73話 王城で任務! (ベルティン ハイデルベル大臣クジュ
登場人物 騎士ベルティン
ハイデルベル大臣クジュ
「ぎゃああぁ」
痛い痛い。ちょっと何するんですか。人の背中を引っペがそうとする人は誰ですか!
玄関を潜ろうとした所で背中に強烈な痛みが走る。後ろを振り返ると謎の魔術士エリアスが背中についた物を引き剥がそうとしていた。
「ユウタ、これは一体何かしら。卵だっていうのはわかるけど、剥がれないわよ」
「エリアス勘弁してくれ。俺に断りなく背中の物を取ろうとするなんて・・・その卵、取れないのか」
「ええ」
「ふむ、此処は私に任せろ」
セリアが剣を抜くやいなやススっと卵は移動して、俺の足元に隠れる。謎の卵だ。
俺が卵に触ると取れたので、まあ良しとしよう。
「これ何だと思う?」
「ご主人様がトカゲ共の森で拾った物だろう」
「それは興味が沸くわね」
何やら身の危険を感じたのか、卵は俺の手を振りほどきリュックの中に入ってしまった。こいつ意識があるんだろうか。不思議な卵だ。特に害は無いようだし、金色の卵だから高値で売れそうな気がするからそのままにしとくか。
雨が降ってきているので、外套を羽織るとエリアスが防水の魔術をかけてくれる。
俺達は王城前に移動した。
王城前の通りまで移動してくると、通りでは馬車が凄い勢いで移動していて入るのが大変そうだ。
城門前までくると門番の兵士に取り次ぎを頼む。
待っていると雨が更に激しさを増してきたので、後ろを振り返るとモニカとエリアスが話をしている。
しばらくして中に通されると、中年の騎士に案内されるのだが、中は石畳でどうにも想像していた物とは違う。要塞のような作りの通路を抜けていくと中に別館のような建物がいくつもある。中央にそびえ立つ立派なのは王宮と言った所だろう。水晶のような物で出来ているのが特徴だ。
案内されて行く場所はどうも違う方向なので、どういう所かワクワクしてきた。・・・コテコテの黄金に輝く宮殿のような場所に案内される。アル様の趣味きっついな。金色を見ていると、頭が痒くなってくるんだけどなあ。
中に案内されていくと、普通だったのでちょっと残念だった。床や壁はシックな感じの白乳色等でまとめられている。
やがて一つの大きな扉の前に案内された。此処がアル様の接見場なのだろうか。離宮と言うには金がかかっているよな。
「アル殿下、ユウタ殿をお連れしました」
「うむ、入るがいい。ああ、供の者も一緒に入るようにな」
「はっ」
案内役の騎士が入るのに従って、俺も入る。
うわっ、眩しい。部屋の中は金ピカだ。全部金。床以外。天井まで。やりすぎだろう。
まあ、王子様だしこの位は普通のことなのか。日本にも金閣寺なんてあるわけで、他所様の趣味をとやかく言えたもんじゃないしな。
アル様も黄金の鎧を纏って金色をしている椅子に座っている。長い金髪も椅子に添えた格好だ。両脇には白銀の鎧を纏う騎士達が控えていた。
「ご苦労だったな、ナクス。下がっていいぞ」
「は」
そう言うと、案内役の中年騎士は退出していった。
シグルス様は知っているが、アル様の隣に控えているのは誰だろうか。
俺は片膝を着きながら、次に言うべき言葉を探す。
ここは何と言うべきか。
「騎士見習いユウタ。只今参上致しました」
「うむ。今日は他でもない、お前達にしか出来ない任務があるのだ。ベルティン、説明せよ」
「はっ」
アル様は肘を椅子に着きながら、紙で出来た資料に目を通している。
返事をした騎士が前に出ると説明を始めた。
「アル様に代わりワシが説明しよう。ワシの名はベルティン。本作戦の参謀兼指揮を預かる事になっておる。本件は異世界人の勧誘か捕獲が任務だ。只、情報によれば相手はその力でもって、無礼かつ非道の限りを尽くしているとも聞いておる」
「その人の勧誘か捕獲が任務なのですか」
ベルティンは豊かな髭を触りながら頷く。
「うむ。だが、最初から殺すつもりでいいぞ。相手は異世界人だ、どういう力を持っているのか計り知れん。お前と同じようにな。騎士団《白銀の剣》からも死亡者が出ている。残念な事に、ワシの同僚でもある騎士ラキシアが死を遂げておる」
「はっ、了解しました」
一体いつから異世界人だとわかっていたんだ。
いつぞやの美人騎士を殺害って、相手は女だろうが容赦しないのね。
短い黒髪の中年騎士は淡々と話していく。
「作戦地域、及び味方の構成については資料を読むようにな。ユウタ殿はあくまで騎士見習いだ。期待はしているが、サポートメインでいい。以上だが、ユウタ殿何か質問はあるかね」
「はっ。私としてはどうやってその地域に向かうのかが気になります」
パラパラと資料に目を通すが、味方はどうも元日本人ばかりで構成されているようだ。
あと、雑魚の俺を動員するのは数合わせというところか? つうか、チート野郎と戦ったらすぐ死んじゃうよ!
拒否出来たらいいんだが、断ったらどうなるか。村が迫害受けそうだしなあ。
「そうか。それでは早速案内するとしよう。既に、味方は当該地域にて探索を開始している。小国の王都中に散らばっているな。目標を発見次第確保又は処理されたし。以上で本作戦の説明を終える事にする。では、ついてきたまえ」
「はっ」
そう答えると、一礼して退出しようとした俺をアル様が引き止める。
「待て、私も一緒に行くぞ」
「アル様お待ちください。当該地区は他国の王都ですよ。大破壊を起こしたら取り返しがつきませんよ。危険ですし、ご自重していただきたいのですが・・・」
「シグルスよ、行くと言ったら行く。後の始末は、あいつにやらせておけばいい」
「はっ。しかし、それはそれで揉めそうですが」
「人の獲物を横取りするようなのはしらん」
「はあ、困ったモノです」
アル様は踏ん反り返る。シグルス様は困ったように眉を寄せた。そしてアル様が放置してた書類を整理しながら、フードを取った少女に目を向けた。
「エリアスもなんとか言ってください」
「・・・いいんじゃないですか、セリアさんがいれば危機に陥ることの方が難しいでしょうし」
エリアスからセリアに突然水を向けられた。エリアスは全然動揺している風ではない。
銀髪狼耳の少女もまた冷静だった。
「それは相手次第だ。後、状況によるな」
「まあいざとなれば・・・いいでしょう。アル様の仰せのままに」
諦めの表情を浮かべるシグルス様。アル様はその返事に笑みを浮かべた。
「うむ、では行くぞ」
「はっ」
そう答えると、ベルティンの案内に従って一室に通される。部屋に入ると転送器らしき物がある。これで移動するというわけか。一人のメイドが服を渡してきた。
金ピカの軍服だった。
「これは・・・そのアル様。これを着て参加するのでしょうか」
「うむ、特注だぞ。【防寒】【防水】【保温】と多種の魔術が組まれておる。今後の作戦参加時には、それを着るようにな」
アル様の返事に、俺は服を取り落とした。セリアとモニカは黒軍服を受け取っている。俺は別部屋に通されて着替えた。言ってみた所で変更は利きそうもないか。諦めて素早く着替えると鎧と外套を纏う。
これじゃ、戦場で狙い撃ちに合うんじゃないかろうか。
転送部屋に戻ると、セリアとモニカも着替えが済んでいる。どう見ても向こうの方が格好良さげである。黒軍服良いなあ。それにしても寸法がぴったり合うとは一体どうしてだろう。何時の間に情報を集めているのか、非常に気になる所だ。
ベルティンが転送器らしき物の前に立っている。
「準備はいいかね」
「はっ」
資料を見る暇も無いのか。午後は全部任務で潰れてしまいそうだ。簡単な物だといいのだが。
魔術士と思しきローブ姿の部下が転送器を操作すると、床が輝き出した。見れば魔術陣が描かれていて、お馴染みの門が現れる。
ベルティンが入ると続いて皆入っていった。
俺が門を抜けると声が聞こえてくる。
「ようこそハイデルベルに。皆様よくおいでくださいまいした」
「これはハイデルベル外務大臣クジュ殿。我々の到着をお待ちになられているとは、予想外ですな」
「はは、それはもうお恥ずかしながら国の一大事ですから。おおっ。これはアル殿下までおいでになるとは・・・感謝の言葉尽きませぬ」
苦渋の表情を浮かべた老紳士が立っていた。豊かな口ひげが印象的な外務大臣クジュは、腰を折って一礼をした。
此処はどこかの部屋だろうか。木造と石作りの半々で出来た洋館の一室ようだ。窓から見える外は、吹雪が吹いている。
「このようなみすぼらしい館で申し訳ございません。ですが、事は一刻を争うのでございます。何卒、不埒者を捉えてなんとかしていただきたい」
「うむ、わかっている。こちらとしても友好国に援助の手を惜しむつもりはない」
「それではルーンミッドガルドの騎士様達が駐屯している隣の部屋に移動しましょう」
クジュの案内に従って部屋を移ると、隣の部屋はかなりの広さで多数の騎士とお供が待機していた。
補給が最重要だからだろうか、ここが拠点になっているなら詰めているのもここなのだろう。
アル様が部屋に入ると、ソファーに腰掛けていた者も談笑していた者も皆一様に片膝をついた姿勢を取る。
「皆の者任務とはいえ、極寒の地にての働きまことに大儀である。尚、一層の努力を期待する」
「「ははー!」」
「うむ。皆の者楽にして良い。私はこれより探索に加わる。お前達にはしっかりとここの防衛を頼むぞ」
泡をくうベルティンと周囲の騎士達。皆青ざめた表情でこちらの方を向いている。
そんなに不味い事があるんだろうか。こちらを見る騎士達は、一様に憐れむような複雑な感情を抱いている様子だ。
が、セリアの姿を見てちょっと様子が変わった。
その後も色々とあったのだが、要約すると此処にいる騎士達は待機組。異世界人を含んだPTで対象を探索中らしい。どんな能力を持つのかは未知数だが、王宮にて無礼を働いた挙句に多数の死傷者を出した異世界人。たまにチートな能力で無双して犯罪者として追われる者がいるそうだ。
日本じゃ二人殺せば死刑だっただけに、追われる身となった異世界人はどうなるのか。
俺はゴブリンや盗賊を殺す事に抵抗は無かった。むしろ積極的に殺したい感情が湧いてきた。しかし、今回は違う。日本人と同じ姿をした異世界人を見た時、果たして俺は相手を殺せるのか。その答えが出ないまま、出会ったら殺られそうだ。
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