70話 町でレクチャー屋!
俺は、緑色の屋根をした体育館といった感じの場所にいる。エリアスが【テレポート】を使ってくれた。他人の空間転移門を飛び越えるのは、久しぶりだ。
エリアスは、魔術士と冒険者を持っているのだろう。よく知りもしない俺の世話を焼いてくれるのがわからない。容姿は整っている。体型はローブでよくわからないが、男なら放っておく訳がない少女だ。
「何?」
「いえ、何でもないです」
「ふーん」
エリアスの顔を見つめ過ぎた。思いっきり不審がられたな。
ロシナさん達も転移してくる。PTメンバーに冒険者がいるのだろう。
エリアスが小声で話しかけてくる。
「さっきの話だけど、厳重な管理されるのは異世界人だけよ」
「ええ!?」
「そう・・・。ロシナ遅いわよ」
エリアスは何かいいかけてから、ロシナさんをきつい口調で責める。さらっと重要な事を聞いたような。
ロシナさんは苦笑するように話す。
「いや、エリアス悪いね。やはり防転移設備付近だと、手間取ってしまうようだ。勘弁してくれ、移動魔術で君ほど座標コントロールが上手いわけじゃないんだ」
「まあ、そうよね。ねえユウタ、貴方は不思議に感じたことはないかしら。本来、高難易度の空間転移技術がこうも容易く実現されている事について、何かおかしいと気がつかないかしら?」
「いえ、特に考えてませんでした」
「そう、なら宿題ね。ここ重要よ。・・・先にちゃっちゃとスキルを使えるようにするわよ」
エリアスはそう言うと先に入ってしまった。
ロシナさんは涼しげな声で話す。
「エリアスの悪い癖が出てきたね。彼女は優秀なんだが、異世界人に意地の悪い質問をするから困ったものだよ。大方、防転移が仕掛けられている施設に転移する事。その危険を説明したかったのだろう。ユウタくんあまり、気にするなよ」
「はい」
そう言うとロシナさんはレクチャー屋の扉を開けて中に入っていく。後に続く3人のお供少女達。
俺も続いて扉を抜けていく。
「いらっしゃいませー。レクチャー屋『常夏』にようこそ! 店主のココナツです。こっちは店員のプチとガンバルですよ。わからないことがあればなんなりと聞いてくださいね」
「はあ、よろしくお願いします」
なんてテンションが高い女店長さんなんだ。いや店主ってことはオーナーか? いまいち掴めないけどやけに明るい人だ。ピンクのエプロン姿をした彼女と一緒になって両脇に立つのは店員さん達だ。けれど、男の子と少女と言ってもいいぐらいの容姿をしている。母と子といった感じがしっくりとくる。
店内には灯りが点いていて、正面玄関前で3人が出迎えしてくれた格好だった。ココナツさんは挨拶が終わると受付に戻り、エリアスとロシナさんと会話を始めた。
俺も会話の中に加わろう。
「それでは、初心者コースでよろしいですか。それとも、特訓コースがよろしいでしょうか」
「いえ、今日の人は異世界人なのです。取り合えず、訓練コースでスキル本を見せていただけますか」
「わかりました」
ココナツさんはそう言うとガンバルを手招きする。
「この子に案内させますね。こちらになりますが、フルセットコースもご用意しております。何時でもお申し付けください」
「ありがとう」
俺達は、ガンバルと呼ばれた少年の後に続いていく。
廊下を歩いて行くと、一つの部屋で止まる。中に入ると、結構な広さと椅子や飲み物まで用意されていた。ここで訓練するのだろうか。本棚が用意されているが、スキル本なら図書館でも読んだ。今更だし、必要とも思えないのだけれどな。
「それでは、御用があるまで待機します」
「ご苦労様だね、料金の方は王国会計局まで請求してくれ」
「わかりました」
なんだかとってもやばそうな単語が出て来たよ。やっぱお金がかかるんじゃないか。とても不安だ。
俺が冷や汗をかいていると、エリアスが話しかけてくる。
「ユウタ気にしないでいいわよ。こっち持ちだから。さあ、さっさとスキルを覚えなさい」
「図書館でスキル本は読んでいるのですが、また読むんですか?」
「なるほど、それで魔術やスキルが多少使えるのね。ユウタ、色々と習得タイプがあるのよ。スキルは覚えるまで練習が必要だったりするモノがあるわ。アイテムが習得条件で覚えるのもあったりするしね。使用回数が達成されないと次のスキルを覚えないなんてのもあるわね」
「そうだね。まずは、スキルや能力の解放をメインに据えてはどうだろう。練習の方は、時間がかかるだろうしね」
「了解です」
それから俺は懸命に頑張った。そりゃもう命がかかっているからね。何よりもあの糞忍者に思い知らせてやらねば気が済まない。
俺はスキル本を読んでみて、使えそうなモノだけをピックアップした。そうして、必要な情報を手にすると部屋に取り付けられてある転送用の魔術陣に乗る。そしてガンバルに転送器で訓練場に全員送り出してもらった。
転送された所はまるで墓場のような所だった。訓練できれば何処でもいいけど、これは酷い。リラックス出来る所で訓練させるべきではないだろうか。
気を取り直すと気になっているスキルを試していく。
結果は、悲惨なモノだった。
色々と調べた所、人形使いとダンジョン生成士の能力が使えた。イベントリの本と玉がキーアイテムらしい。
まずは、人形使いなんだが【人形化】を使えるようになっても、【人形使役】が上手くいかない。何より生物にはそもそも【人形化】が上手くかからない。【人形使役】に至っては人形がほんのわずか動いた位だ。とてもじゃないが、実用化出来そうもない。
村守護するためのゴーレム計画はここで頓挫してしまうのだろうか。いいや、まだだ。
俺は、必死になって布で作った人形を動かそうとするものの、ピクッとしか動いてくれない。身振り手振りも加えてみるのだが、ヘンテコなダンスでも踊っているように見えるよな。
そんな俺を見て、ロシナさんはクッと笑い堪えてくれた。エリアスが爆笑し、腹を抱えて転がるのを見ると、頭をど突き回したくなった。絶対に見返してやるからな。
取り合えず、次だ。
訓練場所でダンジョン生成士のスキルを使おうと思ったが、エリアスに止められてしまった。
「い・・・」
「ユウタ。貴方、馬鹿なの? こんなところでダンジョンを生成したら土地建物が滅茶苦茶になってしまうでしょうが。・・・みんなの迷惑になるの。その・・・わかってよね」
「すいませんでした」
ロシナさんは苦笑を浮かべているし、エリアスは頭から湯気が出てきそうな勢いだった。
俺は、平謝りでエリアスにペコペコと頭を下げる。おお、危うく施設全壊と言う惨事になるところだった。もっと開けた所で使おう。そうだ、森の前辺りがいいな。適度な広さとごみ捨て場が完成するぜ。
俺のイベントリは、マジでカオスだからなあ。恐らくだけど、もし中に入ってしまったら1日程度で気が狂ってしまうんではないだろうか。中身は混沌言える。
一日も早い掃除が求められていると思う。以前にも、ダンジョン生成士のジョブを持つ異世界人がいたのか、結構スキルや能力についてわかったのが収穫だ。
他にも色々とあるのだけれど、中でも死霊王とか生命王のスキルや能力はさっぱりだ。竜人もスキル使うのに、LVが足りないみたいだ。詳しく載っていないので、レクチャー屋の資料も完璧なデータベースとは言えないのではないだろうか。
一旦戻って休憩だ。帰還用の魔術陣に立つと、光る門が出て来たのでそれに入って戻った。
椅子に座りながらこの後の事を考えると頭が痛くなってきた。ここを出たらセリア達を迎えに行って、邸宅に戻って装備を整える。その後、王城に向かわないといけない。俺、疲れてるんだけどな。
そうこうしている間に時間が来たのか、何時の間にかいたココナツさんが声をかけてくる。
「それじゃあユウタくん。次いってみますか!」
「次ってなんですか」
「訓練ですよ」
「え? 今のが訓練なんじゃないんですか」
「やだなあ、今のはスキル習得訓練よ。今からは実地でのモンスター相手にスキル修練訓練よ~?」
「わかりました」
ココナツさんは皮製のヘルムと鎧を渡してくる。
「これは?」
「これはですね。ヘルムには防具かつ通信機、鎧には帰還用の魔術陣がセットになった優れ物なのですよ。貴方がた異世界人の知恵が込められた逸品ですよ~」
「凄いですね。って通信機なんてあるんですか」
「これはね。魔術を利用して異世界の技術で作られた物なんだけど、とても高性能なの。異世界人で持ち逃げしようとした人はまだいないけど、盗んだら死刑は免れないわねえ。さ、始めるわよ~」
どうも、俺一人で訓練するようだ。指定された転送用の魔術陣に乗ると景色が変わった。
明るい。月が地面に着きそうなくらい接近していた。ここはどこだ。さっきの訓練した場所と近いのかもしれない。見渡す限りの墓に森。月の下には古城らしきものが見える。
墓から音がすると這い出てくる骨。何かと思ったら、MMOではお馴染みのスケルトンだった。
ヘルムを介してココナツさんの声が聞こえてくる。
「(それじゃー言ってみましょう! 【浄化の光よ穢れを清め給え】ホーリー・ライト!と)」
「【浄化の光よ穢れを清め給え】ホーリー・ライト!」
俺はイベントリからワンドを取り出すと詠唱した。呪文の完成と共にワンドから伸びた光がスケルトンを照らすと崩れ落ちる。光を浴びた骨男の骨は風となって消えてしまった。なんと脆いんだ。
「(おお! やりますね~。では、次です。アンデット族を規定数倒せばクリアですよ~)」
「ホーリー・ライト!」
次から次に現れる骨達を浄化していく。どんだけいるんだよ。墓から森から現れてくる。
骨だけじゃなくてゾンビまで出て来た。ひたすら打ち続ける。
「(ややっ。これは・・・【詠唱省略】ですか。神官持ちで万能タイプですかあ、お話通り雑魚さんには強いですね~)」
「(それはどうも!)」
ちょっと引っかかる所もあるが、其の通りなのだしなあ。もっと強くなってやる!
次から次に数が増えていく。うーん。このまま打ち続けていると魔力切れ起こしそうだし、一旦POT飲んでおくか。イベントリから魔力回復薬を取り出すと飲み干す。
周囲の地面からは腐乱死体から腐乱犬まで出てくるが、魔術の光を浴びると砂のようになってしまう。聖属性に弱いにも程があるような。骨が何か固まっているような。見ていると、合体したのか一回り大きくなった。
しまった。ボケっと見ている場合じゃなかった。
なんと言えばいいのか。スケルトン達の合体技とでも言うべきだろう。眼窩には青い炎が灯っている。
「ホーリー・ライト!」
「カタカタ」
こしゃくにもこいつ、墓石を盾替わりに持ち上げ光を防ぎやがった。
周囲のゾンビとスケルトン達も合体し始めている。その上、こいつらどんどん湧いてくる。
さて、どうしてくれようか。
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