76話 寒い国で準備!(ベルティン、レィル
登場人物 騎士ベルティン、レィル
「では、これより本作戦の内容をワシが説明する」
その部屋には、騎士団白銀の剣所属の騎士達が集まっていた。説明するのは、ベルティンとかいう騎士だった。中年の男は細かく説明していくが、どうやら状況が変わっているらしい。現地との情報にズレがあるみたいだ。王都に潜伏していた盗賊団及び傭兵団に攻撃を受けたハイデルベルの騎士団は、わずか数日で壊滅寸前に追い込まれたようだ。ただの盗賊団に殺られる騎士団ってどうなのと思ったが、チートな異世界人が加わっているなら意外な展開でも無い気がした。
「というわけだ。何か質問はあるかね」
「騎士ベルティン。質問の許可を願います」
「よろしい、騎士レィル」
ベルティンの質問に答えるのは、いつぞやの三騎士の赤髪の少年だ。白銀の鎧に真っ赤なマントと正統派騎士風の姿をしていた。
「騎士ラキシアがやられたと聞きました。盗賊共はどのような手段で、ラキシア様を殺ったのでしょうか」
「ふむ。それか。・・・ワシが聞いておる報告では、腕の立つ大剣使いにやられたらしいな」
「僕には、それが信じられないのですが」
「残念だが、未帰還は事実だ」
落ち込んだ様子のレィルが黙って席に座った。淡々と答えるベルティンは、広げられた地図を指すと何らかの魔術なのだろうか。壁に王都の俯瞰図が投影された。
「敵の情報がはっきりしていなかったのは、何故か。現場の状況に情報の食い違いが、出てきている。ここにきて、その原因が判明した」
そういって中年の騎士がしゃべりはじめた。情報に食い違いが起きているのは、ハイデルベルの外交官が買収されてルーンミッドガルドに正確な情報が伝わっていなかったのだ。外交官は既に逃亡しており、行方不明のようだ。盗賊相手に、仮にも一国の騎士団が苦戦するのもおかしな話なのだが、異世界人が親玉なのか。だとすると、相当頭の切れる奴のようだ。とんでもない外道だが。
敵の戦略は一斉に王都の要所を押さえて、騎士団の戦力を分断する。それと共に数で圧倒して、騎士達を倒す戦術をとっていたみたいだ。話を聞くほどに、俺は胸糞が悪くなってきた。敵はとんでもなく外道な策をとっていた。女子供を人質に取ったりだとか、色々やったりだとか。要するに、盗賊達が取っているのは餌釣り戦術のようだ。とにかく、何が何でも勝つという風だ。盗賊だけあって、そこら辺に対する抵抗がないのだろう。
「それではアル様、一言お願いいたします」
「うむ。ベルティンよ、ご苦労だった」
「恐れ入ります」
黄金鎧を着た少年が、こちらに熱い眼差しを送ってくる。それを見た俺は、背筋に悪寒を感じた。アル様の傍らには銀髪の少年を従えていた。見知らぬ少年だが、怜悧な容貌であった。アル様は色々やばい。キスしてきたり、性格が一変したりするし。日替わりランチじゃあるまいし、昨日はうじうじしてて暗くかった。今日は、太陽のように明るく爽やかとかなり変だ。
「アルル・フォン・ミッドガルドである。寒い中、皆の者ご苦労である。きっとこの戦いは、激しい物になるであろう。だが、騎士達よ、おのが誇りにかけて守らねばならないものがある。それは何か。正義か騎士の徳目か。騎士達も色々あるだろうが、此度はハイデルベルとの友誼の為だ。騎士達の奮戦を期待する。そして、騎士達よ。名誉は大切だ、だが必ず生きて帰れ。以上だ」
「ありがたいお言葉です。我ら騎士一同、感謝の言葉もありませぬ。では、各自作戦通りだ。行動を開始せよ」
騎士達はアル様の話が終わり、ベルティンが作戦を締めくくると退出していった。騎士達の中にはイープル、ドレッドの姿も見えた。三人がこちらに寄ってきた。アル様シグルス様も一緒だった。アル様はいつも通りの黄金甲冑を装備して真っ赤なマントをしている。狙ってくださいと言わんばかりの格好だった。俺も人の事言えないんだけどな。派手な鎧を身にまとった王子様が、こちらに声をかけてきた。
「では、ユウタ一緒に行くぞ」
「アル様お待ちください」
派手好きの王子を引き止めたのは白銀のフルプレートを装備した女騎士だった。いつも通りと言えばそうだが、ストレートだった髪形が変化していた。今日は、ワイルドポニーの黒髪に紅いリボンをつけていた。シグルス様のイメージが破壊されそうだ。ヘルムの下にそんな破壊兵器つけていたんですか。きっとそのリボンも武器で、解くと布を水に含ませて使う感じになるに違いない。
アル様は、当然のように苛立った。
「どうしたというのだ」
「いえ、指揮官が最前線に立つのは危険です」
其の通り。シグルス様が言う通りだ。アル様は王族なのだし、危険なのだから後方で指揮を取るとかするのが、普通である。だが、アル様は歯牙にもかけなかった。
「問題ない」
「ですが」
「シグルスにセリアがそろっているのだ」
やはりセリアをアテにしているようだ。俺はセリアのオマケみたいな扱いだな。肝心のセリアはモニカと雑談をしていた。人狼の少女が身に纏う黒の軍服は、肢体にとても似合っている。鎧をその上に着込んでしまうのが、残念だ。セリアに転職の事を色々聞きたいのだが、そんな時間もなくこんな雪国まできてしまった。俺も転職したいんですよ。ペダ村もどうなっているのかも気がかりだ。陰気なフードのエリアスは、窓で何かをしていた。
「わかりました。ですが、お約束ください【黄金】を使わないと」
「う・・・むむ。予定が狂うぞ。私のシュトゥルムウントドランケが・・・。となるとシグルスお前が剣を使うしかないな」
詰め寄るシグルス様は、アル様の反撃を受けて、苦い表情なった。よくわからないが、アル様は秘密兵器でも使う用意をしていたのだろうか。
「そうきましたか」
「できるか?」
「無理やりになりますよ」
「仕方あるまい」
考え込む黒髪の騎士は、意を決した。アル様とシグルス様の視線がこちらに突き刺さった。不意に悪寒を感じた俺は周囲を見渡すと、銀髪の貴公子といった感じの少年がこちらを見つめていた。少年はセミロングの髪をしていて、かなり女顔をしている。男なのに女に見えるあたり、アル様と似たタイプだ。ふと、何かを思い出しかけた。なんかあったんだっけ。
アル様とシグルス様の会話も終わるみたいだ。
「では、お任せください。このシグルス、見事、敵を粉砕してご覧にいれましょう」
「期待しているぞ」
アル様とシグルス様をPTに加えると、俺達は前線に向かった。
◆
「うわ」
「チッ、逃げるな」
「逃げますよ!」
どうしてこうなったんだ。
俺達は、アル様やシグルス様の配下である騎士達と一緒に敵を包囲するはずだった。敵は城門まで辿りついていた。目下の所王城前の広場は、盗賊団と傭兵団と思われる勢力に制圧されていた。広場では、遠目でもわかる外道な行為が行われていた。
アル様の部隊は隊列を組むと、転送器の置かれた臨時詰所から出撃した。石壁で出来た建物が、立ち並ぶ大通りを騎士達は静かに進んだ。雪が降らない為、通りは見晴らしはいい。真っ直ぐに王城に向けて進むと、広場で合流するように左右に別れていった。アル様の隊は敵の背後をつく格好だったが、その為に外道行為を見る事になった。
騎士団は3方向から包囲して攻撃する予定であったが、俺は今すぐ攻撃を開始したかった。敵勢力を攻撃していた筈の異世界人達は無事なのだろうか。俺は吹きすさぶ北風で、身も心も鈍っていた。
だが、盗賊達の行為を見たら髪の毛も逆立つほどの激情に駆られた。
一人で突っ込んで行くほど、無謀じゃなかった。突撃の合図はまだか。
アル様に呼ばれた俺は、側に寄っていく。銀髪の貴公子はいなかったが、シグルス様と三騎士が護衛についていた。何か話があるのだろうか。俺は片膝を着くと、何事なのかアル様の声を待った。
「ユウタ、そのままの体勢で目を閉じるのだ」
「はっ」
俺が目を閉じると、不意に接近してくる気配を感じた。咄嗟に避けて目を開けると、アル様が地面を滑っていく。
「ユウタ、避けるな!」
「いや避けますよ」
いや、俺はノーマルだから。男となんて無理だ。金髪の少年王子は、どう見ても何かよからぬ事をしようとしていた。それを何故か、察知出来た。うーん、何と言うんだろうか。既視感とでも言うべき物を感じた。男にキスしようとする王子様だった。寄ってくるアル様から逃げ続けた。
「シグルス、お前も手伝え」
「アル様。やはり、無理ヤリはよくありませんよ」
その通りだ。黒髪の白騎士様は常識人だ。白銀のヘルムの下に可愛らしいリボンをつけているが、沈着冷静を地でいく人だ。アル様もいくら絶対王権だからといってやって、良い事と悪い事があるんだぞ。
長い金髪の悪魔は、諦めていない様子でにじり寄ってくる。エリアスは気味の悪いフードを脱いでこちらを興味深々で見ていた。セリアとモニカは傍観の様子だ。こういう時には身を挺して主を守るべきだろう。
「セリアも見てないで助けてくれ」
「しょうがないな」
銀髪をストレートでまとめた少女が間に割って入ってくれた。セリアとモニカは軍服が似合っていた。防具がむしろ邪魔だ。サイズを何処で採寸したのか気になった。
立ちはだかるセリアを前に、アル様は雪を踏みまくっていた。
「ぐぬぬ、ユウタよ。お前の力が必要だ」
「そう言われても困ります」
「と言ってもアル様が無理ですか。やはり私がするしかないようですね」
シグルス様が接近してきた。アル様の動きを止めるセリアは動けなかったのか。
シグルス様が俺を抱きしめた。なんて力だ。振りほどく事も抵抗する事も出来ない。黒髪の白騎士は、ヘルムをつけたままキスをしてきた。長いそれはレモンの味がしたが、身体から根こそぎ魔力が抜き取られたようだ。
シグルス様の紅い瞳が、星の輝きを秘めたみたいに潤んだ。俺が力を抜き取られる替わりに、白騎士は力を漲らせていた。長い接吻が終わると、女騎士は身体を離した。
「ユウタ、ごちそうさまでした。初めてでしたが、上手く出来たようですね」
「シグルス様。な・・・何故?」
「ご主人様は隙が多すぎるぞ!」
怒気を孕んだセリアの目が引き絞られた。セリアの耳まで上に向けて逆だっていた。金色の瞳が放つ視線だけで、俺は殺されそうだ。俺が悪いのか? 確かに、避けられない俺が悪いんだ。
モニカとエリアスは食い入るようにこちらを見ていた。コラそこ! 見てないで助けるのが仲間だろ!
狼な少女の視線が突き刺さる。どうしてこうなるんだ。
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