノ。

 神聖剣【戦乙女の光ワルキューレシュトラール】よ貫け!」


 白騎士が手にする剣から放たれる輝きがぐんぐん伸びていく。ナオは大剣で受け止めた。幅広の大剣は盾としても機能するのだろう。明滅する魔術文字に似たそれが点滅する。


「糞っ、てめえも?」


「・・・」


 無言で切りつけるシグルス様の猛攻にナオは防戦一方になっていく。ローブ姿の少女がシグルス様と少年の勝負に割り込んできた。


「あんた撤退するよ」


「カラか。なんだと?」


「既に戦況は劣勢だわ」


 ナオは勝負の最中突然声をかけられた事に苛立ちを隠せなかった。少年が周囲を見渡した。既に配下はドルフと親衛隊とも言うべき精鋭達以外崩れ始めていた。


「まだだ! ここまできたんだ」


「勝負の最中に他所見ですか!」


 意識を他所に向ける剣士にシグルス様は苛立った。俺は味方の騎士達の怪我を直している。



 少年ナオは未だ諦められない様子だった。

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