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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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75話 寒い場所で??2

 少年は大いに満足していた。あと少しで国一つを手に入れる事ができるのだ。


「ちょろいもんだぜカラ。はっ」


「ナオ気楽すぎじゃないのかい」


 黒いローブ姿の少女にナオと呼ばれた少年がこの世界に来て、数ヶ月の月日が経った。

 やっとここまできたと少年には感慨にふける。ナオはこれまでの日々を思い出した。

 運命のあの日、少年は教室に座って勉強していたはずだった。だが、黒い何かが現れた次の瞬間ナオは雪積もる森の中で寝ていた。突然出現した黒い穴に吸い込まれ、一緒に教室にいた三十人程度の人間が見知らぬ土地に投げ出されたのだった。投げ出されると同時に突然周囲から襲ってくる無数のモンスター共が現れた。

 

 逃げ惑う生徒達は皆必死に逃げた。ナオもまた必死になって逃げた。夢中で木々を駆け抜ける。気がつくと一人で雪の森を彷徨っていた。


 そこから一人歩いているうちに、ナオは自分が不思議な大剣を持っている事に気がついた。そして、肩に下げているカバンは使い古された皮袋だった。変わっていない物があるとすれば、身につけている学生服だ。


(服は・・・学生服のままか)


 剣を振ってみると刀身に不思議な文字が浮かび上がった。不思議な文字だったがナオには読めた。文字を念じて剣を振るえば、炎が対象に走り焼き尽くした。ナオは大剣が生み出す炎を使って森の中で襲ってくるモンスターを倒しながら抜け出ることができた。

 ナオは腹が減ってきたので皮袋を探ってみると感触が変だった。中には何も見えない真っ暗な穴が出来ていた。まるでナオ達を吸い込んだ穴のようで気持ちが悪かった。恐る恐る手を入れてみても何もつかめず手を引っ込めた。この不思議な皮袋がなんなのかこの時は気がつかなかった。

 

 モンスターを大剣で倒し木の実や果物で飢えを凌ぎつつ、ナオが森をひたすら抜けようとして道を歩いて行った。雪道をどれだけ歩いただろうか、人が争う音が聞こえてきた。その光景はナオが読む小説でもお馴染みのイベントだった。馬車が盗賊風の男たちに襲われていた。ナオは馬車を取り囲む盗賊と思しき男達と馬車を守ろうとする騎士達を見て考えた。

 どちらにつけば生き残れるかだった。こんな所で死ぬのは嫌だったし、ナオはなんとかして元の世界に帰りたかった。数は盗賊達の方が上。だが、加勢したとしてもその後がどうなるのかが不明だ。なら、ここは普通に騎士達に加勢をして賊を始末する決心をした。護衛が付いている点を見ても、馬車の主を助けこの場を切り抜ければ褒美を貰える見込みだ。

 

 ナオにはモンスターを倒す内に自分の剣の腕はかなりの物になっている自信があった。元々剣道をやっていた事もあって、馬車を襲っていた賊は敵ではない。


「加勢するぜ!」


「何んだあ、小僧。ぐはあぁ」


 盗賊達はいきなり現れた少年を始末しようとしたが、次々と打ち取られていった。馬車を守ろうとする騎士と盗賊達の戦力バランスが一気に崩れる。ナオの大剣が炎を放ち、逃げだそうとする盗賊を手当り次第に焼いていった。

 戦いの形勢が決まりあらかた盗賊達を倒した後、ナオは騎士に声をかけられた。


「ご協力感謝する。見たところ、旅人か冒険者かね」


「そんなところだ」


 言葉が普通にわかるので、ナオには嬉しい誤算だった。騎士は更に話を続けた。


「主がお礼をしたいと言うので、どうだろう城までついて来てくれないだろうか」


「そりゃ期待しているぜ」


 この時騎士はムッとした表情をしていたが、ナオは気に留めなかった。道中襲い来るモンスターを追い払いながら馬車の一行についていった。どれだけ歩いただろうか、どうにか一行は無事森を抜ける事に成功した。ナオが不思議と寒く無かったのは大剣のおかげだった。剣の性能はモンスターを追い払うのみならず、熱を持ち低下する体温を保護するのにも役にたった。

 

 その城は氷を張り付かせて作られているかのようだった。ナオが見た事のある城は、日本の城であったからそれと比較するならかなりの大きさであった。ナオは一行と共に都の門を抜けると、遠くに見える城に向かって進んだ。町並はみすぼらしかったが、イタリアの町並を劣化させて雪が積もっているという風であった。


 大通りを抜けていくと広場があり人で賑わっていた。

 案内されて城に到着したナオはそのまま国王と謁見した。立派な口髭を湛えた壮年の国王と美しい王妃がいた。左右には華やかな服装をした人々が整列していた。人々の目は好奇、猜疑と様々な色を湛えていた。

 紹介されずとも一目でわかる大臣、将軍、騎士団長といった衣装だった。国王、王妃の側に一際色鮮やかな少女がいた。それは間違いなくお姫様だとナオは確信した。白に近く銀というよりは白雪といった感じの髪をしたその娘に一瞬で心を奪われた。


「ワシはハイデール4世じゃ。なんでも娘を助けてくれたそうじゃな」


「そうだぜ、おっさん」


 返事をすると、周囲にいる騎士が激昂して襲いかかってきた。ナオは普段通り答えてしまっていた。非礼を詫びればなんとかやり過ごせるはずだった。


「この無礼者がああぁ!」


「うわ」


「ぎゃあぁあ」

 

 ナオは剣を抜いて防ぐつもりであったが、大剣が予想外の反応をした。炎に包まれる騎士。絶叫をあげて燃え盛るその姿を見てナオは絶望感に襲われていた。炎を使うつもりは無かった。騎士の身体を燃やしていた炎が消し止められた後ナオは城を追放された。

 黒焦げになった騎士の名前を呼んで、お姫様は涙を流してした。それを見たナオの心はひび割れて砕けた。

 

 城を追い出されたナオは、精気が抜け落ちてしまったが歩いた。歩いていても暫くは、何も考えられなかった。彷徨っているうちにスラム街に紛れ込んでしまった。

 大剣が金になると考えた盗賊達が襲いかかってきたが、ナオは全て返り討ちにした。ナオが森で倒してきたモンスター達に比べれば賊は弱すぎた。速さもなく力もない。盗賊達の中には計略を駆使してくる者も居た。今は配下になっている短刀使いドルフ、魔術士カラがそうだった。


「ナオあんた何考えこんでんだい」


「うっせえ、ついこの後の事を考えていたんだ」


「頭ピンク色にしてんじゃないよ。まったく、しっかりしてくれなきゃ」


「そりゃ失礼だろカラ。頭の中は大丈夫だ。まったく問題ないぜ」


 カラと呼ばれた女はナオの情婦であった。年は確認していなかったが妖艶な容姿とは裏腹にまだ10代という噂だ。ナオも気になった事はあるが気にしないようにしていた。異世界にきてから今日までの経験で女の年齢を確認する事がどれだけ地雷行為なのか、身に染みてわかった。

 昨日も一昨日も相手をさせているのである。赤い髪が滑らかで容貌体躯ともに整っていたカラはナオのお気に入りでもあった。


「おいおい。痴話ゲンカはみっともねえぞ」


「そんなんじゃねえって」


「ふふ」


 ドルフが会話に割り込んできた。腹心でもあるドルフは盗賊というより二刀使いの剣士で、その実力はナオに匹敵する。魔術的な援護があればナオをも超えるだろう。元々は殺そうと狙い合う間柄だったが、幾度もの死闘の果てに手を組んだ。ドルフはカラとの仲は良くないようだ。


「ドルフ、前線はどうした」


「エリオットとグンドの奴に任せた」


「そうかなら時間の問題だな」


 エリオットは治癒士だ。この国には治癒士が少ない。回復薬を飲んでも体力が回復する。だが、傷口は開いたままだ。よって治癒士の魔術【ヒール】が必要になる。エリオットはどこでも引っ張り凧だった。

 一緒にいるグンドは巨漢の重戦士で、武器が特徴的だった。重装甲で身を守り、鉄球を投げるのだ。受ければ即死の鉄球で城門を破壊する任についている。グンドがいれば城門を攻略するのも時間の問題だろう。


 城門が開けば、後はまた祭りである。押さえつけられていた、人々の欲望がさらけ出される。ナオは壊れてしまった何かを手に入れる為に国を城を手に入れるのだ。そう言い聞かせてきた。どれだけ女を抱いても、いつも考えてしまうのはあの少女の事だった。

 だから、城を落とした際にも決して少女に手を出してはいけないと、厳命してある。


 スラム街で力を蓄えた。迷宮に潜って実力をつけた。情報を集め、根回しをし、仲間と手下を増やしてやっと辿り着いた。もちろんここで止まるつもりはない。あの日あの時のナオは逃げ回るだけだった。今は違う。立ちふさがる者がいれば打倒し乗り越えていく。そうしてこの日を迎えたのだった。


(こんなところで終われない!)


 ナオが何時も抱く想いだ。



 少年の悲願が達成するまで後少しだった。

 

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