522話 強いこと2
強い事はいい事だ。魔物を倒せる。強いから。だから、金が入ってくる。
そう。今のユウタは、金がある。今のユウタは、短足でもチビでもデブでもない。
魔物を倒せば、金が入ってくる。ついでに、ストレスも発散できていい。
全ては、強いからできることで。
(じゃあ、弱かったら?)
誰も見もしないだろう。ユウタが出来る事は、他の人間にできない。
だから、女も付いてくる。他人と同じなら、価値なんてないのだ。
でも、ユウタとセリアでは強さに大して差がない。とすると、お払い箱になるかもしれない。
それでもいいかもしれない。ユウタは、戦いに疲れている。
(誰もかれも居なくなってしまう。それでも?)
それでも善いと。人は、争う。人は、妬み、嫉み、貶め、分かり合えない生き物だ。
他者より上でいないと満足できない。ユウタもそうだし、他の人間もそうだろう。
元の世界に戻ろうとすれば、戻れるのだし何不自由ないといえば戻ることもない。
いつものようにして、ベッドから起きて部屋を見れば白い壁に掛かった鏡からユークリウッドの姿が映る。異世界から転生した男たちは、おかしいとは思わないのだろうか。己の身体ではない。偶々、誰ともしらない女の股から生まれてきて、生を得るおかしさ。机の上で金色の葉っぱを付ける植木鉢を眺めながら異様な眩しさに目が眩んだ。
枕元にある石と白い毛玉。黄色い物体は、とソファーでカラフルな彩を見せている。
(いつの間にかどんどん増えていくんだけど・・・)
別に異臭がする訳でもなく、これらはぴかぴかと光って自己主張をする習性があるようだ。
ユウタは、専らモテないよりはモテたい。というのはあるが、イカレ女は駄目だ。暴力的なのも駄目だ。と言っても、女は去っていくもので追いかけないと手に入らない。山のように金を築けばいいのだろうか。
金があっても気持ちが無ければ意味が無い物ではないか。結局、男というものは女を求める。
動物園と化している部屋を出ると、すぐに朝食を済ませて玄関を出れば木剣を振るう弟たちの姿に出くわした。正眼に構えて、振り下ろす。朝は、肌寒いというのに上半身裸で一心に振るっている彼らは一体何を求めているのだろう。
金が有るから働かなくて良い。金が無いと、暇もなくて訓練だってできない。ユウタの金は、パン屋の売り上げだけではないから増える一方である。具体的に言うと領主になっているので領民から税が取れる。税金は、少ない方が良いに決まっている。何かにつけて増税ばかり繰り返す政治家は、ミンチにしてやらなければならない。
鬱蒼として木々を抜け、屋敷の外に出ると馬車が止まっていて栗色の髪を揺らしながら剣呑な目をした女が降りてきた。シルバーナだ。待っていたのか。通りには、人の姿も少ない。右からも左からも奇妙なことに人は、通らない。
「おっす」
「おはようございます」
「どうしたんだい」
どうもしていない。しかし、馬車は去っていく。ユウタは転移門を開こうとしているのに邪魔をしているようなしていないような。通りを眺めながら、
「何かまた用でもあるの」
「そりゃ、あるさ。当然、用事があってお前んとこに顔を出しにきたんだよ。まさか、アル様が直々に申し付けるのも手間だろ」
なるほど。ユウタは、そういえば、そうなのだと1人で納得した。また戦争か。戦争の道具でしかない。ミッドガルド王国は、ヘルトムーア王国と戦争をしている。それだけではない。怪し気な島に攻め込んだり、獣人たちにだって色気を見せている。
「じゃあ、なんだろう」
「あんたも、戦場に行かされてばっかりじゃつまんないだろうし、たまにはあたしを迷宮に連れて行けってさ」
冗談だろと言いかかったが、ユウタは特にすることもない。ユウタは、学校に行くべきと言われるのだが・・・
「シルバーナを強くしろってこと? あんまり興味がわかないんだけど、そうしたいならそうしてみるかな」
ユウタには、手下が不足している。知らなければ、できないことだらけだ。転移門でアルカディアの王都へ移動して迷宮に潜ることにしたら、
「これは、やばすぎるねえ」
「何が」
「あんたさあ、エリアスはわかるよ。でも、なんだってそんな転移魔術が簡単に使えるのさ」
「?」
ユウタは、不思議に思った。呆れた顔で前を見ていなかったりするので危ない。ユウタたちが歩いていても目を向けてくる人間は逸らしていく。それどころ、兵士がそっと寄ってくる有様だ。特に危険な生物と思われているのかもしれない。迷宮に潜る子供は、いないものだ・・・
「修行すればいいじゃないか」
「はっ、これだから」
頭がいかれているとで言う素振りだ。ユウタだって、楽してちやほやされたい。というより、男ならみんなそうではないか。特別な能力がなければ、鍬でも持って畑を耕していることだろう。幸いにしてユークリウッドは早くから己を鍛えていたから今がある。ゴブリンも、犬型の魔物でもなんでもござれで罠だって粉砕しながら進める。2人で潜るのも容易だ。
「うーん。これでいいのかな」
「あたしは、楽でいいけど?」
そうこれが、普通。どんどん探索をしながら魔物を狩り集めて魔石を取っていく。すれ違う人間の方ときたら奇異の目で見てくる。滅んだ都でもなくて、雑魚が出てくるところから下へと進む迷宮を選んだ。
「戦争するのって、もう終わりにできないのかな」
「あたしに言ってもねえ。セリア将軍様にお願いした方が早くないかい」
「それが出来ればね」
ユウタは、神でもなんでもない。ミッドガルド王国軍の中では、1人の兵士扱いだ。同時に領主で領地も与えられてあるが、人口が増えすぎてやばい。魔術に当たれば死ぬであろうし、死んだら肉片にでもなって迷宮の土に帰ることになる。シルバーナは、特に何もしていない。黒い皮鎧と外套。それに手足も黒く塗られた革靴だ。頭には兜がこれまたがっしりとした作りで目くらいしか見えない。
動く骸骨、動く金属鎧、それから緑色の皮をしたゴブリン。子供と大して変わりない体型だが、ユウタたちに近寄る前に動かなくなる。
「人同士で争うのってどうなの」
「どうもこうも、あんたんちの庭を取られたらどうする」
「そりゃ、もう、殺すしかなくなっちゃうよ」
「そういうことさ。その尺度がでかくなっただけで、仲裁する国がないってのがねえ」
ミッドガルド王国は、本来なら滅びそうな立ち位置にある。東と南以外で戦端を開いているからだ。まったく人口という物は正義で、多ければ多いほど有利だ。では、何故ミッドガルド王国以外の国が少ないのかというとつまり食い物がない。食料を迷宮に頼っていたり、瘴気に負けて都市が亡ぶという。俄かには信じがたいものだ。
しかし、迷宮で出るはずの箱もない。魔石を貯めて、金に換えるしかない。とことん倒していくしかない。
「みんな、自分が可愛いのさ。下手に狂犬に関わっちまったら噛まれるのがオチさね」
「疲れると思うんだけど」
「さてねえ。あたしみたいな下っ端には、わからないねえ。走り出したら、行きつくところまで行っちまうもんじゃないのかい」
灰色をした床の部屋とごつごつとした岩肌の道。そんな組み合わせで、警戒心が全くないシルバーナは死にそうだ。
「ヘルトムーア王国の人口がなくなると、その後の統治が大変なんじゃ」
「減ったら却って統治しやすいっての。けど、金って意味じゃ毟り取らせるつもりで駐屯するくらいじゃないのかい。税とか賠償金はあてにしないんだろうさ」
人が減ったら、いい事はない。人が居無くなれば滅亡ではないか。滅んでいいいのか。滅ぶとわかっていて放って置くなど愚かの極みだ。ユウタは、人がいっぱいいる方がいい。しかし、暴動など起こせばすぐに死刑だ。ユウタは暴力を最も嫌いながら、最も早く領民を処刑する性質を持ち合わせている。単純にイカレていると言われても、やりたいようにやって良しだ。
「あんたんところは、金があるよねえ」
「だから?」
「どうやって、金を稼いでいるのかねって」
「それ、教える人はいないと思うなあ」
人は、ミッドガルド人だけである。ミッドガルド王国民なら大事する。シルバーナもそうだが、同時にライバルである。金が稼げるのは、確かに無限とも言える食料の生産力にあってユウタも驚かされる。インベントリからは尽きない小麦が・・・
「魔石だけじゃ、説明つかないよねえ」
「金さえあれば、人も増えるしね。お金は大事さ」
ユウタにとっては、シルバーナが何故一緒にいるのか不思議になってくる。話をしているだけで、特に魅力を持ち合わせているとか、チート能力的な物も見せているのか見せていないのか。出会う敵というと、「お、こいつが、」などと間抜けな首だけになって倒れている。鎧を着ていたり、服から上には角の生えた獣人と人間の男が3人。4人で戦いを挑むつもりだったようだ。が、ユウタの放った風の刃が恨めし気な首となって地面に転がっている。
「敵かい」
「みたいだね」
ユウタは、出会う敵となれ合う事がない。即決で始末するに限る。強いのか弱いのか見た目では判断できないものだ。
「どうやって倒したのさ」
「風の刃を使ったよ」
「魔術って、発動するのに時間がかかるもんじゃないのかい」
「そりゃあ、使う術者によるとしか言えないね」
特に迷宮では、多数を相手にすることがあるのだ。不意打ちを受けることもある。壁と同化している魔物は当然だが、壁を削って倒すしかない。だから、早く発動できればできるほど良くて穴道のような道であれば火球や水球は使いずらくて使ったらユウタたちが死ぬハメになる。
「迷宮までつけてたのかねえ」
「にしても、そんな早く跡を追ってきたり、いや先回りってことだから注意しないと」
襲ってきたら、勝負はわからないものだ。先んじて倒せたのは、幸運と思うべきだろう。
幼女は、剣に手をかけて歩く。
「あんたの周りには、女が多いけど、そろそろ相手を決めないといけないんじゃないのかい」
「唐突だね。でも、そんな気配も話も微塵もないよ」
「一応、貴族なんだしねえ。一体どういう・・・」
突然、シルバーナの顔が青くなったり赤くなって油汗まで顔面に浮かばせだした。
何かの魔術的攻撃かと周囲を伺うが、特に何も感じない。ユウタは、ひっくり返ってしまったシルバーナを浮かぶ板に乗せて休憩することにした。
「一体、どうしたの」
「あー、まあ。あれさ。好きなものは、好きってことさねえ」
「?」
「だから、好きでもなんでもなければ会ったりしないってこと。女ってそんなじゃないのさ」
「そうなのかな。そんなことはないと思うね」
「興味ない奴に会うって? そんなの時間の無駄さね」
ユウタは、黙った。会う女が、そんな風だと信じ難い。客観的に見てエリアスなどは、家に来る理由がない。シルバーナも同じだ。アルストロメリアだって、金玉に用があるくらいで特に接点らしいものもない。押し掛けてきては、どこかに遊びに行っている。そんな事はないと、ユークリウッドの顔面の力であろうか。とても残念な気持ちになった。




