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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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72話 領城にてお出迎え!

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくおねがいします。

 俺と人形のように整った顔をした少女は空間転移すると、アーバインの城に向かって移動する。

 空は曇っているし、この世界というかこの国は比較的温暖な気候で寒さも感じないのだった。

 城の前まできて、それに出会った。城前の通りでは、宗教的な服装をした少女を先頭になにやら行進が行われていた。先頭の少女と一瞬だけ視線が合ったような、気のせいだ。


「また、やってるのね」


「この世界でも、デモなんてあるんですか」


 曇り空には、雨雲と思われる物が浮かんでいる。これは一雨きそうだ。


「デモ? 何それ。あれはフレイヤ神殿にいる聖女様の一人よ」


「何の為に行列しているんですか」


 先頭の少女をよく見ると、聖女様は少女というより幼女といってもいい背丈をしている。

 エリアスの声が冷えていく。顔から表情が消えてしまった。


「あれは、示威行進しているだけよ。・・・あいつ等は文明を否定する気狂い。なにかとあれば文明を捨てて質素に生きろと言う。そして、それを押し付けてくるの。自分達は正義で、他人は悪と言って切り捨てるのだけれど、自らを省みることがないわ。あの聖女様も聖女機関から選定されて、次期女教皇(エンプレス)候補なのでしょうね」


「とりあえず、危ない集団なんですね」


「そういうことよ」


 遠ざかっていく狂信者達の行列よりも、目の前の脅威の方が大事だ。未解決の難事ばかり増えていって潰れそうだ。

 忌々しそうに少女は行列を見送る。


「あいつらが文明狩りなんてやるから、便利な器具がどんどんなくなっていくのよ」


「なんでやるんでしょうか」

 

 俺には意味がわからない。

 周りを見渡せば、便利な明かりをつけてくれる街灯と石で舗装された道がある。

 馬車だって、車輪やサスペンション辺りきちんとした物が取り付けられているなら、立派な文明品だ。

 辺りを見回しながら話すエリアスの声が、大きくなる。


「彼らの理屈は、よく訳のわからない理屈よ。質素に生きていく方が、人間らしいとかいってたりするわね」


「そりゃ大変だ」


「ユウタの村と王都でおかしな位文明に差があるのは、あいつらのせいと言ってもいいくらいだわ」

 

 そう言い放つ蜂蜜色をした金髪の少女は、鼻息が荒くなっていた。

 馬車が普通に使われている一方で車らしき物があったり、かなり道具がちぐはぐなのはそのせいか。まあ、【テレポート】なんて転移魔術があったら別に馬車も車いらんよね。

 静かに進む行列が通りすぎて渡れるようになったので、城に向かおう。


 アーバイン領の城門に着くと門番に取り次ぎをお願いする。

 若い兵士は急いで中に入っていった。

 領城まで、と言っていたエリアスはどうするのだろうか。気が付くと、馴れ馴れしいと感じていたこの少女と、別れたくなくなっている。


「それじゃあ私は・・・もうちょっと様子見させてもらうわ」


「エリアスさんはここでお別れではなかったのですか」


 急に気が変わったんだろうか。謎だ。初対面の時にはあれだけ寡黙だったのに。それも謎だ。

 女は気まぐれな部分があるから謎に満ちている。


「気が変わったのよ」


「そうですか」


 出た女心と秋の空ってやつか。ちょっと嬉しいが、いいんだろうか。


「ユウタ。貴方、その変に丁寧な言葉を使うのやめてよね。後、エリアスでいいから」


「それじゃエリアス」


「心がこもってないわ」


 うう。俺はその後セリアが出てくるまで、延々と名前を呼ばされる羽目になった。

 俺には、これが悪意なのか好意なのか、それがわからなくなってくる。なんて女だ。





 堅固な城門が開かれる。それと同時に、煌びやかな衣装に身を包んだ輝くような金髪の少女が、出てきた。隣にはよく見知った狼耳をした銀髪の少女と、お供のように付き従う茶髪の少女がいる。

  

 その周りを取り囲むように、騎士達や召使い達が付き従っていた。華やかな女主人のお出ましというのが、ぴったりだ。城門の脇に立つ俺とエリアスは、さぞみすぼらしい格好に映ることだろう。

 俺だって、後ろから花吹雪でも撒いている役の方がぴったりくる。

 セリアとモニカが挨拶を済ませたのか、こちらにやってくる。


「ご主人様お待たせした」


「ご主人様お待たせしました」


 いつも引き締まった表情をするセリアも、気が晴れたと言う感じだ。

 ぽよよんなモニカは美味しい物でも食べたのだろうか、笑顔である。


「セリア、モニカお帰り」


「時間をかなり取らせて貰ったのだが、よかったのか?」


「ちょうど良かった位だよ」


「それではそこの方は・・・」


「ああ、エリアスという子なんだ。色々良くしてもらった。どこまで付いて来るのかわからないけど、一緒に行動している」


「そうか、まあ自己紹介の必要は無さそうだな」


 自己紹介が必要無いとは、一体どういう関係なんだろう。かなり気になるが時間が押している。


「この後は邸宅に戻って、王城に登城することになるから準備してくれ」


「了解した」


 見るとエリアスは最初に会った時のフードを身につけている。

 しかも、何もしゃべらない。

 そうして話をしている間にルナ様は城の中に戻ってしまった。・・・ルナ様と接点がまるでねえええ。何か話したそうにこちらを見るルナ様を、側近の騎士が押し込むように城に入れてしまって、俺は話すチャンスすらなかった。

 セリアは特別で、俺はどうでもいいゴミ扱いか。まあ、そうだよな。どこにでもいるような冒険者さ。あ、今は騎士見習いなのか? 代官業と冒険者と掛け持ちなんだろうか。

 俺にとって、今一つそこの部分が不明確なので、アル様に聞いてみないといけないな。


 空からぽつぽつと雨がふってくる。


 俺達は【ゲート】で邸宅まで移動しよう。





 邸宅に着く。玄関の門から入ろうとすると、見慣れない黒ローブや赤ローブに白ローブとカラフルローブ集団や騎士達が庭に立っている事に気が付いた。

 怪しいローブ姿のエリアスが寄って行く。簡易の小屋が出来ているようでそこに皆入っていく。勝手に小屋を作られても困るのだけどなあ。

 ともかく、着替えだ。風呂にも入りたいが時間が無さそうだった。

 

 中に入りセリアとモニカには休憩をしてもらう。俺は朝の服のままだったので、パパッと着替えようとしているといつぞやの金卵が飛びついてきた。叩き落とすと卵は痙攣している。

 鎧を着込んで背中を向けると背中に衝撃を受ける。卵が張り付いてやがる。手が届かないし、放っておくか。毒蛇とかなんかの類じゃないだろうなあ。手を避けるように移動しやがるし。取れねえし、面倒だな。後で引き剥がそう。

 下の食堂で色々準備にかかる。飲み物はもう水しかないな。

 時間もないのでパンを取り出すと蜂蜜でもまぶして食べてもらおう。パンだけが皿に積まれる。

 セリア、モニカにも椅子に座ってもらって食べるのだけど、腹が空いていたのかパンがめっちゃ美味かった。

 

 3人でパンを食べているとエリアスが入ってきた。


「どうやら放火は防げているみたい。ヨサクマルが南方の森探索派遣になるからそれまでの辛抱ね」


「放火って」


「ふむ。その可能性は低くないとは思っていたが、黄金の指輪相手では自重したか」  


 エリアスが言っている事は一体なんなんだろう。忍者が放火するということか。

 セリアはエリアスの正体がなんなのか気が付いているみたいだ。

 一気に重要な事が出てきて早くも混乱しそうだ。


「ヨサクマルの奴もさすがにそこまでやったら言い逃れできないからね。ユウタ達を釣り出したら、家を燃やしとく位するでしょ。けどまあ、そうはいかないのよね」


 なんかわからないがとにかくピンチだったみたいだ。エリアスのしわがれたような声と表情は見えないが感謝しておこう。


「エリアスありがとう」


「どういたしまして。あっ貸しだからね。その内取り立てるから、そのつもりでいてよね」


 そうなのね。何時だってペイバックだよね。なんだか嫌な予感がしてくる。

 モニカが何か言いたげだ。セリアの方が口を開いた。


「ご主人様、モニカが鍛冶士から鍛冶師にクラスアップしたぞ」


「お・おめでとう。モニカ何時の間に?」


「いつの間にか条件を満たしていたみたいです。これでもっとご主人様の為に頑張れます!」


 なんてこった。クラスアップなんてものがあって、俺より早くジョブランクが上がるなんて・・・

 俺を引き離していくのか。モニカはぐんぐん強くなっていきそうだ。

 しかし、どうやってクラスアップしたんだろう。条件とか超気になるんですが。

 セリアは山のように積まれたパンをひたすら食べている。


「ルナ様の技能(スキル)の一つだ。はむ。・・・あの方は転職の神殿にいる神官・勇者の技能【転職(ジョブチェンジ)】【職位上昇(クラスアップ)】と多彩な才能をお持ちだ。まあ、なんで軍師などになったのかとよく言われるのだがな。民を思うあまりに、周りが見えないのが欠点だ。その辺の事情は、エリアス殿ほうが詳しいのではないか?」


「・・・」

 

 エリアスは沈黙を保っている。その表情は伺いしれないが、おそらく答えられないということだろう。

 モニカのジョブランクが上がったので、装備更新とかしてやりたいのだけど、金が心許ない。ダンジョンに潜りたいのだけど、忍者やら盗賊が妨害してくる。こうなれば、闘技場で一稼ぎするしかないだろうか。

 負ければ死が待っていそうだ。

 村の事を考えると午後は村で大工の真似事とかいろいろしたかったんだけどなあ。

 ゴブリンにオークにトカゲに、盗賊に忍者に村にアル様。苦難が多すぎて、とんだマゾゲーをやっている感覚だ。

 考える程に頭が痛くなってくるので、そろそろ出立しよう。


「その話は置いておいて、そろそろ王城に向かうとしよう」


「了解だ「しました」」


 二人に続いてフードの少女も席を立つ。返事はないが、どうやら王城にも付いて来るみたいだ。

 クエストもままならない。金策がろくにできないのだけに困った。

 外を見るとパラパラと振っていた雨が、ほどほどに降っているので外套を用意しなければいけないな。

 俺の未来を暗示するかのように雨が降ってきやがる。



 呼び出されているので、王城に移動するとしよう。

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