519話 パコ
エリアスは、魔術師だから特に気を学ぶ必要はないのか。
いやある。ユウタは、たいていの事は出来ても彼女の支配者でも何でもない。 何故か多く一緒にいる事が多いけれど。気絶してしまった2人を部屋で寝かせると、ユウタは寝転がる動物たちを見る。
金色の蝙蝠は、天井にぶら下がっていて天井には留まれるように木色の瘤ができていた。部屋に水があるかのように泳ぐ金色の魚と飛べない太った鳥のような自称竜とか。同じような色の丸々とした毛玉に囲まれている。
エアコンも無いのに気温は適度に保たれていて、白くて四角い箱から冷気が出てくる。電気が無いのに冷気を出す不思議な魔道具。送り出し先の箱には、魔方陣と青と緑の晶石が乗っているだけだ。
のんびりと部屋で涼んでいるのに、アルーシュがじーっと見つめてくる。他にも、左右に並んでいるのが2人。オデットとルーシアだ。青い瞳で見つめられると汗が出てくる。
ふかふかのマットが湿ってくると、
「暇そうじゃないか」
「いや、そんなことはないですよ」
疑わしい目線で、腕組みをしている服は働け、もっと働けと書いてあった。白い生地で安っぽい。
「ヘルトムーア王国を攻略して、また次も戦争すると、そう考えているんだろ?」
「はあ」
実際、彼女と配下の王国軍はのりのりで侵略を繰り返している。外交でなんとかなる相手ではない。なんせ完全にイカれている連中なのだ。ゴブリンと話をして分かり合える? そんな馬鹿はいない。武器を持って殺しにくる相手を信じられるとしたら日本人くらいかもしれない。
「先を見据えれば、アスラエル相手だ。アルカディア領内の安定もある。1年かそこらは休止しても良いな」
全然、やる気だった。殴りかかってくる相手に、止めてというようなものだ。ユウタがどうこう言ったところで彼女の気持ちが変わったりしないだろう。つまり、止めようと思えば殴り合うしかない。止まらない戦争と殺し合いにユウタは飽き飽きなのだが・・・
「左様でございますか」
背もたれの付いたソファに背を預けて足を伸ばす。金色の狐の尻尾を触っているともはやそれだけで時間を過ごしてもいい気がしていた。インベントリからチョコレートアイスの入った紙カップを木でできた匙とともに3人に出す。
「ふむ」
ミッドガルド王国でも、アルカディア王国でもアイスというものがほとんどない。売っている物というと氷を細かくしたようなものでかき氷くらい。暑い時は、ミッドガルドだとエアコンなんてないので庶民は耐えるしかないのだ。水を撒いておけば涼しいくらいだ。日本のような暑さは、ないとはいえおいしい食べ物はない。誰が、異世界転生を望むというのだろうか。
「エリアスとアルストロメリアに何か教えてやっていたのでありますか」
「んと、気をちょっと」
「ユークリウッドが教えてやるというのは、どういう風の吹きまわしだ。お前、いつからそんなに殊勝になったんだ」
「たまたま気が向いた。そうでしょ」
部屋で涼み、美味しい物を何時でも食べらる方が幸せだ。ユウタは3人を招いたわけでもないのに平然と鎮座しているのに、怒りを覚えつつも追い出すのはためらわれた。人の脳味噌とか気分まで当ててくるのは、どうかと思いつつも・・・
「2人が、1人で迷宮を攻略できるようにね」
「そうしたいのならそうするといい。もう一つ」
ユウタは、次にイチゴ味のアイスを出す。料理人のジョブがあると適当に作れるそれは、どうしても余分なジョブとして持っていても人権を得るのが難しい。どうしてもレベルを上げずらいからだ。食事を作っているだけでレベルが上がるなら最高なのだが、これはもうスキルを使って砂糖とか食塩とか材料さえ用意できない世知辛いジョブの一つ。
「例えば、だな。これを作れる料理人持ちを迷宮に連れていってお前がレベリングの手伝いをしてやるとか」
「暇があればいいんですが・・・」
皆、自分の都合がある。そして、謎に扉から入ってくる女の子たち。一体、ユウタのプライバシーとは何処へ行ってしまったのか。横になって狐と羊の尻尾を弄っていると、
「おかわり」
増えていく女の子たちは、何故ユウタの部屋にいるのか。メロン味のアイスを出す。お腹が壊れないのか。一つでもカロリーは高くで下してもおかしくない。金髪碧眼に巻き髪の幼女は、笑顔を浮かべて手を付けない。
「ふ」
喧嘩をするでもなく1人で全部食う勢いなのが、今1人。恐ろしく食いしん坊な幼女だ。また2人はいってきた。どういうことか。部屋は、広い。6畳、どころではなくて3LDK以上のちょっとした一室。真ん中に絨毯とソファがそれを囲むようにあって南側に向かって液晶のテレビが壁にくっついている。電源がどうなっているのか。ユウタの知らぬ間に色々な物が変わっていてまた顔をしかめた。
「珍しいな。夜でもないのに顔を出すなんてな」
「ふ、一時の休みも必要です」
彼女は、脳まで筋肉だ。休むというのも理由をかこつけてユウタと殴り合いでも興じたいという思惑があるのではないか。アイスをむさぼっていても、銀髪ざんばら髪のしたにある金色の瞳はぎらぎらと怪し気な光を帯びている。今では、奴隷をこよなく愛する圧制者の1人。多文化共生なんでできない体現者だ。
(どうして、フィナルと揃ってきたのか。また増えたし)
ユウタの反対側で足を伸ばしているが、羊が壁になっていてガードできている。奇妙なことに乱暴者の彼女が羊に触れたりしないということだ。わたしの戦闘力は530万ですよな獣人で、他者をかえり見ることのな幼女にして不思議だった。5人並んで扉の方へと背を傾けている。人が20人くらい入っても余裕な広さがあるとはいえ・・・
「アイスばかり食べているとお腹を壊すよ」
「ふ、全く問題ない」
そういう問題じゃないが、と。120cmから150cmとまちまちだが、彼女たちは胸がないので安心だ。ユウタは、普通に胸に反応してしまう。
「みんなの方が暇しているんじゃ」
「暇を作って、やってきてんだよ。それくらい理解しろ」
わかっていることである。取り留めないテレビを見たり、内容などない会話ばかりだ。
しかし、ユウタはそれが嫌ではない。魔物を倒していても、なんだかつまらなくなってくるし魔石を集めてみても大した金にならない。冒険者ギルドのピンハネ率は酷くないが、どうやっても胴元である領主、国が儲かるようになっているのである。
郎党を組んだところでやはり主が持っていく。何処でもそうなのだ。トップがモテて、その他大勢になれば、出がらしか何か。どうしたら、そこから這い上がれるのかというのは異世界でもいっしょだった。
「ん。まだ、おかわりする?」
「いや、いい。それよりも、お前、ちん●ついてんだよな」
ぎょっとしたようにくるくると目を動かすユークリウッドは、とても王国の騎士とは思えない。
室内の温度は、一気に温まってきた。
「いきなりどうしたであります」
「どうしたもこうしたもねーよ。男ってのはスケベなもんなんだよ。女がいて、男が居たら、やることやるだろ」
とは、言ったものの動こうとするものは居ない。どいつもこいつも、根っから陰キャスタイルだった。
「セックスでありますか」
「早すぎるでしょ。それに、そういうことはお嫁さんとするものですよ」
ユークリウッドは、わかっていない。わかっていたら、そのような発言をしない。一触即発で、殺し合いが起きかねないのにのんびりとしたものだ。
「ん、だってお嫁さん、決まってるからな」
「またまた」
「こいつも、こいつも、こいつも、こいつも」
左右両隣、4人ずつ、9人だが、それだけではない。ここに居ないだけで勢力を整えているティアンナとか獣人の中にも、邪魔なのは殺してユークリウッドを奪い取ろうというのがごろごろいる。
「とりあえず、手をつなぐことからやってこーぜ。それで、なんでもないとしてもだ」
さっと手を出した。しかし、反応は鈍くしぶしぶといった体で握ってみたがひんやりとしたものだ。
アルーシュの手からは、謎に汗がでていたというのに。
ちん●出せというのは、悪手で逃げられる。というよりも、機神に追い出されてしまうことだろう。
世の中は、最も適した解決方法に暴力がある。
(誰も、殺さない、殺させないようにするには仲良くするしかないのに、どうしてわからないのだ・・・)
人の心が最もわからない。それが、ユークリウッドという男だ。ユークリッドは知らない。1人どころか9人も集まっていて争いが起きないなんてないのだ。だから、考えた。考えるのは自由だからだ。しかし、排除すると殺し合いになって星が爆発してしまう。ユークリウッドの力は絶大で、1秒もあれば大爆発する瞬間に遭うだろう。
アルーシュは耐えられても、星が無くなってしまっては元も子もない。独占をどうにか防がなければならない。こっそりいるシルバーナは最弱でしかも後ろ盾も酒場だとか盗賊、密偵もどきの癖にユークリウッドのお気に入りだ。最もやり出す監視対象である。どこにいても油断できない。
全員手を取ったが、次から次に扉から入ってくる女たちと満足したかのように去っていくのを後目にして隅っこの方へとアルーシュは移る。下手すると乱交まで発展しかねない。手だけで、すら増えていく人に、
「ほれ見ろ。みんな我慢しているだけだ」
「んー。ハグがいいであります」
オデットにルーシアが頷いている。日頃から、ユークリウッドの領土を任されている上に商売も上手で武芸も達者だ。労う言葉では、足りないと金は余っているので欲しくもなんともないのだろう。しかし、彼女たちにしても別にユークリウッドである必要はあるのだろうか、と聞けない。だいたいの理由は己の内にあって一目見た時から己のちんぽ、なんて感じであるから・・・
(そう。身近な他人の気持ちですらわからないのにどうして異世界人と分かり合えると思うのだ)
言葉も文化も違う。話を重ねる? 冗談ではない。勝負は、殺し合いは刹那だ。できないと放棄せざる得ない。そうでなければ、脳天に剣が刺さっていることだろう。異文化とは、理解できないから国という国境があるのに、邪神が勇者を特攻させてくるものだから始末に得ない。
(壺なる邪教徒は、邪教徒よ。異世界人なら殺せというのなら邪教にほかならんだろうが)
異世界人にあるのは、原住民レイプおっけーだったり、殺しもおっけーの邪教の教え。
彼らは、理解不可能だ。異文化共生はない。
そんな異世界人を大事にするユークリウッドは、理解不能だが必要だ。必要だから、レイプもできない。レイプは犯罪である。あくまで和姦にしないといけない。合意と契約書が必要だろうか。
アルーシュは、腕組みをしながら後方レイプ顔になる。服を脱いで腰をパコパコしない。
ユークリウッドは、結局スケベをしなかった。どういうことなのだろう。




