67話 町でトラックさん!
俺は【テレポート】を使って冒険者ギルド前まで移動した。敷地内から通りを見ると、人通りもかなりの物になっていた。玄関も人の出入りが激しい。出入りする人と一緒に中に入った。
さて、ロシナさんは何処だろう。午前中ではあるけれど、かなりの冒険者で賑わっているようだ。ヒロさんの姿は見当たらない。フォースを組む冒険者達に迷宮から出たアイテムを売る順番待ちの列で人ゴミ状態だ。
喫茶コーナーで待つと言ってたし、俺はそちらの方に移動するため人の間を縫って進む。
どうやら待っていてくれたようだ。金髪の頭をした優男とその周りには3人の少女が座っている。俺はゆっくりと近づいていった。
「ロシナさん、お待たせしました」
「いえ、ユウタくんゆったりと待たせてもらったよ。退屈はしなかったかな。レンダ、ユイ、アコ。しばらくユウタくんと話があるので、席を外してもらえますか」
ロシナさんがそう言うと、3人はお辞儀をして席を移動した。3人とも顔、形の整った少女達だっただけに残念だ。金髪の少年は、こちらに座るよう席を勧めてくる。座席には珈琲が用意されて湯気を立てていた。
「ユウタくんお座りください」
「どうも。それでロシナさんは俺にどんな用があるのですか」
「さっそくですね」
ロシナさんはじっと俺の顔を見ている。顔に何かついているんだろうか。瞳を熱い視線で貫いてくる。これはやばい人なんじゃなかろうか。しかし、何処かであったような郷愁を感じる。いや、気のせいだ。
うん。そう言って頷くとロシナさんは指を組んで肘を着くと話しかけてくる。
「ユウタくん、君は・・・日本人だろう」
「へ・・・」
「悪いけど悪霊でも取り付いているのかと思って、【鑑定】スキルを使わせてもらったよ。ユウタ・サナダなんてそうそうないからね。でもそうなると、別人なのかな」
そう言うとロシナさんは考えこんで、俺の返事を待つ。どうするべきか。今更隠そうとしても無駄のようだ。ジタバタしても見苦しいだけだろう。
「そうですけど。その何故日本人とわかるんですか」
「名前を見ればバレバレじゃないかな」
「名前でわかるって事はロシナさんも日本人なんですか」
それにしては金髪で・・・彫りの薄い美形だよなあ。それに手足とか等身が大分日本人とかけ離れている。これでわたーし日本人でーすというのは無理だと思うんだ。
俺は珈琲に手を伸ばすと一口喉に流し込む。美味いな。そしていい香りがする。
「そうだね。身体は日本人ではないけどね。」
「えぶっ・・・」
思わず俺は口に含んでいた物を吹き出しそうになった。咳が止まらない。自分の服にちょっと吹き出したのがかかった上、気管支にでも入ったかな。かなりの痛みがする。
「ユウタさん大丈夫ですか。【魔力よ身体を癒し給え】キュア!【空気よ汚れを落とし給え】クリーン!」
魔術をかけてもらうと痛みと汚れが取れた。
「ありがとう。えーと・・・」
「ユイと申します。調子はどうですか」
「おかげで良くなりました」
「ユイ。済まないな」
「いえ」
そう言うと黒髪の少女は席に戻っていってしまった。俺はなんだかやる気が出て来た。
「心は日本人で身体はこちらの世界の物だということですか」
「其の通り。只僕はトラックにはねられて転生してこちらに来てね。0歳の赤ん坊さからさ。それ以来ずっとあちこちで日本人らしき人を見かけたり噂をきいたら、世話を焼いているのさ」
「凄いですね。めんどくさいんじゃないんですか」
だって人の世話なんて焼いてみるとわかるけど、果てしなく手がかかる。同郷の仲間を見つけたとあって俺はかつてないほど興奮していた。
「そうだね。僕もめんどくさい。けど、やっぱり日本人だし助けてあげたいのさ」
「なるほど。それで此処まで待ってたんですね」
「うん。それでこちらに来てからユウタくんはどのくらいになるのかな」
えーとどのくらいになるだろうか。8日目かな正確なのかどうか怪しいけれど。レンダと呼ばれた女の子が替えの珈琲を入れたコップを持ってきてくれた。赤い髪の少女だ。
「およそ8日目です」
「そうか。なら時期は合う。けど、別人のようだしどうしたものか」
「何の話でしょうか」
「いやこちらが勝手に勘違いしていた。ところでユウタくんはスキルや魔術で困った事はないかな。金稼ぎの仕方についてもレクチャーしてあげるよ。こちらに来た人がまずつまづくのがスキル【設定】だしね」
「スキルの設定ですか」
俺がそう言うとロシナさんはアコと呼ばれていた栗色の髪をした少女から本を受け取った。
「これを見てくれたまえ」
「はい」
俺はロシナさんから本を受け取って表紙をめくる。表紙には『異世界の過ごし方全般』なんて書かれてあった。1文は日本語で書かれていた。
『何が起きたのか・・・あなた自身訳がわからないと思う。まず、貴方の身に起こったことをありのままに受け止めて欲しい。ここはまるで異世界だ。だが私は未来の世界であることも否定できないでいる。
これは貴方がこの世界で過ごす為の必要な物が大体そろった物だ。よく読んで欲しい。
注意事項は特に要注意な事柄なので覚えるように。著者 山本 聖』
なんてこった。ロシナさんは元日本人で名前は山本さんか。
「ロシナさんは元日本人でトラック転生者だったということですか」
「そうさ。20歳でトラックに轢かれてからこちらに来て18年だね。ユウタくん、君はこちらに来る際お爺さんにチート能力をもらわなかったかい」
「いえ」
「ではステータス付与及び上昇とかは?」
「いえ、というよりもそもそもお爺さんに会った記憶がありません」
光の中に包まれながら何か聞いた気もするけれど、気のせいだ。
「そうか、なら記憶喪失という線もありえる。いや、どちらにしても興味深いね。ところでスキル【設定】について教えておこうか」
「設定ですか」
「僕ら異世界人はこれをしないとスキルを得られなかったり、得ていてもそれを発動させられなかったりするんだ。パッシブ系だと勝手に使用中を表して輝くオンになっていたりするけどね。ユウタくん。まずは、キューブを呼び出して手に取るんだ」
「こうですか」
俺はキューブを呼び出すと光る箱に手を添える。
「そしてイメージするんだ。わかり易いのは目をつむってPC画面を開く感じかな。名前、年齢、性別、職業、スキル、魔術、特殊能力、状態、属性といった順に並んでいると思う。チートをもらっていたなら固有能力もあったかな」
「あっ出てきました」
頭の中と言うより目に画像が浮かぶそんな感じでイメージが具象化される。ただキューブ、これを出しっぱなしにして触ってたら寝れないだろうな。
「それじゃあ。アイコンを探したまえ。矢印か、棒か手のようなものがあるはずだ。それでスキルの操作だ。魔術は確認のみでオンオフはないけれどね。詳しくは本に・・・そうだ、重要な事があるんだ」
「なんでしょうか」
なんだろう、スキルの使用出来そうなものは白文字で表示されている。点滅している文字のスキルは使用中ということだろうか、どうもそんな感じだ。
ロシナさんは重要なことがあるというが、スキルいじりに夢中になりそうだ。
「キューブの情報をロックしておきたまえ。下の方に情報とか運勢、地図とかあるだろう。そのうちの情報をクリックだ。選択すると情報を制限しますかと出てくるからはいを選ぶといい」
「わかりました」
俺は言われた通り操作する。しかし、変わったのかどうかわからない。相変わらず自分のアイコン等は浮かんだままだ。情報制限するということなんだろうか。
「自分では確認出来ないが、他人が【鑑定】なり【鑑識】をかけられた際に名前、年齢、性別、職業、状態と最低限の情報のみを開示するように出来る。相手にスキルなり魔術がバレていると非常に不利だというのはわかるだろう? 特殊能力に固有能力はもっと重要だ。この世界で生き残るためにはね」
「そうですね」
モンスターの相手だけじゃないからなあ。迷宮に入ろうとすると盗賊に襲われるし、森行くと忍者に襲われるし。人がもっとも強敵なんじゃないだろうか。
「それから、もし今後固有能力を身につけても決して周りに教えてはいけないからね。異世界から来た人はそれで大抵自滅するから」
「ロシナさんも持っているんですか」
「それはどうだろうね。今言った通りさ。人に教える物じゃないって、色々あるんだよ」
「失言でした」
そりゃあそうだよなあ。誰かに教えるもんじゃないって言われてんのに聞いてたよ。冒険者だけでも大量にスキルがある。その上整理するとなるとめんどくさくなってくるな。
しかし、こんな話をあからさまにしていて大丈夫なんだろうか。俺達が座っている場所は飲食スペースの隅っこではあるけれど。
「固有能力持ちだなんて異世界人だっていうようなものだからね。僕らが異世界人であることは誰彼構わず言ってしまうのは不味いのさ。帝国や共和国といった存在に狙われる。異世界人が強力で総じてチートであるというのは世界の共通認識でもあるから、とにかく兵器として利用されかねないんだ」
「気を付けます。ところでこんな話をこんな場所でしていて大丈夫なんでしょうか」
するとロシナさんは金髪をかき揚げながら3人の少女を一瞥して話す。
「彼女達が警戒してくれているからね。今も空間系魔術で音を漏らさないようにさせてもらっているのさ。だから大丈夫」
「抜かりないんですね」
「ユウタくんは他に気になる事はないかな。答えられる物なら大抵の事を教えてあげるよ」
そうだなあ、気になることといえばやはりここに来た人は日本人だけなのかとか。転移してきた人とか転生した人達は今どうしているのかとか。スキルについても聞いておきたいけれど、この貰った本に解説がついてそうだ。
あとそうだ。キューブこれは一体なんなんだそれが一番気になる。順に聞いていこう。
「ほかに転生してきた人、世界移動してきた人はいないんでしょうか」
「一番多いのがトラックや車系に轢かれて転生してくる人だね。次はVRゲーム中に死亡してこちらに来るパターンと向こうの神様がミスって殺しちゃったんでこっちに送るのとかも多いね。後はブラック企業で過労死なんてのもいるけどこれはレアケースかな。ただ、こちらに来た異世界人は全員日本人で謎だね」
やっぱりトラックさん凄いな。しかも神様からチートまで貰えてラッキーなんじゃなかろうか。ロシナさんはとってもいい人なのだけど、どこからどう見ても貴族の貴公子と言った姿だし。連れている女の子も美少女揃いときた。これがチーレムという奴か!
俺にも少しはいいことがあってもいいんじゃなかろうか。いかん、妬み僻み根性に染まってしまいそうだ。キューブの事を尋ねよう。
「このキューブなんですが。材質とか何で出来ているんでしょう。とても不思議です」
「それは、・・・だねえ。うん僕もよくわからない。材質は魔力と体組織の一部かなナノマシンかもしれない。触っても感触はほとんどないよね。人間の持つ魔力を引き出しスキルと使い安くするために創造神が人間に与えたと考えているよ。いくらでも再生可能で主に脳の一部とリンクして人間の潜在能力を引き出すコントローラーみたいな物かな。というのは僕の感覚だけれど。これは・・・」
「ロシナくん失礼してもいいかね」
「・・・こんにちは」
「こ・これはリサージュ卿にエリアス何故こちらに?」
振り返ると学者風の服装をした大柄な初老の男といつぞやのフード女が立っていた。
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