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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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523話 強いこと3

 ユークリウッドは、持つ者だ。故に、女に受けする。魔術師家門のエリアスと女神教家門のフィナル。この2人だけでもおかしい。アルは、婚約者だとか言う。おかしい。シルバーナの目から見てもとびきりに可愛い。豚が聖女とか噴き出しそうだが、現実だ。彼女たちにちやほやされている様子は、見えないが・・・

(玉、ついてんのかねえ) 

 やらない男は、男ではない。その背丈は、子供でもって中身はチンピラである。

 

 黒いフードを被った邪教徒を自身よりも太い丸太を掴んで嬉々として撲殺している様ときたら、ゴブリンもかくやという仕草だ・・・

 ああ、まったくこんなガキはどこにもいない。邪教徒は、人間だ。邪教徒は、女神教徒を殺す人間以下だが。草を刈るように肉片へとされて、得体のしれない穴に放り込まれると地獄へ直行か否か。

 ゴブリンと人間は、比べるまでもなく人間の方が殺しがたい。はずだ。


 邪教徒のアジトに案内するや、入口の門番から順に素手で殴っていく。普通は、それで死んだりしない。動かなくなって、頭やら足やら無くなった男たちの死体を踏みそうになりながら進む。

 明かりは松明か蝋燭といった家なのだが、


「なんだ、なにがっ、ぴげっ」「あばーーーーー」

「子供が?」「や、が、ぼぼ」


 人の死に際というものは、その瞬間まで分からない。邪教徒には、人権も何もない。無くもないが、裁判を受けれたりはしない。ミッドガルド王国にあっては、女神教徒でなければ死ぬしかない。それでもスキルを得たりするというのだから、邪教徒というのは不思議な存在だ。


(邪教徒を殺しまくるのと戦争で兵士を殺しまくるのどっちも違いねえんじゃ・・・)

(ゴキブリと人ほど違いますね)

 とても神様とは思えない。


 ユークリウッドの青い目がシルバーナを見た時、困った事を察して女子供の相手をするのが役目だ。大体は、奴隷として売り飛ばす訳だ。ユークリウッドがやりたがらない事をする。それが、シルバーナの立ち位置であった。しかし、戦争は嫌いだというのに邪教徒は狩りたがる。いっそ異端審問官でもやればいいのではないか。ジョブも持っていそうである。

 権力と金を持っている男は、モテるがエリアス、フィナルはもっと権力と人脈がある。金もある。

(つまんねーんだけどねえ)

 だからか。それで好きになる? そんなことはない。自身の使える時間が重要だ。 


 内心でそうごちながら、死体が金になるのだ。そうして削っても邪教徒は、種類を増やしてくる。

 壺売りのみならず、女神教徒を殺害しようとする者。宗旨があれば死刑、豚を食えないという者も死刑、音楽を妨害してくるのも死刑。女神像を壊すのも死刑だ。ミッドガルド人でなければ人ではない。


「ふんふんふんっと。100兆万年くらい地獄で反省して欲しいな」

「怖いねえ」

 100兆と万年が合わさったら無限ではないか。


 マスターの仰せのままにと声がして、邪教徒ながら死に様は、とんでもねえと背筋が寒くなる。地獄は、ある。邪教徒も、いる。家畜に神は、いないが世に神はいる。外の国に神は居ないという者もいるが、ミッドガルド王国にあっては、王様からして神様なので神の存在を疑うものはいてはならない。つまり、邪教徒は死ぬべき存在ということだ。シルバーナがやっていることは、善行であって悪行ではない。

 機神にマスターと呼ばれる。おかしな事だった。俗世に関与しないのが、機神様であるはずなのに。


(しっかし、邪教徒が入り込んでくる・・・ゴキブリだねえ)


 国境は、広い。地続きで森があったり山があれば密入国を防ぎ難いのが現実というものだ。それに、柵を作ろうとも魔物がいる。いちいち蟻んこの如き人に神様は関与しないのだ。べちべちと音がなっている。


(マスターもご満足の様子。汝に褒美を上げましょう)


 へえ。とそんな馬鹿な。などと思いなおすしかない。そう悪魔か何かかというとシルバーナに言いつけてくるのは、自称、機神様だというのだから、


「こ、こんなことが」


 声がして何かが壁にたたきつけられる音がした。フード姿の女子供を手下に連れていかせながら、家の奥まで進んでいくと死体が壁に並んでいた。壁から崩れ落ちた人の死体を見ながら、わかりあうことのない人間とは・・・


(同情してはいけませんよ。彼らは、彼らの神を信じているのですから)


 頭がおかしくなった人間なのかと思ったが、シルバーナ以外に謎の声を聞く者はいない。ひょっとして幻聴が聞こえるようになってしまったのか。と、思っても現実にオーラが増えたり金が謎に増えたりすれば信じるしかない。ユークリウッドは、堂々と大人の男たちとやり合うけれどシルバーナなどはさっくり死んでしまうことだろう。


「これで全部かな。邪教徒は、どこにでも出てくるんだね」

「連中、適当に侵入してくるからねえ」

 暗黒大陸から来る邪教。発生も暗黒大陸。ミッドガルドの南は山脈で、主にロゥマで繁殖してアルカディア経由といったところか。


 王都ではないが、西よりの街ブリュッケン。領主は、汚染されている様子がないものの監督できていない。建物は、大体が2階建ての赤レンガと瓦の屋根。赤い町並みに、地面は灰色をして石だ。

(謎だけど・・・)


 邪教徒は、他国へ来てまで神殿を立てたがる。彼らのその精神が理解できない。

 侵略行為そのものではないか。ぽんぽん網にかからないものの、玉に勘違いしていて見つかる。


「この国にゃ、女神教徒以外許されていないからね。あんたもご神体を飾ってるくらいだから、樹神様を拝んでいるんだろ」

「そうなのかな」

「そうでないって言っちゃいけないって習ってるはずなんだけど。部屋の樹とかどうしたのさ」

「いつの間にかあったんだけど」

 金色の葉っぱを付ける植木など黄金樹以外にない。


「親父さんが気を利かせてくれたのかねえ」

「うーん」

 わかっていないのか。本当に? しかし、ユークリウッドはそれが何かという風だ。

 白い鎧に鼠色の外套姿で顎を撫でるちびっ子騎士ごっこ。実態は、殺戮者。

 とはいえ、どうにもユークリウッドの父親と関係がありそうでない。何故なら、教会関係者でもなくて城でも下っ端の下っ端。犯罪者を追跡する係でしかない騎士に、爵位があるのも不思議だ。灰色の煤けた壁を見ながら外へと移動する。外は、野次馬が取り囲んでいてそそくさと離れた。ユークリウッドは、

 

「なんで、邪教を信じるんだろう」

「そりゃ、信じたいから信じているだろ」

「でも、最初から邪教徒じゃなかったわけでさ。彼らは、殺すしかないんだけど。棄教が死刑だから? 訳がわからないよ」

 理解が出来ていない。学校に通わないからだ。邪教徒は、邪教徒以外を認めない。認めたふりはしても必ず殺す意思を隠している。それだから、邪教なのだ。

 

「邪教徒は、邪教徒以外が人ではないと言っているんだから何を言っても無駄だっての。何を話しても信じるに値しないんだ。だって、邪教徒以外には嘘をついて良いとなっているんだからねえ」


 邪教の書を焼くとナイフを持った邪教徒が襲い掛かってくるのは定番。

 邪教徒は人と思うな。殺しに殺して、幸せになるのかというとそこまで考えていけない。為政者というのは、自分さえ良ければ良いというのがほとんど。ユークリウッドのように、税はできるだけ安く領民の暮らしに気を使う者がどれだけいることか。いや、いない。


 空は、青くてどこまでも広がっている。スパイだって見つければ、殺さないといけない。持つ者がどれだけ気を配れるかで生活は、良くなったり悪くなる。王都では、乞食を稀に見るくらいになっても立ちんぼ無くならないしゴミは減っても喧嘩は絶えない。貴族とわかっても殴りかかる奴もいる。すぐに死刑になるのだが・・・


「世の中は、平等じゃない」

「そんな事は、誰でも知っていることでしょ」

「ガキの内から、そうやって自覚している奴がどれだけいるよ。なんなら、貴族の息子ってだけで下にも置かない扱いじゃないのさ」

 大体、精神がおかしくなっていく。貴族でなければ、人ではない・・・地べたを這わなければわからないのだ。

 平民と貴族では、食い物から何から差がある。貴族なら、迷宮に入る必要もなくて魔石やらお宝を探しに行く必要もない。要するに金だ。金があるか、無いか。魔石があればこその文明で。


(お金は、大事ですね?)

(当然、ですよ)

(では、もっと)

 働け、ということか。ユークリウッドは、チンピラでありながら同時に偽善を好む。誰もかれも舐めたら殺す性質と誰か困っていると施しを与えようとする気狂いの性質を併せ持つという。


「ん。そうだけど、そうなるのは環境とかそういうものもあるし。本人が望んでそうなってるからね」

「望んでねえ。でも、あたしだって、望んで貧乏している訳じゃないし」

「働いて稼げばいいだけじゃない」

「領地がないのに、人ばっか多くてね。迷宮に入らないと税金たかいんだっつーの」

「ふむ」

 何しろ、最低保証のない世界である。異世界人たちには生活保護というものがあるらしいが、ミッドガルドにはそんなものはない。飢えれば盗み、そして腕を落とされて死ぬか奴隷落ちである。奴隷になるとまた農場行きか娼館行きのコースが整っていて大抵の人間はその前に迷宮で死ぬ。死ぬと余程でない限り蘇生をしてもらえないのでまた詰んでいる。

 丸太を武器にしている子供もいない。というより、丸太を手で掴んで殴れる筋力というのは・・・


(ゴリラか何かじゃない?)


 ゴリラ型の魔物。

 言ったら怒られそうで、後始末を部下に任せてユークリウッドと歩く。すぐに光る門を出すのだが、シルバーナは慌てて背中を追った。


 ユークリウッドは、転移門が使える。シルバーナは使えない。なんてずるいのだろう。

 マナからオーラから持つモノが違いすぎる。歩いていても何を考えているのかさっぱりわからないが、機神様はシルバーナを使徒にしている。これまた意味がわからない。機神の使徒なんて機械にでもされるのかと思いきや、ユークリウッドにネタを持っていくだけだ。


 やってきたのは、シャルロッテンブルクの城だった。白亜の尖塔が何本も立っている。 

 金がなければ、城は維持できない。人の数が王都もかくやとごった返した流れにドン引きだ。

 

「なあ、これ、外郭でこれだと人多すぎじゃないかい」

「外側に人が集まってしまうのは、しょうがないんじゃないかな。安いし」


 奴隷を使うのは、天下一だ。奴隷を嫌いながら、誰より奴隷使い。言うと打たれるので黙る吉。


「安くして儲かるのかねえ」

「住む奴に建てさせればタダさ」


 建材は、どうするのかとか細かいツッコミをするよりも乞食が見当たらない。

 乞食は、どこにでもいるものだ。王都では、税金が高くて路上で捕まると農場行きである。

 アルブレスト領に移動する領民に頭を悩ませる領主は、多い。税金が取れなければ、貴族とて窮するのだ。人が居てこそ金が搾り取れるというもの。人が居てこその領地だ。

 

「子供作りすぎなんじゃないかって、どう思う?」

「いや、いいことじゃん。大体、人は多ければ多いほどいいし。食料に困ってねえんだろ。兵隊と農民のバランスは必要だろうけどねえ」


 自領の民を増やしてなんぼの領主だ。減れば、それこそ顔を青くすることになる。昼は、働いて陽が落ちる頃には家で飯。それから、やるだけが下層民のやることだ。娯楽も糞もないんだから取り合えず、やる。冒険者だって、女をつかまえてやる。言わずもがな貴族だって後継を作るのにユークリウッドときたら、全然それっぽく手をだしている素振りはない。


(こいつ、やっぱホモなんじゃないか?)

(また失礼な事を・・・)

 何でも出来る全知全能たる機神様の思惑がさっぱり理解できない。シルバーナに肩入れ、助言する意味とは? 姿を探しても、見当たらない。

 訝しむが、返ってきたのはひょろ顔だ。顔を思わず叩くと、


「危ないなあ」

 玉を確認しようと手を伸ばすが感触は、ない。頭のおかしなのを見る目。

 姿は、残像だ。今日も何も起きそうもない。

挿絵(By みてみん)

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